ネパール人を特定技能で雇うには、日本側の在留資格の手続に加えて、本人がネパール労働・雇用・社会保障省の海外雇用局(Department of Foreign Employment、DoFE)から海外労働許可証を取得し、出国審査で提示する必要があります。出入国在留管理庁が公表している手続の解説では、受入れ機関は本人に直接採用活動を行うことができ、ベトナムやミャンマーのように政府認定の送出機関を通すことは求められていません。見落とされやすいのは、日本に住んでいるネパール人を採用した後も、一時帰国のたびに海外労働許可証が必要になる点です。
日本とネパールの協力覚書(MOC)の位置づけ
特定技能制度では、日本政府が送出国と協力覚書(Memorandum of Cooperation、MOC)を結び、悪質な仲介業者の排除や情報共有の枠組みを作っています。ネパールとのMOCは、2019年3月20日に東京で、3月25日にカトマンズで署名されました。日本側は法務省・外務省・厚生労働省・警察庁、ネパール側は労働・雇用・社会保障省(MoLESS)が署名者です。当初の期間は2019年4月1日から5年間で、入管庁によると2024年4月1日から5年間更新されています。
MOCの和文仮訳は、ネパール側に対して、海外雇用局の下に採用プロセス全体を管理する部署を置くことを求めています。あわせて、保証金の徴収など名目を問わず本人や親族の財産を管理すること、算出基準を示さず額と内訳を理解させないまま費用を徴収することなどを、排除すべき行為として挙げています。
ここで重要なのは、MOCが「どの手続をネパール政府の手で行うか」を決める文書だという点です。日本の在留資格の許否はMOCではなく入管法で決まり、ネパール側の手続は本人の出国の可否を決めます。二つは別々に進み、どちらかが欠けると就労開始に至りません。
海外から呼ぶ場合の手続の流れ
入管庁の「ネパールにおける手続の解説」は、ネパールから新たに受け入れる場合の手続を8つに分けています。整理すると次のとおりです。
| 順番 | 行う人 | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | 受入れ機関 | ネパール国籍の人に直接採用活動を行う。駐日ネパール大使館に求人申込を出すことも可能(有料) |
| 2 | 受入れ機関 | 特定技能の雇用契約を結ぶ |
| 3 | 受入れ機関 | 地方出入国在留管理官署に在留資格認定証明書の交付を申請し、交付後に原本を本人へ送る |
| 4 | 本人 | 在ネパール日本国大使館で査証を申請する |
| 5 | 本人 | 指定医療機関で健康診断を受け、出国前オリエンテーション(2〜3日間)を受講する |
| 6 | 本人 | 海外労働保険に加入し、海外労働者社会福祉基金に一定額を支払う |
| 7 | 本人 | 海外雇用局の日本担当部門にオンラインで海外労働許可証を申請し、出国審査で提示する |
| 8 | 本人 | 日本で上陸許可を受け、「特定技能」の在留資格が付与される |
5から7のネパール側の手続は、入管庁の解説でおおむね10日間程度とされています。日本の在留資格認定証明書と査証が先に出て、そのあとネパール側の手続を進める順番です。受入れ機関は、査証が出た時点で入国日を確定させず、海外労働許可証の取得まで含めて日程を組む必要があります。
手続1の大使館への求人申込は任意です。大使館を通すと求人内容の確認を受けたうえで人材募集の情報が伝わる仕組みですが、手数料の額は入管庁の資料には記載がありません(公式資料では未確認)(駐日ネパール大使館に公式資料で確認)。「1件の認証でいくらか」という質問が多く見られるのはこの部分で、最新の額は大使館に直接確認するのが確実です。
在留資格認定証明書交付申請に、ネパール側の手続を終えた証明を添付する必要はありません。日本の審査で見られるのは、全分野共通の基準と分野別の基準、本人の試験合格です。
送出機関は必須ではない。ただし使う場合の確認点
「特定技能のネパール人の送り出し機関はどこですか」という質問に対しては、入管庁の手続の解説に沿って答えると、送出機関の利用は必須とされていない、ということになります。入管庁の二国間取決めのページでも、フィリピン・ベトナム・ミャンマーなどには政府認定の送出機関リストが掲載されている一方、ネパールにはリストが掲載されていません。
とはいえ、現地の募集や日本語教育、試験対策を支える事業者を使うこと自体は禁じられていません。実務上、ネパールの人材会社を使う場合は、次の3点を確かめておくのが安全です。
- ネパールの海外雇用に関する法令に基づく許可を持つ事業者か。無許可の仲介は本人の海外労働許可証の取得を妨げることがあります(公式資料では未確認)(ネパール側の許可制度の詳細は入管庁の資料に記載なし)
- 本人から徴収する費用の額と内訳を、本人が理解できる形で示しているか。MOCは、算出基準や内訳を示さない費用徴収を排除すべき行為に挙げています
- 日本側で人選に関わる事業者が、職業安定法に基づく職業紹介事業の許可(国外にわたる職業紹介を含む)を持っているか。国外の事業者が日本の求人者に人材をあっせんするとき、日本側の許可の要否が問題になります
受入れ機関にとって特に重いのは2です。特定技能の基準省令は、本人が保証金を徴収されていたり違約金契約を結ばされていたりすることを受入れ機関が認識して雇用契約を結ぶことを禁じています。本人が借金を背負って来日していないかは、面接の段階で本人に直接確かめておくべき事項です。
日本に住むネパール人を採用する場合
留学生や技能実習修了者など、すでに日本に在留しているネパール人を特定技能で採用するときは、受入れ機関と雇用契約を結び、本人が在留資格変更許可申請を行います。ネパールから呼ぶ場合と違い、採用時点でネパール側の手続は求められていません。
ところが、入管庁の解説は、再入国許可(みなし再入国許可を含む)でネパールへ一時帰国する場合には、海外雇用局の日本担当部門に海外労働許可証の発行を申請し、取得する必要があるとしています。入管庁の二国間取決めのページも、一時帰国して再び日本へ戻る人は、ネパールを出国する前に労働・雇用・社会保障省から海外労働許可証を取得しなければならないと明記しています。
これは受入れ機関の実務に直結します。年末や祭り(ダサイン、ティハール)の時期に一時帰国を認めたところ、許可証の取得に日数がかかって帰任が遅れる、という事態を防ぐには、休暇の申請を受けた段階で本人に許可証の申請を促し、復帰日に余裕を持たせるのが現実的です。特定技能の一時帰国の扱いは特定技能で一時帰国はできる?、再入国許可の選び方は再入国許可とみなし再入国許可の違いで扱っています。
ネパールで受けられる特定技能の試験
技能試験と日本語試験は、ネパール国内でも実施されています。プロメトリックは2024年7月1日にネパールでの予約開始を告知し、JFT-Basic(国際交流基金日本語基礎テスト)、介護技能評価試験、介護日本語評価試験、農業技能測定試験1級、外食業特定技能1号技能測定試験、建設分野特定技能1号評価試験、宿泊業技能測定試験を対象に挙げました。自動車整備分野の1号評価試験もネパールで実施されています。
日本語は、1号の全分野でJFT-BasicのA2.2相当以上か日本語能力試験N4以上が必要です。JFT-BasicはCBT方式で随時に近い形で受験枠が設けられるため、年2回(7月・12月)の日本語能力試験より採用計画に組み込みやすい試験です。実施分野と日程は試験ごとに変わるため、採用する分野の試験がネパールでいつ開かれるかを、採用計画の最初に確認しておきます。
介護分野でネパール人を受け入れる場合
介護は、ネパールから特定技能で受け入れる分野として検討されることが多い分野です。1号の要件は、介護技能評価試験の合格、介護日本語評価試験の合格、それにA2.2相当以上の日本語能力の3つで、いずれもネパール国内で受験できます。
介護で受け入れる場合、受入れ機関は厚生労働省が設置する介護分野の協議会に加入し、介護保険法などに基づく事業所で身体介護等の業務に従事させることになります。ネパールからの受入れに固有の要件はありませんが、上に書いた海外労働許可証の手続と、一時帰国時の再取得は介護でも同じです。介護分野の受入れ要件の全体は特定技能「介護」とは?を参照してください。
ヒンドゥー教徒が多いネパールでは牛肉を食べない人が多く、施設の食事介助で本人が調理や配膳に関わる場面、寮での食事の扱いなどで配慮が必要になることがあります。これは制度上の要件ではありませんが、定着を左右する要素として採用前の面談で確かめておく価値があります。
よくある質問
ネパールから特定技能で呼ぶには送出機関が必要ですか?
入管庁の手続の解説では、受入れ機関がネパール国籍の人に直接採用活動を行えるとされており、送出機関の利用は必須ではありません。入管庁のページにも、ネパールの政府認定送出機関リストは掲載されていません。駐日ネパール大使館に求人申込を出すこともできます(有料)。
海外労働許可証は誰が取得しますか?
ネパール国籍の本人です。本人が健康診断、出国前オリエンテーション、海外労働保険への加入と福祉基金への支払いを済ませたうえで、海外雇用局の日本担当部門にオンラインで申請し、出国審査で提示します。受入れ機関が代わりに申請する手続はありません。
日本国内にいるネパール人を採用する場合もネパール側の手続は要りますか?
採用して在留資格を変更する時点では求められていません。ただし、採用後にネパールへ一時帰国して日本に戻るときは、ネパールを出国する前に海外労働許可証を取得する必要があります。
ネパール人の特定技能外国人はどのくらいいますか?
入管庁は特定技能在留外国人数を国籍別に公表しています。最新の人数は入管庁の「特定技能在留外国人数の公表」で確認してください(公式資料では未確認)(2026年9月29日時点で最新の国籍別の数値を一次資料で確認できず)。
ネパールからの受入れは「二つの許可」を並行して管理する
ネパール人を特定技能で雇う手続を分解すると、日本の入管が出す在留資格と、ネパール政府が出す海外労働許可証という二つの許可を並行して管理する作業になります。受入れ機関が直接関与できるのは前者だけで、後者は本人の手続です。それでも、後者が遅れれば入国も帰任も遅れ、配属計画が崩れます。
採用の段階で決めておくべきなのは、ネパール側の手続を誰が本人に案内し、進み具合を誰が確認するかという役割分担です。登録支援機関や現地の協力事業者に任せる場合も、受入れ機関の担当者が手続の全体像を把握しておけば、入国日や休暇明けの日程を現実的に組めます。個別の事情で判断が変わる場面もあるため、迷ったときは入管庁の解説と駐日ネパール大使館の案内の両方に当たってください。
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根拠資料
- 特定技能に関する二国間の協力覚書(出入国在留管理庁)
- 日ネパール 特定技能に関する協力覚書 和文仮訳(出入国在留管理庁)
- ネパールにおける手続の解説(出入国在留管理庁)
- ネパールにおける手続のフローチャート(出入国在留管理庁)
- ネパールでの予約開始のお知らせ(プロメトリック・2024年)
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