外国人労働者のトラブルのうち、会社が罰則や受入れ停止を受ける形で跳ね返ってくるのは、失踪、在留資格の範囲外の業務、留学生などのアルバイト時間の超過、税金・社会保険の未納、賃金・労働時間の違反の5つの類型です。言葉や文化の違いによる行き違いは多くの記事で取り上げられていますが、法的な責任が生じるのは、ほとんどの場合この5類型のどれかに行き着いたときです。この記事では、類型ごとに「何が起きるか」「原因はどこにあるか」「会社は何を防げるか」を、入管法・技能実習法の条文と、出入国在留管理庁・厚生労働省が公表している数字から整理します。
トラブルが企業の責任になる5つの類型
最初に全体像を示します。ここでいう「トラブル」とは、外国人本人と会社の間の揉め事にとどまらず、在留資格の更新不許可、刑事罰、受入れの停止など、法的な不利益に発展するものを指します。
| 類型 | 本人に起きること | 会社に起きること | 主な根拠 |
|---|---|---|---|
| 失踪(行方不明) | 在留資格の取消し、不法残留 | 技能実習計画・特定技能の受入れが1年間止まる | 技能実習法施行規則12条、特定技能基準省令2条 |
| 在留資格の範囲外の業務 | 更新不許可、資格外活動罪 | 不法就労助長罪 | 入管法19条・70条・73条・73条の2 |
| アルバイトの時間超過 | 更新不許可、退去強制 | 不法就労助長罪 | 入管法19条・24条4号イ・73条の2 |
| 税金・社会保険の未納 | 更新・永住の不許可 | 特別徴収・資格取得の手続き漏れの責任 | 在留期間更新許可のガイドライン、地方税法 |
| 賃金・労働時間の違反 | 未払い賃金、転職・失踪の誘因 | 労基法違反、技能実習の認定取消し、特定技能の欠格 | 労基法、最低賃金法、技能実習法16条 |
類型によって重さはかなり違います。会社への影響が大きいものから順に、厚く扱うものと軽く触れるものを分けて説明します。
事例1:技能実習生・特定技能外国人の失踪
数字で見る失踪の規模
出入国在留管理庁の2026年7月の速報値によると、2025年に失踪した技能実習生は3,950人で、前年から39.3%減りました。3か月以内に所在が確認できた人を除くと2,881人です。失踪率は0.6%で、国籍別ではベトナムが2,593人と最も多く、福岡県では163人でした。減ってはいるものの、毎年数千人の規模で起きている現象です。
会社に起きること|1年間の受入れ停止
失踪が会社にとって重いのは、次の受入れが止まる点です。技能実習法施行規則12条1項は、技能実習計画の認定基準として、過去1年以内に、実習実施者または監理団体の責めに帰すべき事由で行方不明者を出していないことを求めています。特定技能でも、特定技能基準省令2条1項3号が、受入れ機関の責めに帰すべき事由による行方不明者を1年以内に出していないことを受入れの基準にしています。
「責めに帰すべき事由」があるかどうかは、賃金の不払い、長時間労働、パスポートの取り上げといった会社側の問題があったかで判断されます。本人の事情だけによる失踪であれば直ちに受入れが止まるわけではありませんが、失踪が起きた時点で、会社の労務管理が点検されることになります。
原因はどこにあるか
失踪の背景としてよく挙げられるのは、来日前に送出機関などに払った手数料による借金、聞いていた賃金と実際の手取りの差、残業の少なさや多さ、職場での暴言です。どれも入国前の説明と入国後の実態のずれから生じています。
会社が防げるのは、このずれの部分です。
- 雇用条件書で示した額と、控除後の手取りの見込みを、母国語で説明しておく
- 寮費・光熱費などの控除額を実費の範囲にとどめ、根拠を示す
- 旅券・在留カードを会社で預からない(技能実習法48条1項は保管を禁止し、本人の意思に反する保管は同法111条5号で6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金。特定技能では取り上げる行為が「不正又は著しく不当な行為」に当たり、5年間の欠格事由になる)
- 監理団体・登録支援機関の面談とは別に、社内で相談を受ける担当者を決めておく
失踪が起きたときの届出の手順は技能実習生が失踪したら?企業がすべき届出と新規受入れ停止などのペナルティで扱っています。特定技能の場合の扱いは特定技能外国人が行方不明になったらで解説しています。
事例2:在留資格の範囲外の業務をさせてしまう
典型的な場面
最も多いのは、「技術・人文知識・国際業務」(技人国)で採用した社員に、現場の単純作業を常態的にさせてしまうケースです。通訳として採用した社員を人手不足の工場ラインに回す、ホテルのフロント担当を客室清掃に専従させる、飲食店の本部スタッフを店舗の調理・接客に張り付ける、といった形で起こります。
在留資格は、許可された活動の範囲でしか働けない仕組みです。入管法19条1項は、許可された活動に属しない収入を伴う活動を禁じています。本人が悪意なく会社の指示に従っただけでも、次の更新申請で職務内容を説明した段階で問題が表に出ます。入管庁が公表している技人国の不許可事例にも、申請時の職務内容と実際の業務が違っていたために更新が認められなかった例が複数含まれています。
会社に起きること|不法就労助長罪
在留資格の範囲外の就労は、本人にとって資格外活動になり、会社にとっては不法就労助長罪(入管法73条の2)の対象になります。法定刑は現在3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金またはその併科で、2027年4月1日からは5年以下・500万円以下に引き上げられます。
見落とされやすいのが、同条2項の規定です。外国人が不法就労に当たることを「知らなかった」ことを理由に処罰を免れることはできず、例外は「過失のないとき」に限られます。在留カードを確認していなかった、職務内容と在留資格の関係を調べていなかった、という場合は、過失がないとは言いにくくなります。
防ぐための確認
人員配置を変えるときは、変更後の業務が在留資格の範囲に入るかを、配置の前に確認することです。技人国の社員に一時的に現場を経験させる研修は、審査要領上、採用当初の実務研修として一定の条件で認められていますが、期間と内容の計画が必要です。どこまでが許されるかは技術・人文知識・国際業務でやらせてはいけない業務とは?で詳しく扱っています。
事例3:留学生・家族滞在のアルバイト時間の超過
留学生や家族滞在の外国人は、資格外活動許可を受けて、原則として週28時間以内でアルバイトができます。この「週28時間」は、どの曜日から数えても28時間以内でなければならず、掛け持ちしている場合は全部の勤務先の合計で数えます。
時間を超えた場合、本人は在留期間の更新や、卒業後の就職のための在留資格の変更で不許可になることがあります。資格外活動は入管法73条で1年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金、専ら行っていると明らかに認められる場合は70条1項4号で3年以下・300万円以下となり、24条4号イの退去強制事由にも当たります。雇っていた会社も、超過を知りながら働かせれば不法就労助長罪の対象です。
入管庁の統計では、2025年に退去強制手続等を執った1万8,442人のうち、不法就労の事実が認められたのは1万3,435人(72.9%)でした。不法就労の多くは不法残留者によるものですが、資格外活動の時間超過もこの中に含まれます。
防ぐ手段は単純で、採用時に他の勤務先の有無を申告させ、勤務時間を週単位で管理することです。本人の自己申告だけに頼ると、掛け持ち先の時間を把握できません。
事例4:住民税・社会保険の未納で更新が不許可になる
在留期間の更新では、税金と社会保険料をきちんと納めているかが確認されます。入管庁の「在留資格の変更、在留期間の更新許可のガイドライン」(2026年6月改正)は、考慮する事項として、納税義務がある場合には「当該納税義務を履行していること」を挙げ、あわせて雇用・労働条件が労働関係法規に適合していることも求めています。
会社員の場合、給与からの天引き(特別徴収)が正しく行われていれば、本人の滞納はほとんど起きません。問題になるのは次のような場面です。
- 入社1年目の住民税を普通徴収のまま放置し、本人が納付書を理解できずに滞納する
- 転職の間に国民健康保険・国民年金への切替えをせず、未加入期間ができる
- 会社側が社会保険の資格取得の手続きをしていない
3つ目は会社自身の違反で、外国人だからといって加入が免除されることはありません。更新や永住の申請で納付状況の証明書を取った段階で未納が判明すると、そこから納付しても、審査では滞納の事実そのものが評価の対象になります。
社会保険料の未納が更新にどう響くかは社会保険料の滞納は在留資格の更新に影響する?で詳しく解説しています。
事例5:賃金・労働時間の違反
厚生労働省が2025年9月26日に公表した令和6年の監督指導の結果では、技能実習生を受け入れている事業場1万1,355か所のうち8,310か所(73.2%)で、特定技能外国人を受け入れている事業場5,750か所のうち4,395か所(76.4%)で、労働基準関係法令の違反が見つかっています。多いのは労働時間、安全基準、割増賃金の支払いに関する違反です。
外国人労働者の場合、賃金や労働時間の違反は、労基法違反にとどまらず在留制度上の不利益に連動します。技能実習では、労働関係法令の違反が技能実習計画の認定取消し(技能実習法16条)につながり得ます。厚生労働省は2026年7月28日に、実習実施者14者の認定取消しを公表しました。特定技能では、労働関係法令の違反で罰金刑を受けると受入れ機関の欠格事由になります。
「日本人の同僚と同じ扱いにしている」という会社でも、固定残業代の計算、寮費の控除額、休日出勤の割増率などで違反が見つかることがあります。外国人労働者の給与は最低賃金を守るだけでは足りず、在留資格ごとに日本人と同等以上の報酬であることが求められる点も押さえておく必要があります。
見落とされやすい手続き上のトラブル
5類型ほど重くはないものの、放置すると罰則がある手続きもあります。
- 在留カードの確認漏れ:採用時に在留カードの有効性を確かめていないと、偽造カードや期限切れに気づけない。入管庁の「在留カード等番号失効情報照会」と「在留カード等読取アプリ」で確認できる
- 外国人雇用状況の届出:雇入れ・離職のときにハローワークへ届け出る義務があり、怠ると30万円以下の罰金。届出の内容は入管の審査でも参照される(外国人雇用状況の届出とは?)
- 特定技能の随時届出:雇用契約の変更・終了などは14日以内に届け出る。雇用契約に関する届出を怠ると30万円以下の罰金(入管法71条の4第1号)
在留カードの偽造は、入管法73条の3で1年以上10年以下の拘禁刑という重い罪です。会社が偽造と知らずに雇った場合も、確認を怠っていれば不法就労助長罪の「過失」が問題になります。
トラブルの原因を整理すると
5類型を並べると、原因は大きく2つに分かれます。
1つは、制度の知識の不足です。在留資格ごとの活動範囲、28時間の数え方、住民税の仕組みは、外国人本人も、受け入れる現場の管理職も、正確には知らないことが多い分野です。
もう1つは、入国前・採用前の説明と実態のずれです。賃金の手取り、業務内容、残業の量が説明と違えば、不満は転職や失踪という形で表に出ます。
言葉や文化の違いは、この2つを増幅させる要素として働きます。やさしい日本語や母国語での説明、相談窓口の設置が対策として勧められるのは、そのためです。
よくある質問
外国人労働者のトラブルの解決策は?
トラブルが起きてからの解決より、類型ごとに予防の仕組みを作るほうが確実です。失踪には条件説明と相談窓口、資格外業務には配置変更前の在留資格の確認、時間超過には週単位の勤怠管理、税・社会保険の未納には特別徴収と資格取得手続きの確認、賃金違反には給与計算の点検が対応します。起きてしまった場合は、監理団体・登録支援機関・入管への届出の期限を先に確認してください。
外国人労働者が起こしやすいトラブルの例は?
入管法に関わるものとしては、在留期限の管理漏れ、アルバイトの時間超過、住居地や所属機関の届出忘れが多くあります。ただ、統計で見ると、失踪や不法就労の背景には、賃金や労働時間など受入れ側の問題が含まれていることが少なくありません。「外国人が起こすトラブル」と捉えるより、「受入れの仕組みの穴から起きるトラブル」と捉えたほうが、対策を立てやすくなります。
不法就労と知らずに雇っていた場合も罰せられますか?
入管法73条の2第2項により、知らなかったことを理由に処罰を免れることはできません。例外は過失がない場合だけです。在留カードの確認、失効情報照会、在留資格と業務内容の照合をしていれば、過失がないと主張する根拠になります。
外国人労働者のトラブルの原因は?
主に、在留資格や税・社会保険の制度に関する知識の不足と、採用前の説明と入社後の実態のずれです。言葉や文化の違いはそれ自体が原因というより、説明不足や誤解を大きくする要素として働きます。
外国人雇用のトラブルは「採用時の確認」でほとんど防げる
5つの類型を振り返ると、どれも発生の起点は採用時か配置変更時にあります。在留カードと在留資格の確認、業務内容と在留資格の照合、雇用条件の母国語での説明、社会保険と住民税の手続き。この4つを採用時に確実に行い、配置や条件を変えるたびにもう一度確認する。筆者は、外国人雇用のトラブル対策はこの繰り返しに尽きると考えています。
2027年4月には、不法就労助長罪の法定刑の引上げと、技能実習から育成就労への移行が同時に始まります。受入れの制度が変わる時期は、社内のルールを見直すよい機会です。個別の事案で責任がどこまで及ぶかは事情によって判断が変わるため、トラブルが起きたときは、届出の期限を過ぎる前に専門家に相談してください。
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根拠資料
- 出入国管理及び難民認定法(e-Gov法令検索)
- 外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(e-Gov法令検索)
- 令和7年の出入国在留管理業務の状況(出入国在留管理庁)
- 在留資格の変更、在留期間の更新許可のガイドライン(出入国在留管理庁・2026年6月改正)
- 外国人雇用状況の届出について(厚生労働省)
- 在留カード等番号失効情報照会(出入国在留管理庁)
- 国籍別の失踪者数(令和3年〜令和7年)速報値(出入国在留管理庁・2026年7月)
- 外国人技能実習生又は特定技能外国人を使用する事業場に対して行った令和6年の監督指導、送検等の状況(厚生労働省・2025年9月26日)
- 特定技能雇用契約及び一号特定技能外国人支援計画の基準等を定める省令(e-Gov法令検索)
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