個人事業主でも外国人を雇用することはできます。就労系の在留資格の多くは「本邦の公私の機関との契約」を前提にしていますが、ここでいう機関は会社に限られず、日本に事業所を持つ個人事業主も含まれるからです。ただし、会社であれば登記事項証明書と決算書で済む「事業の実在と継続性」の立証を、個人事業主は確定申告書や開業届などで組み立て直す必要があります。この記事では、就労ビザ(技術・人文知識・国際業務)を中心に、カテゴリーの判定、提出書類、審査で見られる点を順に整理し、特定技能・育成就労の場合の違いにも触れます。
個人事業主は就労ビザの「受入れ機関」になれる
在留資格「技術・人文知識・国際業務」(以下、技人国)は、入管法別表第一の二で「本邦の公私の機関との契約に基づいて行う」活動と定義されています。出入国在留管理庁の「入国・在留審査要領」は、この「公私の機関」について、法人のほか、個人であっても日本に事務所・事業所等を有する場合は含まれると説明しています。個人経営の設計事務所が外国人の設計者を雇う、個人経営の貿易業者が通訳・翻訳担当を雇う、といった形は制度上想定されている受入れです。
ここで重要なのは、雇用主が個人であること自体は不利に扱われない一方で、審査の材料が法人より少ないという論点です。法人であれば、登記事項証明書で事業目的と所在地が、決算書で売上と利益が、法定調書合計表で給与の支払規模が一度に示せます。個人事業主の場合、これらを別々の書類でつなぎ合わせることになり、どれか一つが欠けると「この事業主は本当に外国人を雇って給与を払い続けられるのか」という疑問が残ります。書類の数そのものより、この疑問に一つずつ答えられるかどうかが結果を分けます。
入管庁が技人国のページで各カテゴリーの対象を「団体・個人」と書いているのも、個人事業主を前提にした表現です。所属機関に関する届出のQ&A(Q27)でも、契約の相手方が個人事業主の場合は、機関の名称欄に事業主の氏名を書くよう案内しています。
カテゴリーは「個人だから4」ではなく、法定調書合計表で決まる
就労ビザの申請書類は、受入れ機関の規模や信用度に応じたカテゴリー1〜4で変わります。個人事業主はカテゴリー4になると説明されることがありますが、入管庁の区分を読むと、正確には前年の法定調書合計表の提出の有無で決まります。
| カテゴリー | 入管庁の区分(技人国) | 個人事業主が当てはまる場面 |
|---|---|---|
| 1 | 上場企業、国・地方公共団体、独立行政法人など | 当てはまらない |
| 2 | 前年分の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表で、源泉徴収税額が1,000万円以上の団体・個人、または在留申請オンラインシステムの利用申出が承認された機関 | 規模の大きい個人事業主、オンライン申請の承認を受けた事業主 |
| 3 | 前年分の法定調書合計表を提出した団体・個人(カテゴリー2を除く) | 前年に従業員へ給与を払い、合計表を税務署に出している事業主 |
| 4 | 1〜3のいずれにも該当しない団体・個人 | 開業したばかり、または前年に給与を払っておらず合計表を出していない事業主 |
日本人の従業員を雇って給与を払い、毎年1月に法定調書合計表を出している個人事業主は、カテゴリー3で申請します。家族だけで営んできた事業主や、開業して最初の年に外国人を雇う事業主が、カテゴリー4に入ります。
カテゴリー2の欄にある「在留申請オンラインシステムの利用申出が承認された機関」も見落とせません。オンライン申請の利用申出は個人事業主でも可能で、承認を受ければ書類の区分がカテゴリー2になり、提出書類が大きく減ります。手続きの流れは在留申請オンラインシステムとは?企業の利用申出から申請までの流れで扱う予定です。
カテゴリー3・4で出す書類と、2026年4月15日からの追加書類
入管庁の技人国ページ(2026年7月13日更新)によると、在留資格認定証明書交付申請のカテゴリー3では、前年分の法定調書合計表の写しに加えて、雇用契約書や労働条件通知書など活動内容を明らかにする資料、本人の履歴書と学歴・職歴の証明書、登記事項証明書、事業内容を明らかにする資料、直近の年度の決算文書の写しなどを出します。新規事業で決算がまだない場合は、決算文書の代わりに事業計画書を出します。
カテゴリー4では、法定調書合計表の代わりに、合計表を提出できない理由を明らかにする資料を出します。源泉徴収の免除を受ける機関でなければ、次の2点を組み合わせます。
- 給与支払事務所等の開設届出書の写し
- 直近3か月分の給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書(領収日付印のあるものの写し)、または納期の特例を受けている場合はその承認を受けていることを明らかにする資料
開業したばかりで給与支払事務所の開設届を出していない事業主は、外国人を雇うより前に税務署へ届け出ておく必要があります。常時10人未満の事業主は源泉所得税の納期の特例(半年ごとの納付)を使っていることが多く、その場合は徴収高計算書の代わりに承認通知書の写しを出します。
さらに、2026年4月15日以降の申請からは、カテゴリー3または4の機関は「所属機関の代表者に関する申告書」を追加で出すことになりました。個人事業主の場合、代表者は事業主本人です。事業主の経歴や、過去の入管法令違反・労働関係法令違反の有無などを申告する書類で、個人事業主はカテゴリー3・4に入ることが多いため、ほぼ必ず関係します。
登記事項証明書と決算書がない部分をどう埋めるか
入管庁の一覧は登記事項証明書と決算文書を挙げていますが、個人事業主には商業登記がなく、法人の決算書もありません。入管庁のページは個人事業主向けの代替書類を個別には示していないため、実務では同じ役割を果たす書類を選んで出すことになります(公式資料では未確認)(入管庁の公表資料に個人事業主向けの代替書類の明記なし)。筆者は、次の3つの問いに答える形で書類を組み立てるのが確実だと考えています。
一つ目は、事業が実在し、どこで営まれているかです。税務署の受付印がある個人事業の開業届出書の控え、業種に許認可がある場合は営業許可証や登録証の写し、事務所の賃貸借契約書、事業所の写真や案内図が材料になります。自宅兼事務所の場合は、住居部分と事業部分が区別できる資料を添えると、事業所の実態が伝わりやすくなります。
二つ目は、事業の規模と収益が外国人の給与を支えられるかです。直近の確定申告書(第一表)の控えと、青色申告決算書または収支内訳書が、法人でいう決算書の役割を果たします。売上に対して所得が小さい、赤字が続いている、といった場合は、受注見込みや取引先との契約書、今後の売上計画を事業計画書にまとめて補います。特定技能の「特定技能所属機関概要書」の記載例は、個人事業主は純資産欄に青色申告決算書の元入金を書くと注記しており、入管が個人事業主の財務を青色申告決算書で見ていることがうかがえます。
三つ目は、その事業に専門的な業務がどれだけあるかです。技人国は大学等で学んだ知識や実務経験を使う業務が対象で、単純作業は認められません。個人事業は規模が小さい分、「翻訳・通訳の業務が週に何時間あるのか」「設計業務の受注は年に何件あるのか」が問われやすくなります。業務の内容と量を具体的に書いた雇用理由書と、取引実績の資料をセットで出すと、疑問を先回りして解消できます。業務内容の線引きは技術・人文知識・国際業務ビザでできる仕事とは?を参照してください。
審査で見られる点は「給与を払い続けられるか」に集約される
個人事業主の申請で追加資料を求められやすいのは、報酬の支払能力と契約の継続性です。技人国の上陸基準は、日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を求めています。事業主本人の所得が年300万円の事業で、外国人に年300万円の給与を払う計画を出せば、その原資がどこにあるのかを説明しなければなりません。外国人を雇うことで増える売上の見込み、取引先からの発注書、事業用口座の残高などが説明材料になります。報酬の比べ方は就労ビザの「日本人と同等額以上の報酬」とはで扱っています。
もう一つは、事業主の公的義務の履行です。所得税・住民税・国民健康保険料・国民年金保険料に未納がある事業主は、外国人に対して日本の法令を守る雇用ができるのかという点で不利に見られます。個人事業主の場合、事業主自身の納付状況がそのまま受入れ機関の納付状況になるため、申請前に納税証明書を取り、未納がないかを確かめておくべきです。許否は事業の内容や書類の組み立てで変わり、同じ業種・同じ規模でも結論が分かれることがあります。
特定技能・育成就労で個人事業主が雇う場合
特定技能でも、個人事業主は特定技能所属機関になれます。入管庁は所属機関に関する書類を、一定の実績がある機関(第2表の1)、法人(第2表の2)、個人事業主(第2表の3)の3種類に分けて公表しており、個人事業主には専用の一覧があります。法人の登記事項証明書や法人税の納税証明書の代わりに、事業主本人の住民票や、申告所得税などの納税証明書を出す構成です(公式資料では未確認)(第2表の3の最新版の個別項目は原本で確認)。農業や外食業、建設業では個人事業主の受入れも珍しくなく、協議会への加入、1号特定技能外国人への支援体制(登録支援機関への全部委託を含む)など、法人と同じ基準を満たす必要があります。
2027年4月1日に始まる育成就労でも、個人事業主は育成就労実施者になれます。外国人技能実習機構が公表している育成就労制度運用要領は、計画認定申請の添付書類として、法人には登記事項証明書を、個人事業主には住民票の写しを求めています。国税の納税証明書(その3)は、個人事業主の場合、源泉所得税及び復興特別所得税、申告所得税及び復興特別所得税、消費税及び地方消費税、相続税、贈与税を税目とし、地方税は個人住民税の納税証明書(直近1年分)です。
運用要領は、個人事業主ならではの事態にも手続きを定めています。認定を受けた個人事業主が法人化する場合は、実施者に実質的な変更はないとして軽微変更届出書で足ります。ただし、実施場所や期間が大きく変わるなど計画の実施に実質的な影響がある場合は、計画の変更認定申請が必要です。個人事業主が死亡した場合は、認定計画の効果が当然に終了し、死亡の日から10日以内に育成就労実施困難時届出書が出されれば、1か月間は監理支援機関の指導のもとで育成就労を続けられます。
雇った後の労務手続きは法人と同じで、社会保険だけ扱いが違う
外国人を雇った個人事業主は、法人と同じ届出義務を負います。雇用保険の被保険者となる外国人を雇えば、ハローワークへの資格取得届に国籍・在留資格などを書いて外国人雇用状況の届出を兼ねます。被保険者にならない場合も、翌月末日までに外国人雇用状況届出書を出します。届出の中身は外国人雇用状況の届出とは?で解説しています。
扱いが法人と違うのは健康保険・厚生年金保険です。法人は従業員が1人でも強制適用事業所ですが、個人事業所は、法定の業種で常時5人以上の従業員を使用している場合に強制適用になります。これに当たらない個人事業所で働く外国人は、原則として本人が国民健康保険と国民年金に加入します。将来の在留期間更新や永住申請では本人の保険料の納付状況が見られるため、雇い入れの際に加入手続きと納付方法を本人に説明しておくと、後の審査でつまずきにくくなります。2029年10月からは個人事業所の適用業種が広がりますが、その時点で既にある事業所は当分の間対象外とされています。
事業を法人化した場合、外国人の雇用主は事業主個人から新しい会社に変わります。技人国などの就労資格で働く外国人は、契約機関が変わったことを14日以内に入管へ届け出る必要があり、会社側も受入れ機関としての届出を確認しておきます。特定技能では、所属機関が別の法人になるため、在留資格変更許可申請が必要になる点に注意してください。
よくある質問
個人事業主でも特定技能外国人を雇用できますか?
雇用できます。入管庁は個人事業主向けの所属機関書類(第2表の3)を別に用意しています。支援計画の実施、協議会への加入、報酬が日本人と同等以上であることなど、法人と同じ基準を満たす必要があります。支援を自社で行う体制がなければ、登録支援機関に全部を委託します。
個人事業主が外国人を雇用する場合、必要な書類は何ですか?
技人国の場合、前年分の法定調書合計表を出していればカテゴリー3の書類、出していなければカテゴリー4の書類を出します。カテゴリー4では、給与支払事務所等の開設届出書の写しと、直近3か月分の所得税徴収高計算書(または納期の特例の承認を示す資料)が必要です。2026年4月15日以降は、所属機関の代表者に関する申告書も加わります。登記事項証明書と決算書の役割は、開業届の控えや確定申告書・青色申告決算書で補います。
個人事業主でも外国人雇用の助成金は申請できますか?
人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)は、法人・個人の別を問わず、雇用保険の適用事業の事業主であることなどが要件です。金額と要件の最新の変更点は外国人雇用の助成金はいくら?72万円は旧制度、10月から最大25万円にで整理しています。
外国人が個人事業主になるには、どの在留資格が必要ですか?
就労系の在留資格は活動内容が限られているため、自分で事業を営むには原則として「経営・管理」が必要です。永住者、日本人の配偶者等、定住者などの身分・地位に基づく在留資格であれば、活動の制限がないため個人事業主として開業できます。「経営・管理」は2025年10月16日の基準改正で要件が大きく変わっており、個人事業の形での取得については個人事業主で経営管理ビザは取れる?で扱っています。
申請前に確かめておく3つの書類
個人事業主が外国人の雇用に踏み切るとき、最初に手元で確かめるべきなのは、前年分の法定調書合計表を出したかどうか、給与支払事務所等の開設届を出しているかどうか、そして直近の確定申告書と納税証明書に問題がないかどうかです。この3点でカテゴリーが決まり、審査で見られる支払能力と公的義務の履行の大半が説明できます。
そのうえで、会社であれば登記と決算書が黙って示してくれる「事業の実在」「収益」「専門業務の量」を、自分の言葉と資料で説明する準備をします。個人事業主の申請が法人より手間がかかるのは事実ですが、それは不利というより、説明の責任が事業主本人に寄っているということです。雇用理由書と事業計画書を丁寧に作れる事業主ほど、規模の小ささは問題になりにくいと筆者は考えています。
関連するコラム
- 外国人の社会保険資格取得届の記入例|ローマ字氏名届とマイナンバーがない場合
- 帰国する外国人社員の年末調整|出国時に行う年調と源泉徴収票の交付【計算例】
- 外国人労働者の日本語教育|社内研修の方法・費用と補助金、在留資格別の目標
根拠資料
- 在留資格「技術・人文知識・国際業務」(出入国在留管理庁・2026年7月13日更新)
- 在留資格「特定技能」(出入国在留管理庁)
- 所属機関に関する必要書類(個人事業主)第2表の3(出入国在留管理庁)
- 所属機関等に関する届出・所属機関による届出Q&A(出入国在留管理庁)
- 出入国管理及び難民認定法(e-Gov法令検索)
在留資格の申請・採用のご相談は、保利国際法務事務所の無料相談へ。福岡出入国在留管理局への申請取次に対応しています。