特定技能外国人の帰国費用は、本人が負担するのが原則です。ただし、特定技能雇用契約が終わった後に本人が帰国旅費を払えないときは、受入れ機関(特定技能所属機関)が旅費を負担し、航空券の手配まで含めて出国が円滑にできるよう措置を講じなければなりません。これを「帰国担保措置」と呼び、自己都合退職か解雇かといった帰国の原因は問われません。一方で、在職中の一時帰国の渡航費は、この義務の対象外です。
特定技能の帰国費用は「原則本人、払えなければ会社」
根拠は、特定技能雇用契約及び一号特定技能外国人支援計画の基準等を定める省令(以下「特定技能基準省令」)の1条2項1号です。条文は次のとおりです。
外国人が特定技能雇用契約の終了後の帰国に要する旅費を負担することができないときは、当該特定技能雇用契約の相手方である特定技能所属機関が、当該旅費を負担するとともに、当該特定技能雇用契約の終了後の出国が円滑になされるよう必要な措置を講ずることとしていること。
この規定は、特定技能雇用契約そのものが満たすべき基準として置かれています。つまり、雇用契約の段階で「本人が払えないときは会社が負担する」と約束しておくことが、在留資格の許可要件の一部になっているということです。1号だけでなく2号の雇用契約にも同じ基準がかかります。
出入国在留管理庁の「特定技能外国人受入れに関する運用要領」(令和8年8月版)は、この規定を次のように説明しています。
- 帰国費用は本人負担が原則
- 本人が負担できない場合は、特定技能所属機関が帰国費用を負担し、出国が円滑になされるよう必要な措置を講ずる
- 確認対象の書類は雇用条件書の写し(参考様式第1-6号)
したがって「特定技能の帰国費用は会社負担か」という問いへの答えは、条件付きの会社負担です。会社がいつでも全額を出す制度ではありませんが、本人が払えない状況になれば、会社は拒めません。
「負担することができないとき」は帰国の原因を問わない
運用要領の留意事項で、実務上いちばん影響が大きいのが次の一文です。
「旅費を負担することができないとき」とは、特定技能外国人が自ら帰国費用を負担することができない場合をいい、帰国することとなった原因(行方不明となった場合を除く。)を問いません。
ここでいう「原因を問わない」とは、次のような場面のどれでも、本人が払えなければ会社が負担するという意味です。
- 本人の自己都合で退職し、そのまま帰国する
- 会社の経営悪化や事業縮小で雇用契約が終了した
- 懲戒解雇など、本人に責任のある理由で契約が終了した
- 特定技能1号の通算5年に達し、在留を続けられなくなった
「本人の都合で辞めたのだから帰国費用は本人が払うべきだ」という感覚は、雇用の現場では自然なものです。しかし特定技能では、その感覚どおりに処理すると基準違反になります。例外として明記されているのは、本人が行方不明になった場合だけです。
一方で、運用要領は「負担することができない」かどうかをどう判定するかの基準は示していません。預金額の確認方法や、分割なら払えるといった中間的な状況の扱いは書かれていないため、筆者は、帰国が決まった時点で本人と面談し、手持ちの資金と航空券代を具体的に照らし合わせた記録を残しておくことを勧めます。後から「払えたはずだ」「払えなかった」の水掛け論になるのを避けるためです。
会社が講じる「必要な措置」は航空券代だけではない
条文は旅費の負担に加えて「出国が円滑になされるよう必要な措置」を求めています。運用要領はこの「必要な措置」を、帰国旅費の負担のほか、次のものを含むと説明しています。
- 帰国のための航空券の予約及び購入
- 帰国するまでに必要に応じて行うべき生活支援
航空券代を振り込んで終わりにはできず、実際に出国するまでの段取りまで会社が面倒を見る設計になっています。退職日から出国日までの住居をどうするか、最終給与の支払いと住民税の精算をいつ行うかも、この「生活支援」の範囲で考える必要があります。住民税の一括徴収や納税管理人の選任は外国人社員の帰国手続き|会社がやる税・年金と本人の転出届・在留カード返納で整理しています。
1号特定技能外国人の場合は、これとは別に支援計画上の義務もあります。特定技能基準省令3条1項1号ロは、支援計画に「当該外国人が出入国しようとする港又は飛行場において当該外国人の送迎をすること」を記載するよう求めています。入国時の出迎えだけでなく、出国時の見送りも義務的支援に含まれ、運用要領が定める支援実施の管理簿にも「見送り日(出国日)」の記録欄があります。この送迎にかかる交通費は「支援に要する費用」に当たり、本人に直接又は間接に負担させることはできません。
帰国旅費を給与から天引きして積み立てるのは不可
帰国費用を会社が負担するリスクを避けようとして、毎月の給与から一定額を積み立てる方法を考える会社があります。運用要領は、これをはっきり否定しています。
帰国旅費を確保しておくために、特定技能外国人の報酬から控除するなどして積み立てて特定所属機関が管理することは、金銭その他の財産の管理に当たり得るものであることから、認められません。
特定技能基準省令2条1項6号は、外国人やその親族が保証金の徴収や財産の管理をされていないことを基準にしています。帰国旅費の積立ては、名目が本人のためであっても、この「財産の管理」に当たり得ます。同じ理由で、途中で退職したら積立金を返さない、一定期間働いたら返すといった条件を付けることもできません。
会社側のリスク対策として運用要領が挙げているのは、別の方法です。経営上の都合などで帰国費用を負担することが難しくなった場合に備え、登録支援機関や関連企業などの第三者と協定を結んでおくことが望まれる、とされています。資金繰りに不安がある会社ほど、給与天引きではなく第三者との取決めで備えるのが筋です。
一時帰国の費用は帰国担保措置の対象外
検索では「特定技能 一時帰国費用負担」という語もよく調べられています。ここは帰国担保措置と混同しやすいので、分けて理解する必要があります。
帰国担保措置が対象にしているのは「特定技能雇用契約の終了後の帰国」です。在職中に休暇を取って一時的に母国へ戻る場合は、雇用契約が続いているため、この規定の対象になりません。一時帰国の航空券代を会社が負担する法令上の義務はなく、本人負担で運用しても基準違反にはなりません。
一時帰国について基準省令が定めているのは、費用ではなく休暇です。特定技能基準省令1条1項5号は「外国人が一時帰国を希望した場合には、必要な有給休暇を取得させるものとしていること」を雇用契約の基準にしています。運用要領は、事業の適正な運営を妨げるなど業務上やむを得ない事情がある場合を除き、何らかの有給の休暇を取得できるよう配慮を求め、年次有給休暇を使い切った人から申出があった場合にも、追加的な有給休暇や無給休暇を取得できるよう配慮することが望ましいとしています。休暇の付与と手続の詳細は特定技能で一時帰国はできる?受入れ機関の休暇付与の義務と手続きで解説しています。
なお、一時帰国の期間も特定技能1号の通算在留期間に含まれます。長期の一時帰国が続くと5年の残り期間が減ることは、特定技能1号の5年後はどうなる?通算5年の数え方で扱っています。
建設分野はJACの一時帰国支援が使える
建設分野に限っては、一般社団法人建設技能人材機構(JAC)が一時帰国費用の支援制度を設けています。JACのページ(2026年9月閲覧)によれば、支援額は1人1回5万円で累計2回まで、対象経費は母国への一時帰国にかかる航空券等の費用です。2025年4月1日以降に一時帰国し、同一の受入企業で就労を続けている1号特定技能外国人などが対象で、申請は帰国後に受入企業から行います(事前申請は不可)。2026年5月末までに再入国した場合は旧制度の1人8万円が適用されるとされています。受入負担金の支払いと賛助会員であることが条件です。
入国時の渡航費・転職時の扱い
帰国費用とあわせて問われることが多い周辺の費用も整理しておきます。
| 場面 | 法令上の扱い | 本人に負担させる場合の条件 |
|---|---|---|
| 契約終了後の帰国旅費 | 本人が払えなければ会社が負担(基準省令1条2項1号) | 本人が払える場合に限る。給与天引きの積立ては不可 |
| 在職中の一時帰国の渡航費 | 負担義務の規定なし。休暇付与の配慮義務のみ | 本人負担で可 |
| 入国時の渡航費 | 負担義務の規定なし | 額と内訳を本人が理解し合意していること |
| 出入国時の空港送迎の交通費(1号) | 義務的支援の費用 | 本人に負担させることは不可 |
入国時の渡航費については、運用要領は、本邦に入国する際に特定技能所属機関等に支払う費用について、本人がその額と内訳を十分に理解した上で支払に合意していなければならないとしています。会社が立て替えて後から給与で回収する場合は、控除の名目と額を雇用条件書に明記する必要があります。
雇用契約が終わっても、本人が別の会社に転職して日本に残る場合は、帰国自体が発生しないため帰国旅費の問題は起きません。会社都合など本人の責めに帰すべき事由によらずに契約を解除する場合、1号特定技能外国人には転職先探しの支援を行う義務があります(特定技能基準省令3条1項1号リ)。転職の手続は特定技能の外国人は転職できる?で説明しています。
技能実習との違い|誰がどこまで負担するか
技能実習から特定技能に切り替えた人材を受け入れている会社では、両制度の帰国費用のルールを混同しやすくなります。
技能実習では、技能実習法施行規則52条9号により、団体監理型では監理団体が、技能実習の終了後の帰国旅費を負担します。本人が払えるかどうかは関係なく、制度として受入れ側の負担が前提になっています。一時帰国(3号移行前の一時帰国を含む)についても受入れ側負担の規定があり、途中帰国の扱いは技能実習生の途中帰国(途中退職)|手続き・帰国費用の負担と申告書の書き方で扱っています。
特定技能は、本人が払えない場合にだけ会社負担になる二段構えです。技能実習のように全額を会社側が持つ前提で予算を組む必要はありませんが、本人の貯蓄状況によっては全額負担になり得るため、ゼロ円で見積もるのも危険です。2027年4月1日に始まる育成就労制度での帰国旅費の負担主体は、本記事では確認できていないため現時点で公式資料では確定していないため、断定できません。制度の違いの全体像は技能実習と特定技能の違いとは?を参照してください。
帰国担保措置に違反するとどうなるか
帰国担保措置は特定技能雇用契約の基準であり、雇用条件書で確認される事項です。本人が払えないのに会社が負担しなかった場合、特定技能雇用契約が基準に適合しない状態になり、次の在留諸申請や、別の外国人の受入れの審査で問題になり得ます。運用要領は、基準に適合しない行為が行われていた期間内に外国人が行方不明になった場合を、受入れ機関の「責めに帰すべき事由」の例として挙げています。帰国費用の負担を拒まれた本人が帰国できずに所在不明になれば、行方不明者の発生を理由に受入れ自体が止まるおそれがあるということです。
帰国が決まったら、特定技能雇用契約の終了について、終了の日から14日以内に地方出入国在留管理局へ随時届出を行う必要があります。1号特定技能外国人の支援を全部委託している場合は、登録支援機関とも、見送りの日程と帰国旅費の負担の有無を事前に共有しておくと手続が滞りません。
よくある質問
特定技能の帰国旅費は誰が負担するのですか?
原則は本人です。雇用契約が終了した後、本人が帰国旅費を負担できないときに限り、受入れ機関が負担します(特定技能基準省令1条2項1号)。その場合、会社は航空券の予約・購入や、出国までの生活支援も行う必要があります。
自己都合で退職した場合も会社が帰国費用を払うのですか?
本人が払えないのであれば、払う必要があります。運用要領は「帰国することとなった原因(行方不明となった場合を除く。)を問いません」としており、自己都合退職も懲戒解雇も対象です。例外は、本人が行方不明になった場合だけです。
特定技能の一時帰国費用は会社が負担しなければなりませんか?
負担する法令上の義務はありません。帰国担保措置は雇用契約終了後の帰国が対象で、在職中の一時帰国は含まれないためです。会社に求められるのは、一時帰国の希望があったときに有給休暇などを取得させる配慮です。建設分野ではJACの一時帰国支援(1人1回5万円、累計2回まで)が使えます。
帰国費用に備えて給与から積み立ててもよいですか?
できません。運用要領は、帰国旅費を確保するために報酬から控除して積み立て、会社が管理することを「金銭その他の財産の管理に当たり得る」として認めていません。会社側の備えとしては、登録支援機関や関連企業などの第三者と協定を結んでおく方法が示されています。
特定技能の帰国時の空港送迎は義務ですか?
1号特定技能外国人については義務です。特定技能基準省令3条1項1号ロは、出入国しようとする港又は飛行場での送迎を支援計画に記載するよう求めており、出国時の見送りも含まれます。送迎の交通費は支援に要する費用に当たるため、本人に負担させることはできません。2号には支援計画の義務がないため、送迎も義務ではありません。
雇用条件書にサインする前に決めておくこと
帰国費用の問題が表に出るのは、たいてい雇用契約が終わる時点です。その時点で会社と本人の関係が良好とは限らず、退職の経緯によっては感情的な対立を抱えたまま費用負担の話をすることになります。だからこそ、判断の材料は契約の入口でそろえておくほうが扱いやすくなります。
具体的には、雇用条件書(参考様式第1-6号)の帰国旅費に関する記載を、本人が理解できる言語で説明し、「払えない場合は会社が負担する」「給与からの積立てはしない」ことを最初に伝えておくことです。そのうえで、会社としては、帰国1人分の航空券代を想定した資金を別に確保しておくか、登録支援機関や関連会社と費用負担の協定を結んでおくかを決めておきます。帰国時には、本人の資金状況を確認した記録、航空券の手配、見送りの実施、契約終了の届出を一連の流れとして処理します。
個別の退職経緯によって判断が変わる場面もあるため、迷う場合は届出の期限が来る前に専門家へ相談してください。
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根拠資料
- 特定技能雇用契約及び一号特定技能外国人支援計画の基準等を定める省令(e-Gov法令検索)
- 特定技能外国人受入れに関する運用要領(令和8年8月)(出入国在留管理庁)
- 特定技能制度に関するQ&A(出入国在留管理庁)
- 外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律施行規則(e-Gov法令検索)
- 一時帰国支援(一般社団法人建設技能人材機構 JAC・2026年9月閲覧)
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