退去強制手続は、入国警備官による違反調査、入国審査官による違反審査、特別審理官による口頭審理、法務大臣への異議の申出という4つの段階を順に進み、最後に主任審査官が退去強制令書を発付して終わります。各段階の担当官も不服を述べる期限も入管法第5章(27条〜55条)に書かれており、口頭審理の請求と異議の申出はいずれも通知を受けた日から3日以内です。2024年6月10日施行の改正入管法で、この流れの中に監理措置と在留特別許可の申請手続が組み込まれ、どの時点で何をしないと令書が出てしまうのかが以前より明確になりました。
退去強制手続は4段階・3回の「3日以内」で進む
最初に全体像を表で示します。条文番号はいずれも出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」)です。
| 段階 | 担当 | 条文 | 期限・時間の定め |
|---|---|---|---|
| 1 違反調査 | 入国警備官 | 27条〜38条 | 期限の定めなし。収容した場合は身体拘束から48時間以内に入国審査官へ引渡し(44条) |
| 収容または監理措置 | 主任審査官 | 39条〜44条の9 | 収容令書による収容は30日以内、やむを得ない事由があれば30日延長(41条) |
| 2 違反審査 | 入国審査官 | 45条〜47条 | 認定に服した場合、3日以内に在留特別許可を申請しなければ令書発付(47条5項) |
| 3 口頭審理 | 特別審理官 | 48条 | 認定の通知を受けた日から3日以内に口頭で請求 |
| 4 異議の申出 | 法務大臣 | 49条 | 判定の通知を受けた日から3日以内に書面で申出 |
| 退去強制令書の発付・執行 | 主任審査官・入国警備官 | 51条〜53条 | 送還可能のときまで収容または監理措置。収容が3か月続くごとに計画の報告(52条の8) |
ここで重要なのは、段階が進むごとに「不服を述べる機会」と「在留特別許可を申請する機会」がセットで告知される構造になっている点です。入国審査官も特別審理官も主任審査官も、次の手続を取れること(口頭審理の請求、異議の申出、在留特別許可の申請)を本人に知らせる義務を負っています(47条4項、48条8項、49条6項)。裏返せば、告知を受けてから3日の間に動かなければ、その段階で手続は確定方向に進みます。
1 違反調査|入国警備官が事実を調べる段階
入管法27条は、入国警備官は24条各号(退去強制事由)のいずれかに該当すると思われる外国人について「違反調査をすることができる」と定めています。ここでいう容疑者とは、オーバーステイ、不法入国、資格外活動、一定の刑罰法令違反などの疑いがある外国人を指します。退去強制事由そのものの一覧は退去強制事由とは?入管法24条の一覧と会社員が該当しやすいケースで扱っています。
違反調査で入国警備官ができることは、段階的に定められています。任意の取調べ(28条)、容疑者の出頭要求と取調べ(29条)、証人の出頭要求と取調べ(30条)が基本で、臨検・捜索・差押えのような強制処分は、地方裁判所または簡易裁判所の裁判官があらかじめ発する許可状がなければできません(31条)。住居への立入りは原則として日出前・日没後には行えないという時刻の制限もあります(35条)。
企業の人事担当者にとって見落としやすいのが28条2項と30条です。入国警備官は違反調査について「公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができ」、証人の出頭を求めることもできます。社員に入管法違反の疑いがかかった場合、勤務先が雇用契約の内容や勤務実態について照会を受けたり、担当者が証人として事情を聴かれたりすることがあります。雇用していた外国人が在留資格のない人だった場合には、会社側が不法就労助長罪(73条の2)の捜査の対象になりうるため、照会への回答は事実に基づいて記録を残しながら行うのが安全です。不法就労助長罪の構造は不法就労助長罪とは?企業が問われる責任・罰則と防ぐための確認方法で解説しています。
違反調査は、自ら入管に出頭した場合にも始まります。出頭申告をした人のうち、24条の3の要件(速やかに出国する意思をもって自ら出頭したこと、不法残留以外の退去強制事由がないこと、過去に退去強制や出国命令を受けていないことなど)を満たす人は、退去強制ではなく出国命令の対象になります。出国命令の要件と流れは出国命令制度とは?オーバーステイで自ら出頭した場合の5要件と出国までの流れで扱っています。
収容か監理措置か|2024年改正で「原則収容」が変わった
違反調査の結果、入国警備官が容疑者を24条各号のいずれかに該当すると疑うに足りる相当の理由があると認めたときは、主任審査官に通知します。通知を受けた主任審査官は、容疑者を監理措置に付すか収容するかを審査しなければなりません(39条)。
収容する場合は、主任審査官が収容令書を発付し、入国警備官がそれに基づいて収容します(39条の2)。収容令書による収容期間は30日以内で、やむを得ない事由があるときは30日を限り延長できます(41条1項)。つまり退去強制令書が出るまでの収容は、最長60日という枠の中で行われます。収容した入国警備官は、身体を拘束した時から48時間以内に、調書と証拠物とともに容疑者を入国審査官に引き渡さなければなりません(44条)。
監理措置は、2024年6月10日施行の改正で導入された、収容に代わる仕組みです。主任審査官は、逃亡や証拠隠滅のおそれの程度、収容によって本人が受ける不利益の程度などを考慮し、収容しないで手続を進めることが相当と認めるときは、監理人による監理に付す決定をします(44条の2)。出入国在留管理庁の公表によると、2025年の監理措置決定は3,783件(うち退去強制令書の発付前2,103件)でした。監理措置の条件、監理人の義務、発付前の被監理者が一定の要件で報酬を受ける活動を許可されうる点は監理措置とは?監理人の役割・届出義務と2024年6月施行の新制度で詳しく書いています。
2 違反審査|入国審査官が「退去強制対象者」かを認定する
違反審査は、容疑者の引渡し(収容の場合)または違反事件の引継ぎ(監理措置の場合)を受けた入国審査官が行います。審査するのは、容疑者が「退去強制対象者」に当たるかどうかです。ここでいう退去強制対象者とは、24条各号のいずれかに該当し、かつ出国命令対象者に該当しない外国人を指します(45条1項)。
不法入国(24条1号)と不法上陸(同2号)の疑いをかけられた人は、自分がその号に該当しないことを自ら立証しなければなりません(46条)。正規に入国した記録を示すのは本人の側、という整理です。
審査の結果は3つに分かれます(47条)。
- 24条各号のいずれにも該当しないと認定したとき:直ちに放免(被監理者を除く)
- 出国命令対象者に該当すると認定したとき:主任審査官に知らせ、出国命令の手続へ
- 退去強制対象者に該当すると認定したとき:理由を付した書面で本人と主任審査官に通知し、口頭審理の請求と在留特別許可の申請ができることを告知
3つ目の認定を受けた本人が認定に服した場合、主任審査官は口頭審理の請求をしない旨の文書に署名させます。そのうえで、在留特別許可の申請をしない旨の文書に署名したとき、認定に服した日から3日以内に在留特別許可の申請をしなかったとき、申請を取り下げたか不許可処分を受けたときのいずれかに当たれば、主任審査官は速やかに退去強制令書を発付します(47条5項)。改正前は、在留特別許可は異議の申出の中で法務大臣が職権で判断するもので、ここで独立した申請期限が問題になることはありませんでした。家族や雇用の事情を主張したい人は、違反審査の段階から準備を始めていないと、3日の期限に間に合いません。
3 口頭審理|特別審理官に認定の誤りを主張する
入国審査官の認定に異議があるときは、通知を受けた日から3日以内に、口頭で特別審理官に口頭審理を請求できます(48条1項)。特別審理官とは、入国審査官のうち法務大臣が指定した者で、違反審査とは別の担当官が認定の当否を見直す仕組みです。
特別審理官は、時と場所を通知して速やかに口頭審理を行います。48条5項が準用する10条3項〜6項により、本人は代理人を立て、証拠を提出し、証人を尋問することができ、特別審理官の許可を受ければ親族や知人の一人を立ち会わせることもできます。書面だけの手続と違い、本人と代理人が言い分を述べる場があるのが口頭審理の特徴です。
判定の結果は、違反審査と同じく3つに分かれます。24条各号に該当しないとの理由で認定が事実に相違すると判定されれば放免、出国命令対象者に当たるとの理由なら出国命令の手続へ進みます。認定に誤りがないと判定されたときは、本人に異議の申出と在留特別許可の申請ができることが告知されます(48条8項)。判定に服した場合の扱いは47条5項と同じで、3日以内に在留特別許可を申請しなければ退去強制令書が発付されます(48条10項)。
4 異議の申出|法務大臣の裁決を求める最後の段階
口頭審理の判定に異議があるときは、通知を受けた日から3日以内に、不服の事由を記載した書面を主任審査官に提出して、法務大臣に異議を申し出ることができます(49条1項)。口頭審理の請求が口頭でよいのに対し、異議の申出は書面で、法務省令で定める手続に従う必要があります。
主任審査官は、違反審査の調書と口頭審理の調書などを法務大臣に提出し、法務大臣は異議の申出に理由があるかどうかを裁決します(49条2項・3項)。理由があると裁決されれば放免または出国命令、理由がないと裁決されれば、主任審査官が本人にその旨と在留特別許可の申請ができることを通知します。この通知を受けた日から3日以内に在留特別許可を申請しなければ、退去強制令書が発付されます(49条7項による47条5項の準用)。
異議の申出で争えるのは、退去強制事由に当たるかどうか、出国命令対象者に当たるかどうかという「事実と法の当てはめ」です。日本人との婚姻や子どもの就学といった在留を希望する事情は、改正後は在留特別許可の申請の中で主張するのが本筋になりました。
在留特別許可の申請はどこで差し込まれるか
在留特別許可(50条)の申請は、収容令書で収容された人または監理措置決定を受けた人が、法務大臣に対して行います(同条2項)。申請できるのは退去強制令書が発付されるまでで(同条3項)、許可の判断は、本人が違反審査の認定または口頭審理の判定に服したか、法務大臣が異議の申出に理由がないと裁決した後に行われます(同条4項)。
申請の時期は、違反調査の段階から令書の発付前までの間で本人が選べますが、実際の締切は上の4段階のどこで手続が止まるかで決まります。認定に服すなら認定から3日、口頭審理まで進むなら判定から3日、異議まで進むなら裁決の通知から3日です。法務大臣は、在留を希望する理由、家族関係、素行、入国の経緯、在留期間、退去強制の理由となった事実、人道上の配慮の必要性などを考慮して判断します(同条5項)。2025年は申請2,424件に対して許可1,026件でした。申請書の書き方と必要書類は在留特別許可申請の方法|申請書・必要書類・流れと「3日以内」の期限で扱っています。
退去強制令書の発付後|送還・収容・監理措置
退去強制令書は入国警備官が執行し、本人を国籍国などの送還先に送還します(52条・53条)。本人が自らの負担で出国することを申請し、許可を受けることもでき(52条4項)、過去に退去強制や出国命令を受けたことがない人は、一定の日までに自費で出国すれば上陸拒否期間を1年とする決定を受けられる場合があります(同条5項)。上陸拒否期間の考え方は強制送還された外国人は再入国できる?上陸拒否期間と上陸特別許可の実例、費用の負担は強制送還の費用は誰が払う?自費出国・国費送還と雇用主の負担で書いています。
直ちに送還できないときは、主任審査官が監理措置に付すか収容するかを審査し、収容する場合は「送還可能のときまで」収容できます(52条8項・9項)。収容期間に上限はありませんが、2024年改正で、入国警備官は退去のための計画を作り、収容が継続して3か月に達したとき、その後も3か月ごとに進捗を主任審査官に報告し、主任審査官は監理措置への切替えを検討する仕組みになりました(52条の8)。健康上・人道上の理由による仮放免(54条)も残っています。2025年の退去強制令書による送還は7,563人でした。
退去強制令書の発付処分については、行政不服審査法の審査請求はできず、取消訴訟を起こす場合は処分を知った日から6か月以内が出訴期間です(行政事件訴訟法14条)。入管の処分と不服申立ての関係は在留資格の不許可に不服申立てはできない?行政不服審査法の適用除外と取消訴訟で整理しています。
九州で身柄を収容される場合、福岡出入国在留管理局の収容場のほか、長崎県大村市の大村入国管理センター(入国者収容所)に移送されることがあります。家族や勤務先が面会や差入れをする際は、どの施設にいるかを最初に確認してください。
よくある質問
退去強制と在留特別許可の違いは何ですか?
退去強制は、24条の退去強制事由に当たる外国人を日本から強制的に出国させる処分と、そのための一連の手続を指します。在留特別許可は、退去強制対象者に当たる人について、法務大臣が家族関係や人道上の事情を考慮して特別に在留を認める処分で、退去強制手続の中で申請します(50条)。退去強制手続の「出口」の一つが在留特別許可、という関係です。
退去強制は誰が決めるのですか?
退去強制対象者に当たるかどうかの認定は入国審査官、その見直しは特別審理官、最終の裁決は法務大臣が行います。退去強制令書を発付するのは主任審査官で、執行するのは入国警備官です。1人の担当官がすべてを決める仕組みにしていないのは、段階ごとに別の担当官が判断し直すことで誤った認定を減らすためです。
出国命令と退去強制の違いは?
出国命令は、不法残留だけが問題で、自ら出頭した人などが対象になる簡易な手続です。収容されず、上陸拒否期間は1年です。退去強制の場合、上陸拒否期間は原則5年、過去に退去強制を受けたことがあれば10年になります。出国命令の要件を満たすかどうかは入国審査官の違反審査で判断されます。
外国人が不起訴になった場合、退去強制になりますか?
不起訴になっても、退去強制手続が止まるとは限りません。オーバーステイや資格外活動のように刑事処分と別に退去強制事由に当たる事実があれば、入管の手続は進みます。一方、刑罰法令違反を理由とする退去強制事由(24条4号リなど)は判決が前提になるため、不起訴であればその号には当たりません。逮捕と入管手続の関係は外国人が逮捕されたら強制送還?不起訴・執行猶予と入管手続の関係で扱っています。
退去強制手続の途中でも働けますか?
在留資格を失っている人は、収容されていない間も原則として働けません。退去強制令書の発付前に監理措置に付された人は、主任審査官の許可を受ければ、指定された範囲で報酬を受ける活動ができる場合があります(44条の5)。令書発付後の被監理者と仮放免中の人は就労が認められていません。
手続のどこにいるかで、取れる手段が変わる
退去強制手続の相談で最初に確認すべきなのは、本人がいまどの段階にいて、どの通知を何日に受け取ったかです。違反調査の段階なら出国命令の要件を満たすか、監理措置を求める余地があるかを検討できます。認定や判定の通知を受けた後なら、3日以内に口頭審理・異議の申出・在留特別許可の申請のどれを使うかを決めなければなりません。令書が出た後は、在留特別許可の申請はもうできず、自費出国と上陸拒否期間の短縮か、取消訴訟かという選択に絞られます。
雇用している社員が手続に入った場合、会社ができるのは、在職の事実や勤務状況を示す資料を用意すること、入管からの照会に正確に答えること、本人が監理措置や在留特別許可を求めるときに雇用の継続の見込みを書面で示すことです。いずれも期限が短いため、個別の事情で判断が変わる点も含め、通知を受けた時点で専門家に相談してください。
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根拠資料
- 出入国管理及び難民認定法 第24条・第27条〜第55条(e-Gov法令検索)
- 行政事件訴訟法 第14条(e-Gov法令検索)
- 退去強制手続(出入国在留管理庁)
- 在留特別許可に係るガイドライン(出入国在留管理庁・2024年3月改定)
- 令和7年における入管法違反事件について(出入国在留管理庁)
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