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強制送還はなぜできない?送還忌避者3,369人の実態と改正入管法の対応

強制送還ができない理由は、出入国在留管理庁の整理によれば、難民認定の手続中は申請の回数や理由を問わず送還が止まっていたこと、退去を拒む自国民の受取りを拒否する国があること、送還の航空機内で暴れるなどして搭乗を拒否されることの3つです。退去強制が確定しているのに日本を離れない人は「送還忌避者」と呼ばれ、2025年末時点で3,369人いました。2024年6月10日施行の改正入管法(令和5年改正)は、この3つの理由それぞれに手当てをしましたが、対象を絞った制度設計のため、送還忌避者の数はまだ減っていません。

強制送還が「できない」のは送還が確定した人の一部

最初に規模を押さえておきます。強制送還という言葉は、入管法上の「退去強制」を指す通称です。出入国在留管理庁の「令和7年の出入国在留管理業務の状況」によると、2025年に退去強制令書で送還された人は7,563人、出国命令で出国した人は9,789人で、合わせて1万7,352人が日本を離れています。送還された7,563人のうち6,677人は自分で航空券を用意する自費出国でした。

つまり、退去強制の手続を受けた人の大半は、実際には出国しています。問題になっているのは、退去強制令書が発付されて手続が確定したにもかかわらず、退去を拒み続ける人です。この人たちを出入国在留管理庁は「送還忌避者」と呼び、2025年末現在で3,369人(前年比7.9%増)と公表しています。2024年末は3,122人でした。

送還忌避者は、収容施設にいる人(被退令収容者)、監理措置の下で生活している人(被退令監理者)、仮放免中の人(被退令仮放免者)に分かれます。収容施設にずっといるわけではなく、多くは社会の中で生活しています。

制度の全体像と手続の流れは強制送還(退去強制)とは?対象となる外国人と2024年改正後の仕組みで扱っているので、本記事では「なぜ送還が止まるのか」に絞ります。

送還を妨げてきた3つの理由

出入国在留管理庁が改正法の立案時に公表した「現行入管法上の問題点」(2021年12月)は、送還を妨げる理由として次の3つを挙げています。

1 難民認定手続中は送還が一律に停止されていた

1つ目で、数の上でも最も大きいのが送還停止効です。ここでいう送還停止効とは、難民認定の申請をしている間は、その人を送還してはならないという効果を指します(入管法61条の2の9第3項)。難民として保護されるべき人を誤って迫害のおそれがある国へ帰さないための安全装置で、制度そのものには合理性があります。

問題は、改正前は申請の回数にも理由にも制限がなかったことです。不認定になっても再び申請すれば、その間は送還できません。同資料によると、2020年12月末時点の送還忌避者3,103人のうち1,938人が難民認定申請中で、そのうち3回以上申請している人が481人いました。申請回数の内訳は、1回目713人、2回目744人、3回目341人、4回目115人、5回目20人、6回目5人です。

この仕組みは、重大な犯罪で実刑を受けた人にも同じように働いていました。同資料は、送還忌避者3,103人のうち994人が有罪判決を受けており、そのうち466人が難民認定申請中だったとしています。

2 退去を拒む自国民を受け取らない国がある

2つ目は送還先の国の事情です。本人が帰国を拒んでいる場合、入国警備官が航空機に同乗して本国まで連れて行く「護送官付き国費送還」を行いますが、これは本国政府が受け取ってくれて初めて成り立ちます。

同資料によると、イランは2016年1月まで日本からの護送官付き国費送還を受け入れていましたが、それ以降は受け入れなくなり、出入国在留管理庁は2018年1月から外務省と連携して再開を求める交渉を続けていました。2020年12月末時点の送還忌避者のうちイラン国籍の人は330人で、トルコ(426人)に次いで2番目に多くなっていました。イランへの送還受入れが現在どうなっているかは、出入国在留管理庁の最新の公表資料では確認できていません(公式資料では未確認)。

3 航空機内での送還妨害と搭乗拒否

3つ目は物理的な妨害です。送還のための航空機の中で大声を上げたり激しく抵抗したりすると、機長の判断で搭乗を拒否され、その便での送還が不可能になります。改正前は、こうした妨害行為そのものを直接罰する規定がありませんでした。

このほか、実務上は旅券(パスポート)を持っていない、または有効期限が切れていて、本国の大使館で旅券を取り直す手続に本人が協力しないため送還の準備が進まない、という事情もありました。

2024年6月施行の改正で何が変わったか

令和5年改正入管法は、上の3つの理由に、それぞれ対応する規定を置きました。

送還を妨げていた理由 改正後の対応 条文
難民認定申請の繰返し 3回目以降の申請者などに送還停止効の例外 61条の2の9第4項
受取りを拒否する国 罰則付きの退去等命令 55条の2第1項1号、72条7号
機内での送還妨害 罰則付きの退去等命令 55条の2第1項2号、72条7号
旅券がない・取り直さない 旅券の発給申請などを命じる規定 52条12項

送還停止効の例外(61条の2の9第4項)

改正後は、次のいずれかに当たる人には送還停止効が働きません。

  • 3回目以降の難民認定申請(補完的保護対象者の認定申請を含む)をしている人。ただし、難民等と認めるべき相当の理由がある資料を提出した場合は除かれる
  • 無期または3年以上の拘禁刑の実刑に処せられた人
  • テロリストなど、24条3号の2・3号の3・4号オ〜カに当たる人(その疑いに相当の理由がある人を含む)

運用の実績は公表されています。施行日の2024年6月10日から同年12月末までに、この例外を適用して送還された人は19人(3回目以降の申請者17人、3年以上の実刑者等2人)で、相当の理由がある資料が出されたため送還計画を中止した人が1人いました。2025年は1年間で59人(3回目以降の申請者52人、実刑者等7人)に増え、前年比210.5%増です。この59人は、2025年の護送官付き国費送還318人の内数です。

回数の数え方や「相当の理由がある資料」の意味は難民申請は何回までできる?3回目以降の送還停止効の例外と「相当の理由」で詳しく扱っています。

退去等命令(55条の2)と罰則

退去等命令とは、送還が難しい一定の人に対して、主任審査官が相当の期間を定めて日本からの退去を命じる制度です。命令の前には本人の意見を聴かなければなりません。対象は条文上、次の2つに限られています。

  1. 自ら退去する意思がない旨を表明していて、送還先の国が「退去強制令書の円滑な執行に協力しない国以外の国として法務大臣が告示で定める国」に含まれていない場合
  2. 偽計または威力を用いて送還を妨害したことがあり、再び同様の行為に及ぶおそれがある場合

1号の書き方は少し回りくどいのですが、要するに送還に協力する国のリストを告示で作り、そのリストにない国の出身者で帰国を拒む人を対象にするという意味です。命令に従わずに退去しなかった人は、72条7号により1年以下の拘禁刑もしくは20万円以下の罰金、またはその両方に処されます。

出入国在留管理庁は、この制度について「対象は上記①②に限られ、送還忌避者全般に適用されるものでない」と明記しています(「令和5年改正入管法の運用状況」)。2024年6月から12月までの運用状況では、退去の命令制度について「令和6年の実績はない」とされました。2025年の発令件数は、同庁の公表資料では確認できていません(公式資料では未確認)。

旅券の発給申請などの命令(52条12項)

主任審査官は、送還のために必要な場合、本人に旅券の発給申請など送還に必要な行為をするよう命じることができるようになりました。旅券がないことを理由に送還が止まる状態を解消するための規定です。

それでも送還忌避者が減らない理由

改正から1年半が経った2025年末の送還忌避者は3,369人で、2024年末の3,122人から増えています。出入国在留管理庁は、増えた理由を2つ挙げています。1つは、難民認定申請の処理を速めた結果、年末にかけて退去強制令書の発付が増えたこと(2024年10〜12月の1,964件に対し、2025年10〜12月は2,428件・速報値)。もう1つは、2025年秋ごろに上陸を拒否されたのに退去命令に従わず退去強制の手続を執った事案が多発したことです。

ここから読み取れるのは、送還忌避者の数は「送還できた人」と「新たに退去強制が確定した人」の差し引きで決まる、という構造です。審査が速くなれば確定する人も増えるため、短期的には数字が増えることがあります。

同庁は2025年5月23日に「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」を公表し、護送官付き国費送還を3年後に倍増させること、退去強制が確定した外国人の数を2030年末までに半減させることを目標にしています。2025年の護送官付き国費送還は318人で、前年から27.7%増えて過去最高でした。国籍別の上位はトルコ71人、フィリピン46人、スリランカ44人です。

筆者は、改正法の効果が数字に表れるまでには時間差があると見ています。送還停止効の例外は「3回目以降」の申請者に働くため、改正後に始まった1回目・2回目の申請が不認定で確定するまでは適用されません。難民認定の一次審査の平均処理期間は2025年で22.5か月とされており、例外が本格的に効いてくるのはこれからです。一方、退去等命令は対象が狭く、送還忌避者の大半を占める「難民認定申請中の人」や「本国が受け入れている国の出身で、ただ帰国を拒んでいる人」には使えません。

送還が確定した人を雇ってしまったら

企業にとってこの問題が身近になるのは、採用の場面です。送還忌避者の多くは、仮放免や監理措置の下で社会の中で生活しています。仮放免中の人は原則として働くことができず、監理措置の下にある人も、退去強制令書の発付後は就労できません(報酬を受ける活動の許可は、退去強制令書の発付前の被監理者に限って認められる制度です)。

在留カードを持たない人、「仮放免許可書」や「監理措置決定通知書」だけを示す人を雇い入れると、不法就労助長罪(入管法73条の2)に問われるおそれがあります。現行の法定刑は3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金またはその併科で、2027年4月1日からは5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金に引き上げられます。確認の方法と企業の責任は不法就労助長罪とは?企業が問われる責任・罰則と防ぐための確認方法で解説しています。

よくある質問

強制送還はなぜできないのですか?

退去強制が確定した人の大半は実際に出国していますが、一部の人は送還できない状態が続きます。主な理由は、難民認定申請中は送還が停止されること、退去を拒む自国民の受取りを拒否する国があること、航空機内で抵抗して搭乗を拒否されることの3つです。2024年6月の改正で、3回目以降の申請者への送還停止効の例外や、罰則付きの退去等命令が設けられました。

強制送還できない国はどこですか?

出入国在留管理庁が2021年12月に公表した資料では、イランが2016年1月以降、護送官付き国費送還を受け入れなくなったと説明されています。改正後の退去等命令は、送還に協力する国として法務大臣が告示で定める国に含まれない国の出身者を対象にしていますが、現在の受入れ状況は国ごとに変わりうるため、最新の状況は現時点で公式資料では確定していません。申請前に出入国在留管理庁または所轄官庁の公式案内をご確認ください。

強制送還される人は毎年何人くらいですか?

2025年に退去強制令書で送還された人は7,563人で、そのうち自費出国が6,677人、護送官なしの国費送還が505人、護送官付きの国費送還が318人でした。出国命令で出国した9,789人を合わせると、1万7,352人が退去強制手続等を経て日本を離れています。

強制送還されたら何年入国できないのですか?

初めて退去強制を受けた人は、原則として退去の日から5年間、日本に上陸できません(入管法5条1項9号ハ)。過去にも退去強制や出国命令を受けたことがある人は10年(同号ニ)、1年以上の拘禁刑に処せられた人などは期間の定めなく上陸を拒否されます(同項4号)。出国命令で出国した人は1年(同号ホ)で、2024年改正で設けられた上陸拒否期間の短縮決定を受けて自費で退去した人も1年です(同号ロ)。上陸拒否期間と上陸特別許可の実例は、再入国をテーマにした別記事で扱っています。

送還を拒むと罰せられるのですか?

帰国を拒むこと自体を一般的に罰する規定はありません。罰則があるのは、退去等命令(55条の2)を受けたのに期間内に退去しなかった場合で、1年以下の拘禁刑もしくは20万円以下の罰金、またはその両方です。命令の対象は、送還に協力しない国の出身者と、送還を妨害したことがある人に限られます。

数字の背後にある「送還の順番待ち」をどう見るか

送還忌避の問題は、「日本の制度が甘い」という一言で片づけられがちですが、統計を追うと、難民として保護すべき人を誤って帰さないという要請と、確定した処分を実行するという要請が、同じ手続の中でぶつかっている構造が見えてきます。改正法は、その衝突を回数と刑期で線引きし、協力しない国と妨害行為には罰則で対応するという、対象を絞った解き方を選びました。

外国人を雇う企業や、身近に送還の手続中の人がいる家族にとって大切なのは、その人が今どの段階にいるかを正確に知ることです。退去強制令書が発付される前か後か、難民認定申請は何回目か、監理措置か仮放免かによって、働けるかどうか、日本に残る手段が残っているかどうかが変わります。在留特別許可の申請の余地があるか、退去強制令書の取消訴訟の期限が残っているかといった判断は、個別の事情で結論が変わるため、手続の途中で専門家に相談してください。処分に対する不服申立ての仕組みは在留資格の不許可に不服申立てはできない?行政不服審査法の適用除外と取消訴訟も参考になります。

根拠資料