通勤手当・扶養手当・住宅手当のうち、実費弁償の性格を持つものは就労ビザの「報酬」に入りません。入国・在留審査要領は、報酬を「一定の役務の給付の対価として与えられる反対給付」と定義しています。そのうえで、実費弁償の性格を有するものは「課税対象となるものを除く」として含めないと定めています(第12編(開示版)1-3)。
報酬の月額は、毎月の給与明細の額面で見るものではありません。賞与等を含めた1年間の報酬総額を12で割った額が、審査上の月額です。賞与がある会社では月給だけで比べるより高くなり、手当の比重が大きい会社では額面より低くなります。
給与の組み方しだいで、同じ総支給額でも「日本人と同等額以上」を満たすかどうかの見え方が変わります。採用条件を決める人事担当者と、自分の条件を確かめたい外国人本人の両方に向けて、計算の手順と手当ごとの扱いを整理します。
この記事でわかること
- 就労ビザの報酬月額を「年額の12分の1」で計算する方法と計算例
- 通勤手当・住宅手当・扶養手当・残業代・賞与の扱いの一覧
- 「課税対象となるものを除く」という括弧書きの読み方
- 特定技能の寮費・水道光熱費の控除と報酬の関係
- 労働条件通知書で手当の内訳をどう書けば審査で説明しやすいか
報酬月額は「年額÷12」で計算する
就労系の在留資格の多くは、基準省令(上陸許可基準を定めた法務省令)で「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬」を求めています。対象は経営・管理(管理者)、研究、教育、技術・人文知識・国際業務(以下、技人国)、企業内転勤、介護、興行、技能、特定技能です。その報酬を月額で見るときの計算方法を、審査要領は次のように定めています。
審査要領ではこう書かれている
報酬の月額は、賞与等を含めた1年間従事した場合に受ける報酬の総額の12分の1で計算する。
出典:入国・在留審査要領 第12編(開示版)第2章第1節第2「報酬」1(1-3)
たとえば、月給22万円で賞与が年2回・合計44万円の場合、年額は264万円+44万円=308万円です。これを12で割った約25.7万円が、審査上の報酬月額になります。賞与のない会社で月給25万円の人と比べると、月給の額面では負けていても、審査上の月額ではほぼ並びます。
興行の「月額20万円以上」という要件も、同じ計算方法で判断されます(1-3)。金額の下限が条文にあるのは興行くらいで、技人国や特定技能には一律の金額基準はありません。比べる相手は自社で同じ仕事をする日本人で、その比べ方は就労ビザの「日本人と同等額以上の報酬」とは|審査要領に一律の金額基準がない理由と比べ方で扱っています。
何が「報酬」に入るのか
審査要領は、報酬を「一定の役務の給付の対価として与えられる反対給付」と定義しています(1-3)。ここでいう反対給付とは、働いたことへの見返りとして支払われるものを指します。逆に、働いたことへの見返りではなく、仕事のためにかかった費用を埋め合わせる性格のもの、つまり実費弁償は、報酬から外れます。
審査要領ではこう書かれている
報酬とは、「一定の役務の給付の対価として与えられる反対給付」をいい、通勤手当、扶養手当、住宅手当等の実費弁償の性格を有するもの(課税対象となるものを除く。)は含まない。
出典:入国・在留審査要領 第12編(開示版)第2章第1節第2「報酬」2(1-3)
公表資料も同じ整理です。「技術・人文知識・国際業務」の在留資格の明確化等について(令和8年4月改定)は、通勤・扶養・住宅手当等の実費弁償的なもの(課税対象を除く)は報酬に含めないとしています。高度人材ポイント制Q&A(Q7・Q8)は、報酬には基本給・勤勉手当・調整手当等を含み、賞与も含む一方、通勤・扶養・住宅手当等の実費弁償は含まず、超過勤務手当も含まないと説明しています。
手当ごとの扱い一覧
| 支給項目 | 報酬に入るか | 根拠・注意点 |
|---|---|---|
| 基本給 | 入る | 役務の対価そのもの |
| 賞与 | 入る | 年額に含めて12で割る(1-3) |
| 勤勉手当・調整手当等 | 入る | 高度人材ポイント制Q&A Q7 |
| 通勤手当 | 実費弁償の性格なら入らない | 課税対象となるものは除外の対象外(1-3) |
| 住宅手当 | 実費弁償の性格なら入らない | 同上 |
| 扶養手当 | 実費弁償の性格なら入らない | 同上 |
| 超過勤務手当(残業代) | 高度専門職の年収では入らない | 高度人材ポイント制Q&A Q8。他の在留資格については審査要領に明記なし |
| 社宅などの現物給付 | 審査要領に直接の記載なし | 労働基準法11条の「賃金」の考え方が参考として掲げられている(1-4) |
表のうち判断が分かれるのは、通勤手当・住宅手当・扶養手当と、残業代の2つです。順に説明します。
「課税対象となるものを除く」の読み方
括弧書きの「課税対象となるものを除く」は、実費弁償の性格を持つ手当であっても、課税対象になっているものは「含まない」の対象から外す、という意味に読めます。つまり、非課税で支給されている実費弁償的な手当は報酬に入らず、課税されている手当は報酬から当然には除かれない、という構造です。
通勤手当は、所得税法上、一定の限度額までは非課税とされています(所得税法9条1項5号)。限度内で支給している通勤手当は、報酬の計算から外して考えるのが原則です。一方、住宅手当や扶養手当は、会社によって支給の仕方がさまざまです。自社の手当が給与として課税されているかどうかは、給与明細や源泉徴収票の扱いで確認できます。
【要確認】課税されている住宅手当を報酬に算入して「同等額以上」を説明できるかについて、審査要領の文言上はそう読めますが、審査要領にも公表資料にも具体的な運用例は書かれていません。住宅手当を積み上げてようやく日本人と並ぶ、という設計は避け、基本給と賞与で同等額以上を満たすようにしておくのが安全です。
筆者が実務でこの点を重く見るのは、更新時の確認方法との関係があるためです。技人国と企業内転勤の更新では、住民税の課税(又は非課税)証明書と納税証明書で「収入額が契約時の金額であること」を確認します(15-20、16-5)。課税証明書に載るのは課税される収入です。非課税の手当まで含めた額を報酬として申請すると、課税証明書の額と食い違って見え、説明が必要になります。
残業代は報酬に数えてよいか
高度専門職については、公表資料が明確です。高度人材ポイント制Q&A(Q8)は超過勤務手当を報酬に含めないとし、更新時も予定年収で判断するので過去の残業代も含めないとしています。年収ポイントの数え方は高度専門職の年収ポイント|残業代・見込み年収と年収300万円要件で扱っています。
技人国や特定技能など、それ以外の在留資格の「同等額以上」の判断で残業代をどう扱うかは、審査要領の第1節第2には明記がありません。ただ、残業代は働いた時間によって変わる金額で、申請時点で「1年間従事した場合に受ける報酬の総額」として確定しません。筆者は、残業代を当てにして同等額以上を組み立てることは勧めません。比べる日本人社員も同じだけ残業しているなら、所定内の給与どうしで比べれば足ります。
社宅・寮と特定技能の居住費控除
社宅を無償や低額で貸す場合、その経済的な利益が報酬に入るかについて、審査要領の第1節第2は直接の定めを置いていません。参考として、労働基準法11条の「賃金」の考え方が掲げられています(1-4)。現物給付としての住宅・食事等で、恩恵的・福利厚生的なものは賃金ではないが、労働協約・就業規則・労働契約等で支給条件が明らかなものは賃金とみなされる、という考え方です。あくまで参考の位置づけなので、社宅の利益を足して報酬要件を満たす説明は、根拠として弱いと考えてください。
特定技能では、反対に、給与から寮費を差し引く場面が問題になります。審査要領は特定技能の「報酬」の定義を第1節第2の項番2に委ねており(18の3-37)、報酬の範囲は他の在留資格と同じです。そのうえで、公表資料の特定技能運用要領(令和8年8月)は、居住費の額に上限の考え方を置いています。
- 自己所有物件:建設・改築費(土地代等を除く)、耐用年数、入居人数から算出した合理的な額
- 借上物件:借上費用(管理費・共益費を含む)を入居人数で割った額以内。敷金・礼金・保証金・仲介手数料・更新手数料・途中解約金は含めず、本人に負担させることもできない
- 水道光熱費:実費を同居人数で割った額以内
報酬額が同等以上でも、控除が過大であれば別の基準で問題になります。寮費の決め方は特定技能の寮費・家賃の決め方|審査要領が認めない「家賃相場での徴収」を参照してください。
労働条件通知書の書き方で説明の手間が変わる
審査要領は、労働契約の締結にあたって使用者が賃金・労働時間その他の労働条件を書面で明示しなければならないこと(労働基準法15条1項)を、「本邦の公私の機関との契約」の項で確認しています(1-1)。入管に提出する雇用契約書や労働条件通知書は、この書面がそのまま使われます。報酬欄の書き方で審査の手間が変わるのはそのためです。
実務では、次の点を押さえておくと、報酬月額の計算を入管側でも再現できる書面になります。
- 基本給と各手当を分けて記載し、手当ごとに名称と金額(または計算方法)を書く
- 通勤手当は実費支給か定額か、上限額があるかを書く
- 賞与は支給の有無、支給時期、支給実績または算定基準を書く
- 固定残業代を設ける場合は、何時間分でいくらかを基本給と分けて書く
手当が「諸手当」とだけ書かれた条件通知書では、何が報酬に入るのかを入管が判断できず、追加の資料提出を求められる原因になります。技人国の更新で提出する書類の全体は技術・人文知識・国際業務ビザの更新|必要書類・カテゴリー別の注意点・2026年日本語要件を解説で確認してください。
海外の会社から払われる給料
日本で働き、給料の全部または一部を海外の本社が払う場合も、報酬の計算から外れるわけではありません。審査要領は、日本国内で役務を提供してその対価を受けていれば、支払う機関が国内にあるか、国内で払うかにかかわらず「報酬を受ける活動」に当たると整理しています(1-4)。高度人材ポイント制Q&A(Q9)も、海外の会社から転勤で受け入れ、その会社から報酬が払われる場合はその報酬を算入するとし、立証を求めています。日本法人と海外本社の両方から払われるなら、両方を合算した年額を12で割って考え、それぞれの支払を示す資料を用意します。
よくある質問
Q. 就労ビザの報酬月額に賞与は含まれますか?
含まれます。審査要領は、報酬の月額を「賞与等を含めた1年間従事した場合に受ける報酬の総額の12分の1」で計算すると定めています。
Q. 通勤手当を含めて日本人と同等額以上と説明できますか?
実費弁償の性格を持つ通勤手当は報酬に含まれないため、通勤手当を足して同等額以上と説明することはできません。審査要領は通勤手当・扶養手当・住宅手当等の実費弁償的なものを、課税対象となるものを除いて報酬に含めないとしています。
Q. 住宅手当は報酬に入りますか?
実費弁償の性格を持つ住宅手当は入りません。課税対象となっている手当は除外の対象から外れると読めますが、具体的な運用例は公表されていないため、住宅手当に頼らず基本給と賞与で同等額以上を満たす設計が安全です。
Q. 残業代は報酬に含めてよいですか?
高度専門職については、高度人材ポイント制Q&Aで超過勤務手当は含まないとされています。その他の在留資格は審査要領に明記がありませんが、残業代は申請時点で金額が確定しないため、残業代を前提に同等額以上を組み立てることは避けるべきです。
給与明細を一度、入管の計算方法で並べ直す
まず、外国人社員の1年分の支給予定を、基本給・賞与・各手当に分けて書き出してください。そこから実費弁償の性格を持つ非課税の手当と残業代を除き、残りを12で割った額が、審査上の報酬月額の目安です。同じ計算を、比べる相手となる日本人社員の条件でも行い、並べて差がないかを確かめます。技人国の給与要件の全体像は技術・人文知識・国際業務ビザの要件とは?学歴・実務経験・給与条件をわかりやすく解説にまとめています。手当の比重が大きく、計算結果が日本人社員を下回りそうな場合は、申請前に給与の組み方を見直すことをおすすめします。
根拠資料
- 入国・在留審査要領 第12編(開示版)第2章第1節第1「本邦の公私の機関との契約」(1-1)
- 同 第2章第1節第2「報酬」1〜4、注1・注2(1-3〜1-4)
- 同 第15節 技術・人文知識・国際業務 第1の4(2)(15-20)/第16節 企業内転勤 第1の4(2)(16-5)
- 同 第18節の3 特定技能 第2 2(1)ウ(18の3-36〜18の3-37)
- 出入国在留管理庁「技術・人文知識・国際業務」の在留資格の明確化等について(https://www.moj.go.jp/isa/applications/resources/nyukan_nyukan69.html)
- 出入国在留管理庁 高度人材ポイント制Q&A(https://www.moj.go.jp/isa/applications/resources/newimmiact_3_qa.html)
- 出入国在留管理庁 特定技能外国人受入れに関する運用要領(令和8年8月)(https://www.moj.go.jp/isa/content/001468647.pdf)