育成就労の外国人1人を3年間受け入れる費用は、福岡県の最低賃金(2026年10月4日から時間額1,114円)で雇う前提で筆者が試算すると、賃金と会社負担の社会保険料を含めて約980万円、そのうち賃金以外の上乗せ費用は約200万円です。同じ前提で試算した技能実習(約172万円)より約30万円増えるのは、本人が送出機関に払う費用に「月給の2か月分」という上限が設けられ、超える分を受入れ側が持つ仕組みになったことと、日本語講習・試験の費用を企業が負担する義務が加わったことによります。以下、費用を項目ごとに分け、誰が負担するのかを「育成就労制度 運用要領」(出入国在留管理庁・厚生労働省、2026年4月、同年8月一部改正)に沿って整理します。
育成就労の費用は「誰が払うか」で4つに分かれる
育成就労制度は2027年4月1日に施行されます。費用の話を始める前に、登場する機関を確認しておきます。受入れ企業は運用要領上「育成就労実施者」と呼ばれ、技能実習の監理団体に当たるのが「監理支援機関」です。本人は母国の送出機関を通じて来日するのが一般的です。
費用を負担者で分けると、次の4つになります。
| 区分 | 主な費目 | 負担者 |
|---|---|---|
| 企業が直接払う費用 | 賃金、社会保険料、計画認定・在留手続の手数料、寮の初期費用 | 企業 |
| 監理支援機関経由で払う費用 | 監理支援費(職業紹介費・講習費・監査指導費・その他諸経費) | 企業(本人負担は禁止) |
| 本人が送出機関に払う費用 | 送出手数料、渡航前の講習費、健康診断など | 本人(月給2か月分まで)、超える分は受入れ側 |
| 本人から徴収できる費用 | 食費、居住費、光熱費などの実費 | 本人(合意+実費の範囲) |
このうち、技能実習と比べて企業の負担が増えるのは、3つ目の超過分と、日本語教育・試験に関わる費用です。制度全体でどんな負担が増えるかの整理は育成就労制度のデメリットとは?受入れ企業が負う費用と事務負担を運用要領で整理で扱っています。
送出機関の手数料|本人負担は月給の2か月分まで
育成就労外国人が送出機関に支払った費用の額は、育成就労計画に記載された報酬の月額に2を掛けた額を超えないこと、というのが計画認定の基準です(育成就労法施行規則21条)。ここでいう報酬の月額は所定内賃金で、残業代は含みません。時給制・日給制なら、時給×1日の所定労働時間×1か月の平均所定労働日数で月額を出して比べます。
上限の対象は名目を問いません。運用要領は、送出手数料・職業紹介費、健康診断費用、技能・資格検定費、日本語講習費、国内移動の旅費・宿泊費、渡航費、旅券・査証申請費用、一般管理費を例に挙げ、送出機関が本人の配偶者や親族から受け取る場合も対象になるとしています。
数字で置き換えると、福岡県最低賃金1,114円×月173時間で月給192,722円なら、本人が払える上限は385,444円です。出入国在留管理庁の「技能実習生の支払い費用に関する実態調査」(2022年7月26日公表)では、技能実習生が来日前に送出機関等へ払った費用の平均は54万2,311円、ベトナムは68万8,143円でした。この水準の費用が育成就労でも必要になるなら、上限との差額、平均額で約16万円、ベトナムの平均額で約30万円は、企業か監理支援機関が負担することになります。
ここで重要なのは、上限は送出費用そのものを下げる規制というより、上限を超えた分の支払者を本人から受入れ側に付け替える規制だという論点です。送出機関の費用の内訳を見積もりの段階で出してもらい、超過分がいくらになるかを採用前に確定させておくことが、費用管理の出発点になります。企業は、本人が払った額が上限内であることを、送出機関が発行した領収書などで確認する必要もあります。
監理支援費|実費が上限で、本人に負担させてはいけない
監理支援費は、監理支援機関が企業から受け取る費用で、職業紹介費、講習費、監査指導費、その他諸経費の4種類に限られ、いずれも実費を超えない額とされています(規則56条)。運用要領は、この監理支援費を直接にも間接にも本人に負担させてはならないとしています。入国前講習の費用を本人が「講習費」として送出機関に払う形も、間接的な負担に当たる例として挙げられています。
監理支援費に法令上の上限額はありません。実費の範囲で、監理支援機関ごとに金額が決まります。技能実習の監理費と同じく、月額で請求される監査指導費等が総額の中で最も大きくなりやすい費目です。監理支援機関は、用途と金額を明示して監理支援費を徴収することが法律上の義務(法28条)なので、内訳を示さない機関は候補から外してよいと筆者は考えます。監理支援機関の選び方と許可要件は育成就労の監理支援機関とは?監理団体との違いと許可要件・手数料で解説しています。
入国と帰国の費用も、企業側が負担する構造は技能実習と同じです。入国後講習中は業務に従事させられず、食費や居住費に本人負担があればそれと同等以上の講習手当を支払います。育成就労終了後の帰国旅費は、監理型では監理支援機関の負担とされており、実際には監理支援費として企業に請求されます。
日本語講習と試験の費用|企業負担が義務になった
技能実習にはなかった費用が、日本語教育と試験に関わるものです。
1つ目は入国後講習の長さです。就労開始前にA1相当(日本語能力試験N5、JFT-Basicなど)の試験に合格していない場合、入国後講習は320時間以上(A1相当講習100時間を含む)、合格していれば220時間以上です。講習期間が長くなれば、講習費と講習手当が増え、現場に入るまでの期間も延びます。
2つ目はA2相当目標講習です。企業は、本人がA2相当の日本語試験を受けるまでに、本人の希望に応じて100時間以上の講習を受講させる場合、その講習費用を負担し、受講の環境を整えなければなりません。受講時間を労働時間として扱うことは義務ではないと、出入国在留管理庁の育成就労制度Q&Aは説明しています。
3つ目は試験です。1年目までに受ける試験と、育成就労の目標として定める技能検定等・日本語試験の受験料、交通費、材料費は、本人に負担させてはならず、企業または監理支援機関が負担します。受験に要する時間は労働時間に当たるとされ、欠勤扱いや有給休暇での受験は認められません。
これらの費用には公定の額がなく、講習機関と試験によって異なります。下の試算では仮の額を置いています。
3年間の総額試算|福岡県の最低賃金で受け入れる場合
ここからは筆者の試算です。技能実習の費用を試算した技能実習生の受け入れ費用はいくら?初期費用・監理費の内訳と3年間の総額試算と同じ前提を使い、育成就労で変わる部分だけを差し替えています。
- 賃金:福岡県最低賃金1,114円×月173時間=月192,722円。入国後講習の1か月を除く35か月分。昇給・賞与・残業代、2027年度以降の最低賃金改定は含めない
- 会社負担の社会保険料:賃金の15%と仮定
- 監理支援費:月35,000円と仮定(技能実習の監理費+送出管理費の公表例に合わせた)。配属後35か月分
- 初期費用:36万円(技能実習の公表相場の中央値の合計。寮の初期費用は含めない)
- 送出費用の超過分:本人の送出費用を54万円(2022年実態調査の平均)と置き、上限385,444円との差額約15.5万円を受入れ側負担とする
- 日本語講習・試験:A2相当目標講習の費用10万円、技能検定・日本語試験の受験料等5万円と仮定
- 手数料:育成就労計画の認定手数料6,100円、在留期間更新を2回(各1年・窓口33,000円)
- 帰国旅費:6万円
| 費目 | 3年間の額 |
|---|---|
| 賃金(35か月) | 約674.5万円 |
| 会社負担の社会保険料 | 約101.2万円 |
| 監理支援費(35か月) | 122.5万円 |
| 初期費用 | 36万円 |
| 送出費用の超過分 | 約15.5万円 |
| 日本語講習・試験 | 15万円 |
| 計画認定・在留手続の手数料 | 約7.2万円 |
| 帰国旅費 | 6万円 |
| 合計 | 約977.9万円 |
賃金と社会保険料を除いた上乗せ費用は約202.2万円で、1か月あたり約5.6万円です。 技能実習の同じ試算(約171.9万円)との差は約30万円で、ほぼ送出費用の超過分と日本語講習・試験の費用で説明できます。
注意点が2つあります。1つは、報酬は日本人が従事する場合と同等以上が要件なので、最低賃金ぎりぎりの設定を前提にした予算は計画認定の段階で説明がつかない場合があることです。もう1つは、送出費用の水準が国によって大きく違うことです。ベトナムの平均額(68.8万円)で置き換えると、超過分は約30万円に増え、上乗せ費用は約217万円になります。
転籍の費用|受け入れた側が転籍元に補填する
育成就労の費用を考えるうえで技能実習と最も違うのが、本人の意向による転籍(本人意向転籍)です。転籍先の企業は、転籍元の企業が受入れにあたって支出した初期費用の一部を、転籍元に補填しなければなりません。補填額は、主務大臣が告示で定める額に、転籍元での育成就労期間に応じた按分率を掛けた額(1,000円未満切り捨て)です。
| 転籍元での育成就労期間 | 按分率 |
|---|---|
| 1年以上1年6か月未満 | 6分の5 |
| 1年6か月以上2年未満 | 3分の2 |
| 2年以上2年6か月未満 | 2分の1 |
| 2年6か月以上 | 4分の1 |
2回目の本人意向転籍では、1回目に転籍元へ補填した額に、別の按分率(5分の3、10分の3、8分の3)を掛けます。基準となる告示額は、2026年9月29日時点で出入国在留管理庁の告示一覧・運用要領のいずれでも金額を確認できませんでした(公式資料では未確認)。
転籍先は、補填額を支払うことを新たな育成就労計画の認定申請で誓約し、認定後6か月以内に支払いを証明する書類を外国人育成就労機構に提出します。誓約に反して払わなければ、虚偽申請として計画の認定取消しの対象になり得ます。転籍元の側は、補填を受けるために、受入れに要した費用の領収書等を保管しておく必要があります。転籍の要件と流出を防ぐ対策は育成就労の転籍とは?で扱っています。
試算の36万円の初期費用に照らすと、1年半以内に転籍された場合、告示額次第では初期費用の一部しか戻らない可能性があります。育成就労では、定着させること自体が費用の回収手段になっていると言い換えられます。
本人から徴収できる費用とその上限
食事、宿泊施設、日用品の提供に要する実費は監理支援費に含まれず、本人と合意したうえで徴収できます。ただし運用要領は細かい上限を置いています。借上げの社宅なら、家賃・管理費・共益費などの定期的な費用を入居人数で割った額以内で、敷金・礼金・仲介手数料・更新料・保証委託料は本人負担に含められません。自己所有の寮なら、建設費用、耐用年数、入居人数、近隣の類似物件の相場などから算出した合理的な額に限られます。光熱費は実費を同居者数で割った額です。
本人が転籍を選べる制度の下では、寮費の設定は費用の回収だけでなく、定着率に直結します。回収できる上限まで取るかどうかは、近隣で同じ分野の外国人を受け入れている企業の水準と比べて決める経営判断になります。
よくある質問
育成就労の受け入れ費用はいくらですか?
公定の額はありません。筆者の試算では、福岡県最低賃金で3年間受け入れる場合、賃金・社会保険料込みで約980万円、賃金以外の上乗せ費用は約200万円(月あたり約5.6万円)です。監理支援費の月額と、送出費用の超過分の2つで総額が大きく変わります。
育成就労の転籍費用は誰が負担するのでしょうか?
本人意向転籍の場合、転籍先の企業が、転籍元の企業に初期費用の一部を補填します。本人が負担するものではありません。額は告示額×按分率で、告示額は現時点で公式資料では確定していません。申請前に出入国在留管理庁または所轄官庁の公式案内をご確認ください。やむを得ない事情による転籍で転籍元に初期費用がかかっていない場合などは、補填は不要とされています。
送出機関の手数料は本人がいくらまで払えますか?
育成就労計画に記載された報酬月額の2か月分までです。月給20万円なら40万円が上限で、それを超える送出費用は企業か監理支援機関が負担します。名目は問われず、健康診断や渡航費、日本語講習費も合算して判断されます。
育成就労の入国後講習費用は誰が払いますか?
入国後講習の費用は監理支援費の講習費として、企業が監理支援機関に払うのが基本で、本人に負担させることはできません。講習期間中に本人から食費・居住費を取る場合は、同等以上の講習手当を支払う必要があります。
見積もりを比べるときの3つの確認点
育成就労の費用は、賃金を除けば「監理支援費の月額」「送出費用の超過分」「日本語講習・試験」の3つでほぼ決まります。複数の監理支援機関から見積もりを取るときは、監理支援費を4つの区分で出してもらうこと、送出機関の費用総額と本人負担の上限との差額を明示してもらうこと、A2相当目標講習をどの機関がどの形式で行い、費用がいくらかを確認すること、の3点で比べると差が見えます。
もう一つの視点は、費用の回収を転籍の補填に頼らないことです。告示額が確定していない現時点では、補填で初期費用をどこまで取り戻せるかは読めません。昇給や寮費、日本語学習の支援を含めて「転籍されない条件」を作ることが、結果として最も安い受入れ方になると筆者は考えます。制度の全体像は【2027年4月施行】育成就労制度とは?で確認できます。個別の事情で判断が変わるため、見積もりの妥当性に迷うときは申請前に専門家へ相談してください。
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根拠資料
- 育成就労制度 運用要領(出入国在留管理庁・厚生労働省・2026年4月、同年8月一部改正)
- 育成就労制度の関係省令等について(出入国在留管理庁)
- 育成就労制度の制度概要・関係法令(出入国在留管理庁)
- 技能実習生の支払い費用に関する実態調査について(結果の概要)(出入国在留管理庁・2022年7月26日)
- 令和8年度の福岡県最低賃金の改正決定について答申が行われました(福岡労働局・2026年8月10日)
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