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強制送還の費用は誰が払う?自費出国・国費送還と雇用主の負担

強制送還(退去強制)の費用は、原則として送還される本人が払います。本人が自分で航空券を用意して出国する「自費出国」がそれで、2025年に退去強制令書で送還された7,563人のうち6,677人(88.3%)が自費出国でした。本人に費用がない場合は国の費用で送還する「国費送還」になり、上陸を拒否された人などは乗せてきた航空会社などの運送業者が費用を負担します(入管法59条)。雇用主に送還費用を負担させる規定は、2024年6月施行の改正後も、2027年4月1日施行の改正後の条文にもありません。ただし、特定技能と技能実習の受入れ企業・監理団体は、制度上、帰国費用を負担する義務を負っています。

強制送還の費用は3つの形態で決まる

ここでいう強制送還とは、入管法24条の退去強制事由に当たる外国人に対して退去強制令書が発付され、その令書に基づいて日本の外に送り出されることを指します。退去強制令書を執行するのは入国警備官で、令書を示して速やかに送還先に送還しなければならないとされています(入管法52条3項)。

出入国在留管理庁は、送還の形態を「自費出国、運送業者の負担による送還、国費送還」の3つと説明しています。費用を誰が負担するかは、どの形態になるかで決まります。

形態 根拠 費用の負担者 2025年の人数
自費出国 入管法52条4項 本人(家族・知人の援助を含む) 6,677人
国費送還(護送官なし) 入管法52条3項 国 505人
国費送還(護送官あり) 入管法52条3項 国 318人
運送業者の負担など 入管法59条 航空会社・船会社 その他63人に含まれる

(出入国在留管理庁「令和7年の出入国在留管理業務の状況」。その他の63人の内訳は公表資料では示されていません)

出入国在留管理庁は、国費送還は国民の税金でまかなわれることから、自費出国が可能な人には極力その努力を促していると説明しています。9割近くが自費出国という数字は、この運用の結果でもあります。

自費出国|本人が払うのが原則

自費出国とは、退去強制令書の発付を受けた人が、自らの負担で自ら日本を出ることを、入国者収容所長または主任審査官が許可する制度です(入管法52条4項)。許可を受けると、令書に書かれた送還先にかかわらず、本人の申請に基づいて送還先を定めることができます。

許可の条件について、出入国在留管理庁は、本人が持つ旅券、航空券、所持金その他の状況から、自らの費用負担による確実な出国が具体的に可能であることが確認される必要があると説明しています。具体的には、有効な旅券と、送還先まで搭乗できる航空券、または航空券を買える金額の所持金が必要です。

ここで押さえておきたいのは、「自費」の中身です。本人の貯金で払う場合に限らず、本国の家族が送金する、日本にいる知人が航空券を買う、といった形も自費出国に含まれます。収容されている人の場合は、面会に来た家族や支援者が航空券を手配することも多くなります。出入国在留管理庁は、退去強制手続の進み具合によっては用意した航空券が使えないこともあるため、事前に管轄の官署に相談するよう案内しています。

自費出国で上陸拒否期間が1年になる制度

2024年6月10日施行の改正入管法で、自費出国を後押しする制度が加わりました。自費出国の許可を受けた人のうち、過去に退去強制や出国命令で出国したことがない人について、法務大臣が素行や退去強制の理由となった事実などを考慮して相当と認めるときは、本人の申請により、上陸拒否期間を1年とする決定ができるというものです(入管法52条5項)。法務省令で定める日までに自費出国することが条件です。

通常、初めて退去強制された人の上陸拒否期間は5年です。自費出国と短縮決定の組み合わせで、再来日までの期間を大きく縮められる可能性があります。ただし、短期滞在で来日しようとする場合は短縮の対象外で、上陸拒否期間は5年のままです。短縮を受けて再来日するときは、在留資格認定証明書の交付を受ける必要があります。申請すれば必ず短縮されるものでもありません。

国費送還|本人が払えないときは国の費用で

国費送還は、本人に航空券を買う資力がなく、ほかに費用を出す人もいない場合に、国の費用で送還するものです。送還を拒み続ける人や、重大な犯罪歴のある人を、入国警備官が護送官として付き添って送還する場合も国費送還です。

2025年5月23日に出入国在留管理庁が公表した「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」は、護送官付き国費送還の促進を柱の一つに掲げ、3年後に倍増させることを目標にしています。2025年の護送官付き国費送還は318人で、前年から27.7%増えて過去最高でした。このうち59人は、2024年改正で設けられた難民認定申請中の送還停止効の例外を適用して送還されています。

国費送還の1件あたりの費用は公表されていません。航空券代のほか、護送官の往復の旅費や宿泊費がかかるため、自費出国よりはるかに高くなるのが通常です。国費送還で送還された人に、後から費用を請求する規定は入管法にはありません。

運送業者の負担|入管法59条の送還義務

入管法59条は、次の外国人を乗せてきた船舶・航空機の長や運送業者は、その責任と費用で、速やかに日本の外に送還しなければならないと定めています。

  1. 空港や港での上陸審査で上陸を拒否された人
  2. 入管法24条5号から6号の4まで(上陸後に上陸拒否事由が判明した人など)に当たって退去強制を受けた人
  3. 上陸後5年以内に退去強制を受けた人で、上陸のときに運送業者が退去強制の理由となる事実を明らかに知っていたと認められる人

運送業者に負担が及ぶのは、上陸の時点の事情に関わるケースに限られます。日本で在留資格を持って暮らしていた人が、オーバーステイや不法就労で退去強制になった場合は、この規定の対象外です。

雇用主は送還費用を払う必要があるか

企業の人事担当者から見て気になるのは、雇っていた外国人が退去強制になった場合に、会社が送還費用を払わされるかどうかでしょう。

入管法の条文を確認すると、送還費用を雇用主に負担させる規定はありません。2024年6月10日施行の令和5年改正で送還に関する規定は大きく変わりましたが、新設されたのは上陸拒否期間の短縮(52条5項)、旅券の発給申請などを命じる規定(52条12項)、退去等命令(55条の2)などで、雇用主の費用負担ではありません。2027年4月1日施行の令和6年改正後の条文(e-Gov法令検索の施行日別版)でも、59条の運送業者の送還義務は変わらず、雇用主に関する負担規定は置かれていません。同じ改正で変わるのは、不法就労助長罪(73条の2)の法定刑が5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金に引き上げられる点です。

つまり、不法就労をさせた会社が負うのは刑事罰と、在留資格の申請や受入れ制度での不利益であり、送還の費用そのものではありません。不法就労助長罪の責任と防ぎ方は不法就労助長罪とは?企業が問われる責任・罰則と防ぐための確認方法で解説しています。

特定技能|受入れ機関に帰国担保措置の義務

入管法の送還の規定とは別に、在留資格の制度そのものが受入れ企業に帰国費用の負担を求めている場合があります。代表が特定技能です。

特定技能基準省令1条2項1号は、外国人が特定技能雇用契約の終了後の帰国に要する旅費を負担できないときは、特定技能所属機関がその旅費を負担し、出国が円滑になされるよう必要な措置を講ずることを、雇用契約の基準として定めています。出入国在留管理庁の運用要領は、帰国費用は本人負担が原則としたうえで、「旅費を負担することができないとき」とは本人が自ら帰国費用を負担できない場合をいい、帰国することになった原因は問わない(行方不明となった場合を除く)と説明しています。「必要な措置」には、航空券の予約・購入や、帰国までの生活支援も含まれます。帰国旅費を確保するために報酬から控除して積み立てることは認められません。

この基準は雇用契約の終了後の帰国を対象にしたものです。特定技能の外国人が資格外活動などで退去強制になり、本人が航空券を買えない場合に、所属機関が自費出国の費用を負担すべきかどうかは、運用要領に直接の記載がありません(公式資料では未確認)。原因を問わないという運用要領の書きぶりからすると、受入れ機関に負担を求められる可能性は高いと筆者は考えますが、個別の事情で判断が変わるため、管轄の地方出入国在留管理局に確認してください。帰国費用の負担の全体像は特定技能の帰国費用は会社負担?帰国担保措置と費用負担のルールで扱います。

技能実習|監理団体・企業単独型実習実施者が全額負担

技能実習では、負担の範囲がさらに広くなっています。技能実習法施行規則12条1項6号と52条9号は、団体監理型では監理団体が、企業単独型では実習実施者が、技能実習の終了後の帰国に要する旅費を負担し、帰国が円滑になされるよう必要な措置を講ずることを求めています。2026年4月版の技能実習制度運用要領は、帰国事由を限定しておらず、技能実習生の自己都合による帰国であっても帰国旅費を負担していなければ基準に適合しないと明記しています。監理団体は、その費用を監理費として実習実施者から徴収できますが、いかなる理由でも技能実習生に負担させることは認められません。

会社が費用以外に負うもの

送還費用を払う義務がないとしても、雇っていた外国人が退去強制になれば、会社には別の負担が生じます。

1つは未払いの賃金です。働いた分の賃金は、在留資格の有無にかかわらず支払う必要があります。本人が収容されてしまうと、給与の受け取り方法や最終の給与明細の渡し方を、本人や入管と調整しなければなりません。

2つ目は届出です。雇用していた外国人が離職した場合は、外国人雇用状況の届出(雇用保険の資格喪失届)をハローワークに出します。退職時の手続の流れは外国人社員が退職・解雇したら?企業に必要な届出と手続きで整理しています。

3つ目は、受入れ制度上の不利益です。特定技能では、受入れ機関の責めに帰すべき事由で行方不明者を出したり、出入国や労働に関する法令に違反したりすると、以後の受入れができなくなる場合があります。不法就労助長罪で処罰されれば、特定技能の受入れ機関の欠格事由にも当たり得ます。

よくある質問

強制送還の費用は誰が払うのですか?

原則は本人です。本人が航空券を用意して出国する自費出国が送還全体の9割近くを占めます。本人に資力がなく、家族などの援助もない場合は国の費用で送還されます。上陸を拒否された人などは、乗せてきた航空会社などの運送業者が費用を負担します。

強制送還にかかる費用はいくらですか?

自費出国の場合、費用の中心は送還先までの片道航空券代です。金額は送還先の国と時期で変わります。旅券の期限が切れていれば、本国の大使館での旅券の再発給手数料もかかります。国費送還の1件あたりの費用は公表されていません。

自費出国と出国命令はどう違いますか?

自費出国は、退去強制令書が発付された後に、自分の費用で出国する方法です。出国命令は、オーバーステイの人が自ら出頭するなど一定の要件を満たす場合に、退去強制手続をとらずに出国させる制度で、上陸拒否期間は1年です。自費出国の場合の上陸拒否期間は、初めての退去強制なら5年で、52条5項の短縮決定を受けた場合に1年になります。

会社が送還費用を立て替えたら、本人に請求できますか?

入管法には立替えを禁止する規定も請求を認める規定もなく、本人との間の民事上の問題になります。ただし特定技能や技能実習の場合は、制度上受入れ機関や監理団体が負担すべき帰国費用を本人に請求すると、基準違反になるおそれがあります。

「誰が払うか」より先に、送還に至らない採用を

送還費用の答え自体は単純で、原則は本人、払えなければ国、上陸時の事情なら運送業者です。雇用主が送還費用の請求書を受け取ることは、入管法の上ではありません。

それでも企業がこの問題を軽く見てよいわけではありません。特定技能や技能実習では帰国費用の負担が制度に組み込まれていますし、不法就労助長罪の法定刑は2027年4月から重くなります。そして何より、雇っていた人が収容され、職場から突然いなくなることは、現場にとって費用以上の損失です。採用時の在留カードの確認、在留期間の管理、資格外活動の範囲の確認という基本を続けることが、この問題への最も安い対策です。退去強制の手続の全体像は強制送還(退去強制)とは?対象となる外国人と2024年改正後の仕組みで解説しています。

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