外国人が逮捕されても、それだけで強制送還(退去強制)になるわけではありません。送還になるかどうかは、刑事事件の結論とは別に、入管法24条の退去強制事由に当たるかで決まります。在留資格を持っている人は、不起訴になれば刑罰を理由とする退去強制事由には当たりませんが、オーバーステイ(不法残留)の人は、在留期限を過ぎていること自体が退去強制事由なので、不起訴や執行猶予で釈放されても、そのまま入管に身柄が移ります。
刑事手続と入管手続は別々に進む
最初に押さえておきたいのは、外国人が罪に問われた場面では、2つの手続が並行して動くという点です。
1つは、警察・検察・裁判所による刑事手続です。逮捕、勾留、起訴または不起訴、裁判、刑の執行という流れで、日本人と同じ刑事訴訟法が適用されます。
もう1つは、出入国在留管理庁による退去強制手続です。入国警備官の違反調査、入国審査官の違反審査、特別審理官の口頭審理、法務大臣への異議の申出を経て、退去強制令書が発付されれば送還に進みます。
入管法63条1項は、退去強制事由に当たる外国人について刑事手続が行われている場合でも、収容しないまま退去強制の手続を進めることができると定めています。つまり、刑事事件で勾留されている間に、入管の違反調査が並行して行われることがあります。同条2項により、退去強制令書が出ても、その執行(送還)は原則として刑事手続が終わった後です。
2つの手続をつなぐのが通報の仕組みです。入管法62条2項は、国や地方公共団体の職員が職務上、退去強制事由に当たると思われる外国人を知ったときは、入管に通報しなければならないと定めています。警察官や検察官もこの職員に含まれます。刑務所などの矯正施設の長も、退去強制事由に当たる外国人が刑期満了などで釈放されるときは、直ちに通報しなければなりません(同条3項)。
強制送還になるかは入管法24条の退去強制事由で決まる
退去強制事由は入管法24条に列挙されています。刑事事件と関係するものを、刑事の結論との関係で整理すると次のようになります。
| 退去強制事由 | 対象 | 不起訴 | 罰金 | 拘禁刑・執行猶予付き | 拘禁刑・実刑 |
|---|---|---|---|---|---|
| 24条4号ロ(不法残留) | 在留期限を過ぎた人 | 該当する | 該当する | 該当する | 該当する |
| 24条4号の2(特定の罪) | 就労資格・留学など別表第1の在留資格の人 | 該当しない | 該当しない | 該当する | 該当する |
| 24条4号チ(薬物犯罪) | すべての在留外国人 | 該当しない | 有罪判決なら該当 | 該当する | 該当する |
| 24条4号リ(1年を超える拘禁刑) | すべての在留外国人 | 該当しない | 該当しない | 原則該当しない | 1年を超えれば該当 |
| 24条4号の4(虚偽の届出・在留カード受領拒否などの罪) | 中長期在留者 | 該当しない | 該当しない | 該当する | 該当する |
表から読み取れる核心は、不法残留だけが刑事の結論と無関係に成立する事由だという点です。その他の刑罰に関する事由は、有罪判決や拘禁刑の言渡しを前提にしているため、不起訴になれば該当しません。
24条4号の2|就労資格の人は執行猶予でも対象になる罪がある
会社員や留学生にとって最も影響が大きいのが24条4号の2です。技術・人文知識・国際業務、特定技能、技能実習、留学、家族滞在など、入管法別表第1の在留資格で在留する人が、次の罪で拘禁刑に処せられた場合は、執行猶予が付いても退去強制事由に当たります。
- 刑法の住居侵入、通貨偽造・文書偽造・有価証券偽造・印章偽造など、賭博、殺人、傷害、逮捕監禁、略取誘拐、窃盗・強盗、詐欺・恐喝、盗品等に関する罪
- 暴力行為等処罰法の一部の罪、盗犯等防止法の罪
- 自動車運転死傷行為処罰法2条(危険運転致死傷)・6条1項の罪
- 特殊開錠用具所持禁止法、盗難特定金属製物品処分防止法の一部の罪
罰金刑はこの事由に当たりません。また、自動車運転死傷行為処罰法5条の過失運転致死傷は列挙に含まれていないので、通勤中の交通事故で過失運転致死傷罪の執行猶予付き判決を受けても、この号には当たりません。同じ交通事故でも、飲酒などによる危険運転致死傷であれば対象になります。
身分系の在留資格の人は執行猶予なら原則として送還されない
永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者は入管法別表第2の在留資格なので、24条4号の2の対象外です。これらの人が刑事事件で問題になるのは、主に4号リ(無期または1年を超える拘禁刑。刑の全部の執行猶予を受けた場合などを除く)と、4号チ(薬物犯罪の有罪判決)です。そのため、身分系の在留資格の人は、執行猶予付き判決であれば、薬物犯罪を除いて原則として退去強制事由に当たりません。
ただし、退去強制事由に当たらないことと、次の更新が認められることは別の問題です。この点は後の節で触れます。退去強制事由の全体は退去強制事由とは?入管法24条の一覧と会社員が該当しやすいケースで一覧にしています。
不起訴でも入管に引き渡される場合|オーバーステイの逮捕後
オーバーステイの人が逮捕された場合の流れは、在留資格がある人とは大きく違います。
不法残留は入管法70条1項5号の罪で、3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金、またはその併科の対象です。警察が不法残留の容疑で逮捕した場合、通常の刑事事件なら48時間以内に検察官へ送致しますが、入管法65条には特例があります。不法残留などの入管法違反だけが容疑で、他に罪を犯した嫌疑がないときは、収容令書が発付されていれば、送致せずに被疑者を書類・証拠物とともに入国警備官へ引き渡すことができます。この引渡しも、身体拘束から48時間以内に行わなければなりません(65条2項)。
他の罪(窃盗や傷害など)の容疑もある場合や、検察官に送致された場合は、刑事手続が先に進みます。その結果、次のいずれになっても、不法残留という退去強制事由は残ります。
- 不起訴(嫌疑不十分・起訴猶予など)で釈放される
- 罰金刑で釈放される
- 執行猶予付き判決で釈放される
- 実刑判決を受け、刑期を終えて釈放される
いずれの場合も、刑事の身柄拘束が解かれた時点で、入管が収容令書または退去強制令書によって身柄を引き取ります。報道で「不起訴処分となった後、入管に引き渡された」と書かれるのは、この流れを指しています。インターネット上には「不起訴になると同時に強制送還される」という説明も見られますが、正確には、不起訴で刑事手続が終わり、その後に入管の退去強制手続が続く、ということです。
入管に引き取られた後は、収容されるか、監理措置に付されて社会の中で生活しながら手続を受けることになります。退去強制事由に当たる人でも、日本人と結婚しているなどの事情があれば、在留特別許可が認められる可能性があります。2024年6月10日施行の改正入管法で、在留特別許可は本人が申請する制度になりました。
逮捕の前に自ら出頭していれば出国命令の対象になり得た
オーバーステイの人が退去する方法には、退去強制のほかに出国命令制度があります。ここでいう出国命令とは、一定の条件を満たす不法残留者を収容せずに出国させ、上陸拒否期間を退去強制の原則5年から1年に短くする制度を指します(入管法24条の3、55条の85)。
出国命令の対象になるのは、違反調査が始まる前に速やかに出国する意思を持って自ら入管に出頭した人、または違反調査の開始後でも一定の段階までに出国の意思を表明した人です。加えて、窃盗・傷害・詐欺など24条の3第3号に列挙された罪で拘禁刑に処せられたことがないこと、過去に退去強制や出国命令を受けたことがないことなどが条件です(同条各号)。
逮捕によって発覚した場合は、自ら出頭したことにはなりません。また、別の罪で拘禁刑の判決を受けていれば、出国命令の対象から外れます。オーバーステイの状態に気づいた段階で、逮捕される前に出頭するかどうかが、その後の上陸拒否期間を左右するということです。出国命令の要件と流れは出国命令制度とは?オーバーステイで自ら出頭した場合の5要件と出国までの流れで扱う予定です。
在留特別許可の審査でも刑事処分は消極要素になる
退去強制事由に当たっても、法務大臣が在留を特別に許可することがあります。在留特別許可に係るガイドライン(2024年3月改定)は、日本人や永住者との婚姻、日本で育った子の養育などを積極要素として挙げる一方、刑事処分を受けたことなどを消極要素として挙げています。不起訴で終わった場合と有罪判決を受けた場合とでは、同じ家族関係があっても評価が変わり得るため、刑事事件の結論は在留特別許可の判断にも影響します。
在留資格がある社員が不起訴になった場合に残る影響
在留資格を持つ社員が逮捕され、不起訴になった場合、刑罰を理由とする退去強制事由には当たりません。勾留が解かれれば職場に戻り、在留資格もそのまま続きます。
ただし、不起訴には種類があります。嫌疑なし、嫌疑不十分、起訴猶予のうち、起訴猶予は「犯罪の事実はあるが、情状などを考えて起訴しない」という処分です。在留期間の更新や在留資格の変更、永住申請の審査では、刑罰を受けていないことだけでなく、素行が善良であるかが見られます。起訴猶予の事実は、この素行の評価で消極的に考慮される可能性があります。在留期間更新の審査で素行がどう見られるかは、在留期間更新の「相当の理由」とはで解説しています。
また、刑事事件の捜査の過程で、別の入管法上の問題が見つかることがあります。たとえば、留学生のアルバイトが資格外活動の時間を大きく超えていた、就労資格の人が許可された範囲外の仕事をしていた、といった事実です。これらは刑事の結論と関係なく、在留資格の取消しや退去強制事由(24条4号イ「専ら明らかに」資格外の活動を行っている場合など)の問題になり得ます。
執行猶予付き判決を受けた場合は、前の節の表のとおり、別表第1の在留資格の人は罪名によって退去強制事由に当たります。当たらない場合でも、次の更新で不許可になる可能性は高くなります。
加えて、一度でも1年以上の拘禁刑に処せられると、執行猶予が付いていても、将来の上陸拒否事由になります(入管法5条1項4号)。薬物犯罪は刑の重さを問わず上陸拒否事由です(同項5号)。帰国した後に日本へ戻る道にも影響するため、刑事事件の段階で在留への影響を見据えた弁護が必要になります。
社員が逮捕されたときに会社が取るべき対応
外国人社員が逮捕されたと家族や警察から連絡を受けたとき、会社として取るべき対応を順に整理します。
1 事実関係と在留状況を確認する
警察は、捜査に支障があるとして、会社に事件の詳しい内容を伝えないことが多いです。本人の家族や、本人が依頼した弁護士(または弁護士会の当番弁護士)を通じて、容疑、勾留の見込み、今後の見通しを確認します。同時に、会社で保管している在留カードの写しで、在留資格と在留期間の満了日を確かめます。本人の在留カードそのものを会社が預かることは認められていません。
2 雇用の扱いは刑事の結論を待って判断する
勾留は、逮捕から起訴・不起訴の判断まで最大で23日間続くことがあります。この間の欠勤の扱いは就業規則に従いますが、起訴前に解雇すると、不起訴になった場合に解雇の有効性が争われるおそれがあります。懲戒処分や解雇の判断は、刑事の結論と事実関係が分かってから行うのが通常です。
3 在留期限が近い場合は早めに相談する
勾留中に在留期間の満了日が来る場合、本人が在留期間更新許可申請を出していなければ、不法残留になるおそれがあります。本人が身柄を拘束されている場合の申請の方法は状況によって変わるため、弁護士や申請取次の行政書士を通じて、管轄の地方出入国在留管理局に早めに確認する必要があります。
4 雇用が終わる場合の届出
退職や解雇で雇用が終わる場合、本人は14日以内に所属機関に関する届出(契約の終了)を出す必要があり、会社はハローワークへの外国人雇用状況の届出を出します。特定技能外国人であれば、会社は雇用契約の終了について随時届出を14日以内に出さなければなりません。退職時の手続は外国人社員が退職・解雇したら?企業に必要な届出と手続きで整理しています。
5 退去強制手続に入った社員を働かせない
オーバーステイが判明した社員や、退去強制令書が出て監理措置・仮放免で社会に戻った社員を、報酬を受ける活動の許可なく働かせると、会社が不法就労助長罪(入管法73条の2)に問われます。現行の法定刑は3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金またはその併科で、2027年4月1日からは5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金に引き上げられます。雇用を続ける場合は、在留カードまたは許可の内容を必ず確認してください。詳しくは不法就労助長罪とは?で解説しています。
刑事手続と入管手続のどちらに重心を置くべきかは、在留資格の種類、容疑の罪名、前科の有無など個別の事情で判断が変わります。刑事弁護は弁護士の領域なので、在留への影響を含めて相談できる弁護士につなぐことが、会社にできる最初の支援です。
よくある質問
外国人は逮捕できますか?
できます。日本国内で罪を犯した外国人には、日本人と同じく刑法・刑事訴訟法が適用され、逮捕・勾留・起訴の対象になります。例外は、外交官など国際法上の特権・免除を持つ人に限られます。逮捕された外国人は、領事機関への通報を求めることができます。
外国人が犯罪をしても不起訴なら強制送還されませんか?
在留資格を持っている人であれば、不起訴によって刑罰を理由とする退去強制事由には当たらないため、原則として送還されません。ただし、オーバーステイの人は不法残留そのものが退去強制事由なので、不起訴で釈放されても入管に引き渡されます。また、捜査の過程で資格外活動などの別の問題が判明すれば、そちらで退去強制や在留資格の取消しが問題になります。
執行猶予付き判決なら日本に残れますか?
在留資格によって違います。永住者や日本人の配偶者等など身分系の在留資格の人は、薬物犯罪を除き、執行猶予付き判決なら原則として退去強制事由に当たりません。就労資格や留学などの人は、窃盗・傷害・詐欺など24条4号の2に列挙された罪であれば、執行猶予でも退去強制事由に当たります。どちらの場合も、次の更新が不許可になる可能性はあります。
逮捕歴がある外国人は日本に入国できますか?
逮捕されたこと自体は上陸拒否事由ではありません。上陸拒否事由になるのは、1年以上の拘禁刑に処せられたことがある場合(執行猶予付きを含む)や、薬物犯罪で刑に処せられたことがある場合などです(入管法5条1項4号・5号)。退去強制された場合は、原則として5年または10年の上陸拒否期間があります。
罰金刑になったら強制送還されますか?
薬物犯罪を除き、罰金刑だけで退去強制事由に当たることは原則としてありません。24条4号の2も4号リも拘禁刑を前提としているためです。ただし、罰金刑も刑事処分であることに変わりはなく、在留期間の更新や永住申請の審査では消極的に評価されます。
「不起訴かどうか」より先に「在留資格は何か」を確認する
外国人の逮捕と強制送還の関係は、刑事の結論から考えると分かりにくくなります。整理の出発点は、その人がどの在留資格を持っているか、そもそも在留期限が切れていないか、です。
在留期限が切れていれば、刑事の結論に関係なく入管の手続が続きます。就労資格や留学の人であれば、罪名と拘禁刑の有無で退去強制事由に当たるかが決まります。身分系の在留資格の人であれば、1年を超える実刑か薬物犯罪かが境目です。そのうえで、退去強制事由に当たらない場合でも、次の更新と将来の永住申請で素行が見られます。
会社としては、逮捕の連絡を受けた時点で在留カードの写しを確認し、在留資格と在留期間の満了日を把握することが、対応の順序を決める最初の一歩になります。
根拠資料
- 出入国管理及び難民認定法 第5条・第24条・第62条・第63条・第65条・第70条・第73条の2(e-Gov法令検索)
- 在留特別許可に係るガイドライン(出入国在留管理庁・2024年3月改定)
- 令和7年における入管法違反事件について(出入国在留管理庁)
在留資格の申請・採用のご相談は、保利国際法務事務所の無料相談へ。福岡出入国在留管理局への申請取次に対応しています。