ここでいう在留資格の取消しとは、更新の不許可とはまったく異なる仕組みを指します。更新不許可は「次はどうしよう」と考える時間が残る話ですが、取消しは在留資格そのものを遡って無効にする処分であり、通知が来た瞬間から状況が変わります。
今日まで普通に出社していた社員が、ある日入管に呼ばれて事情聴取を受け、翌週には在留資格が取り消されて就労ができなくなる、ということが実際に起こり得ます。会社側が何も知らなかった、というケースも珍しくありません。取消しに至るまでには一定の手続きと事情がありますが、企業側が「うちには関係ない話」と考えていると、いざというとき現場が混乱します。
この記事では、在留資格取消し制度の仕組みと代表的な取消事由、そして実際に取消しが決まった場合に雇用企業がとるべき対応を、行政書士の立場から整理してお示しします。
この記事でわかること
- 在留資格取消し制度の仕組みと更新不許可との違い
- 代表的な取消事由(虚偽申請・活動不履行・資格外活動の常習など)
- 取消しが決定するまでの流れと聴聞手続き
- 取消しが決まった場合に企業が受ける実務上の影響
- 取消しを未然に防ぐために企業がやっておくべきこと
在留資格取消し制度とは
在留資格の取消しは、出入国管理及び難民認定法に定められた制度で、いったん適法に許可された在留資格であっても、一定の事由に該当すると認められれば、入管がその許可を取り消すことができる仕組みです。更新や変更の申請結果として不許可になるのとは違い、既に許可されている在留資格を後から失わせる処分だという点を、まず押さえておいてください。
取消しの対象になるのは技人国や特定技能に限りません。永住者を含め、ほぼすべての在留資格が対象になり得ます。ただし実務上よく相談を受けるのは、就労系ビザ、とりわけ技人国・特定技能を持つ外国人社員に関する取消しです。
また、取消しと似た言葉に「出国命令」がありますが、これは不法滞在状態にある外国人が自ら出頭した場合などに、収容せずに出国を促す別の制度です。取消しはあくまで在留資格を無効化する処分であり、出国命令はその後の退去のさせ方の一種という位置づけになります。用語が近いので、社内で説明する際は混同しないよう気をつけてください。
法律上の根拠となるのは出入国管理及び難民認定法22条の4で、そこに複数の取消事由が列挙されています。すべてを覚える必要はありませんが、企業の採用担当者としては、次に挙げる3つの事由が実務でぶつかりやすいところだと理解しておけば十分です。
代表的な取消事由
取消事由は法律上いくつか列挙されていますが、企業の採用担当者が押さえておくべきものは、だいたい次の3つに集約されます。
| 取消事由 | 内容 |
|---|---|
| 虚偽の申請 | 上陸許可や在留資格の変更・更新の際に、偽りの申請書類や虚偽の事実を提出していた場合 |
| 正当な理由のない在留活動の不履行 | その在留資格に応じた活動を、正当な理由なく3ヶ月以上行っていない場合 |
| 資格外活動の常習 | 許可された範囲を超える就労を繰り返し行っている場合 |
いずれも「一度うっかり」で即取消しになるわけではなく、悪質性や継続性が見られています。ただし虚偽申請だけは別で、申請時点の一回の行為であっても、内容によっては重く扱われます。ここは不法就労助長罪とはとあわせて理解しておいたほうがいいでしょう。企業側の関与が疑われると、社員個人の取消しだけでは済まなくなります。
虚偽申請による取消し
技人国や特定技能の申請では、雇用契約の内容、業務内容、学歴・職歴といった情報を書面で提出します。ここに事実と異なる記載があると、虚偽の申請とみなされるリスクがあります。よくあるのが、実態は現場作業が中心なのに「専門的な企画業務」として申請していたケースや、実際の給与額と申請書上の金額が食い違っているケースです。
悪意なく記載を間違えただけというケースもあります。しかし入管側からすれば、意図的な虚偽なのか単純な記載ミスなのかを外形的に判断するしかないので、説明が不十分だと悪意ありと受け取られてしまいます。申請書類を作る段階で実態と表現にズレがないか、細部まで確認しておいたほうがいいでしょう。
実際にあった事例
うちの事務所で扱った案件のなかに、経歴に詐称と受け取られても仕方がない誤りがあったものがあります。過去の職歴の記載が実態と食い違っていたのですが、依頼者に事情を確認したところ、悪意というより本人の勘違いによるものでした。隠さず入管に事情を説明したところ、結果として許可が下りています。誤りに気づいた時点でどう動くかが、結果を分ける最大の要因です。
※上記は当事務所で取り扱った実際の相談内容をもとにしていますが、個別の状況により結果は異なります。同様の結果を保証するものではありません。
実務上、虚偽申請かどうかが特に見られやすいのは、雇用契約書に記載された給与額、雇用理由書に書かれた業務内容、そして学歴・資格を証明する書類の3点です。給与額は日本人従業員との比較で妥当性が判断されますし、業務内容は入社後の実態調査で食い違いが発覚することがあります。学歴・資格の証明書については、卒業証明書や資格証の偽造が疑われた場合、警察との連携も含めて厳しく調査される傾向にあるので、採用時点で原本確認を徹底しておいたほうがいいでしょう。
正当な理由のない在留活動の不履行
技人国の在留資格で入国・在留を許可されているのに、実際にはその活動をまったく行っていない、というケースも取消し対象です。典型的なのは、内定を受けて在留資格認定証明書の交付を受けたものの、実際には入社せず、他社でも働かず、長期間活動実態がない状態です。
ここで注意したいのは「3ヶ月以上」という期間の考え方です。休職や育児休業など、正当な理由がある場合は取消しの対象にはなりません。ただし正当な理由の有無は入管側の評価に委ねられる部分もあるので、長期間の休業が見込まれる場合は、会社側から事情を説明できる資料を用意しておいたほうが無難です。
資格外活動の常習
技人国や特定技能の外国人が、許可された範囲を超えてアルバイトを続けているケースです。たとえば技人国の社員が、本業とは無関係の飲食店で継続的に深夜まで働いていた、というような場合が該当します。留学生の資格外活動許可のように「週28時間以内」という明確な上限があるわけではありませんが、本業以外の就労を繰り返すこと自体がそもそも想定されていません。
企業からすると「本人が個人的にやっていることだから関知していない」と考えがちですが、副業の実態を会社が把握していなかった、では済まないことがあります。就業規則で副業を許可する場合でも、外国人社員については在留資格上の制約があることを事前に伝えておいたほうがいいでしょう。
そもそも、留学生の「週28時間以内」のような資格外活動許可は、あくまで本業がその在留資格に基づく活動である前提の例外です。技人国や特定技能のように既に就労が主目的の在留資格の場合、本業以外の就労は原則として想定されていません。副業を認めるとしても、同種の専門業務の範囲に限定する、労働時間や勤務先を会社側でも把握しておく、といった運用が必要になります。「日本人と同じ扱いにしてあげたい」という配慮が、かえって本人の在留資格を危うくすることもあるので注意してください。
取消しと退去強制、更新不許可はどう違うのか
ここで3つの処分を整理しておきます。更新不許可は「次の期間の在留を認めない」という判断で、現在の在留期間が残っていればその範囲では滞在も就労も継続できます。これに対して取消しは、現在有効な在留資格そのものを無効化する処分なので、期間が残っていても効力を失います。そして退去強制は、取消しやオーバーステイなど何らかの事由が生じたあとに、実際に日本から退去させるための手続きです。順番としては、取消し(または他の事由)→出国準備期間→従わない場合に退去強制、という流れになります。
| 処分 | 何が起きるか | 在留期間の扱い |
|---|---|---|
| 更新不許可 | 次期の在留が認められない | 現在の在留期間内は有効 |
| 取消し | 現在の在留資格そのものが無効になる | 残期間があっても効力を失い、出国準備期間が指定される |
| 退去強制 | 日本からの退去を強制的に実施する手続き | 在留資格を有しない状態が前提 |
企業からの相談で多いのが「更新不許可と言われたが、それは取消しとは違うのか」という確認です。この2つを混同すると、社内での対応スケジュールを誤ります。更新不許可なら現在の在留期間中は業務を続けさせられますが、取消しならその日から就労を止めるべきだ、というくらいの違いがあると考えてください。
取消しが決定するまでの流れ
取消事由に該当する疑いがあるからといって、いきなり取消しが決定するわけではありません。実務上は、次のような段階を踏みます。
- 事実の把握・呼び出し:入管が何らかの端緒(届出漏れ、税や社会保険の情報、通報など)から疑いを持ち、本人や関係者に出頭を求める
- 意見聴取・弁明の機会:本人に対して事情を説明する機会が設けられる(重要な取消しの場合は聴聞手続きが行われる)
- 取消しの決定:事情を踏まえて取消しが決定されると、通知とあわせて出国のための在留期間(多くは30日以内)が指定される
この過程で、企業に対しても事実確認の連絡が来ることがあります。よくあるのは、入管から会社宛てに雇用状況や勤務実態についての照会文書が届いたり、担当者への電話で業務内容の詳細を聞かれたりするケースです。ここで曖昧な回答をしたり、会社として把握していた事実を隠したりすると、企業側の責任問題に発展しかねません。事実は事実として、正直に説明する姿勢が結果的に会社を守ることになります。
企業側の担当者が一人で対応に追われると、質問の意図を取り違えて余計なことまで話してしまったり、逆に必要な説明を怠ってしまったりすることがあります。取消しに関する照会が来た段階で、行政書士など専門家に相談し、どこまで・どのように説明するかを整理してから対応したほうが、結果的に混乱を防げます。
意見聴取や聴聞の場では、本人が一人で対応しなければならない場面も出てきます。日本語での説明に不安がある社員の場合、会社としてどこまで同行・サポートできるかを事前に考えておいたほうがいいでしょう。中国語対応が可能な行政書士が同席するだけでも、事情の伝わり方はかなり変わってきます。
取消しが決定した場合、企業が受ける実務上の影響
実際に取消しが決まった場合、雇用企業には次のような実務対応が発生します。
| タイミング | 企業側の対応 |
|---|---|
| 取消し決定の通知を受けた時点 | 原則として就労を継続させない(就労させると不法就労助長のリスクが生じる) |
| 出国準備期間中 | 給与や退職金の精算、業務の引き継ぎ、社会保険・雇用保険の手続き |
| 退職に伴う届出 | ハローワークへの外国人雇用状況届出(雇用保険被保険者でない場合も届出義務あり) |
ここで一番大事なのは「就労不可になるタイミング」です。取消しの通知を受けた段階で、その社員はその在留資格に基づく就労ができなくなると考えたほうがいいでしょう。「まだ在留カードには古い情報が残っているから大丈夫だろう」という判断は危険です。会社としては、通知を受けた時点で速やかに就労を止め、退職・出国に向けた手続きに切り替える必要があります。退職・解雇に伴う具体的な届出の内容は技術・人文知識・国際業務の外国人が転職したらでも触れているので、あわせて確認してください。
加えて、出国準備期間中に会社が見落としがちなのが、社会保険・雇用保険の資格喪失手続きと、貸与していた社員証・PC・社宅などの返却です。取消しという急な事態だと、通常の退職フローが機能しないまま本人が出国してしまい、備品や情報資産が回収できないまま、というトラブルも起きます。取消しの通知を受けた時点で、通常の退職対応チェックリストを前倒しで動かし始めることをおすすめします。
取消しを未然に防ぐために企業がやっておくべきこと
取消しは個人の問題という側面が強いですが、企業側の対応次第でリスクを下げられる部分もあります。
- 申請書類の内容と実際の業務内容にズレがないか、定期的に確認する
- 副業・アルバイトに関する社内ルールを外国人社員に明示しておく
- 長期休業が見込まれる場合は、正当な理由を説明できる記録を残しておく
- 入管から事実確認の連絡があった場合、事実を隠さず速やかに対応する
1つ目の「申請書類と実態のズレ」は、採用時点では問題がなくても、配属先の変更や業務内容の見直しによって、いつの間にかズレが生じることがあります。異動のたびに「この社員の業務は、そもそもどの在留資格で許可を受けていたか」を確認する習慣をつけておくと、取消しだけでなく更新時の不許可リスクも同時に減らせます。
2つ目の副業ルールについては、日本人社員と同じ感覚で「うちは副業自由だから」と伝えてしまうと、外国人社員が悪気なく資格外活動の常習に該当してしまうことがあります。雇用契約や入社時のオリエンテーションで、在留資格上の制約がある旨をはっきり伝えておいたほうがいいでしょう。
3つ目の長期休業については、私傷病休職や育児休業のように正当な理由がある場合でも、記録を残していないと「活動の不履行」を疑われた際に説明がしづらくなります。休職辞令や診断書の写しなど、後から提示できる資料を保管しておくことをおすすめします。
実務でよくあるのが「本人に任せていたら、いつの間にか変な話になっていた」というパターンです。外国人社員本人のプライベートな行動まで会社が管理する必要はありませんが、在留資格に関わる部分だけは、会社としても最低限の目配りをしておいたほうがいいでしょう。トラブルが起きてから対処するより、はるかにコストが小さく済みます。
取消しになった外国人は、その後また日本で働けるのか
企業側からよく聞かれるのが「一度取消しになった社員を、時間をおいてもう一度雇用することはできるのか」という点です。結論は、取消しの原因や本人の対応次第で道は残っています。ただし、虚偽申請が悪質と判断された場合は、その後の入国・在留審査全体で厳しく見られることになるので、簡単ではありません。
誤解や説明不足が原因だった場合は、事情をきちんと説明できれば再度の申請で許可が下りることもあります。うちの事務所でも、技能実習から特定活動(帰国困難)を経て技人国を申請し、一度は不許可になったものの、入管とやり取りを重ねた結果、許可が下りたケースを扱ったことがあります。取消しと不許可は制度としては別物ですが、「一度うまくいかなかったからもう終わり」ではなく、経緯を丁寧に説明し直すことで結果が変わる可能性がある、という点は共通しています。
※上記は当事務所で取り扱った実際の相談内容をもとにしていますが、個別の状況により結果は異なります。同様の結果を保証するものではありません。
大事なのは、取消しになった経緯を本人・会社の双方が正確に把握しておくことです。「なぜ取消しになったのか」を曖昧にしたまま次の申請に進むと、同じ説明不足を繰り返して、また同じ結果になりかねません。とくに、書類上の説明力が原因で誤解を招いていたケースでは、同じ業務内容であっても、雇用理由書や説明資料の書き方を変えるだけで結果が変わることもあります。専門性のある業務なのに書類の作り方のせいで単純作業だと誤認されてしまう、という事態はうちの事務所でも実際に扱ったことがある相談です。取消し後の再申請を考えるなら、前回の申請書類を見直すところから始めたほうがいいでしょう。
※上記は当事務所で取り扱った実際の相談内容をもとにしていますが、個別の状況により結果は異なります。同様の結果を保証するものではありません。
よくある質問
Q. 在留資格が取り消されると、すぐに強制送還されますか?
即時の強制送還にはなりませんが、出国のための在留期間が指定され、原則として就労はできなくなります。放置するとオーバーステイとなり、退去強制の対象になるので注意が必要です。
Q. 従業員の在留資格が取り消された場合、会社が処罰されることはありますか?
会社が取消しの原因に関与していた、あるいは知りながら就労させ続けた場合は、不法就労助長罪に問われる可能性があります。通知を受けたら就労継続の判断を先延ばしにしないことです。
Q. 取消事由に心当たりがない場合はどうすればいいですか?
入管から出頭を求められた段階で事実関係を整理し、正直に説明する準備をしたほうがいいです。誤解であれば資料を示すことで取消しを免れる余地があります。
Q. 資格外活動の常習とは、具体的にどの程度を指しますか?
許可範囲を超えるアルバイトを繰り返す、許可時間数を大幅に超えて働き続けるといった継続的な実態があるかどうかが見られます。
Q. 取消しの通知が来た場合、会社はどのタイミングで社員を解雇すべきですか?
解雇するかどうかは労働法上の判断が別途必要ですが、少なくとも就労させ続けることは取消し決定と同時に避けるべきです。まずは自宅待機等で就労を止めたうえで、退職手続きや出国準備のスケジュールを本人とすり合わせるのが実務的な流れです。
まとめ
在留資格の取消しは、更新不許可以上にスピード感を求められる問題です。通知が来てから考えるのではなく、日頃から申請内容と実態のズレをなくし、社員の在留状況を把握しておくことが、企業にとって一番の予防策になります。もし取消しの疑いを指摘された、あるいは既に通知を受けているという段階であれば、動くのが早いほど選べる手段は多く残っています。在留資格の更新が不許可になる理由とはもあわせて確認しておくと、審査側がどこを見ているかの理解が深まります。