退去強制令書とは、入管法の退去強制手続で退去強制が確定したときに、主任審査官が発付する令書で、外国人を国外へ送還する法的な根拠になるものです。発付されると、入国警備官は本人に令書を示して速やかに送還しなければならず(入管法52条)、直ちに送還できないときは収容か監理措置の下に置かれます。発付の時点で在留特別許可の申請の機会は閉じ、処分を争う手段は、処分を知った日から6か月以内に起こす取消訴訟にほぼ限られます。この記事では、令書が出る3つのタイミング、発付後に起きること、争うときの期限と裁判所を、条文の順に整理します。
退去強制令書とは何か|収容令書との違い
退去強制の手続では、名前の似た2つの令書が出てきます。ここでいう収容令書とは、退去強制事由に当たる疑いがある外国人を、違反調査と審査のあいだ施設に収容するための令書です(39条)。これに対して退去強制令書は、審査の結果として退去強制が決まった後に、送還を実行するための令書です。
| 項目 | 収容令書 | 退去強制令書 |
|---|---|---|
| 発付の時期 | 違反調査の段階(退去強制事由に当たると疑うに足りる理由があるとき) | 退去強制が確定したとき |
| 目的 | 審査のあいだの身柄確保 | 国外への送還の執行 |
| 収容の期間 | 30日以内、やむを得ない場合は30日延長(41条) | 送還可能のときまで(上限の定めなし) |
| 収容に代わる措置 | 監理措置(44条の2)、仮放免 | 監理措置(52条の2)、仮放免 |
| 在留特別許可の申請 | できる | できない |
いちばん大きな違いは最後の行です。在留特別許可の申請は、収容令書による収容か監理措置の決定を受けたときから、退去強制令書が発付されるまでの間に限られています(50条)。令書の発付は、日本に残るための行政上の手続が終わったことを意味します。
令書には、退去強制を受ける人の氏名・年齢・国籍、退去強制の理由、送還先、発付の年月日などが記載され、主任審査官が記名押印します(51条)。送還先が令書に書かれる点は、後で述べる送還先の問題と関わります。
発付の要件|令書が出る3つのタイミング
退去強制令書は、主任審査官が思い立って出すものではありません。入管法は、手続のどの段階で本人が争うのをやめたか、または争いが尽きたかに応じて、令書を「速やかに」発付しなければならない場面を定めています。
1. 入国審査官の認定に服したとき(47条5項)
違反審査で入国審査官が退去強制事由に当たると認定し、本人が口頭審理を請求せずに認定に服した場合です。47条5項は、次のいずれかに当たるとき、主任審査官は速やかに令書を発付しなければならないとしています。
- 在留特別許可の申請をしない旨を記載した文書に署名したとき
- 認定に服した日から3日以内に在留特別許可の申請をしないとき
- 在留特別許可の申請を取り下げたとき、または不許可になったとき
この「3日以内」は、2024年6月10日施行の改正入管法で、令書の発付を左右する最も短い期限になりました。 家族や雇用の事情を在留特別許可で主張したい人が、認定の告知を受けてから準備を始めても、3日では間に合わないことがほとんどです。申請の手順は在留特別許可申請の方法|申請書・必要書類・流れと「3日以内」の期限で詳しく扱っています。
2. 特別審理官の判定に服したとき(48条)
認定に不服があって口頭審理を請求し、特別審理官が認定に誤りがないと判定した場合に、本人が異議の申出をせずに判定に服したときです。48条は47条5項と同じ3つの場面を準用しており、ここでも在留特別許可の申請の有無と結果が令書の発付に結びつきます。
3. 法務大臣が異議の申出を棄却したとき(49条)
判定に不服があって法務大臣に異議を申し出たものの、理由がないと裁決された場合です。裁決の通知を受けた主任審査官は、本人にその旨を知らせるとともに、在留特別許可の申請をしていない場合などに令書を発付します。
3つのどの段階で発付されても、令書の効力は同じです。違いは、発付に至るまでに本人がどこまで争ったかと、その過程で在留特別許可の判断を受けたかどうかにあります。手続全体の流れは公式案内をご確認ください。
発付後に起きること|送還・収容・監理措置
令書が発付された後の流れは、52条が定めています。
原則は「速やかな送還」
入国警備官は、退去強制を受ける人に令書またはその写しを示して、速やかに送還先に送還しなければなりません(52条1項・3項)。送還の方法は、本人が航空券を用意する自費出国、運送業者の負担による送還、国の費用による送還(国費送還)の3つです。
自費出国は、主任審査官の許可を受けて本人が自ら出国する方法で、入管庁は、有効な旅券と、送還先まで搭乗できる航空券(または航空券を買えるだけの所持金)が必要だと説明しています。2025年に退去強制令書で送還された7,563人のうち、6,677人が自費出国でした(入管庁「令和7年の出入国在留管理業務の状況」)。多くの人は、令書の発付後に自ら出国しています。
直ちに送還できないとき|収容か監理措置か
旅券がない、航空便の手配が必要、本人が帰国を拒んでいるなどの理由で直ちに送還できないときは、送還可能のときまで入国者収容所や地方局の収容場に収容できます(52条5項)。2024年の改正で、主任審査官は収容するか監理措置に付すかを個別に判断する仕組みになりました(52条の2)。
発付後の監理措置は、逃亡のおそれや不法就労のおそれなどを考慮して、監理人の監督の下で施設の外で生活させる制度です。ここで注意すべきなのは、発付前の監理措置と違い、発付後の被監理者には報酬を受ける活動の許可が用意されていないことです。監理措置決定通知書には「就労の禁止」が記載されます。仮放免(54条)も、健康上・人道上の理由などで一時的に収容を解く制度で、働くことは認められていません。
送還できないことが明らかになった場合には、住居や行動範囲の制限などの条件を付けて放免する規定もあります(52条6項)。
送還を拒む人への措置
2024年の改正では、送還を拒み続ける人への措置も設けられました。主任審査官は、旅券の発給申請など送還に必要な行為を本人に命じることができ(52条12項)、送還に協力しない国の出身者や、過去に送還を妨害した人には、期限を定めて日本から退去するよう命じる退去等命令を出せます(55条の2)。命令に違反した場合は1年以下の拘禁刑もしくは20万円以下の罰金、またはその両方です(72条7号)。
2025年末時点で、令書が発付されても送還に応じていない人(送還忌避者)は3,369人と公表されています。送還忌避者が増えた背景は入管庁の業務状況の公表資料で説明されています。
送還先はどう決まるか(53条)
送還先は、原則として本人の国籍または市民権の属する国です(53条1項)。国籍国に送還できない場合は、本人の希望により、日本に入国する直前に住んでいた国、それ以前に住んでいたことのある国、出生地のある国などに送還されます(53条2項)。入管庁は、相手国が受入れを認めなければ送還できないと説明しています。
一方で、53条3項は、難民条約33条1項の国(迫害を受けるおそれのある国)、拷問等禁止条約3条1項の国、強制失踪条約16条1項の国を送還先に含まないと定めています。ノン・ルフールマン原則と呼ばれる考え方で、難民認定や補完的保護対象者の認定の結果と密接に関わります。
難民認定の申請中は、原則として送還が停止されます(61条の2の9第3項)。ただし2024年6月10日以降は、3回目以降の申請者や、一定の犯罪歴のある人などは、申請中でも送還できる例外が設けられました(同条4項)。令書の発付後に難民認定の申請をしている人は、自分がこの例外に当たるかどうかで、送還の時期の見通しが大きく変わります。
取消訴訟の期限と管轄|「知った日から6か月」
退去強制令書の発付処分に不服がある場合、行政不服審査法による審査請求はできません。外国人の出入国に関する処分は同法の適用除外とされているからです。争う手段は、裁判所に処分の取消しを求める取消訴訟になります。
出訴期間は、処分があったことを知った日から6か月以内、処分の日から1年以内です(行政事件訴訟法14条1項・2項)。処分をする行政庁は、処分の相手方に出訴期間などを書面で教示しなければならないとされており(同法46条)、令書の交付時に教示の書面を受け取るのが通常です。
取消訴訟では、令書の発付処分と一緒に、その前提となった裁決や、在留特別許可をしない処分の取消しを求めることが多くなります。在留特別許可の不許可に理由がないと考える場合は、令書の発付処分だけを対象にしても主張の中心が届かないことがあるため、どの処分を対象にするかの見極めが重要です。在留に関する処分と不服申立ての関係は在留資格の不許可に不服申立てはできない?行政不服審査法の適用除外と取消訴訟でも解説しています。
九州で提訴するなら福岡地裁
訴訟の被告は国で、管轄は東京地方裁判所のほか、原告の住所地を管轄する高等裁判所の所在地の地方裁判所にも認められています(行政事件訴訟法12条4項)。九州・沖縄に住む人は福岡高等裁判所の管轄区域に入るため、福岡地方裁判所に訴えを起こすことができます。
訴訟を起こしても送還は止まらない
取消訴訟を起こしただけでは、令書の執行は止まりません(行政事件訴訟法25条1項)。送還を止めるには、執行停止の申立てをして裁判所の決定を得る必要があります(同条2項)。実務では、令書のうち送還の部分と収容の部分を分けて執行停止が判断されることがあります。送還されてしまうと、訴訟を続ける意味(訴えの利益)が争点になるため、提訴と執行停止の申立ては同時に準備するのが通常です。
令書が出た後に在留の道は残っているか
法律上の在留特別許可の申請は、令書の発付後はできません(50条)。入管庁の「在留特別許可に係るガイドライン」も、令書の発付後に生じた事情は原則として考慮しないとしています。
それでも、発付後に日本人と結婚した、重い病気が判明した、といった事情の変化が起きることはあります。このとき実務では「再審情願」と呼ばれる申出がされることがありますが、法律に根拠のある手続ではなく、入管が応じる義務もありません。取消訴訟の出訴期間が残っているかどうか、難民認定や補完的保護の申請の余地があるかどうかを先に確認するのが筋です。どの手段が残っているかは個別の事情で判断が変わるため、令書を受け取った段階で弁護士など専門家に相談してください。
送還された後の再入国には上陸拒否期間の問題があります。退去強制された人は、原則として送還から5年間(過去にも退去強制や出国命令を受けたことがある人は10年間)、日本に上陸できません(5条1項9号)。拒否期間中でも、法務大臣の上陸特別許可が認められる余地はあります。
雇用している会社が知っておくべきこと
社員や元社員に退去強制令書が出たと知った会社にとって、判断の基準は1つです。令書の発付後は、収容されていても、監理措置や仮放免で外にいても、働かせることはできません。在留カードを持たず、仮放免許可書や監理措置決定通知書だけを示す人を雇えば、不法就労助長罪(入管法73条の2。現行3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金、2027年4月1日から5年以下・500万円以下)に問われるおそれがあります。成立要件は不法就労助長罪とは?企業が問われる責任・罰則と防ぐための確認方法で解説しています。
一方で、未払いの給与や退職金、社会保険や住民税の精算は、送還後も会社と本人の間に残ります。本人が収容される前後は連絡がつきにくくなるため、振込先や送還後の連絡先を早めに確認しておくと、後の手続が滞りません。
よくある質問
退去強制令書は誰が発付するのですか?
地方出入国在留管理局などの主任審査官です。入国審査官の認定、特別審理官の判定、法務大臣の裁決のいずれかで退去強制が確定し、在留特別許可の申請がない、または不許可になった場合に発付されます。
退去強制令書が出たらすぐに送還されますか?
原則として速やかに送還されますが、旅券や航空券の準備が必要な場合、送還先の国が受け入れない場合、難民認定の申請中で送還が停止されている場合などは、すぐには送還されません。その間は収容されるか、監理措置や仮放免の下で生活します。
退去強制令書発付処分の取消訴訟はいつまでに起こせますか?
処分があったことを知った日から6か月以内、かつ処分の日から1年以内です。訴訟を起こしても送還は自動的には止まらないため、執行停止の申立ても合わせて検討します。
退去強制と出国命令の違いは何ですか?
出国命令は、オーバーステイの人が自ら出頭するなどの要件を満たした場合に、収容されずに出国できる制度で、上陸拒否期間は1年です。退去強制は令書に基づいて送還され、上陸拒否期間は原則5年です。
退去強制者は自費出国できますか?
できます。主任審査官の許可を受けて、有効な旅券と航空券(または購入できる所持金)を用意すれば、自費で出国できます。2025年に退去強制令書で送還された人の9割近くが自費出国でした。
令書を受け取った日から、残された期限を数える
退去強制令書は、手続の終わりであると同時に、いくつかの期限の始まりでもあります。取消訴訟の6か月、執行停止を申し立てるまでに送還されないための時間、そして難民認定の申請中なら送還停止の例外に当たるかどうか。令書を受け取った本人や家族にとって、最初にすべきことは、この3つを日付で確かめることです。
もう1つ押さえておきたいのは、令書の前の段階で打てた手が、令書の後ではほとんど打てなくなるという構造です。在留特別許可の申請は発付の前まで、認定に服した後の猶予は3日。手続の途中にいる人ほど、令書が出る前に動くことの意味が大きくなります。
根拠資料
- 出入国管理及び難民認定法 第5条・第39条・第41条・第47条〜第55条の2・第61条の2の9・第72条・第73条の2(e-Gov法令検索)
- 行政事件訴訟法 第12条・第14条・第25条・第46条(e-Gov法令検索)
- taikyoqa.html”>退去強制手続と出国命令制度Q&A(出入国在留管理庁)
- 令和7年の出入国在留管理業務の状況(出入国在留管理庁)
- 令和7年における入管法違反事件について(出入国在留管理庁)
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