強制送還とは、入管法24条が定める退去強制事由に当たる外国人を、国の手続によって日本から退去させることを指す通称です。法律上の正式な言葉は「退去強制」で、オーバーステイ(不法残留)、不法入国、不法就労、一定の刑罰法令違反などが対象になります。2024年6月10日に施行された令和5年改正入管法により、送還を拒む人に退去を命じる「退去等命令」や、難民認定申請中でも送還できる例外が新しく設けられ、送還の仕組みは改正前と大きく変わっています。
強制送還とは|法律上は「退去強制」と呼ぶ
入管法には「強制送還」という言葉は出てきません。報道や日常会話で強制送還と呼ばれているものは、法律上は次の2つを含んでいることが多いです。
- 退去強制:入管法24条の事由に当たる外国人について、違反調査から退去強制令書の発付までの手続を経て、国外に送還するもの
- 出国命令:オーバーステイの人が自ら入管に出頭するなど一定の要件を満たした場合に、収容せずに出国を命じるもの(入管法24条の3、55条の85)
厳密に「強制送還」と呼べるのは1の退去強制です。出国命令は本人が自分で出国する制度で、日本への上陸拒否期間も退去強制より短い1年になります。本記事は退去強制を中心に扱い、出国命令は比較のために触れます。
出入国在留管理庁の公表によると、2025年(令和7年)に退去強制手続等を執った外国人は1万8,442人で、そのうち出国命令の手続によったのが9,483人でした。退去強制令書により送還された人は7,563人、出国命令により出国した人は9,789人です。手続の対象になった人の92.3%に当たる1万7,031人が不法残留、つまりオーバーステイでした。
強制送還の対象になる外国人|入管法24条の退去強制事由
退去強制の対象は、入管法24条に列挙された事由に当たる外国人です。条文は細かく分かれていますが、実際に多いものを整理すると次のとおりです。
| 区分 | 主な内容 | 条文 |
|---|---|---|
| 不法入国・不法上陸 | 有効な旅券を持たずに入国した、上陸許可を受けずに上陸した | 24条1号・2号 |
| 不法残留 | 在留期間を過ぎて日本に残っている(オーバーステイ) | 24条4号ロ |
| 在留資格の取消し後の残留 | 在留資格を取り消され、指定された出国期間を過ぎても残っている | 24条2号の2〜2号の4 |
| 資格外活動 | 許可を受けずに、在留資格外の収入を伴う活動を専ら行っている | 24条4号イ |
| 刑罰法令違反 | 薬物犯罪で有罪、1年を超える実刑、売春関係業務など | 24条4号チ・リ・ヌ、4号の2など |
| 不法就労助長 | 他の外国人に不法就労をさせたり、あっせんしたりした | 24条3号の4 |
| 在留カードの偽造等 | 在留カードの偽造・変造、偽造カードの提供・所持など | 24条3号の5 |
刑罰法令違反について補足します。24条4号リは、無期または1年を超える拘禁刑に処せられた者を対象にしていますが、刑の全部の執行猶予を受けた場合は除かれます。一方、留学・技能実習などの別表第一の在留資格で在留する人は、24条4号の2により、刑法の一定の罪で拘禁刑に処せられれば執行猶予付きでも退去強制事由に当たります。就労ビザで働く社員が執行猶予付きの判決を受けた場合も、この条文の対象になりうるということです。個々の事由の読み方は退去強制事由とは?入管法24条の一覧と会社員が該当しやすいケースで詳しく扱います。
企業の人事担当者が押さえておくべきなのは、不法就労をさせた側も退去強制の対象になるという点です。外国人の経営者や管理職が、在留資格のない人を雇ったりあっせんしたりすると、24条3号の4によりその人自身が退去強制事由に当たります。日本人の雇用主であれば退去強制はありませんが、不法就労助長罪(入管法73条の2)の刑事責任を問われます。詳細は不法就労助長罪とは?企業が問われる責任・罰則と防ぐための確認方法で解説しています。
退去強制手続の流れ|違反調査から送還まで
退去強制は、入管の職員が一方的に国外へ連れ出す処分ではありません。入管法第5章が、段階ごとに担当官と不服を述べる機会を定めています。
- 違反調査(入国警備官・27条):退去強制事由に当たる疑いがある外国人について事実を調べます
- 収容または監理措置(39条・44条の2):原則として収容令書で収容しますが、2024年改正で、逃亡のおそれなどを考慮して、監理人の監督の下で社会生活を続けながら手続を進める「監理措置」が選べるようになりました
- 違反審査(入国審査官・45条):退去強制事由に当たるかどうかを審査します
- 口頭審理(特別審理官・48条):違反審査の認定に不服がある場合、通知を受けた日から3日以内に請求できます
- 異議の申出(法務大臣・49条):口頭審理の判定に不服がある場合、通知を受けた日から3日以内に申し出ることができます
- 退去強制令書の発付(主任審査官):退去強制が確定すると令書が発付されます
- 送還(入国警備官・52条):令書に基づき送還先の国へ送還します
3日以内という期限は、一般の行政手続と比べて極端に短いものです。本人が制度を知らないまま期限を過ぎてしまう例を防ぐには、早い段階で弁護士や申請取次行政書士に相談することが現実的な対策になります。
退去強制令書の発付後も、処分の取消しを求める訴訟を起こすことはできます。行政事件訴訟法14条により、処分を知った日から6か月以内が出訴期間です。在留の許否をめぐる不服申立ての仕組みは在留資格の不許可に不服申立てはできない?行政不服審査法の適用除外と取消訴訟でも触れています。
在留特別許可という例外
退去強制事由に当たっても、法務大臣が特別に在留を許可する制度が在留特別許可(50条)です。2024年改正前は、異議の申出の中で法務大臣が裁量で判断する仕組みでしたが、改正後は本人が在留特別許可を申請する制度に改められました。申請は退去強制令書が発付される前に行う必要があります。
2025年に在留特別許可の申請が許可されたのは1,026件です。判断にあたっては、日本人や永住者との婚姻関係、日本で教育を受けた子どもの有無、在留の期間、素行などが総合的に考慮されます。考慮事項は出入国在留管理庁の「在留特別許可に係るガイドライン」に示されています。
2024年改正で何が変わったか|退去等命令と送還停止効の例外
令和5年改正入管法(2024年6月10日施行)の目的の一つは、退去強制が確定しているのに送還に応じない「送還忌避者」の問題への対応でした。出入国在留管理庁によると、2024年末時点で退去強制が確定しながら日本にとどまっている人は3,122人いました。改正で導入された仕組みのうち、送還に直接関わるのは次の3つです。
難民認定申請中の送還停止効に例外
改正前は、難民認定の申請をしている間は、回数や理由にかかわらず送還が停止されていました(送還停止効)。この仕組みは、難民として保護されるべき人を誤って送還しないための安全装置ですが、申請を繰り返すことで送還を事実上止められる状態も生んでいました。
改正後の61条の2の9第4項は、次の人には送還停止効が働かないと定めています。
- 3回目以降の難民認定申請(補完的保護対象者の認定申請を含む)をしている人。ただし、難民等と認めるべき相当の理由がある資料を提出した場合は除かれます
- 無期または3年以上の拘禁刑の実刑に処せられた人
- テロリストや暴力主義的破壊活動者など、24条3号の2・3号の3・4号オ〜カに当たる人(その疑いに相当の理由がある人を含む)
退去等命令(55条の2)の新設
退去等命令とは、退去強制を受ける人のうち、送還が難しい一定の人に対して、主任審査官が期間を定めて日本からの退去を命じる制度です。対象は次のいずれかに当たる人です。
- 自ら退去する意思がないと表明していて、送還先の国が、退去強制令書の執行に協力する国として法務大臣が告示で定める国に含まれていない場合
- 偽計や威力を用いて送還を妨害したことがあり、再び同じ行為に及ぶおそれがある場合
これまでは、本人が送還を拒否し続けても、それ自体を罰する規定はありませんでした。退去等命令に違反して退去しなかった場合は、72条7号により1年以下の拘禁刑もしくは20万円以下の罰金、またはその両方が科されます。命令に従って退去した人は、法律上は退去強制令書により退去を強制された者とみなされます。
旅券の申請などを命じる規定と監理措置
52条12項により、主任審査官は、送還のために必要な場合、旅券の発給申請など送還に必要な行為をするよう本人に命じることができるようになりました。同時に、送還までの期間を施設で過ごさせるかどうかについても、収容か監理措置かを個別に審査する仕組みに変わっています(52条8項・52条の2)。2025年の監理措置決定は3,783件、仮放免許可は286件でした。
2025年5月23日、出入国在留管理庁は「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」を公表し、送還忌避者を2030年末までに半減させる方針を示しました。同庁の同年10月の資料では、2025年1月から8月の護送官付き国費送還は203人で、国籍別ではトルコ(41人)、フィリピン(32人)、スリランカ(27人)の順でした。
強制送還の費用は誰が払うか
送還の方法は、費用の負担者によって3つに分かれます。
- 自費出国:本人が航空券などを自分で用意して出国する方法です。2025年に退去強制令書で送還された7,563人のうち、6,677人(88.3%)が自費出国でした
- 運送業者の負担:入管法59条により、上陸を拒否された人などを乗せてきた航空会社などが送還費用を負担する場合があります
- 国費送還:本人に費用がなく、ほかに負担する人もいない場合に国の費用で送還するものです。2025年は823人(10.9%)で、うち護送官が付き添ったのは318人でした
雇用主が法律上当然に送還費用を負担する規定はありません。ただし特定技能では、受入れ機関は本人が帰国費用を負担できない場合にその費用を負担し、出国が円滑に行われるよう必要な措置を講じることが求められています。
強制送還された後、日本に再入国できるか
退去強制された人は、入管法5条1項9号により一定期間、日本への上陸を拒否されます。
- 初めて退去強制された人:退去した日から5年
- 過去にも退去強制や出国命令を受けたことがある人:退去した日から10年
- 出国命令で出国した人:出国した日から1年
このほか、1年以上の拘禁刑に処せられたことがある人や、薬物事犯で刑に処せられたことがある人は、5条1項4号・5号により期間の定めなく上陸を拒否されます。上陸拒否期間が過ぎても自動的に入国できるわけではなく、改めて査証や在留資格認定証明書の審査を受けることになります。一方、上陸拒否期間内でも、日本人配偶者がいるなどの事情があれば、法務大臣の裁量による上陸特別許可(12条)が認められる余地があります。
よくある質問
強制送還になる条件は?
入管法24条の退去強制事由に当たることが条件です。件数の上では、在留期間を過ぎて日本に残るオーバーステイが最も多く、2025年に退去強制手続等を執った外国人の92.3%を占めました。そのほか、不法入国、許可のない就労、1年を超える実刑などが対象になります。
不法滞在者は必ず強制送還されますか?
退去強制事由に当たっても、自ら出頭し一定の要件を満たせば、収容されずに出国できる出国命令制度の対象になります。この場合の上陸拒否期間は1年です。また、日本人との婚姻など在留を認めるべき事情があれば、在留特別許可を申請できます。どの手続になるかは個別の事情で判断が変わります。
入管法改正で強制送還はいつから変わった?
退去等命令、送還停止効の例外、監理措置、在留特別許可の申請制度は、2024年(令和6年)6月10日に施行されました。2027年4月1日には、永住者の在留資格の取消事由の追加など、令和6年改正の規定が施行されます。永住者への影響は永住権の取り消しはいつから?2027年4月施行の新取消事由と対象者で解説しています。
強制送還された外国人はその後どうなりますか?
送還先の国(原則として国籍国)に戻り、日本には5年または10年の上陸拒否期間が付きます。日本に残した財産や給与債権は、退去後も本人に権利があります。雇用していた会社は、未払い給与の支払いや、在留カードの返納などについて本人と連絡を取れる方法を確保しておく必要があります。
企業が強制送還に関わるのはどんな場面か
強制送還は、外国人本人だけの問題として語られがちです。しかし2025年の統計で退去強制手続の対象者の72.9%に当たる1万3,435人が不法就労者だったことを踏まえると、雇用の現場と切り離しては考えられません。オーバーステイの大半は、どこかで働きながら在留を続けていたということです。
企業が確認すべきことは、採用時と在籍中の2つの時点に分かれます。採用時には在留カードの表面で在留資格と在留期間、裏面で資格外活動許可の有無を確認し、在留カード等番号失効情報照会で有効性を確かめること。在籍中には、在留期間の満了日を人事システムで管理し、更新申請が間に合っているかを把握することです。在留期限を1日でも過ぎれば、本人は退去強制事由に当たり、雇い続けた会社は不法就労助長罪に問われる立場になります。
社員が逮捕された、在留期限を過ぎていたことが分かったなど、すでに問題が生じている場合は、出国命令や在留特別許可の要件に当たるかどうかで取るべき手続が変わります。口頭審理や異議の申出の期限は3日と短いため、事実が分かった時点で専門家に相談してください。
根拠資料
- 出入国管理及び難民認定法 第24条・第48条〜第55条の2・第61条の2の9・第72条(e-Gov法令検索)
- 令和7年における入管法違反事件について(出入国在留管理庁)
- 「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」実施状況(出入国在留管理庁・2025年10月10日)
- taikyoqa.html”>退去強制手続・出国命令制度・上陸拒否期間の短縮決定Q&A(出入国在留管理庁)
- 令和6年入管法等改正について(出入国在留管理庁)
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