不法滞在と思われる外国人の情報は、出入国在留管理庁の「情報受付」(メールフォーム)か、最寄りの地方出入国在留管理官署に伝えます。「5万円もらえる」と言われる報奨金は、入管法66条が定める報償金のことで、通報をきっかけに退去強制令書が発付されたときに限り、1件につき1,000円以上5万円以下の範囲で法務大臣が交付できる、という仕組みです。通報すれば必ず受け取れるお金ではありません。この記事では、通報の窓口と報償金の条件を条文で確認したうえで、自社の社員が不法滞在だと分かった会社が何をどの順番でするかを整理します。
不法滞在の通報先は入管の「情報受付」と最寄りの地方入管
出入国在留管理庁は、不法滞在・偽装滞在の外国人に関する情報を一般から受け付ける窓口として「情報受付」のページを設けています。提供方法は次の2つです。
- 電子メール:入管庁ウェブサイトの情報受付フォームから送信する(土曜・日曜・祝日と年末年始はメールのみ受付)
- 地方出入国在留管理官署への連絡:電話や窓口で、最寄りの地方局・支局・出張所に伝える
九州では福岡出入国在留管理局(福岡市中央区舞鶴3-5-25 福岡第1法務総合庁舎)と各県の出張所が窓口になります。場所や管轄は福岡出入国在留管理局への行き方と九州各県の管轄にまとめています。
入管庁は同じページで、不法滞在・偽装滞在の情報提供は「公益通報窓口」ではなくこの情報受付を使うよう案内しています。また、情報提供者の氏名などの個人情報や情報内容が外部に漏れないよう管理していること、外国人に対する誹謗中傷は受け付けないこと、調査状況の問い合わせには応じないことも明記しています。匿名で送れるかどうかについてページ上に明示の記載はありませんが、報償金を受け取る可能性を残したいなら、連絡先を伝えておかないと入管側から通報者を特定できません。
警察に伝えることもできます。入管法違反(不法残留)は刑事罰の対象でもあるため、警察が捜査の過程で把握し、入管に引き継ぐ流れもあります。ただ、後で説明する報償金は入管法62条1項の通報を前提にしているので、報償金の対象になるのは入国審査官または入国警備官に対する通報です(同条5項)。
報奨金は最大5万円|退去強制令書の発付が条件
検索でよく見かける「報奨金」「謝礼」「5万円」は、法律上は「報償金」と呼ばれます。根拠は次の2つの条文です。
入管法66条は、「第六十二条第一項の規定による通報をした者がある場合において、その通報に基いて退去強制令書が発付されたときは、法務大臣は、法務省令で定めるところにより、その通報者に対し、五万円以下の金額を報償金として交付することができる」と定めています。これを受けた入管法施行規則60条は、報償金の額を「一件につき千円以上五万円以下」としています。
条文から読み取れる条件を整理すると、次の3点になります。
- 通報が入管法62条1項に基づくもの、つまり退去強制事由(入管法24条各号)に当たると思われる外国人についての通報であること
- その通報に基づいて退去強制令書が発付されたこと
- 通報が国または地方公共団体の職員が職務上知った事実に基づくものではないこと(66条ただし書)
ここで重要なのは2つ目の条件です。退去強制令書は、違反調査・違反審査を経て退去強制が確定した段階で主任審査官が発付する書面です。通報した外国人が自ら出国を希望して出国命令の対象になった場合や、在留特別許可を受けた場合は、退去強制令書が発付されないため、条文上は報償金の対象外になります。金額も「5万円以下」であって、5万円が定額で支払われるわけではありません。66条は「交付することができる」という書き方なので、交付するかどうか自体も法務大臣の判断に委ねられています。
報償金の交付件数や実際の平均額は、入管庁のページや統計では公表されていません。(公式資料では未確認)
茨城県の報奨金制度(2026年5月開始)とは対象が違う
2026年に入って「不法就労の通報で報奨金」というニュースが増えたのは、茨城県が独自の制度を始めたためです。報道によれば同県は2026年5月11日から「不法就労通報報奨金制度」の運用を始めました。国の報償金と混同されやすいので、違いを表にします。
| 項目 | 国(入管法66条) | 茨城県の制度 |
|---|---|---|
| 通報の対象 | 退去強制事由に当たると思われる外国人 | 不法就労助長罪の疑いがある事業者等 |
| 通報先 | 入管の情報受付・地方入管 | 県の「不法就労情報提供システム」のみ |
| 支払条件 | 通報に基づき退去強制令書が発付された | 事業者等の不法就労助長罪での逮捕につながった情報など |
| 金額 | 1件1,000円以上5万円以下 | 原則1万円 |
茨城県のページ(2026年7月22日更新)は、外国人労働者個人に関する通報は受け付けないこと、見た目や国籍など労働者個人の属性だけを理由とする通報は断ること、不法就労助長罪以外の罪で摘発された場合や逮捕に至らなかった場合は報奨金の対象外であることを明記しています。つまり県の制度が狙っているのは、不法滞在者本人ではなく、不法就労をさせている雇用主の側です。
外国人を雇う会社にとっては、こちらのほうが直接関係します。在留資格の確認を怠ったまま雇っていれば、従業員や取引先からの通報で、会社側が摘発の対象になりうるからです。
通報された外国人はどうなるか|違反調査から退去強制・出国命令まで
通報を受けた入管は、入国警備官による違反調査を行います。容疑が固まれば収容令書による収容か監理措置に付され、入国審査官の違反審査、特別審理官の口頭審理、法務大臣への異議の申出という段階を経て、退去強制が確定すると退去強制令書が発付されます。この流れは公式案内をご確認ください。
一方、本人が自ら入管に出頭した場合は、要件を満たせば出国命令制度(入管法24条の3)の対象になります。出国命令で出国した場合、上陸拒否期間は1年で、退去強制の場合の原則5年(再度の退去強制なら10年)より短くなります。出頭先は8局(札幌・仙台・東京・名古屋・大阪・広島・高松・福岡)と3支局(横浜・神戸・那覇)で、出頭から出国までおおむね2週間とされています。
日本人と結婚している、日本で育った子どもがいるなどの事情がある場合は、在留特別許可を申請する道もあります。2025年の在留特別許可は申請2,424件に対して許可1,026件、不許可1,233件でした。通報で摘発されるより、本人が出頭したうえで申請するほうが、ガイドライン上は積極要素として評価されます。
不法滞在の通報は義務か|一般の人・公務員・雇用主の違い
入管法62条1項は「何人も、第二十四条各号のいずれかに該当すると思料する外国人を知つたときは、その旨を通報することができる」と定めています。一般の人にとって、通報は権利であって義務ではありません。
義務になるのは公務員です。同条2項は、国または地方公共団体の職員が職務の遂行中に不法滞在などの外国人を知ったときは「通報しなければならない」と定めています。市区町村の窓口職員などがこれに当たります。ただし、通報によって本来の行政目的(子どもの就学や医療の提供など)が果たせなくなる場面の扱いには議論があり、職員が常に通報しているわけではありません。この運用の具体的な基準は公表資料で確認できていません。(公式資料では未確認)
雇用主には、入管法上の通報義務はありません。ただし、不法滞在と知りながら働かせ続ければ不法就労助長罪(入管法73条の2)に当たります。現行の法定刑は3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(併科あり)で、2027年4月1日からは5年以下・500万円以下に引き上げられます。同条2項は、在留資格がないことを知らなかったとしても、過失がないときを除いて処罰を免れないと定めています。罪の成立要件と確認方法は不法就労助長罪とは?企業が問われる責任・罰則と防ぐための確認方法で解説しています。
雇用主にとっての本当の論点は「通報するかどうか」より、「気づいた時点で就労をどう止めるか」にあります。
自社の社員が不法滞在だと分かったときに会社がとる順序
在留期限が過ぎていた、在留カードが偽造だった、就労できない在留資格だった。社内でこうした事実が分かったときに、会社が進める順番は次のとおりです。
- 事実を確認する。在留カードの有効期限と在留資格を確認し、入管庁の在留カード等番号失効情報照会でカード番号の有効性を確かめます(照会の手順は在留カード等番号失効情報照会の使い方|採用時に有効性を確認する方法)。更新申請中であれば、在留期間の満了日から2か月以内は特例期間として適法に在留しているので、申請受付票の有無を本人に確認します。
- 就労を止める。不法滞在が確定したら、その日から仕事をさせないようにします。気づいた後も働かせれば、「知らなかった」という主張は通りません。
- 賃金を精算する。すでに働いた分の賃金は、在留資格の有無にかかわらず支払います。労働基準法は国籍や在留資格で適用を分けていないため、未払いにしてよい理由にはなりません。
- 本人に出頭を勧める。自ら出頭すれば出国命令や在留特別許可の申請という選択肢が残ります。会社が付き添う義務はありませんが、出頭先や必要なもの(旅券、帰国の航空券など)を伝えることはできます。
- 届出をする。雇用関係が終わるなら、ハローワークへの外国人雇用状況届出(離職)を出します。この届出は入管の審査でも使われます(外国人雇用状況の届出と入管審査)。
- 入管に相談する。会社として入管に事実を伝えるかどうかは、この段階で判断します。取引先や元請けから説明を求められることもあるので、確認の経緯と日付を記録に残しておきます。
在留期限を過ぎた直後で、本人が期限の管理を誤っていただけという場合もあります。日本人の配偶者がいる、長く日本で暮らしているといった事情があれば、在留特別許可の見込みも変わります。個別の事情で判断が変わるため、解雇や出頭の前に一度専門家に相談することをお勧めします。
退職手続全般は外国人社員が退職・解雇したら?企業に必要な届出と手続きを参照してください。
通報する前に確かめたいこと|誤通報と差別への配慮
入管庁の2026年1月1日現在の集計では、不法残留者は6万8,488人で、前年の7万4,863人から8.5%減りました。在留資格別では短期滞在が4万1,607人、技能実習が9,323人、特定活動が7,306人です。数字の上では、観光などの短期滞在で入国してそのまま残る人が6割を占めます。
一方で、外見や言葉だけで在留資格の有無は分かりません。永住者、定住者、日本人の配偶者等のように就労制限のない在留資格で暮らす外国人も多く、特例期間中の人や、在留特別許可の申請中の人もいます。入管庁が誹謗中傷を受け付けないと明記し、茨城県が属性だけを理由とする通報を断っているのは、こうした誤通報が実際に起こりうるからです。
筆者は、通報を考える場面では「退去強制事由に当たると思う根拠が具体的にあるか」を一度書き出してみることを勧めています。在留期限が過ぎた在留カードを見た、本人から期限切れだと聞いた、といった具体的な事実があれば情報として意味を持ちます。噂や見た目だけであれば、入管にとっても調査の手がかりになりません。
よくある質問
不法滞在者を通報するといくらもらえますか?
入管法66条と施行規則60条により、通報に基づいて退去強制令書が発付された場合に、1件につき1,000円以上5万円以下の報償金が交付されることがあります。退去強制令書が出なければ対象外で、額も上限5万円の範囲で決まります。茨城県の制度(原則1万円)は、不法就労をさせた事業者の逮捕につながった情報が対象で、国の制度とは別物です。
不法滞在の外国人はどこに通報すればよいですか?
出入国在留管理庁の情報受付フォーム(メール)か、最寄りの地方出入国在留管理官署です。九州なら福岡出入国在留管理局と各県の出張所が窓口です。報償金の根拠になる通報は、入国審査官または入国警備官に対するものとされています。
不法滞在者が通報されたらどうなりますか?
入国警備官の違反調査が始まり、容疑が固まれば収容または監理措置に付されたうえで、違反審査などの手続を経て退去強制令書が発付されます。本人が摘発前に自ら出頭していれば、出国命令(上陸拒否1年)や在留特別許可の申請という別の道が残ります。
不法滞在の外国人を見つけたら通報する義務はありますか?
一般の人にはありません(入管法62条1項は「通報することができる」)。国や地方公共団体の職員が職務中に知った場合は通報義務があります(同条2項)。雇用主に通報義務はありませんが、知りながら働かせ続けると不法就労助長罪に当たります。
通報したことが相手に知られることはありますか?
入管庁は、情報提供者の個人情報や情報内容が外部に漏れないよう管理していると明記しています。茨城県の制度は、通報者の情報が警察に提供される場合があるとしています。
通報より先に、在留カードを確かめる仕組みを
不法滞在の通報と報償金は、一般の人から見れば「情報を伝えれば謝礼が出る制度」に見えます。ただ、外国人を雇う会社から見た場合、同じ制度は「従業員や取引先が会社を通報できる制度」でもあります。茨城県の報奨金制度が雇用主を対象にしたのは、その向きをはっきりさせたものです。
会社が備えるべきなのは、通報の手順より、採用時と在留期限の前に在留カードを確かめる手順です。採用時に在留カードの表裏と失効情報を確認し、在留期限の3か月前に本人と更新の予定を話し合う。この2つを社内の決まりにしておけば、「気づいたら不法滞在だった」という事態の大半は防げます。
根拠資料
- 情報受付(出入国在留管理庁)
- 出入国管理及び難民認定法 第24条・第62条・第66条・第73条の2(e-Gov法令検索)
- 出入国管理及び難民認定法施行規則 第60条(e-Gov法令検索)
- 本邦における不法残留者数について(令和8年1月1日現在)(出入国在留管理庁)
- 不法就労に関する情報の通報について(茨城県・2026年7月22日更新)
- 茨城県、不法就労通報の報奨金制度5月11日から開始(日本経済新聞)
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