特定技能「造船・舶用工業」は、造船所や舶用機械・舶用電気機器のメーカーで、溶接・塗装・鉄工・配管などの作業に外国人を受け入れる分野です。2024年3月29日の閣議決定で、それまでの6つの業務区分(溶接、塗装、鉄工、仕上げ、機械加工、電気機器組立て)が「造船」「舶用機械」「舶用電気電子機器」の3区分に再編され、1人の外国人が複数の作業を主な業務として担えるようになりました。受け入れる会社は、在留資格の申請より前に国土交通省の「事業者確認」を受け、造船・舶用工業分野特定技能協議会に加入する必要があります。特定技能2号もあり、監督者としての実務経験2年以上などを満たせば、在留期間の上限なく働き続けられます。
特定技能「造船・舶用工業」の概要と受入れ見込数
造船・舶用工業分野は、2019年4月の特定技能制度の創設時から対象になっている分野で、所管は国土交通省海事局です。2026年1月23日に閣議決定された現行の分野別運用方針では、1号特定技能外国人の受入れ見込数を令和6年度から令和10年度までの5年間で2万3,400人としています。この数字は、分野ごとに在留する外国人の上限として運用されます。2027年4月に始まる育成就労では、令和9年度から令和10年度までの2年間で1万3,500人が上限とされています。
雇用形態は直接雇用に限られます。派遣による受入れはできません。
造船業は九州に集積している産業で、長崎、佐賀、熊本、大分などの沿岸部に大小の造船所と舶用機器メーカーが立地しています。これらの県はいずれも福岡出入国在留管理局の管轄で、九州の造船関連企業の特定技能の申請は、福岡局または各県の出張所で扱われます。
3つの業務区分と従事できる作業|2024年の再編で「多能工化」が可能に
再編の理由について、国土交通省の資料は、制度創設から5年が経って人手不足が深刻化するなかで、1人の外国人が複数の業務を主な業務として行う多能工化が強く求められていたことを挙げています。旧制度では、溶接で許可を受けた人は溶接が主の業務で、塗装や鉄工を主として担うことはできませんでした。再編後は、区分の中の作業であれば、どれを主な業務にしてもよい構造になっています。
新しい3区分と、それぞれに含まれる主な作業は次のとおりです(国土交通省「造船・舶用工業分野における業務区分再編について」、分野別運用方針)。
| 業務区分 | 対象となる事業 | 主な作業 |
|---|---|---|
| 造船 | 船体の製造・修繕 | 溶接、塗装、鉄工、とび、配管、船舶加工など |
| 舶用機械 | 船舶用の機関・機械の製造 | 溶接、仕上げ、機械加工、舶用機械加工、機械保全、配管、鋳造、金属プレス加工など |
| 舶用電気電子機器 | 船舶用の電気・電子機器の製造 | 機械加工、電気機器組立て、電子機器組立て、プリント配線板製造、強化プラスチック成形など |
区分の名前は「作業」ではなく「どの製品をつくるか」で付けられています。造船所の中で溶接と塗装と配管を日によって担当させるのであれば、すべて「造船」区分の業務です。一方、舶用エンジンのメーカーで働く外国人は「舶用機械」区分になります。自社の製品と工程がどの区分に当たるかを最初に確定させることが、試験の選び方と申請書の書き方の出発点になります。
旧区分で許可を受けた人の扱い
再編前に旧区分で在留許可を受けた人、または旧区分の試験に合格した人は、国土交通省の資料によると、その旧区分が含まれる新区分のすべての業務に従事できます。たとえば旧「溶接」区分で許可を受けた人が造船所で働いている場合、新しい「造船」区分の塗装や鉄工も主な業務として担えることになります。旧区分と新区分の対応は、国土交通省の「造船・舶用工業分野に係る特定技能制度の業務区分の読み替え表」で確認します。旧「溶接」のように複数の新区分にまたがる作業は、どの区分として扱われるかが所属機関の事業内容で変わるため、読み替え表で個別に照らし合わせる必要があります。
1号の要件|試験・日本語・技能実習からの移行
特定技能1号の人材基準は、技能と日本語の2つです(造船・舶用工業分野の運用要領)。
技能は、「造船・舶用工業分野特定技能1号試験」または技能検定3級の合格で証明します。1号試験は一般財団法人日本海事協会(ClassNK)が、技能検定は都道府県職業能力開発協会が実施し、どちらも学科試験と実技試験の組み合わせです。日本語は、国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)または日本語能力試験N4以上で、分野別運用方針の表記では「日本語教育の参照枠」のA2.2相当以上になります。
日本海事協会の試験は「出張試験方式」
日本海事協会の1号試験の特徴は、申請者が希望する場所に協会の試験監督者を派遣して随時実施する「出張試験方式」をとっている点です。試験会場の確保や、溶接機などの機械設備・試験用機材の準備は、申請者の側が担います。受け入れる予定の会社が自社工場を会場にして試験を行う、という形が想定されている制度です。
同協会のウェブサイトでは、1号試験の職種として溶接、塗装、鉄工、機械加工、仕上げ、電気機器組立ての6つが示されています。新3区分との対応は、上記の読み替え表とあわせて確認する必要があります。また、同協会は本稿執筆時点(2026年9月)で「2026年の特定技能試験の受付は終了」しており、2027年の受付再開は同協会のホームページで案内するとしています。これから試験で人材を確保しようとする会社は、試験日程が確保できるまでの時間を採用計画に入れておく必要があります(公式資料では未確認)。
技能実習2号を良好に修了した人は試験免除
実務上の主なルートは、技能実習からの移行です。技能実習2号を良好に修了した人は、修得した技能が1号で従事する業務の技能と根幹の部分で関連性が認められる場合、技能試験と日本語試験の両方が免除されます。運用要領の別表で、区分ごとに対象の職種・作業が定められています。造船区分では、溶接(手溶接・半自動溶接)、塗装、鉄工、とび、配管などの職種・作業が挙げられています。
技能実習と特定技能の関係全般は技能実習から特定技能への移行は可能?で解説しています。技能実習制度は2027年4月1日に育成就労制度へ移行しますが、施行後も当分の間、技能実習2号の良好修了者は関連性があれば特定技能1号へ試験免除で移行できるとされています(出入国在留管理庁 育成就労Q&A)。
受入れ企業の要件|国土交通省の事業者確認と協議会
造船・舶用工業分野の受入れ企業の要件は、他の分野と比べて手続の段階が1つ多いのが特徴です。協議会に入る前に、国土交通省から「この会社は造船・舶用工業の事業者である」という確認を受ける仕組みになっています。
対象になる事業者の範囲
国土交通省の「外国人材受入事務取扱要領」は、特定技能所属機関になれる事業者を次のように定めています。
- 造船業:造船法5条1項1号または2号の届出を行っている事業者、小型船造船業法の登録事業者、これらの事業者から委託を受けて船体の製造・修繕を行う者
- 舶用工業(造船業を除く):船舶安全法に基づく認定・認可を受けた者、船舶安全法2条1項に掲げる事項に係る物件(船舶の設備)の製造・修繕を行う者、造船造機統計調査の対象となっている船舶用機関・船舶用品の製造者、これらと同等と国土交通省海事局船舶産業課長が認める者
造船所の構内で働く協力会社(構内下請)も、造船事業者から船体の製造・修繕の委託を受けていることを契約書や注文書で示せれば対象になり得ます。九州の造船業は、元請の造船所と多数の協力会社で成り立っていることが多いため、受入れの主体が協力会社になるケースでは、この委託関係の証明が審査の要になります。
事業者確認と協議会加入は同時申請
2024年6月15日以降、新規に受け入れる事業者は、事業者確認申請書(様式第1号)と特定技能協議会の加入申請書(様式第7号)を同時に提出することが必須になりました。提出先は国土交通省海事局船舶産業課で、郵送で提出します。添付書類は登記事項証明書と、事業の区分を証明する書類(委託契約書、売買契約書、注文書など)です。国土交通省のページでは、審査期間の目安は15営業日程度とされています。
確認を受けると確認通知書(様式第2号)が交付されます。この確認は、確認年月日から5年間有効で、5年ごとに更新が必要です。登録支援機関に支援を委託する場合、登録支援機関の協議会加入申請(様式第11号)は、委託元の事業者が確認通知書を受け取った後に提出する流れです。
協議会の一般的な役割と加入のタイミングは特定技能の協議会とは?で整理しています。
受入れ後の四半期報告
造船・舶用工業分野では、受入れを始めた後も国土交通省への報告が続きます。事務取扱要領は、6月末、9月末、12月末、3月末の各時点における特定技能外国人(育成就労外国人を含む)の受入れ状況を、翌月15日までに所定の様式で報告するよう定めています。出入国在留管理庁への定期届出(年1回)とは別の、分野独自の報告です。担当者が入管への届出だけを管理していると抜けやすいので、年4回の期日を社内の予定表に入れておくことを勧めます。
このほか、分野別運用方針は受入れ機関に、協議会への必要な協力、国土交通省が行う調査や指導への協力、登録支援機関に委託する場合は協議会に加入し協力する登録支援機関に限ることを求めています。
特定技能2号|監督者としての実務経験2年以上
造船・舶用工業分野には特定技能2号があります。2号で従事する業務は、複数の作業員を指揮・命令・管理しながら、造船・舶用機械・舶用電気電子機器の各区分の作業に従事する監督者の業務です。
2号の人材基準は次の2つです(運用要領)。
- 技能:造船・舶用工業分野特定技能2号試験、または技能検定1級の合格
- 実務経験:造船・舶用工業において複数の作業員を指揮・命令・管理する監督者としての実務経験2年以上
日本語については、2026年1月23日の分野別運用方針で、2号を置くすべての分野にB1相当以上の要件が入りました。出入国在留管理庁の分野別ページは、この2号の日本語要件を2027年4月1日以降に適用するとしています。2027年4月以降に2号を目指す人は、技能と実務経験に加えてJLPT N3程度の日本語を準備しておく必要があります。
2号になれば在留期間の更新に上限がなく、要件を満たせば配偶者と子の帯同も認められます。1号の通算5年の上限に近づいている人が職長・班長として現場をまとめている場合、2号への移行を計画的に進める価値があります。1号と2号の違いは特定技能1号と2号の違いとは?で比較しています。
実務経験の証明では、「複数の作業員を指揮・命令・管理する監督者」であったことを会社が書面で示す必要があります。1号の期間中から、職長としての配置や指揮した人数を記録に残しておかないと、2年を満たしていても証明できないおそれがあります。
受入れの流れ
新たに造船・舶用工業分野で受け入れる会社の手順は、おおむね次のとおりです。
- 自社の事業がどの業務区分に当たるか、造船法の届出や委託関係の書類がそろうかを確認する
- 国土交通省に事業者確認申請と協議会加入申請を同時に提出する(目安15営業日程度)
- 確認通知書と協議会の加入通知を受け取る
- 候補者の技能・日本語の要件(試験合格または技能実習2号の良好修了)を確認し、雇用契約と支援計画を作る
- 出入国在留管理局に在留資格認定証明書交付申請または在留資格変更許可申請を行う
- 受入れ開始後、四半期ごとに国土交通省へ受入れ状況を報告し、確認の有効期間(5年)が切れる前に更新する
技能実習生をすでに受け入れている造船所が、その実習生を2号修了後に特定技能へ切り替えるケースでは、1から3の手続を実習修了の数か月前に済ませておくと、在留資格の変更申請を修了時期に合わせやすくなります。
よくある質問
造船業の特定技能2号になるには何が必要ですか?
造船・舶用工業分野特定技能2号試験か技能検定1級の合格と、複数の作業員を指揮・命令・管理する監督者としての実務経験2年以上が必要です。2027年4月1日以降は、日本語のB1相当以上(JLPT N3程度)の要件も適用されます。
特定技能の造船の業務区分・職種は何がありますか?
2024年3月29日の再編で、造船、舶用機械、舶用電気電子機器の3区分になりました。造船区分には溶接、塗装、鉄工、とび、配管などの作業が含まれ、区分内のどの作業も主な業務として担えます。旧6区分(溶接、塗装、鉄工、仕上げ、機械加工、電気機器組立て)の名称で書かれた解説は古い情報です。
造船・舶用工業分野特定技能協議会にはいつ加入すればよいですか?
新規に受け入れる場合は、国土交通省の事業者確認申請と同時に加入申請を出すことが2024年6月15日から必須になっています。在留資格の申請より前に確認通知書と加入の手続を終えておく必要があるので、採用が決まる前から準備を始めてください。
構内の協力会社でも受け入れられますか?
造船事業者から船体の製造・修繕の委託を受けている事業者は、特定技能所属機関になれる範囲に含まれています。委託契約書や注文書などで委託関係を証明することが事業者確認の前提になります。
造船所と協力会社が先に確かめるべきこと
特定技能「造船・舶用工業」の受入れで時間を左右するのは、外国人本人の試験より、会社側の事業者確認と、試験日程の確保です。技能実習からの移行であれば試験は免除されますが、試験ルートで採用する場合は、日本海事協会の出張試験の会場と機材を自社で用意する前提になり、2026年の受付がすでに終わっている点も計画に影響します。
受入れを検討する会社は、自社の製品と工程が3区分のどれに当たるか、造船法の届出や元請からの委託を書類で示せるか、年4回の国土交通省への報告と5年ごとの確認更新を誰が担当するか、の3点を最初に決めておくと手続が止まりません。九州の造船業のように元請と協力会社が一体で動く地域では、元請が協力会社の事業者確認を後押しする体制をつくれるかどうかで、受入れの速度が変わると筆者は考えています。個別の事情で判断が変わるため、区分の当てはめに迷う場合は国土交通省海事局船舶産業課か専門家に確認してください。他分野との比較は特定技能の分野・職種一覧【2026年最新】で確認できます。
関連するコラム
- 特定技能「林業」とは?対象業務・試験・直接雇用と年217日の就労要件を解説
- 特定技能「漁業・養殖業」とは?2つの区分・試験・2号要件と船員法・報酬の決め方
- 特定技能「資源循環」とは?中間処理業者に限る要件・優良機関認証と開始時期
根拠資料
- 造船・舶用工業分野における特定技能・育成就労の運用に関する方針(2026年1月23日閣議決定)(国土交通省掲載)
- 特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領-造船・舶用工業分野の基準について-(令和6年8月5日一部改正)
- 造船・舶用工業分野における外国人材受入事務取扱要領(国土交通省)
- 造船・舶用工業分野における業務区分再編について(国土交通省、2024年3月29日)
- 造船・舶用工業分野(出入国在留管理庁)
- 造船・舶用工業分野特定技能試験(一般財団法人日本海事協会)
在留資格の申請・採用のご相談は、保利国際法務事務所の無料相談へ。福岡出入国在留管理局への申請取次に対応しています。