外国料理の調理師(コック)を技能ビザで呼ぶには、その料理の調理について10年以上の実務経験が必要です。外国の調理学校などでその料理を専攻した期間は10年に含められますが、日本の飲食店で特定技能やアルバイトとして働いた期間は基本的に含められません。
審査で最も時間を使うのは、この10年を書類で示す作業です。入国・在留審査要領は、在職証明書を所属機関の名称、所在地、電話番号が記載されたものに限ると定め、中国人の場合は戸口簿と職業資格証明書の写しまで挙げています。あわせて、日本で受け入れる店の側に、その技能を必要とする業務が本当にあるかも決算書から確認されます。
この記事でわかること
- 技能ビザ(第1号)の対象になる料理と職種
- 実務経験10年に含められる期間・含められない期間
- 在職証明書に必ず載せるべき3項目と、中国人調理師の公的証明
- 日本の受入れ店側が審査される項目
- 提出書類と審査にかかる日数
対象になる料理と職種
上陸基準省令の技能の第1号は、「料理の調理又は食品の製造に係る技能で外国において考案され我が国において特殊なものを要する業務に従事する者」を対象としています。審査要領は、具体的な職種を次のように示しています。
中国料理、フランス料理、インド料理等の調理師や「点心」、パン、デザート等の食品を製造する調理師やパティシエ等がこれに該当する。
出典:入国・在留審査要領 第12編(開示版)第18節 18-2
ここでいう「特殊なもの」とは、外国で生まれ、日本では一般的な調理技術では再現できない料理や食品を指すと読めます。国名が付いた料理であることだけで足りるわけではなく、熟練を要する技能であることが前提です。審査要領は技能の活動を、特別な技能や判断を必要としない機械的な作業から区別しています(18-1)。調理補助や仕込みだけを担当する人は、経験年数が長くても対象になりにくいと考えてください。
ワイン鑑定等(第9号)に当たるソムリエは、第1号からは除かれます。また、18-2の下部から18-3の上部にかけての「留意事項」の本文は黒塗りで、調理師についてどのような運用上の注意が書かれているかは開示版からは読めません。
実務経験10年の数え方
第1号の要件は、当該技能について10年以上の実務経験を持つことです。この10年には、外国の教育機関で当該料理の調理や食品の製造に係る科目を専攻した期間が含まれます(18-2)。
| 期間の種類 | 10年に含めるか | 根拠 |
|---|---|---|
| 外国のレストラン等で調理師として働いた期間 | 含める | 18-2 |
| 外国の教育機関でその料理の調理を専攻した期間 | 含める | 18-2 |
| 教育機関(夜間学部を除く)に在籍中のアルバイト | 含めない | 1-16 |
| 日本で特定技能・技能実習として働いた期間 | 基本的に含めない | 15-11〜15-12 |
専攻期間を数えるときに確認すべきなのは、その学校が「外国の教育機関」に当たるかどうかです。審査要領は、その国の学校教育制度に照らして正規の教育機関として認定され、原則として義務教育を終えた後に入学するものを指すとしています(1-14〜1-16)。民間の短期講座や店内の研修は、この定義に当たりません。
特定技能等の経験の扱いは、技人国の節に書かれています。審査要領は、特定技能・技能実習の活動で得た経験を上陸基準省令の実務経験とは基本的に評価しないとし、その考え方を技能にも同様に当てはめています(15-11〜15-12)。外食業の特定技能で数年働いた人を、そのまま技能の調理師に切り替える計画は立てにくいということです。実務経験の数え方の全般は就労ビザの実務経験年数の数え方|アルバイト・インターンは職歴に入るかで整理しています。
筆者は、申請の前に経歴を月単位の年表にするようお願いしています。複数の店で働いた人は、在職期間が重なっていたり、店と店の間に空白があったりすることが珍しくありません。重なった期間を二重に数えると、10年に届いていないのに届いているように見えてしまいます。空白期間は、それだけで不許可になるわけではありませんが、説明を求められる前提で準備します。
在職証明書に必ず載せる3項目
在職証明書(勤務先が発行する、在籍期間と業務内容を証する文書)は、10年の立証の中心になる書類です。審査要領は、10年以上の実務経験の確認方法を次のように定めています。
所属していた機関からの在職証明書(所属機関の名称、所在地及び電話番号が記載されているものに限る。)等で、申請に係る技能を要する業務に従事した期間を証する文書(外国の教育機関において当該業務に係る科目を専攻した期間を含む。)
出典:入国・在留審査要領 第12編(開示版)第18節 18-8〜18-9
ここで重要なのは、名称・所在地・電話番号の3項目がそろっていない証明書は、形式の段階で立証資料として扱われないという論点です。電話番号まで求めているのは、入管が勤務先に問い合わせて真偽を確かめることを想定しているからだと読めます。出入国在留管理庁の「調理師としての活動を行おうとする場合」のページも、同じ条件を明記しています。
3項目のほかに、筆者は次の内容も証明書に入れてもらうようにしています。
- 在職期間(年月日まで)
- 担当した料理の種類と職位(例:四川料理の調理師、点心担当の料理長など)
- 発行者の氏名・役職と、発行日
「調理スタッフ」「従業員」といった書き方では、その期間に熟練を要する調理に従事していたかが読み取れません。審査要領が求めているのは「申請に係る技能を要する業務に従事した期間」の証明なので、何の料理をどの立場で作っていたかまで書かれていることが望まれます。
中国人調理師の場合:戸口簿と職業資格証明書
公的機関が発行する証明書がある場合は、その写しも立証資料になります。審査要領は、中国人の場合として戸口簿と職業資格証明書を挙げています(18-9。開示版のOCRでは「戸口等」と読める箇所ですが、公表資料の記載から戸口簿と読み替えています)。出入国在留管理庁のページも、中華料理人について戸口簿と職業資格証明書を挙げています。在職証明書の記載と、戸口簿や資格証明書の内容が食い違わないかを、提出前に突き合わせてください。
経歴の記載に誤りが見つかったときの対応も、この段階で決めておきます。当事務所が扱った案件に、次のようなものがありました。
経歴に誤りがあったケース
経歴の記載に、詐称と受け取られても仕方がない誤りがあった案件です。事情を隠さず説明したところ、許可が出ました。後から発覚するより、申請の段階で経緯を示すほうが審査官に事情が伝わります。
※上記は当事務所で取り扱った実際の相談内容をもとにしていますが、個別の状況により結果は異なります。同様の結果を保証するものではありません。
受入れ店の側も審査される
調理師本人の経歴が十分でも、受け入れる店の側に問題があれば許可は出ません。審査要領は、在留資格を決定する際に次の点を確認するとしています(18-8〜18-9)。
- 業務内容を証明する所属機関の文書により、技能の活動を行うものであること
- 日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上であること
- 勤務先の沿革、役員、組織、事業内容(主要取引先と取引実績を含む)が記載された資料または登記事項証明書と、直近年度の決算文書により、勤務先に申請人の技能を要する業務があること
最後の項目は、店の規模や売上から見て、その外国料理の専門調理師を必要とする業務が成り立っているかを見るものです。雇用契約書や業務内容の説明書で、担当する料理、メニューに占める割合、厨房での役割を具体的に書いておくと、審査官が業務の実在を確認しやすくなります。報酬は、同じ厨房の日本人調理師と比べられる前提で決めてください。
報酬の決め方
技能の上陸基準は、日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上であることを求めています(18-2)。審査要領の全般事項は、報酬の月額を、賞与等を含めた1年間の総額の12分の1で計算するとしています。また、通勤手当、扶養手当、住宅手当などの実費弁償の性格を持つもの(課税対象となるものを除く)は報酬に含めないとしています(第1節 1-3〜1-4)。寮を無償で提供していることや食事を出していることを理由に基本給を低くする設計は、この考え方と合いません。
金額の一律の基準はなく、自社の賃金体系と同業他社の同種職種の賃金を参考に判断されます(1-3)。日本人の調理師がいない店では、同じ地域の同種の飲食店の水準や、店内で職責が最も近い日本人従業員の給与と比べて説明することになります。
提出書類のチェックリスト
出入国在留管理庁の「調理師としての活動を行おうとする場合」のページが挙げる主な書類は次のとおりです。
- 業務内容を証明する文書と、労働条件を明示する書面
- 履歴書
- 在職証明書等(名称・所在地・電話番号の記載があるもの。専攻期間を含める場合はその証明)
- 公的機関の証明書の写し(中華料理人は戸口簿と職業資格証明書)
- 事業内容を明らかにする資料、直近年度の決算書(新規事業の場合は事業計画書)
- 派遣の場合は、派遣先での活動内容を明らかにする資料
- 「所属機関の代表者に関する申告書」(カテゴリー3・4の機関。令和8年4月15日以降の申請から)
代表者申告書は、代表者が日本人・特別永住者か、それ以外かにチェックし、それ以外なら氏名(英字)と在留カード番号を書く様式です。事実と異なる内容は虚偽申請と判断されうる旨が書かれ、作成者は所属機関の職員に限られています。
審査にかかる日数と、特定技能「外食業」の状況
出入国在留管理庁が公表した令和8年7月許可分の平均では、技能の在留資格認定証明書の交付まで90.6日かかっています。技人国の49.8日と比べると、ほぼ倍です。海外から呼び寄せる場合は、開店や繁忙期から逆算して4か月以上前に申請の準備を始めるのが現実的です。
調理人材の確保では、特定技能「外食業」も選択肢になりますが、令和8年4月13日から在留資格認定証明書の交付が一時停止されています。経緯は特定技能「外食業」の新規受入れ停止|2026年4月13日以降に飲食店が取るべき対応を解説で解説しています。外国料理の専門調理師で10年の経歴が証明できる人なら、技能ビザは受入れ上限の影響を受けない選択肢です。技能ビザ全体の要件は技能ビザとは?対象職種・実務経験10年の要件と技人国との違いを審査要領で解説、タイ料理人の5年特例はタイ料理人の技能ビザ特例|日タイEPAで実務経験5年を参照してください。
黒塗りで読めない部分
審査要領の「応用・資料編」には「上陸許可基準第1号」の項目がありますが、本文は18-13の下部から18-14の上部までほぼ全面が黒塗りです。調理師の審査について、内部でより細かな基準や確認方法が定められている可能性があります。公開されている基準だけで判断できない部分が残るので、経歴の証明に不安がある場合は、書類を厚めに用意する方向で考えるのが安全です。
よくある質問
Q. 日本料理の調理師は技能ビザの対象になりますか?
対象になりません。第1号の対象は「外国において考案され我が国において特殊なもの」の料理の調理や食品の製造です。審査要領は中国料理、フランス料理、インド料理などの調理師や、点心・パン・デザートを作る調理師、パティシエを例に挙げています。
Q. 調理学校に通った期間は10年に含められますか?
外国の教育機関で、その料理の調理や食品の製造に係る科目を専攻した期間は含められます。外国の教育機関とは、その国の学校教育制度で正規と認められ、原則として義務教育終了後に入学する学校を指します。
Q. 在職証明書は自由な書式でよいですか?
書式の指定はありませんが、審査要領は所属機関の名称、所在地、電話番号が記載されたものに限るとしています。この3項目が欠けた証明書は、実務経験の立証資料として扱われない前提で準備してください。
Q. 以前働いていた店が閉店していて在職証明書が取れません。
そのままでは10年の立証が欠けることになります。公的機関の証明書(中国人の場合は戸口簿や職業資格証明書)など、ほかに経歴を裏づける資料がないかを確認し、足りない期間の説明を組み立てる必要があります。個別の判断になるため、申請前に専門家に相談してください。
最初にやること:経歴の年表と在職証明書の点検
候補者が決まったら、まず職歴を月単位の年表にし、各勤務先の名称、所在地、電話番号がそろった在職証明書を取れるかを確かめてください。閉店した店や連絡の取れない店が含まれている場合は、その期間を除いても10年に届くか、公的機関の証明書で補えるかを検討します。そのうえで、受入れ店の決算書と業務内容の説明、報酬の比較資料を準備します。来日後の更新で見られる点は技能ビザの更新で見られること|勤務実態と調理師の職務内容にまとめています。
根拠資料
- 入国・在留審査要領 第12編(開示版)第18節「技能」18-1(熟練と単純作業の区別)、18-2(第1号 調理師。留意事項は黒塗り)、18-8〜18-9(審査のポイント)、18-13〜18-14(上陸許可基準第1号。ほぼ全面黒塗り)
- 同 第1節「全般事項」1-3〜1-4(報酬)、1-14〜1-16(外国の教育機関・実務経験)
- 同 第15節「技術・人文知識・国際業務」15-11〜15-12(特定技能等の経験の扱い)
- 出入国在留管理庁「調理師としての活動を行おうとする場合」https://www.moj.go.jp/isa/applications/status/skilledlabor01.html
- 出入国在留管理庁「所属機関の代表者に関する申告書(参考様式)」https://www.moj.go.jp/isa/content/001460262.pdf
- 出入国在留管理庁「在留審査処理期間(令和8年7月許可分)」https://www.moj.go.jp/isa/applications/resources/nyuukokukanri07_00140.html