オーバーステイ中の外国人とも、日本人は法律上結婚できます。婚姻届が受理されれば夫婦になりますが、それで在留資格が自動的に与えられるわけではなく、オーバーステイの状態はそのまま続きます。日本で一緒に暮らし続けるための道は、入管に出頭して法務大臣の在留特別許可を求めるか、出国命令などで一度帰国し、配偶者ビザ(日本人の配偶者等)で改めて入国するかの2つです。どちらを選ぶかは、同居の期間、子どもの有無、違反の中身で大きく変わります。
オーバーステイ状態でも結婚はできる
「オーバーステイ状態でも結婚はできますか?」という質問が、この分野で最も多く検索されています。答えは、できます。婚姻が成立するかどうかは、法の適用に関する通則法24条により、各当事者の本国法の要件(婚姻年齢や重婚でないことなど)で判断され、日本での在留資格の有無は婚姻の成立要件に含まれていません。
日本の市区町村役場に婚姻届を出す場合、外国人側は一般に、パスポートと、本国の大使館・領事館が発行する婚姻要件具備証明書(本国法上結婚できる状態にあることの証明)を求められます。オーバーステイで困るのは、この証明書やパスポートの取得です。パスポートの期限が切れている、大使館で手続をすると在留状況を確認される、といった事情で書類がそろわないことがあります。必要な書類は国籍と自治体によって違うため、婚姻届を出す市区町村の戸籍窓口と本国の大使館に、事前に確認してください。
結婚そのものに入管の許可は要りません。ただし、結婚した瞬間から、在留の問題は「夫婦の問題」になります。夫婦で同居を続けるには在留資格が必要で、オーバーステイのまま暮らし続ければ、配偶者の側も在留期間の長い不法滞在を前提とした生活を続けることになります。
結婚しても在留資格は自動的には得られない
在留資格「日本人の配偶者等」は、正規に在留している外国人が婚姻した場合なら、在留資格の変更申請で取得できます。しかしオーバーステイの人は、変更の前提となる在留資格そのものを失っているため、この手続は使えません。婚姻届を持って入管の窓口に行っても、通常の変更申請として受け付けられることはありません。
残る道は次の2つです。
| 道 | 手続の流れ | 日本を離れるか | 主なリスク |
|---|---|---|---|
| 在留特別許可 | 入管に出頭 → 退去強制手続の中で在留特別許可を申請 → 法務大臣が許否を判断 | 離れない | 不許可なら退去強制となり、上陸拒否期間は原則5年 |
| 出国命令で帰国し、再入国 | 入管に出頭 → 出国命令を受けて帰国 → 在留資格認定証明書を申請 → 配偶者ビザで入国 | 一度離れる | 上陸拒否期間は1年。認定証明書が交付されるとは限らない |
どちらの道も、入り口は入管への出頭です。オーバーステイを隠したまま結婚生活を続け、警察の職務質問や勤務先の摘発で発覚すると、2つの道の条件はどちらも悪くなります。出国命令の対象は、自ら出頭した人か、違反調査が始まった後、違反審査の通知を受ける前に出国の意思を表明した人に限られます(入管法24条の3第1号)。摘発されて手続が進めば、この道は閉じます。
在留特別許可の判断基準|ガイドラインが見る「安定かつ成熟」した婚姻
在留特別許可は、退去強制事由に当たる外国人に、法務大臣が特別に在留を認める入管法50条の制度です。2024年6月10日施行の改正入管法で本人が申請する手続が設けられ、判断で考慮する事情が50条5項に書き込まれました。制度の全体像は在留特別許可とは?2024年改正後の申請制度とガイドラインの考慮事項で解説しています。
判断の物差しになる「在留特別許可に係るガイドライン」(2024年3月改定)は、日本人や特別永住者との婚姻を「特に考慮する積極要素」の一つとしています。ただし、その書き方には条件が付いています。
当該外国人が、日本人又は特別永住者と法的に婚姻している場合(退去強制を免れるために、婚姻を偽装し、又は形式的な婚姻届を提出した場合を除く。)であって、夫婦として相当期間共同生活をし、相互に協力して扶助しており、かつ、夫婦の間に子がいるなど婚姻が安定かつ成熟していること
この一文を分解すると、積極要素として大きく評価されるための条件は4つあります。
- 法的に婚姻していること(婚約や内縁の段階では、この項目には当たらない)
- 退去強制を免れるための偽装・形式的な婚姻でないこと
- 夫婦として相当期間共同生活をし、互いに協力・扶助していること
- 子がいるなど、婚姻が安定かつ成熟していること
ここで重要なのは、婚姻届の日付よりも共同生活の実体が問われているという論点です。「相当期間」が何年かはガイドラインに書かれていません。永住者・定住者・日本人の配偶者等などで在留する外国人(入管法別表第二の在留資格)と結婚している場合も、同じ文言で積極要素とされています。
婚姻以外の事情も、同じ天秤に載ります。ガイドラインは、自ら出頭したことを積極要素、不法滞在の期間が長いことを消極要素としています。不法滞在期間の終期は入管が不法滞在の事実を認知した時点とされているため、出頭が早いほど消極要素の伸びは止まります。そのうえで、個々の事案ごとに、積極要素が消極要素を明らかに上回る場合に許可の方向で検討する、という枠組みです。
公表事例で見る許可と不許可|2025年の配偶者が日本人の事例
出入国在留管理庁は毎年「在留特別許可された事例及び在留特別許可されなかった事例について」を公表しています。2026年7月公表の令和7年版から、配偶者が日本人の事例を抜き出します(在日期間・不法滞在期間・婚姻期間は在留特別許可申請までの期間)。
| 結果 | 発覚理由 | 退去強制事由 | 不法滞在期間 | 婚姻期間 | 夫婦間の子 | 刑事処分等 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 許可 | 出頭申告 | 不法残留 | 約6年 | 約1年4月 | 無 | 無 |
| 許可 | 出頭申告 | 不法残留 | 約5年8月 | 約1年1月 | 1人(未成年) | 無 |
| 許可 | 出頭申告 | 不法残留 | 約6年4月 | 約8年4月 | 1人(未成年) | 無(在留特別許可歴あり) |
| 不許可 | 警察逮捕 | 薬物法令違反 | ― | 約25年9月 | 2人(成年) | 覚醒剤取締法違反で懲役1年6月・執行猶予3年(退去強制歴・在留特別許可歴あり) |
| 不許可 | 警察逮捕 | 不法就労助長 | ― | 約4年6月 | 無 | 入管法違反(不法就労助長)で懲役1年・執行猶予4年 |
| 不許可 | 警察逮捕 | その他の刑罰法令違反 | ― | 約10月 | 1人(未成年) | 傷害で懲役5年の実刑(配偶者に婚姻継続の意思なし) |
許可された3件は、いずれも出頭申告で、違反はオーバーステイだけ、刑事処分はありません。婚姻期間は約1年1月から約8年4月で、子のいない夫婦も許可されています。不許可の3件は、いずれも警察に逮捕されて発覚し、薬物・不法就労助長・傷害という別の違反を伴っています。婚姻期間が25年を超えていても、薬物事犯と過去の退去強制歴が重なれば許可されていません。
配偶者が正規に在留する外国人の事例では、定住者と結婚していた人が、出頭申告・不法残留のみ・刑事処分なしでも許可されなかった例があります。特記事項は「出国命令歴あり」で、婚姻期間は約1年4月でした。過去に出国命令で帰国した人が再びオーバーステイになった場合、同じ条件でも評価が大きく変わることがわかります。
注意したいのは、これらが公表のために選ばれた事例であって、統計ではないことです。全体の数字では、2025年の在留特別許可の申請は2,424件、許可1,026件、不許可1,233件でした(出入国在留管理庁「令和7年における入管法違反事件について」)。許可・不許可の事例の傾向は公式案内をご確認くださいで、年ごとの事例を並べて扱います。
駆け込み婚はなぜ厳しく見られるか
摘発された後や、退去強制の手続が進んでから急いで婚姻届を出す、いわゆる駆け込み婚は、ガイドラインの文言に照らすと2つの点で不利になります。
1つは、共同生活の「相当期間」を満たしにくいことです。婚姻届を出したばかりでは、夫婦として協力・扶助してきた実績を示す材料がありません。もう1つは、婚姻の時期そのものが、退去強制を免れるための形式的な婚姻ではないかという疑いを招くことです。入管は、交際の経緯、同居の開始時期、双方の親族との関係、生活費の分担などを聴き取り、婚姻の実体を確かめます。
ただ、婚姻期間が短いことだけで一律に不許可になるわけでもありません。令和6年6月10日から12月末までの公表事例には、警察に逮捕されて発覚し、不法残留で懲役2年6月・執行猶予4年の判決を受けた人が、婚姻期間約2月で日本人の配偶者等(在留期間1年)を許可された例があります。在日期間は約20年10月でした。筆者は、婚姻期間の短さは交際と同居の実績で補える余地がある一方、その実績を客観的な資料で示せなければ、短い婚姻期間がそのまま消極的に読まれると考えています。
偽装結婚は、在留特別許可の問題にとどまりません。虚偽の婚姻届を出せば、刑法157条の公正証書原本不実記載罪に問われます。偽装結婚の罰則は偽装結婚の刑罰と罰則|公正証書原本不実記載罪・在留資格取消し・退去強制で扱います。
出頭から許可までの流れ
在留特別許可を求める場合の手続は、退去強制手続と一体で進みます。
- 入管への出頭:夫婦で、住所地を管轄する地方出入国在留管理官署に出頭します。九州では福岡出入国在留管理局(福岡市中央区舞鶴3-5-25 福岡第1法務総合庁舎)と各出張所です
- 違反調査:入国警備官が違反の事実を調べます。オーバーステイの期間、就労の有無、婚姻の経緯などを聴かれます
- 収容令書の発付と監理措置・仮放免:収容令書が発付されると原則は収容ですが、監理人の監督の下で生活する監理措置に付されるか、健康上・人道上の理由で仮放免されることもあります。監理措置では300万円以下の保証金の納付を求められることがあります
- 在留特別許可の申請:収容令書による収容(仮放免中を含む)または監理措置に付された時点から、退去強制令書が発付されるときまでに申請します。申請書と、婚姻の実体を示す資料を提出します
- 違反審査・口頭審理と判断:法務大臣が許否を判断します。許可されれば在留資格と在留期間が決まり、在留カードが交付されます。不許可なら理由を付した書面で通知されます
公表事例で許可された人の在留資格は日本人の配偶者等、在留期間は1年がほとんどです。許可後の更新や永住までの道のりは公式案内をご確認ください。申請書の書き方と必要書類は在留特別許可申請の方法|申請書・必要書類・流れと「3日以内」の期限にまとめています。
婚姻の実体を示す資料として、筆者が準備を勧めるのは次のようなものです。
- 戸籍謄本(婚姻の記載があるもの)と住民票(同一世帯であることがわかるもの)
- 交際の開始から現在までの経緯を時系列で書いた書面
- 夫婦で写った写真(時期と場所がわかるもの)、メッセージのやり取り
- 家賃・公共料金・生活費の支払状況がわかる資料
- 日本人配偶者の在職証明書・課税証明書など、生活の基盤を示す資料
- 親族や知人の陳述書
出国命令で帰国して配偶者ビザで戻る道
在留特別許可が見込みにくい場合や、日本で違反の状態を続けたくない場合は、出国命令で一度帰国する道があります。出国命令は、オーバーステイ以外に退去強制事由がなく、一定の罪で拘禁刑に処せられておらず、過去に退去強制や出国命令の歴がない人が、自ら出頭するなどした場合に、収容されずに出国できる制度です(入管法24条の3)。この場合の上陸拒否期間は、出国した日から1年です(5条1項9号ホ)。要件と当日の流れは出国命令制度とは?オーバーステイで自ら出頭した場合の5要件と出国までの流れで解説しています。
帰国後は、日本人配偶者が代理人となって在留資格認定証明書の交付を申請し、交付されれば本国で査証を受けて入国します。上陸拒否期間の1年が過ぎる前でも、認定証明書の交付を受けて査証を得た場合は、入管法5条の2の特例で上陸を認められることがあります。ただし、オーバーステイの経歴は認定証明書の審査で必ず考慮されるため、交付が保証されるわけではありません。
2つの道を比べると、在留特別許可は日本を離れずに済む代わりに、不許可なら退去強制となり、上陸拒否期間は原則5年になります。出国命令は夫婦が一定期間離れて暮らすことになりますが、上陸拒否は1年で、再入国の手続を日本側から準備できます。出国命令の要件に当たるかどうかは、この比較の出発点になります。
オーバーステイ中の結婚にかかる費用
在留特別許可の申請そのものに手数料はかかりません。費用として意識しておくべきなのは次のものです。
- 婚姻手続の費用:本国の婚姻要件具備証明書、パスポートの再発行、翻訳などの実費
- 監理措置の保証金:監理措置に付される場合、300万円以下で定められる額の納付を求められることがある(条件違反がなければ返還される)
- 出国命令の道を選ぶ場合:帰国の航空券は本人の負担。再入国の際は、在留資格認定証明書(手数料なし)の後に本国で査証の手数料がかかる
- 許可後の在留期間の更新:通常の在留手続と同じ手数料
専門家に依頼する場合の報酬は事務所ごとに異なります。報酬の考え方は在留資格申請を行政書士に依頼する費用の相場は?で整理しています。
配偶者が会社を経営している・雇っている場合の注意
日本人配偶者やその家族が事業をしていて、オーバーステイの外国人がそこで働いている場合は、別の問題が生じます。在留資格のない人を働かせることは不法就労助長罪(入管法73条の2)に当たり、現行法では3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金です(2027年4月1日からは5年以下・500万円以下)。公表事例でも、不法就労助長で有罪判決を受けた人は、婚姻期間が4年を超えていても許可されていません。
在留特別許可を申請している間も、監理措置に付された人は主任審査官の許可を受けた範囲でしか報酬を受ける活動ができず(44条の5)、仮放免中の人は原則として働けません。生活の苦しさから家業を手伝わせることが、夫婦双方に不利に働くことがあります。不法就労助長罪の仕組みは不法就労助長罪とは?企業が問われる責任・罰則と防ぐための確認方法を解説で解説しています。
よくある質問
オーバーステイ状態で結婚手続きはできますか?
できます。婚姻の成立は各当事者の本国法の要件で判断され、在留資格の有無は要件ではありません。日本の市区町村役場に婚姻届を出す場合は、パスポートと本国の婚姻要件具備証明書が一般に必要です。書類の取得が難しい場合があるため、戸籍窓口と大使館に事前に確認してください。
オーバーステイで結婚した後、再入国は可能か?
可能性はあります。出国命令で帰国した場合の上陸拒否期間は1年で、日本人配偶者が在留資格認定証明書を申請し、交付されれば配偶者ビザで入国できます。1年以内でも、認定証明書と査証を得た場合は入管法5条の2の特例で上陸できることがあります。退去強制された場合は上陸拒否期間が原則5年で、期間内の入国は上陸特別許可によることになります。再入国の仕組みは強制送還された外国人は再入国できる?上陸拒否期間と上陸特別許可の実例で扱います。
婚姻期間がどのくらいあれば在留特別許可されますか?
ガイドラインは「相当期間」の共同生活を求めていますが、年数は示していません。2025年の公表事例では婚姻期間約1年1月の許可例があり、2024年後半の事例には約2月での許可例もあります。一方で婚姻期間が長くても、薬物事犯や不法就労助長などを伴う事例は不許可になっています。年数だけでなく、共同生活の実体と違反の中身をあわせて見られます。
恋人や婚約者の段階でも在留特別許可の理由になりますか?
ガイドラインが特に考慮する積極要素として挙げるのは、法的に婚姻している場合です。交際や婚約の段階では、この要素には当たりません。ただし、交際の経緯や同居の実態は、婚姻後に共同生活の実体を示す材料になります。2025年の公表事例には、薬物事犯で実刑判決を受けた人が「日本人恋人と婚姻予定」を理由に挙げ、不許可になった例があります。
「結婚すれば何とかなる」ではなく、出頭の時期で結果が分かれる
オーバーステイの人との結婚で最初に考えるべきことは、結婚の手続より、入管にいつ、どのように出頭するかです。公表事例を見ると、許可された人はいずれも自ら出頭し、違反はオーバーステイだけでした。不許可になった人は、逮捕で発覚し、別の違反を伴っていました。婚姻の長さや子どもの有無は大事な要素ですが、それを評価してもらえるのは、発覚の経緯と違反の中身が一定の範囲に収まっている場合です。
夫婦として日本で暮らすことを決めたら、交際と同居の記録を整理し、出国命令の要件に当たるかを確かめたうえで、在留特別許可と帰国後の再入国のどちらを選ぶかを決めてください。在留特別許可は法務大臣の広い裁量による判断で、個別の事情で判断が変わります。出頭の前に、事実関係と資料を持って専門家に相談することを勧めます。
根拠資料
- 出入国管理及び難民認定法 第5条・第5条の2・第24条の3・第44条の5・第50条・第73条の2(e-Gov法令検索)
- 法の適用に関する通則法 第24条(e-Gov法令検索)
- 在留特別許可に係るガイドライン(出入国在留管理庁・2024年3月改定)
- 在留特別許可された事例及び在留特別許可されなかった事例について(令和7年)(出入国在留管理庁・2026年7月公表・PDF)
- 在留特別許可された事例及び在留特別許可されなかった事例について(令和6年6月10日から同年12月31日まで)(出入国在留管理庁・2025年7月公表・PDF)
- 在留特別許可申請(出入国在留管理庁)
- 令和7年における入管法違反事件について(出入国在留管理庁)
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