上陸拒否事由とは、入管法5条1項が定める「日本に上陸することができない外国人」の類型で、感染症、刑罰歴、薬物・売春、退去強制歴、テロなど公安上の理由の5つの系統に分かれます。このうち期間の定めがあるのは退去強制・出国命令などの歴を理由とする9号だけで、退去強制は原則5年、2回目以降は10年、出国命令は1年です。1年以上の拘禁刑や薬物事犯による刑罰歴には期間の定めがなく、年数が経っても上陸拒否事由に当たり続けます。ただし、5条の2の「上陸の拒否の特例」や12条の上陸特別許可により、上陸拒否事由があっても日本に入国できる場合があります。
上陸拒否事由とは|入管法5条1項の位置づけ
入管法7条1項4号は、上陸のための条件の一つとして「第五条第一項各号のいずれにも該当しないこと」を求めています。上陸審査で入国審査官は、旅券・査証の有効性、活動が在留資格に当たるか、在留期間などとあわせて、この上陸拒否事由に当たらないかを確認します。
上陸拒否事由に当たると、在留資格認定証明書は交付されず、在外公館での査証も発給されません。すでに日本にいる人の場合は、在留資格の変更や更新の審査で問題になることはあっても、上陸拒否事由そのものは「日本に入るとき」の基準です。永住者などが出国して再び戻るときに問題になるのは、この点です。
出入国在留管理庁の発表によれば、2025年に上陸を拒否された外国人は8,546人で、前年から8.5%増えました。理由の内訳は、入国目的に疑義がある事案が7,246人(84.8%)で大半を占め、1年以上の拘禁刑に処せられたことがあるなど上陸拒否事由に該当した事案は505人(5.9%)でした。港別では福岡空港が186人で、成田、羽田、関西、中部に次ぐ5番目です。
入管法5条1項の一覧|5つの系統に分けて読む
5条1項は1号から14号まであり、枝番を含めると20近い類型があります。性質で分けると次のとおりです。
| 系統 | 号 | 内容 | 期間 |
|---|---|---|---|
| 保健・衛生 | 1号 | 一類・二類感染症、新型インフルエンザ等感染症などの患者、新感染症の所見がある者 | 該当する間 |
| 2号 | 精神上の障害により事理弁識能力を欠く者等で、補助者が随伴しない者 | 該当する間 | |
| 3号 | 貧困者、放浪者等で国・地方公共団体の負担となるおそれのある者 | 該当する間 | |
| 刑罰歴・反社会性 | 4号 | 日本または外国の法令に違反して1年以上の拘禁刑またはこれに相当する刑に処せられたことのある者(政治犯罪を除く) | 定めなし |
| 5号 | 麻薬・大麻・あへん・覚醒剤・向精神薬の取締法令に違反して刑に処せられたことのある者 | 定めなし | |
| 5号の2 | 国際競技会・国際会議に関連して暴行等で処罰・退去強制された者で、再び暴行等のおそれのある者 | 該当する間 | |
| 6号・8号 | 麻薬・覚醒剤等、銃砲・刀剣類・火薬類を不法に所持する者 | 該当する間 | |
| 7号・7号の2 | 売春関係業務に従事したことのある者、人身取引等を行った者 | 定めなし | |
| 退去強制歴等 | 9号 | 上陸拒否・退去強制・出国命令の歴がある者で、定められた期間を経過していない者 | 1年・5年・10年 |
| 9号の2 | 在留中に一定の罪で拘禁刑の判決を受け、出国後に確定した者 | 確定から5年 | |
| 10号 | 24条4号オからヨ(テロ・暴力主義的破壊活動など)で退去強制された者 | 定めなし | |
| 公安 | 11号〜14号 | 暴力で政府を破壊することを企てる団体の関係者、日本国の利益・公安を害するおそれがある者 | 該当する間 |
このほか5条2項は、相手国が日本人の上陸を5条1項以外の事由で拒否している場合に、同じ事由で相手国の国民の上陸を拒否できるとしています(相互主義)。
表で「定めなし」とある類型は、年数の経過によって該当しなくなることがありません。4号・5号・7号は「刑に処せられたことのある者」「従事したことのある者」という過去の事実を要件にしているため、一度該当すると、その後の年数では解消されない構造になっています。
刑罰歴による上陸拒否|4号と5号の違い
4号|1年以上の拘禁刑、罰金刑は含まれない
4号は「日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、一年以上の拘禁刑又はこれに相当する刑に処せられたことのある者」です。ここでいう1年以上とは、実際に服役した期間ではなく、判決で言い渡された刑期を指します。外国の裁判所で言い渡された刑も対象で、「これに相当する刑」には外国の懲役刑・禁錮刑などが含まれます。
罰金刑は4号の対象外です。交通事故で罰金刑を受けた人や、1年未満の拘禁刑にとどまった人は、4号には当たりません。2025年6月1日の改正刑法施行で懲役と禁錮が拘禁刑に一本化されたことに伴い、条文の文言も「拘禁刑」に改められていますが、改正前に言い渡された懲役・禁錮も同じく数えられます。
5号|薬物事犯は罰金刑でも対象
5号は、麻薬、大麻、あへん、覚醒剤、向精神薬の取締法令に違反して「刑に処せられたことのある者」です。4号と違って刑期の要件がなく、罰金刑でも該当します。外国での大麻の所持で罰金を科された場合も、その国の法令に違反して刑に処せられたことに変わりはありません。大麻が合法化されている国・州で適法に使用した場合は「法令に違反して」いないため、5号の問題にはなりません。
執行猶予付き判決は該当するか
「刑に処せられた」には、執行猶予付きの判決も含まれます。判決が確定した時点で刑は言い渡されており、実際に刑務所に入ったかどうかは問われません。1年以上の拘禁刑に執行猶予が付いた判決を受けた人は、4号の上陸拒否事由に該当します。
問題になるのは、執行猶予の期間を取り消されずに満了した場合です。刑法27条により刑の言渡しは効力を失いますが、入管実務では、執行猶予期間の満了後も「刑に処せられたことのある者」に当たるとして扱われていると解説されることが多く、その根拠となる公表資料は現時点で公式資料では確定していません。申請前に出入国在留管理庁または所轄官庁の公式案内をご確認ください。いずれにしても、5条の2の特例や上陸特別許可を検討する際には、執行猶予期間を満了していることや、判決からの経過年数が有利な事情として考慮されます。逮捕や起訴と入管手続の関係は外国人が逮捕されたら強制送還?不起訴・執行猶予と入管手続の関係で扱います。
退去強制歴・出国命令歴による上陸拒否期間|9号の6類型
期間の定めがある9号は、次の6類型に分かれます。2024年6月10日施行の改正入管法で、ロとヘが加わりました。
| 9号 | 対象 | 上陸拒否期間 |
|---|---|---|
| イ | 6号(薬物の不法所持)・8号(銃砲刀剣類の不法所持)で上陸を拒否された者 | 拒否された日から1年 |
| ロ | 退去強制され、52条5項の決定を受けて定められた日までに自費で出国した者(短期滞在で上陸しようとする場合を除く) | 退去の日から1年 |
| ハ | 初めて退去強制された者(ロを除く) | 退去の日から5年 |
| ニ | 2回目以降の退去強制など(ロ・ハを除く) | 退去の日から10年 |
| ホ | 出国命令により出国した者(ヘを除く) | 出国した日から1年 |
| ヘ | 違反調査の開始後に出国の意思を表明して出国命令を受けた者が、短期滞在で上陸しようとする場合 | 出国した日から5年 |
ハとニの「退去強制」からは、24条4号オからヨ(テロなど)と4号の3による退去強制が除かれています。これらは10号により期間の定めなく上陸拒否となります。
出国命令は1年、ただし「表明」型は短期滞在で5年
出国命令は、不法残留だけが違反事由で、刑事処分歴や過去の退去強制歴がない人が、自ら出頭するなどした場合に、収容されずに出国できる制度です(24条の3)。出国した日から1年が上陸拒否期間です。
2024年の改正で、違反調査が始まった後でも、違反審査の通知を受ける前に入国審査官や入国警備官に出国の意思を表明すれば、出国命令の対象になるようになりました(24条の3第1号ロ)。この経路で出国した人が短期滞在(観光・親族訪問など)で再来日する場合、上陸拒否期間は1年ではなく5年です(9号ヘ)。自ら出頭した場合(第1号イ)と区別されています。
上陸拒否期間の短縮決定|退去強制でも1年になる場合
2024年の改正では、退去強制令書が発付された人でも、自らの費用で出国する許可(52条4項)を受け、過去に退去強制や出国命令の歴がない場合には、法務大臣が素行や退去強制の理由となった事実などを考慮して、上陸拒否期間を1年とする決定ができるようになりました(52条5項)。これが「上陸拒否期間の短縮決定」です。
出入国在留管理庁の「退去強制手続・出国命令制度・上陸拒否期間の短縮決定Q&A」によれば、短縮決定を受けて出国した人が再び日本に入国するには、在留資格認定証明書の交付を受ける必要があります。そして、「短期滞在」の在留資格で上陸しようとする場合は、上陸拒否期間は5年のままです。短縮決定は、日本人の配偶者として戻るなど、中長期の在留資格で再入国する人のための制度という位置づけです。
上陸拒否期間の長さは、出頭したか摘発されたか、違反調査のどの段階で出国の意思を示したかで大きく変わります。
上陸拒否の特例(5条の2)|上陸拒否事由があっても上陸できる場合
5条の2は、4号、5号、7号、9号、9号の2に該当する特定の事由がある外国人について、法務大臣が相当と認めるときは「当該事由のみによつては上陸を拒否しないこととすることができる」と定めています。これが上陸の拒否の特例です。1号から3号、10号から14号は特例の対象外です。
特例が使われる場面は、入管法施行規則4条の2が定めています。
- 在留資格を持って日本に在留している人が、在留資格の変更・更新、永住許可、在留特別許可などを受けた場合、または再入国許可を受けた場合
- 在留資格認定証明書が交付された場合、または法務大臣と協議のうえで査証が発給された場合で、上陸拒否事由に該当してから相当の期間が経過していることその他の特別の理由があると法務大臣が認めるとき
前者は、日本に在留している間に上陸拒否事由に当たる判決を受けた人が、在留特別許可などで在留を認められた後に出国しても、戻るたびに上陸を拒否されないようにするための規定です。後者は、海外にいる人について、在留資格認定証明書の審査の段階で特例を適用するものです。特例が認められると、本人に所定の様式の通知書が交付されます。
上陸特別許可(12条)|上陸審査の段階で認められる例外
5条の2の特例とは別に、入管法12条は、上陸の条件に適合しない外国人であっても、法務大臣が上陸を特別に許可できる場合を定めています。再入国の許可を受けている場合、人身取引等により他人の支配下に置かれて日本に入った場合、その他法務大臣が特別に上陸を許可すべき事情があると認める場合です。
上陸特別許可は、空港での上陸審査で上陸拒否事由に該当するとされ、口頭審理を経て異議を申し出た場合に、法務大臣の裁決として判断されます。日本人の配偶者や子がいる、日本に生活の基盤があるといった事情が考慮されますが、許可されるかは個別の事情で判断が変わり、事前に予測できる基準は公表されていません。退去強制された人の再入国の可能性は強制送還された外国人は再入国できる?上陸拒否期間と上陸特別許可の実例で扱います。
よくある質問
上陸拒否期間は無期限ですか?
9号に該当する場合は1年・5年・10年の期間があり、期間が過ぎれば9号には当たらなくなります。一方、1年以上の拘禁刑(4号)、薬物事犯(5号)、売春関係業務(7号)、テロ等による退去強制(10号)には期間の定めがなく、事実上無期限です。これらの人が日本に入国するには、5条の2の特例か12条の上陸特別許可を受ける必要があります。
オーバーステイの上陸拒否期間は?
自ら出頭して出国命令を受けた場合は1年、摘発されて初めて退去強制された場合は5年、2回目以降は10年です。退去強制でも、2024年改正の短縮決定を受けて定められた日までに自費出国した場合は1年になりますが、短期滞在で再来日する場合は5年のままです。
罰金刑でも上陸拒否事由になりますか?
一般の犯罪では、罰金刑は4号(1年以上の拘禁刑)に当たらないため、上陸拒否事由になりません。薬物事犯は5号により罰金刑でも該当します。罰金刑で上陸拒否事由にならなくても、査証や在留資格認定証明書の審査で素行として考慮されることはあります。
上陸拒否の特例とは何ですか?
入管法5条の2に基づき、4号・5号・7号・9号・9号の2の事由がある人について、法務大臣が相当と認める場合に、その事由だけを理由には上陸を拒否しないとする制度です。在留特別許可や再入国許可を受けた人、在留資格認定証明書が交付され相当期間が経過している人などが対象になります。
上陸拒否期間が過ぎれば必ず入国できますか?
入国できるとは限りません。期間が過ぎても、査証や在留資格認定証明書の審査、上陸審査では過去の違反歴が考慮されます。在留資格認定証明書が交付されない場合の考え方は在留資格認定証明書が不交付になる理由とは?で解説しています。
呼び寄せを考える前に、該当する号と期間の起算日を特定する
家族や社員を日本に呼ぼうとして、その人に過去の退去強制歴や刑罰歴があると分かったとき、最初にすべきことは、5条1項のどの号に当たるかを特定することです。9号であれば、起算日(退去の日、出国した日)と期間から、いつ上陸拒否期間が明けるかを計算できます。4号・5号・7号であれば期間の経過では解消しないため、5条の2の特例か上陸特別許可を前提にした準備になります。
判決書の写しや退去強制時の書類、出国命令書など、事実と日付を示す資料は、本人の手元にしか残っていないことがほとんどです。申請の可否を判断する前に、まずこれらの資料を集めてください。不許可になった場合に争う方法は在留資格の不許可に不服申立てはできない?で解説しています。