永住者の在留資格に新しい取消事由が加わるのは、2027年(令和9年)4月1日です。令和6年の入管法改正(令和6年法律第60号)により、入管法22条の4第1項に8号と9号が追加され、故意に税金や社会保険料を納めない場合、入管法上の義務を守らない場合、一定の罪で拘禁刑に処せられた場合に、永住者の在留資格を取り消せるようになります。ただし、取り消すときも法務大臣は原則として「定住者」などへ職権で在留資格を変更する仕組みになっており、取消しがそのまま帰国を意味するわけではありません。
この記事では、改正後の条文、2026年8月に意見募集にかけられた「永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン(案)」、出入国在留管理庁の「永住許可制度の適正化Q&A」を突き合わせ、誰が、どんなときに、どうなるのかを整理します。
永住権の取り消しは2027年4月1日から|施行日と改正の経緯
根拠になる法律は、2024年(令和6年)6月21日に公布された「出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律」(令和6年法律第60号)です。育成就労制度を創設した法律と同じもので、出入国在留管理庁は施行日を2027年4月1日(一部規定を除く)と案内しています。永住許可制度の適正化も、この施行日から動き出します。
改正の中身は大きく3つに分かれます。
- 永住許可の要件の明確化(22条2項):国益要件の中に「この法律に規定する義務の遵守、公租公課の支払等」が書き込まれます
- 取消事由の追加(22条の4第1項8号・9号):永住者だけを対象にした取消事由です
- 職権による在留資格の変更(22条の6):8号・9号で取り消す場面で、永住者以外の在留資格に切り替える手続です
ここでいう公租公課とは、所得税・住民税などの税金に加え、国民年金・厚生年金の保険料、国民健康保険料(税)、介護保険料などの公的な負担金を指します。
改正前の制度では、永住者には在留期間の更新審査がないため、許可を受けた後に税や保険料を納めなくなっても、それを在留資格に反映させる手段がありませんでした。今回の改正は、許可後の公的義務の履行を在留資格と結びつけるための手当てと筆者は理解しています。
新たに加わる3つの取消事由(22条の4第1項8号・9号)
改正後の22条の4第1項は、永住者について次の事実が判明したときに在留資格を取り消すことができると定めています。
| 号 | 条文の要旨 | ガイドライン案の説明 |
|---|---|---|
| 8号前段 | この法律に規定する義務を遵守しないこと(住居地の届出違反など11号・12号に当たる場合を除く) | 入管法の罰則で遵守が担保され、退去強制事由にならない義務が対象。在留カードの携帯・提示義務、偽変造をしない義務など |
| 8号後段 | 故意に公租公課の支払をしないこと | 支払義務を認識しているのに、あえて支払わない場合 |
| 9号 | 刑法の一定の罪などにより拘禁刑に処せられたこと | 刑期の長短を問わず、執行猶予が付いた場合も含む |
故意に公租公課の支払をしない(8号後段)
制度の中心は8号後段です。条文は「故意に」と限定しており、払い忘れや、払いたくても払えない状態は対象になりません。
ガイドライン案は、故意の不払いを「支払義務があることを認識しているにもかかわらず、あえて支払をしない場合」と説明し、公租公課の支払意思がないことが明白と認められる場合が該当するとしています。該当する例として挙げられているのは、長期にわたって滞納したまま所在が分からなくなっている場合、繰り返し催告を受けても支払う意思を示さない場合、分納の約束を繰り返し破る場合、脱税で有罪になった場合、財産を隠して滞納処分を逃れようとした場合などです。
反対に、次のような場合は該当しないとされています。
- 病気、災害、失業などのやむを得ない事情で支払えない場合
- 催告に応じて支払う意思を示し、分納や猶予の措置を受けている場合
- 給与から控除されているのに、勤務先の企業が納付していない場合
3つ目は企業の人事担当者に関係する論点です。住民税の特別徴収や社会保険料を給与から天引きしながら会社が納めていなかったとしても、それは本人の故意の不払いにはなりません。とはいえ、本人が入管にその事情を説明する場面が生じうる以上、会社の滞納が社員の在留に波及する構図があることは押さえておくべきです。
入管法上の義務の不遵守(8号前段)
8号前段の「この法律に規定する義務」は、条文上は広く読めますが、ガイドライン案は範囲を絞っています。対象は、入管法第9章の罰則によって遵守が担保され、かつ退去強制事由に当たらない義務です。例として示されているのは在留カードの携帯・提示義務や、在留カードを偽造・変造しない義務です。
一方、出入国在留管理庁のQ&Aは、在留カードを携帯しなかった場合や、有効期間の更新申請を忘れた場合に、それだけで直ちに取り消すことはないと説明しています。義務違反の悪質性や回数が問われると読むのが自然です。在留カードの有効期間の更新は永住者にも必要で(2026年6月14日以降に交付されたカードは交付日後の10回目の誕生日まで、それより前の交付分は交付から7年)、手続の詳細は永住権の更新は必要?在留カードの有効期間更新の手続きと費用【2026年6月改正】で扱います。
なお、住居地の届出をしない場合や虚偽の住居地を届け出た場合は、改正前から22条の4第1項10号から12号(改正後の号番号)に独立の取消事由があり、8号からは除かれています。
一定の罪による拘禁刑(9号)
9号の対象は、刑法第2編のうち条文が列挙する章の罪(住居を侵す罪、通貨・文書・有価証券・印章などの偽造の罪、賭博、殺人、傷害、逮捕・監禁、略取・誘拐・人身売買、窃盗・強盗、詐欺・恐喝、盗品等に関する罪)、暴力行為等処罰法、盗犯等防止法、特殊開錠用具所持禁止法、自動車運転死傷処罰法の危険運転致死傷(2条)と無免許運転による加重(6条1項)、盗難特定金属製物品処分防止法の罪です。Q&Aは、いずれも故意犯であり、過失運転致死傷や道路交通法違反は含まれないと説明しています。
要件は「拘禁刑に処せられたこと」です。拘禁刑とは、2025年6月1日の改正刑法施行で懲役と禁錮を一本化した刑罰を指します。ガイドライン案は、刑期の長短を問わず、執行猶予が付いた場合も含むと明記しています。罰金刑だけで終わった場合は9号に当たりません。
退去強制との違いも整理しておきます。1年を超える実刑判決などは、改正前から入管法24条4号リの退去強制事由です。9号はそれより手前、執行猶予付きの判決であっても在留資格を見直す入口を設けたものと位置づけられます。
施行前の未納・違反はどう扱われるか
多くの人が気にするのは、2027年4月より前の滞納が対象になるかという点です。
ガイドライン案は、施行前の故意の不払いであっても、施行後に判明した場合は取消事由に該当しうるとしています。ただし同時に、施行前の一時点の事情だけで直ちに取り消すのではなく、その後の支払状況も含めて判断するとしています。過去に滞納があっても、施行までに納付や分納の手続を進めていれば、その事実が判断材料として考慮されるということです。
ガイドラインは2026年9月29日時点で「案」の段階で、策定日も「令和8年〇月〇日」と空欄のままです。確定版の文言と、施行前の不払いに関する記述が案のまま維持されるかは現時点で公式資料では確定していません。申請前に出入国在留管理庁または所轄官庁の公式案内をご確認ください。
取り消されたらどうなる?定住者への職権変更と手続
意見聴取を経て判断される
在留資格の取消しは、ある日突然に通知が届いて終わる手続ではありません。22条の4第2項から第4項により、法務大臣は入国審査官に本人の意見を聴取させなければならず、事前に期日・場所・取消しの原因となる事実を書いた意見聴取通知書を送ります。本人または代理人は期日に出頭し、意見を述べ、証拠を提出できます。
8号の適用については、改正法附則25条が、本人の従前の公租公課の支払状況、現在の生活状況その他の置かれている状況に十分配慮すると定めています。滞納がある人にとって実務上の意味が大きいのは、この配慮規定です。意見聴取の場で、納付の経緯、分納の実績、収入の状況、家族の状況を資料で示せるかどうかが結論を左右します。
原則は「定住者」などへの職権変更
22条の6第1項は、8号・9号の事実を理由に永住者の在留資格を取り消そうとする場合、法務大臣は、引き続き日本に在留することが適当でないと認める場合を除き、職権で永住者以外の在留資格への変更を許可するものとしています。「許可するものとする」という書き方で、変更が原則であることが条文上はっきりしています。
変更後の在留資格について、ガイドライン案とQ&Aは、ほとんどの場合に「定住者」を想定していると説明しています。その後は在留期間の更新手続の中で、納付状況などの在留状況を確認していく運用です。ここが永住者との決定的な違いで、定住者には在留期間があり、更新のたびに審査を受けることになり、就労の制限はないものの、在留カードの有効期間と在留期間が一致する点も永住者と異なります。
ガイドライン案は、家族関係や人道上の配慮の必要性がある場合には、取り消さずに職権変更にとどめることもあり得るとしています。
変更されない場合は出国期間の指定
引き続き在留することが適当でないと判断され、職権変更がされない場合は、在留資格そのものが取り消されます。この場合、22条の4第7項により30日を超えない範囲で出国のための期間が指定されます。その期間を過ぎて日本に残ると、24条2号の4の退去強制事由に当たります。
在留資格の取消し全般の仕組みや、雇用している企業への影響は在留資格の取消しとは?取消事由と外国人を雇用する企業への影響で解説しています。
家族の在留資格への影響
取消しの対象は、取消事由に当たる本人の在留資格だけです。Q&Aは、配偶者や子どもの在留資格が連動して取り消されることはないと説明しています。
ただし、配偶者や子どもが「永住者の配偶者等」の在留資格で在留している場合は事情が変わります。この在留資格は「永住者の配偶者」であることが前提のため、本人が永住者でなくなると、家族は「定住者」など別の在留資格への変更が必要になります。家族自身が永住者であれば、家族の在留資格には影響しません。
誰に通報され、どう発覚するのか
改正法は、国や地方公共団体の職員が職務上、取消事由に当たると思われる外国人を知ったときに入管へ通報できる仕組みを置いています。ガイドライン案は、この通報は義務ではないとしたうえで、必要かつ可能な範囲で情報を提供するものと説明しています。
市区町村の窓口に納税の相談に行っただけで通報されるのではないか、という不安の声もあります。ガイドライン案の考え方に沿えば、支払う意思を示して分納や猶予の手続を取っている人は故意の不払いに当たらないため、相談に行くことはむしろ取消しを避ける方向に働きます。滞納を放置するより、早い段階で窓口に相談し、分納の約束を守った記録を残すほうが安全だと筆者は考えます。
特別永住者・永住申請中の人は対象になるか
特別永住者は入管特例法に基づく地位で、入管法22条の4の取消しの対象外です。今回の改正でも取消事由の追加対象に含まれていません。
永住許可をこれから申請する人については、改正後の22条2項で「この法律に規定する義務の遵守、公租公課の支払等」が国益要件の中身として条文に明記されます。永住許可に関するガイドラインは、改正前から公的義務の適正な履行を求めており、申請時点で納付済みでも期限内に納めていなければ消極的に評価するとしています。許可前も許可後も、納付の期限を守ることが基準になるということです。永住の要件全体は永住権の条件とは?素行善良・独立生計・国益の3要件と原則10年在留で整理しています。
よくある質問
税金を1回払い忘れただけで永住権は取り消されますか?
取り消されません。8号の要件は「故意に」支払をしないことで、ガイドライン案は払い忘れや少額の遅延を念頭に置いていません。督促を受けたらすぐに納付すれば、支払意思がないことが明白とはいえないためです。ただし、督促を無視し続けると故意の評価に近づくため、通知が届いた時点で対応してください。
永住権が取り消されたら、その後どうなりますか?
多くの場合、「定住者」などの在留資格に職権で変更され、日本での生活は続けられます。ただし在留期間が付くため、更新のたびに納付状況などを審査されます。職権変更がされず取消しだけが行われた場合は、30日以内の出国期間が指定されます。
2027年に永住権の取り消しはどうなる?施行前の滞納も対象ですか?
2027年4月1日から新しい取消事由が適用されます。ガイドライン案では、施行前の故意の不払いも施行後に判明すれば取消事由に該当しうるとしつつ、その後の支払状況を含めて判断するとしています。施行前に滞納がある人は、今のうちに納付または分納の手続を始めておくことが判断材料になります。確定版の記述は現時点で公式資料では確定していません。申請前に出入国在留管理庁または所轄官庁の公式案内をご確認ください。
永住権の取り消し人数・件数はどのくらいですか?
8号・9号は2027年4月1日施行のため、2026年9月29日時点でこの新制度による取消しはまだありません。改正前からある取消事由(不正な手段による許可、住居地の届出違反など)による永住者の取消件数は、出入国在留管理庁の公表資料で永住者分を切り出した数字を確認できておらず現時点で公式資料では確定していません。申請前に出入国在留管理庁または所轄官庁の公式案内をご確認ください。
交通違反や罰金刑で永住権は取り消されますか?
道路交通法違反は9号の対象外です。9号は拘禁刑に処せられた場合に限られるため、罰金刑だけで終わった場合も対象になりません。ただし、飲酒運転などで拘禁刑を受けた場合や、危険運転致死傷罪に当たる場合は別で、個別の事情で判断が変わります。
永住者本人と雇用する企業が、施行前にやっておくこと
新しい取消制度で問われるのは、滞納があるかどうかより、滞納にどう向き合ってきたかです。条文は「故意」を要件にし、附則は従前の支払状況と現在の生活状況への配慮を定め、ガイドライン案は分納や猶予を受けている人を対象外としています。制度の設計全体が、払う意思を行動で示している人を守る方向に組まれています。
永住者本人が今すぐ確認すべきことは3つです。住民税・国民健康保険料・国民年金に未納がないか、市区町村の納税証明書とねんきんネットで確かめること。未納があれば窓口で分納や猶予を申し出て、その書類を保管すること。在留カードの有効期間と住居地の届出に漏れがないかを確認すること。
企業の側では、住民税の特別徴収分と社会保険料を期限どおりに納付していることが、社員の在留を守る前提になります(社会保険料の滞納と在留審査の関係は社会保険料の滞納は在留資格の更新に影響する?で解説しています)。会社の滞納は社員の故意には当たりませんが、社員が入管に事情を説明する負担を負うことになります。外国人社員から在留カードや納付について相談を受けたときに、会社として事実関係を証明する書類を出せる体制を整えておくと、万一の意見聴取でも役に立ちます。
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根拠資料
- 出入国管理及び難民認定法(2027年4月1日時点の条文・第22条・第22条の4・第22条の6・第24条)(e-Gov法令検索)
- 令和6年入管法等改正について(出入国在留管理庁)
- 永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン(案)(e-Govパブリック・コメント・2026年8月)
- 永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン(案)(概要)(出入国在留管理庁)
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