特定技能「漁業」は、漁船での漁労作業と、魚介類・海藻の養殖作業に外国人を受け入れる分野で、業務区分は「漁業」と「養殖業」の2つです。1号は漁業特定技能評価試験(漁業または養殖業)と日本語試験(N4以上など)の合格、または技能実習2号の良好修了で要件を満たし、2号は2号試験の合格、日本語能力試験N3以上、管理者等としての実務経験2年以上が要件です。受入れ見込数は2026年1月23日閣議決定の運用方針で1万4,800人に改められました。人事労務の面で他分野と大きく違うのは、30トン以上の漁船に乗り組む場合は労働基準法でなく船員法が適用され、沿岸漁業や養殖業では労働基準法41条により労働時間・休憩・休日の規定が適用されないという点です。
特定技能「漁業」の概要|2つの業務区分と受入れ見込数
漁業分野は2019年4月の制度創設時からの分野で、所管は農林水産省(水産庁)です。業務区分は次の2つです(水産庁パンフレット、分野別運用方針)。
| 業務区分 | 主な業務 | 関連業務の例 |
|---|---|---|
| 漁業 | 漁具の製作・補修、水産動植物の探索、漁具・漁労機械の操作、水産動植物の採捕、漁獲物の処理・保蔵、安全衛生の確保など | 自家生産物の加工・販売、漁具・漁労機械の点検・整備など、日本人が通常従事するもの |
| 養殖業 | 養殖資材の製作・補修・管理、養殖水産動植物の育成管理・収獲(穫)・処理、安全衛生の確保など | 同上 |
水産庁のパンフレットは、漁業区分では「全ての漁業に従事可能」、養殖業区分では「全ての養殖業に従事可能」としています。技能実習では、かつお一本釣りやいか釣りなど作業ごとに細かく分かれていましたが、特定技能では区分の中の漁法や魚種を問いません。一方、漁業区分で許可を受けた人が養殖業を主な業務とすることはできないので、両方を営む事業者は、どちらを主な業務として受け入れるかを決める必要があります。
受入れ見込数は、2026年1月23日に閣議決定された現行の運用方針で、令和6年度から5年間で1万4,800人とされています。2024年3月時点の方針では1万7,000人で、見直しで引き下げられました。育成就労では令和9年度から2年間で2,600人が上限です。
1号の要件|試験・日本語・技能実習からの移行
漁業特定技能評価試験
技能は、公益社団法人大日本水産会が実施する「1号漁業特定技能評価試験」(漁業または養殖業)で確認します。大日本水産会によると、1号の漁業の試験は、国内では47都道府県でCBT方式(プロメトリック社)、国外ではインドネシアのジャカルタでペーパーテスト方式で実施されています。試験結果は2020年1月以降の月別の結果が同会のウェブサイトで公表されており、学習用テキストも公開されています。
日本語は、国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)または日本語能力試験N4以上の合格が必要です。運用方針の表記では「日本語教育の参照枠」のA2.2相当以上です。
技能実習2号からの移行
技能実習2号を良好に修了した人は、技能試験と日本語試験が免除されます。水産庁のパンフレットが移行対象として挙げているのは、漁船漁業職種の9作業(かつお一本釣り、延縄、いか釣り、まき網、ひき網、刺し網、定置網、かに・えびかご、棒受網)と、養殖業職種のほたてがい・まがき養殖作業です。漁船漁業職種の修了者は漁業区分、養殖業職種の修了者は養殖業区分へ移行するのが基本です。
特定技能の漁業区分は全ての漁業に従事できるので、たとえば技能実習でまき網漁業を経験した人が、特定技能ではまき網以外の漁業に就くこともできます。技能実習から特定技能への移行の全体像は技能実習から特定技能への移行は可能?で解説しています。
特定技能2号漁業の取得条件|試験・N3・実務経験2年
漁業分野には2号があり、要件を満たせば在留期間の更新に上限がなく、家族の帯同も可能になります。2号で従事する業務は、1号の業務に加えて、操業を指揮・監督する者を補佐し、または作業員を指導しながら作業工程を管理する業務です。
2号の人材基準は3つです。
- 技能:2号漁業特定技能評価試験(漁業または養殖業)の合格
- 日本語:日本語能力試験N3以上の合格
- 実務経験:日本国内での管理者等としての実務経験2年以上
実務経験の中身は区分で異なります。漁業区分は、漁船法上の登録を受けた漁船で、操業を指揮・監督する者の補佐、または自らも作業を行いながら他の作業員を指導し工程を管理する者としての経験を2年以上です。養殖業区分は、養殖を管理する者を補佐する者、または作業員を指導しながら作業に従事し工程を管理する者としての経験を2年以上です。水産庁のパンフレットは、特定技能1号としての経験は含まれるが、技能実習での経験は含まれないとしています。実務経験は、水産庁が示す別記様式「漁業分野における2号特定技能外国人に求められる実務経験に係る証明書」で証明します。
日本語について、多くの分野の2号はこれまで日本語試験を要件にしていませんでしたが、漁業分野は外食業とともに以前からN3以上を求めてきました。2026年1月23日の運用方針で2号を置く全分野にB1相当以上の要件が入り、漁業分野もB1相当以上と表記されています。2号試験は大日本水産会が国内47都道府県でCBT方式により実施しています。日程は同会とプロメトリックのウェブサイトで確認します。
筆者は、2号の準備で最もつまずきやすいのは実務経験の証明だと考えています。船上で「作業員を指導し工程を管理」していたことを、1号の期間中から配置や役割の記録として残しておかないと、2年を過ぎても会社が証明書を書けないことがあるからです。
雇用形態|直接雇用と派遣
漁業分野は、農業分野とともに、特定技能で派遣形態が認められている2分野の1つです。漁期や漁法によって人手の要る時期と場所が変わるという事情を踏まえた例外です。派遣元になれるのは、地方公共団体または漁業協同組合、漁業生産組合、漁業協同組合連合会その他漁業に関連する業務を行っている者が関与するものに限られます(分野別運用方針)。派遣先も分野の基準に適合している必要があります。派遣元・派遣先の基準の詳細は特定技能で派遣はできる?農業・漁業に限られる理由と派遣元・派遣先の基準で扱っているので、ここでは直接雇用する場合の労務の論点に絞ります。
船員法か労働基準法か|乗る船で適用される法律が変わる
漁業分野の受入れで、他の分野にない判断が求められるのが、どの労働法が適用されるかです。大日本水産会の「トラブル防止に向けた漁業分野における外国人材受入れマニュアル」(2025年3月)は、定置網漁業などの沿岸漁業では労働基準法、30トン以上の漁船で従事する場合は船員法が適用されると整理しています。船員法1条2項は、政令で定める総トン数30トン未満の漁船を同法の適用から外しており、この線引きが出発点になります。同マニュアルは、見分け方として、同じ船に乗る日本人船員が船員手帳を持っているかどうかで確認できるとしています。
沿岸漁業・養殖業|労基法41条で労働時間・休日の規定が外れる
労働基準法が適用される沿岸漁業と養殖業では、同法41条1号により、別表第一第7号の事業(水産動植物の採捕・養殖の事業)に従事する人には、労働時間、休憩、休日の規定が適用されません。漁は天候や潮、魚群の動きに左右され、1日8時間・週40時間の枠で管理することが難しいためです。
ただし、適用されないのは労働時間・休憩・休日の規定だけです。深夜業の割増賃金(午後10時から午前5時)、年次有給休暇、最低賃金、労働契約や解雇に関する規定は、日本人と同じく適用されます。未明に出港する漁では深夜割増が日常的に発生するので、賃金計算に組み込んでおく必要があります。特定技能の雇用契約では所定労働時間を通常の労働者と同等とすることが基準なので、41条の適用除外があっても、雇用条件書には日本人と同じ所定労働時間・休日を定めて書くことになります。
30トン以上の漁船|船員法の雇入契約と船員手帳
30トン以上の漁船に乗り組む場合は船員法が適用され、陸上の労働とは手続がまったく異なります。マニュアルは、乗船前の船員保険への加入、船員手帳の交付手続、乗船させる際の雇入れ手続、下船させる際の雇止め手続など、陸上職とは異なる事務が必要だとしています。雇入契約の成立は地方運輸局への届出事項です。
船員法の労働時間・休日の規定が漁船にどこまで適用されるかは、漁船の種類や航海の態様によって扱いが分かれます。遠洋・沖合漁業の船に乗せる場合は、管轄の地方運輸局(九州では九州運輸局)に事前に確認しておくのが安全です(公式資料では未確認)。
報酬の決め方|歩合給と最低保障
漁業の賃金は、水揚げ高に応じた歩合給(いわゆる大仲歩合など)を含む体系が珍しくありません。特定技能の報酬は、日本人が従事する場合と同等額以上であること、外国人であることを理由に差別的な扱いをしないこと、預貯金口座への振込などで支払うことが基準です(水産庁パンフレット)。同じ船に乗る日本人の乗組員と同じ歩合の算定方法を当てはめるのが原則になります。
歩合給で問題になるのは、不漁の月です。船員法が適用される場合、同法58条は、歩合で報酬を定める場合でも、雇入契約で定める一定額を下回ってはならないという最低保障を定めています。労働基準法が適用される沿岸漁業では、同法27条が出来高払制の労働者について労働時間に応じた一定額の保障給を定めることを求めています。どちらの場合も、最低賃金を下回らない水準の固定部分を雇用契約で明示しておくことが、特定技能の審査でも受入れ後のトラブル防止でも要になります。船員には、陸上の地域別最低賃金とは別に、地方運輸局が定める船員の最低賃金が適用される場合があります。
報酬の説明書の書き方と、比較対象の日本人がいない場合の考え方は特定技能外国人の報酬に関する説明書の書き方と記入例で解説しています。漁業の場合は、歩合部分の算定方法(水揚げ高から控除する経費の範囲、配分の比率)を本人が理解できる言語で書面に残しておくことを勧めます。控除の内容が本人に分からないまま手取りが月ごとに大きく変わると、不信感から失踪につながることがあり、大日本水産会のマニュアルも金銭問題を主要なトラブルの1つに挙げています。
長期の乗船と定期面談
1号特定技能外国人への支援として、支援責任者などによる3か月に1回以上の定期面談が義務づけられています。数か月にわたって航海する漁船に乗る場合は、帰港の時期に合わせた面談の計画を支援計画の段階で立てておく必要があります。
受入れ事業者の要件|漁業特定技能協議会
2024年6月15日以降、初めて漁業分野で特定技能外国人を受け入れる事業者は、在留資格の申請前に漁業特定技能協議会へ加入することが必要になりました(水産庁)。協議会は、受入れ機関が加入する1号構成員と、業界団体などの2号構成員で構成されています。加入後は、協議会で決まった事項の実施と、協議会・農林水産省への必要な協力が求められます。加入申請の方法は水産庁の協議会のページで案内されています。協議会の一般的な位置づけは特定技能の協議会とは?で整理しています。
水産物の加工については注意が必要です。漁業分野の関連業務として認められるのは自家生産物の加工など付随的なものに限られ、水産加工場での加工を主な業務とする場合は、漁業分野でなく飲食料品製造業分野の対象になります。
よくある質問
漁業の特定技能2号の取得条件は何ですか?
2号漁業特定技能評価試験(漁業または養殖業)の合格、日本語能力試験N3以上の合格、日本国内での管理者等としての実務経験2年以上の3つです。実務経験には特定技能1号での経験は含まれますが、技能実習での経験は含まれません。
特定技能2号漁業の試験日程はどこで確認できますか?
2号試験は大日本水産会が主催し、国内47都道府県でプロメトリック社のCBT方式により実施されています。日程と申込みは大日本水産会とプロメトリックのウェブサイトで確認できます。
特定技能の漁業分野の受入れ人数は何人ですか?
分野全体の受入れ見込数は、2026年1月23日閣議決定の運用方針で、令和6年度から5年間で1万4,800人です。それ以前の方針では1万7,000人とされていました。育成就労は令和9年度から2年間で2,600人です。
漁業と養殖業の両方の仕事をさせることはできますか?
特定技能は業務区分ごとに許可されるので、主な業務は許可を受けた区分の業務になります。もう一方の区分の作業を主な業務にさせることはできません。兼業している事業者は、受け入れる人の主な業務をどちらにするかを決めて申請します。
漁業者が採用前に決めておくべき2つのこと
特定技能「漁業」で受入れを始める漁業者が最初に決めるべきことは、どの船・どの現場に乗せるかと、それに応じた報酬の仕組みです。30トン以上の漁船に乗るなら船員法の手続と船員手帳、沿岸漁業や養殖業なら労基法41条の適用除外と深夜割増の扱いが、それぞれ前提になります。歩合給を採るなら、不漁の月にも最低賃金を下回らない保障部分と、控除の内容を書面で示しておくことが、審査にも定着にも効きます。
そのうえで、2号まで見据えるのであれば、1号の段階から指導役としての配置と記録を残しておくことです。在留期間の上限がなくなる2号は、漁業分野で長く働ける人材を確保する手段になります。個別の事情で判断が変わるため、船員法の適用範囲や雇用契約の組み方は、九州運輸局や専門家に確認しながら進めてください。
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根拠資料
- 在留資格「特定技能」による新たな外国人材の受入れ(水産庁)
- 漁業分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針及び育成就労に係る制度の運用に関する方針(2026年1月23日)
- 特定技能外国人材の受入れ制度について(漁業分野)パンフレット(水産庁、令和6年6月改正)
- 特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領別冊(漁業分野)(令和6年2月15日一部改正)
- 漁業特定技能協議会(水産庁)
- 漁業分野(出入国在留管理庁)
- 漁業特定技能評価試験(公益社団法人大日本水産会)
- トラブル防止に向けた漁業分野における外国人材受入れマニュアル(大日本水産会、2025年3月)
- 船員法(e-Gov法令検索)
- 労働基準法(e-Gov法令検索)
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