退去強制事由とは、入管法24条が1号から10号までに列挙している「日本から退去を強制できる外国人」の類型です。件数が最も多いのは在留期間を過ぎて残る不法残留で、会社員にかかわる場面では、資格外活動と刑罰法令違反の2つが問題になります。刑罰法令違反の基準は在留資格によって違い、永住者や日本人の配偶者等は「1年を超える実刑」で該当するのに対し、技術・人文知識・国際業務などの就労資格や留学の人は、窃盗や傷害で拘禁刑に処せられれば、執行猶予が付いても該当します。
退去強制事由とは|入管法24条の位置づけ
ここでいう退去強制事由とは、入管法24条柱書が「次章に規定する手続により本邦からの退去を強制し、又は第五十五条の二第一項の規定による命令により本邦から退去させることができる」と定める外国人の範囲を指します。24条に当たることが、違反調査、収容、審査、口頭審理といった退去強制手続を始める前提になります。
似た言葉が3つあるので、先に区別しておきます。
- 上陸拒否事由(5条):日本に入国しようとする段階で、上陸を認めない理由
- 在留資格の取消事由(22条の4):在留中の人の在留資格を取り消す理由
- 退去強制事由(24条):在留中または不法に入国した人を国外へ退去させる理由
この3つは連動しています。在留資格を取り消された人のうち、偽りの申請で許可を得た人(22条の4第1項1号・2号)はそのまま24条2号の2で退去強制の対象になり、それ以外の理由で取り消された人は、原則として指定された出国期間(30日以内)を過ぎて残ったときに24条2号の4に当たります(活動をしていないことによる取消しで逃亡のおそれがあり、期間の指定を受けなかった人は2号の3)。取消しの仕組みは在留資格の取消しとは?取消事由と外国人を雇用する企業への影響で解説しています。
退去強制事由に当たっても、必ず送還されるとは限りません。不法残留だけが問題で一定の要件を満たす人は出国命令の対象になり、日本人との婚姻などの事情がある人は在留特別許可が認められる余地があります。手続全体の流れは強制送還(退去強制)とは?対象となる外国人と2024年改正後の仕組みで整理しています。
入管法24条の退去強制事由の一覧
24条は号の枝番を含めると40近い類型があります。実務で意味を持つ単位に整理したのが次の表です。
| 系統 | 主な内容 | 号 |
|---|---|---|
| 不法入国・不法上陸 | 有効な旅券を持たずに入国、上陸許可を受けずに上陸 | 1号・2号 |
| 在留資格の取消し後 | 偽りで許可を得て取り消された、取消し後の出国期間を過ぎて残留 | 2号の2〜2号の4 |
| 不正な証明書・許可の取得援助 | 他人の申請のために文書を偽造・行使 | 3号 |
| テロ・国際約束 | 公衆等脅迫目的の犯罪行為のおそれ、国際約束で入国を防止すべき者 | 3号の2・3号の3 |
| 不法就労助長 | 外国人に不法就労をさせる、あっせんする | 3号の4 |
| 在留カードの偽造等 | 偽造在留カードの所持・提供・行使、他人名義カードの行使 | 3号の5 |
| 在留中の違反・刑罰歴 | 資格外活動の専従、不法残留、薬物、1年を超える実刑、売春など | 4号イ〜ヨ |
| 別表第一の資格での刑罰 | 窃盗・傷害・詐欺など特定の罪による拘禁刑 | 4号の2 |
| 届出等の罪 | 中長期在留者の虚偽届出などによる拘禁刑 | 4号の4 |
| 上陸許可後の違反 | 仮上陸・特例上陸の期間超過など | 5号〜6号の4 |
| 出国命令・難民認定の取消し | 出国期限の超過、出国命令の取消し、難民認定の取消し | 8号〜10号 |
このうち件数の大半を占めるのは4号ロの不法残留です。出入国在留管理庁の公表では、2025年に退去強制手続等を執った外国人1万8,442人のうち、不法残留が92.3%を占めました。一方、企業で働く外国人にとって現実に問題になりやすいのは、副業や刑事事件をきっかけとする資格外活動と刑罰法令違反の系統です。以下、3つの系統を順に読みます。
不法残留(24条4号ロ)|1日でも過ぎれば該当する
4号ロは「在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間を経過して本邦に残留する者」です。超過した日数に下限はなく、在留期限の翌日から該当します。
例外は、在留期間の満了日までに更新や変更の申請をしていた場合です。20条6項により、申請中の人は、処分がされる日か満了日から2か月を経過する日のいずれか早い日まで、従前の在留資格で在留できます(特例期間)。4号ロのかっこ書は、この特例期間も「在留期間」に含めています。更新申請を満了日までに出していれば、審査が長引いて満了日を過ぎても不法残留にはなりません。反対に、満了日を1日でも過ぎてから申請しても、特例期間は発生しません。
会社にとっての実務上の防御策は、在留期限の管理です。期限の3か月前から申請できる更新手続を、期限直前まで放置しないことが最も確実な予防になります。
資格外活動|「専ら」「明らかに」の2段構え
副業やアルバイトで許可された範囲を超えて働いた場合、24条の該当性は2段階で判断されます。
4号イ:資格外の就労を「専ら」行っていると「明らかに」認められる場合
4号イは「第十九条第一項の規定に違反して収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を専ら行つていると明らかに認められる者」です。条文の要件は、許可外の就労を「専ら」、つまり本来の在留活動を行わずに主として行っていること、それが「明らかに」認められることの2つです。
たとえば、留学生が学校にほとんど通わずにフルタイムで働いている場合や、技術・人文知識・国際業務の人が会社を辞めて工場のライン作業だけで生計を立てている場合が典型です。週28時間を数時間超えた程度では、4号イの「専ら」には通常当たりません。
4号ヘ:資格外活動の罪で拘禁刑に処せられた場合
「専ら」に当たらない資格外活動でも、刑事罰の対象にはなります。73条は、許可外の就労をした者を1年以下の拘禁刑もしくは200万円以下の罰金、または併科としています。この罪で拘禁刑に処せられると、執行猶予が付いても4号ヘにより退去強制事由に当たります。罰金刑にとどまれば4号ヘには当たりません。
24条に当たらない程度の資格外活動でも、在留期間の更新や永住申請の審査では素行の問題として評価されます。資格外活動の問題は「退去強制されるか」だけで判断しないほうが安全です。更新時の評価は在留期間更新の「相当の理由」とはで扱っています。
刑罰法令違反|在留資格によって基準が違う
刑事事件で外国人社員が逮捕されたとき、会社が最初に知りたいのは「有罪になったら送還されるのか」です。答えは、罪名、刑の種類、在留資格の3つの組合せで決まります。
全員に共通する基準:無期または1年を超える拘禁刑(4号リ)
4号リは、ニからチまでに当たる人のほか「無期又は一年を超える拘禁刑に処せられた者」を対象にしています。ただし書により、刑の全部の執行猶予を受けた人は除かれます。刑の一部の執行猶予を受けた人も、実際に執行される部分が1年以下なら除かれます。
ポイントは2つあります。1つは「1年を超える」なので、ちょうど1年の拘禁刑は含まれないこと。もう1つは、全部執行猶予なら刑期が3年でも4号リには当たらないことです。永住者、日本人の配偶者等、定住者といった別表第二の在留資格の人は、薬物事犯などの特別な類型を除けば、この4号リが刑罰法令違反の基本の基準になります。
2025年6月1日の改正刑法施行により、懲役と禁錮は拘禁刑に一本化されました。条文上の「拘禁刑」には、改正前に言い渡された懲役・禁錮も含めて読みます。
薬物事犯は有罪判決だけで該当(4号チ)
4号チは、麻薬及び向精神薬取締法、大麻草の栽培の規制に関する法律、あへん法、覚醒剤取締法などに違反して「有罪の判決を受けた者」です。4号リと違い、刑の長さも執行猶予の有無も問いません。罰金刑でも該当します。在留資格による区別もありません。
別表第一の在留資格だけに上乗せされる基準(4号の2)
会社員にとって最も影響が大きいのが4号の2です。対象は「別表第一の上欄の在留資格をもつて在留する者」で、技術・人文知識・国際業務、企業内転勤、経営・管理、技能、特定技能、技能実習、留学、家族滞在などが含まれます。この人たちが次の罪で拘禁刑に処せられたときは、刑の長さも執行猶予の有無も関係なく退去強制事由に当たります。
- 刑法の住居侵入(12章)、通貨偽造・文書偽造・有価証券偽造・印章偽造など(16章〜19章)、賭博(23章)、殺人(26章)、傷害(27章)、逮捕監禁(31章)、略取誘拐(33章)、窃盗・強盗(36章)、詐欺・恐喝(37章)、盗品等(39章)
- 暴力行為等処罰に関する法律1条・1条ノ2・1条ノ3の罪(一部を除く)
- 盗犯等の防止及び処分に関する法律の罪
- 特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律15条・16条の罪
- 自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律2条(危険運転致死傷)・6条1項の罪
- 盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律22条の罪
罰金刑はこの号の対象外です。つまり、同じ万引き(窃盗)でも、罰金で終われば4号の2には当たらず、拘禁刑1年・執行猶予3年の判決なら該当します。
別表第一の就労資格や留学で在留する人は、窃盗や傷害で執行猶予付きの判決を受けただけで退去強制事由に当たる、という点は、4号リの「全部執行猶予なら除く」という原則と逆の結論になるため、特に誤解されやすいところです。
会社員が退去強制事由に該当しやすい6つのケース
ここまでの条文を、外国人社員に実際に起こりうる場面に当てはめます。いずれも、罪名と刑の種類が確定するまでは結論が出ない点に注意してください。
交通事故|過失運転致死傷と危険運転致死傷で結論が分かれる
通勤や営業中の事故で人にけがをさせた場合、多くは自動車運転死傷処罰法5条の過失運転致死傷罪になります。4号の2が挙げているのは同法2条(危険運転致死傷)と6条1項であり、5条は含まれていません。このため、就労資格の社員が過失運転致傷で執行猶予付きの拘禁刑を受けても、4号の2には当たらず、1年を超える実刑でない限り4号リにも当たりません。一方、飲酒運転で危険運転致傷罪が成立すれば、執行猶予付きでも4号の2に当たります。
万引き・窃盗|執行猶予でも該当しうる
窃盗は刑法36章の罪で、4号の2の対象です。初犯の万引きは罰金や不起訴で終わることが多いものの、拘禁刑が選択されれば執行猶予付きでも該当します。刑事手続の段階で、処分が罰金にとどまるかどうかが在留に直結します。
酒席のけんか|傷害と暴行の違い
傷害罪は27章の罪で4号の2の対象です。暴行罪(刑法208条)は27章に含まれますが、罰金で終わることが多い罪です。いずれにしても、拘禁刑になるかどうかが分かれ目になります。
副業・掛け持ち|資格外活動
資格外活動許可を取らずに副業をした場合、上で述べた4号イ(専従)か4号ヘ(73条の拘禁刑)に当たらなければ退去強制事由にはなりませんが、更新審査での評価や在留資格取消し(22条の4第1項5号)の問題は残ります。
在留カード・届出の虚偽
他人名義の在留カードを使う、偽造カードを所持するといった行為は、刑罰の有無にかかわらず3号の5に当たります。また、中長期在留者が住居地や所属機関の届出で虚偽の届出をするなどして71条の2の罪で拘禁刑に処せられると、4号の4に当たります。
外国人の経営者・管理職による不法就労助長
経営・管理の在留資格で会社を経営する外国人や、採用権限を持つ外国人管理職が、就労資格のない外国人を働かせた場合、3号の4イに当たります。3号の4は「行い、唆し、又はこれを助けた者」を対象にしており、刑事罰を受けたかどうかは要件になっていません。雇う側に回った外国人にとって、不法就労助長は刑事罰と退去強制の両方のリスクを持つ行為です。
該当したらすぐに送還されるのか
24条に当たると判断されても、その場で送還されるわけではありません。違反調査、違反審査、口頭審理、法務大臣への異議の申出という段階を経て、退去強制令書が発付されます。この途中で、在留特別許可の申請(50条)ができます。2024年6月10日施行の改正で、在留特別許可は本人が申請する制度に改められました。
判断の考慮事項は、出入国在留管理庁の「在留特別許可に係るガイドライン」が示しています。家族関係、日本での在留期間、素行、退去強制事由の内容などが総合的に考慮され、刑罰法令違反の内容が重いほど消極的に評価されます。個別の事情で判断が変わるため、刑事事件の段階から入管手続まで見通した対応が必要です。制度の詳細は在留特別許可とは?2024年改正後の申請制度とガイドラインの考慮事項で扱います。
刑事事件では、起訴されるかどうか、罰金で終わるかどうかが在留に直結します。外国人社員が逮捕されたと連絡を受けた会社は、本人の在留資格と在留期限を確認したうえで、刑事弁護を担当する弁護士に在留資格の種類を伝えてください。弁護人が処分の見通しを立てるうえで、4号の2に当たる在留資格かどうかは欠かせない情報です。
よくある質問
退去強制事由の一覧はどこで確認できますか?
入管法24条の条文で確認できます。e-Gov法令検索で「出入国管理及び難民認定法」を開き、第24条を見てください。号の枝番が多いため、本記事の表のように、不法入国・不法残留、資格外活動、刑罰法令違反、在留カード関係、不法就労助長といった系統で読むと整理しやすくなります。
執行猶予付きの判決なら退去強制事由に当たりませんか?
在留資格によって異なります。永住者や日本人の配偶者等などの別表第二の在留資格では、刑の全部の執行猶予を受ければ4号リには当たりません(薬物事犯を除く)。技術・人文知識・国際業務や留学などの別表第一の在留資格では、窃盗・傷害・詐欺など4号の2が列挙する罪であれば、執行猶予付きでも該当します。
罰金刑なら退去強制されませんか?
多くの罪では、罰金刑だけで退去強制事由には当たりません。例外は薬物事犯(4号チ)で、罰金を含む有罪判決で該当します。ただし、罰金刑も在留期間の更新や永住申請では素行の問題として評価されます。
不法就労助長は退去強制事由になりますか?
なります。外国人が、事業活動に関して他の外国人に不法就労をさせた場合や、あっせんした場合は、24条3号の4に当たります。日本人の経営者は退去強制の対象になりませんが、外国人の経営者や管理職が関与すると、刑事罰とは別に退去強制の問題が生じます。
偽装結婚は退去強制事由になりますか?
なります。偽装結婚で「日本人の配偶者等」の許可を得たことが判明すると、在留資格が取り消され(22条の4第1項1号・2号)、24条2号の2により退去強制の対象になります。婚姻届の虚偽記載は刑法157条の公正証書原本不実記載等に当たり、17章の罪として拘禁刑に処せられれば4号の2の問題にもなります。
在留資格の種類を把握しておくことが、会社にできる最初の備え
退去強制事由は、同じ行為でも在留資格によって結論が変わる制度です。外国人社員を雇う会社が日常的に管理できるのは、在留期限と在留資格の種類、副業の有無の3点です。在留期限の管理は4号ロの不法残留を防ぎ、在留資格の種類を把握していれば、万一刑事事件が起きたときに4号の2が問題になるかをすぐに判断できます。
刑事事件が起きたときは、罪名と刑の種類が確定する前が、在留への影響を小さくできる唯一の段階です。会社が本人の在留資格を弁護人に正確に伝えるだけでも、処分の見通しは変わります。社員の退職や解雇で在留資格の活動が途切れる場面については、外国人社員が退職・解雇したら?企業に必要な届出と手続きも参考にしてください。
根拠資料
- 出入国管理及び難民認定法 第20条・第22条の4・第24条・第50条・第73条(e-Gov法令検索)
- 自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(e-Gov法令検索)
- 在留特別許可に係るガイドライン(出入国在留管理庁・2024年3月改定)
- 令和7年における入管法違反事件について(出入国在留管理庁)
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