ここでいう技人国の要件とは、本人側に課される2つの条件と、企業側に課される3つの条件を合わせた5項目を指します。数だけを見れば少ないと感じるかもしれませんが、このうちどれか1つでも欠けると、それだけで不許可という結果になります。
学歴があり、業務内容も専門的で、給与も相場並みという3つが揃っていても、会社の決算が大幅な赤字続きであれば、それだけで審査が通らないことがあります。逆に、決算が黒字で給与も申し分なくても、専攻と業務内容がまったくつながっていなければ、それも通りません。5つすべてを完璧に整えるのは容易ではありませんが、要件を1つずつ分解して確認すれば、自社が該当するかどうかは意外と早く判断がつきます。
この記事では、技術・人文知識・国際業務ビザ(技人国)とは?で触れた要件を、本人要件・企業側要件それぞれさらに掘り下げて解説します。学歴、実務経験、給与、経営の安定性、単純労働の判定基準まで、審査でつまずきやすいポイントを1つずつ潰していきます。
この記事でわかること
- 本人要件(学歴・実務経験・専攻と業務の関連性)の詳細
- 実務経験ルートで求められる年数と証明方法
- 企業側要件(給与水準・経営の安定性・単純労働の判定)
- 要件を満たしているか自社で確認する手順
- 要件を満たしていても不許可になるケース
技人国の要件は「本人2つ・企業3つ」
まず全体像を整理します。技人国の要件は、大きく本人要件と企業側要件に分かれます。
| 区分 | 要件 | 概要 |
|---|---|---|
| 本人 | 学歴または実務経験 | 大卒・専門卒相当、または一定年数の実務経験 |
| 本人 | 専攻・職歴と業務内容の関連性 | 学んできたこと・経験してきたことと業務がつながっているか |
| 企業 | 給与水準 | 日本人と同等以上であること |
| 企業 | 経営の安定性・継続性 | 決算状況が著しく不安定でないこと |
| 企業 | 単純労働が主でないこと | 業務の中心が専門業務であること |
この5つは、どれか1つが突出して良くても、他が満たされなければ全体としては不許可になります。給与水準が高いから大丈夫だろうという一点突破の考え方は避けるべきです。
本人要件①:学歴または実務経験
本人が満たすべき1つ目の要件は、次のいずれかです。
- 大学卒業(日本の大学、海外の大学いずれも可)
- 日本の専門学校卒業(専門士または高度専門士の称号を取得していること)
- 実務経験:従事しようとする業務について、原則として10年以上の実務経験(国際業務については3年以上)
ここでよく誤解されるのが、実務経験ルートの年数です。技術・人文知識分野は原則10年以上、国際業務分野は3年以上と、必要年数が異なります。国際業務の3年というのは、通訳・翻訳や語学講師のような業務であれば、大学を出ていなくても実務経験だけで要件を満たせる可能性があるということです。採用したい人材が大学を出ていないから無理だと最初から判断する前に、実務経験でカバーできないか確認する価値はあります。
ただし実務経験は、口頭での説明だけでは通用しません。前職の在職証明書、職務内容がわかる資料など、実務経験を裏付ける書類が必要になります。特に海外での勤務経験の場合、証明書類の様式や取得方法が国によって異なるため、時間がかかることを見越して早めに準備すべきです。
本人要件②:専攻・職歴と業務内容の関連性
実務でもっともつまずくのがここです。①の学歴や実務経験があること自体は証明書を揃えれば済む話ですが、②の「関連性」は、入管の担当者に納得してもらう説明の作業になります。
関連性の判断で見られるのは、大きく次の2点です。
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| 専攻分野との関連性 | 大学・専門学校で学んだ学部・学科・履修科目と、実際に従事する業務が結びついているか |
| 職歴との関連性 | 実務経験ルートの場合、これまでの職歴と今回の業務内容が結びついているか |
専攻分野との関連性は、大卒よりも専門学校卒のほうが厳しく見られる傾向があります。大学は「学部」という比較的広い括りで判断される一方、専門学校は「何を専門的に学んだか」という履修内容そのものが業務内容とどう結びつくか、より具体的な説明が求められるためです。
許可されやすい例
情報工学専攻 → システム開発/経営学部卒 → 経理・財務/外国語学部卒 → 通訳・翻訳・貿易実務
不許可になりやすい例
専攻と無関係な業務/専門学校の履修内容と業務内容の乖離が大きい/実務経験の年数を証明できない
専攻と業務が寸分たがわず一致している必要はありません。ただし関連性が薄いと感じる組み合わせほど、雇用理由書で「なぜこの人にこの業務をやらせるのか」を丁寧に説明する必要が出てきます。専門性のある業務なのに、この説明が不足していたせいで単純作業と誤認されるケースもあるため、書類の作り込みは軽視すべきではありません。
実務経験を証明する具体的な方法
実務経験ルートを使う場合、もっとも時間がかかるのが証明書類の準備です。証明の方法は、勤務していた国や企業によって変わってきます。
| 証明の対象 | 必要な資料 | 注意点 |
|---|---|---|
| 日本国内での実務経験 | 在職証明書、雇用契約書の写し、源泉徴収票等 | 勤務期間と職務内容が明記されているか確認する |
| 海外での実務経験 | 前職企業が発行する在職証明書(英文または日本語訳付き) | 発行様式が国によって異なり、取得に時間がかかることがある |
| 職務内容の裏付け | 職務経歴書、業務内容の説明資料 | 今回従事する業務との関連性を意識して具体的に書く |
特に海外の企業から証明書を取り寄せる場合、退職から時間が経っていると担当者が異動していたり、会社自体が組織変更していたりして、想定以上に時間がかかることがあります。採用が決まった段階で、できるだけ早く本人に前職への問い合わせを依頼しておくべきです。入社日ギリギリになって証明書が揃わない、という事態は避けたいところです。
実例:専門業務の比重が問われたケース
要件のうち「専攻・職歴と業務内容の関連性」「単純労働が主でないこと」は、書類の説明だけでなく、実際の業務実態そのものが問われる部分です。当事務所で扱った案件でも、これが直接、審査のポイントになったことがあります。
実例:1日のタイムスケジュールの提出を求められたケース
技人国の申請で、入管から対象者の1日の業務内容を時間単位で示すよう求められたことがあります。雇用理由書には「システム開発業務」と書いていても、それだけでは専門業務がどのくらいの比重を占めているのか、入管には伝わりません。実際に朝から晩までどんな作業をしているのか、時間単位で棚卸しして提出したことで、専門業務が主であることを客観的に示せて、許可が下りました。感覚的に専門業務をやらせているつもりでも、それを他人に伝わる形で書面化できるかどうかが、審査の分かれ目になります。
※上記は当事務所で取り扱った実際の相談内容をもとにしていますが、個別の状況により結果は異なります。同様の結果を保証するものではありません。
この事例からわかるのは、要件を満たしているかどうかだけでなく、満たしていることをどう証明するかまで含めて準備する必要がある、ということです。特に単純労働との境界があいまいな業種ほど、この準備が結果を左右します。
企業規模によるカテゴリー区分と要件の見え方
企業側要件の審査の厳しさは、実は企業の規模・実績によっても変わってきます。技人国の申請書類は、企業規模に応じて「カテゴリー1〜4」に区分されていて、区分が下がるほど提出書類が増え、審査も慎重になる傾向があります。
| 区分 | 対象企業 | 要件確認の傾向 |
|---|---|---|
| カテゴリー1 | 上場企業など | 簡易な書類で足りることが多い |
| カテゴリー2 | 前年の給与所得の源泉徴収税額が1,000万円以上の企業等 | 簡易な書類で足りることが多い |
| カテゴリー3 | 上記に該当しない企業 | 決算書類・雇用理由書等で経営の安定性を説明する必要がある |
| カテゴリー4 | 創業間もない企業・小規模企業 | 事業計画・資金繰りまで含めて丁寧に説明する必要がある |
同じ「経営の安定性」という要件でも、カテゴリー1の企業なら過去の実績で自然に説明できますが、カテゴリー4の企業は、これから事業がどう成長していくのか、資金繰りに無理がないのかまで書面で説明する必要があります。創業したばかりだからといって諦める必要はありませんが、準備すべき書類のボリュームは大きく変わると考えておくべきです。
企業側要件①:日本人と同等以上の給与水準
企業側の1つ目の要件は給与水準です。同じ業務に従事する日本人労働者と比べて、同等以上の給与でなければなりません。
「同等以上」というのは、最低賃金さえクリアしていればいいという意味ではありません。同じ職種・同じ役職・同じ経験年数の日本人社員がもらっている給与水準と比較して、著しく低くないことが求められます。社内に比較対象となる日本人社員がいない場合は、業界の給与水準や地域の相場を根拠に説明することになります。
ここを甘く見て、外国人だからという理由で給与を低く設定していると、要件を満たさないだけでなく、労働関係法令上の問題にも発展しかねません。採用時の給与設定は、雇用契約書を作成する前の段階で確認しておくべきです。
企業側要件②:経営の安定性・継続性
2つ目は、受入企業の経営が継続的・安定的であることです。決算が大幅な赤字続きだったり、債務超過に近い状態だったりすると、この要件で厳しく見られます。
ここで重要なのは、企業規模の大小ではなく、事業の継続性が説明できるかどうかという点です。技人国の申請書類は企業の規模・実績によって「カテゴリー1〜4」に区分され、カテゴリー4(創業間もない企業・小規模企業)は決算書類だけでなく事業計画や資金繰りの資料まで求められる傾向があります。小さい会社だから無理だと最初から諦める必要はありませんが、準備すべき書類は多くなると考えておくべきです。
企業側要件③:単純労働が主でないこと
3つ目、そしてもっともトラブルになりやすいのがこれです。業務の中に単純労働が主として含まれていないことが要件です。
ここで見られているのは肩書きではなく実態です。「店舗マネージャー」という肩書きでも、実際の業務が接客と品出しばかりなら、それは専門業務とは認められません。入管はここを非常に丁寧に見てきます。書類上はどうにでも書けると考える企業もありますが、入管の調査能力を過小評価すべきではありません。飲食店における具体的な境界線は技術・人文知識・国際業務ビザで飲食店に就労可能?で解説しています。
「専門業務が主で、それ以外の作業はあくまで付随的なもの」という建付けを保てるかどうかが、この要件のポイントです。専門業務の比重をどう説明するかは、実際に1日のタイムスケジュールの提出を求められることもあるくらい、審査でシビアに見られる部分です。
要件を満たしていても不許可になるケース
ここまで解説してきた5つの要件をすべて満たしているように見えても、不許可になることがあります。実務上多いのは、次のようなパターンです。
- 要件は満たしているのに、書類上の説明が不足していて審査官に伝わらない
- 経歴や職務内容の記載に、実態と異なる点や誤りがある
- 過去に別の在留資格で問題があり、素行に懸念を持たれている
特に1つ目、「要件は満たしているのに伝わらない」というのは非常に多いパターンです。実際に専門性のある業務をやらせているのに、雇用理由書の書き方が淡白すぎて、審査官には単純作業に見えてしまう、ということが起こり得ます。要件を満たしていることと、それを審査官に伝わる形で説明できていることは、まったく別の話だと考えるべきです。
経歴に誤りがある場合、隠そうとするとかえって心証を悪くします。当事務所でも、詐称と受け取られても仕方がない経歴の誤りがある案件を扱ったことがありますが、隠さず事情を説明したところ許可が下りたケースがあります。入管は本人側の事情に一定の理解を示すこともあるため、隠すより先に、正直に説明するほうが結果として有利に働きます。後から発覚するほうが、はるかに心証を損ないます。
※上記は当事務所で取り扱った実際の相談内容をもとにしていますが、個別の状況により結果は異なります。同様の結果を保証するものではありません。
やらせてはいけない業務との境界
要件を満たしているかどうかを判断するうえで、もっとも実務的に効くのが「この業務は技人国でやらせていいのか、だめなのか」を線引きする感覚です。専門性のある業務のつもりでも、実態が単純作業に近づいていると、更新のタイミングで指摘を受けることがあります。
技人国でやらせてはいけない業務の具体的な例、業務範囲を逸脱したときのリスクについては技術・人文知識・国際業務でやらせてはいけない業務とは?で詳しく整理しています。採用の段階だけでなく、採用後の配置転換や業務内容の変更時にも、この境界線は意識しておくべきです。
専攻分野の判断で誤解されやすいポイント
「専攻と業務の関連性」については、経営者や人事担当者の間で誤解されている部分が多いので、よくある誤解を整理しておきます。
| よくある誤解 | 実際の考え方 |
|---|---|
| 理系出身でないとエンジニアになれない | 理系・文系という区分ではなく、専攻内容と業務内容の関連性で判断される。情報系の科目を履修していれば文系学部でも認められる余地がある |
| 大学院卒のほうが有利 | 学歴のレベルではなく、専攻内容と業務内容のつながりが見られる。学部卒でも関連性が明確なら問題ない |
| 日本の大学でないと不利 | 海外の大学卒業でも要件を満たす。ただし卒業証明書の翻訳・認証に時間がかかることがある |
| 複数の業務を兼務すると不許可になりやすい | 兼務すること自体が問題なのではなく、兼務する業務すべてに専門性があるかどうかが問われる |
この中でも「理系・文系」の誤解は根強いです。文系だから技術系の仕事は無理だろうと最初から除外してしまうケースをよく見ますが、実際にはIT企業の営業企画やマーケティング職として、文系出身者が技人国で働いている例は少なくありません。採用の間口を狭めすぎないためにも、この判断基準は正しく理解しておくべきです。
中途採用・転職者を受け入れる場合の要件確認
新卒や海外からの呼び寄せだけでなく、既に日本国内で働いている技人国の外国人を転職者として採用するケースも増えています。この場合、要件の考え方は基本的に同じですが、確認すべきポイントが少し変わります。
- 前職での業務内容と、今回従事させる業務内容の関連性(大きく変わる場合は説明が必要)
- 前職からの在職期間・退職理由(極端に短期間での転職を繰り返している場合、事情を確認しておく)
- 前職での給与水準との比較(給与が大きく下がっている場合、その理由を説明できるようにしておく)
転職の場合、在留資格の変更申請自体は不要なことが多いですが、業務内容が大きく変わるなら就労資格証明書を取得しておいたほうが安全です。転職に伴う手続き全般は技術・人文知識・国際業務の外国人が転職したら?で詳しく解説しています。
要件を満たしているか、自社で確認する手順
ここまでの要件を、実際に自社で確認する手順として並べておきます。
- 対象者の学歴(卒業証明書)または実務経験(在職証明書等)を確認する
- 専攻・職歴と、実際に従事させる業務内容を突き合わせて、関連性を言語化する
- 同じ業務に従事する日本人社員の給与水準と比較し、同等以上になっているか確認する
- 直近の決算内容を確認し、著しい赤字や債務超過がないか確認する
- 業務内容の中に単純労働が主として含まれていないか、1日の業務の流れを書き出して確認する
この5ステップを踏んで、どこか1つでも自信が持てない部分があれば、その部分をどう説明するかが申請書類作成のポイントになります。すべて自信満々で揃っているという企業のほうがむしろ少なく、弱い部分をどう補強するかで結果が変わってきます。
よくある質問
Q. 大学を卒業していなくても技人国は取得できますか?
取得できる場合があります。実務経験ルートを使えば、業務内容に応じて原則10年以上(国際業務は3年以上)の実務経験があれば学歴要件の代わりになります。ただし実務経験は在籍証明などで裏付ける必要があります。
Q. 専攻と業務内容が完全に一致していないと不許可になりますか?
完全一致までは求められません。専攻分野と業務内容につながりがあると説明できれば認められる余地があります。ただし関連性が薄いほど、雇用理由書などで丁寧に説明する必要があります。
Q. 外国人の給与を日本人より低く設定してもいいですか?
認められません。日本人が同じ業務に従事する場合と同等以上の給与水準であることが要件です。国籍を理由に給与水準を下げることは、要件違反になるだけでなく、労働関係法令上の問題にもなり得ます。
Q. 設立したばかりの会社でも技人国の外国人を雇用できますか?
雇用できます。ただし創業間もない企業はカテゴリー4に区分され、事業の安定性・継続性を示す資料をより丁寧に準備する必要があります。事業計画や資金繰りの説明次第で許可を得られる余地は十分あります。
要件確認は採用の入口でやるほうが早い
ここまで解説してきた要件は、内定を出したあと、いざ申請書類を作る段階になってから慌てて確認するのではなく、採用面接や求人票を作る段階で意識しておくのがもっとも効率的です。
求人票の段階で業務内容を具体的に書いておけば、応募してきた人の専攻・職歴と照らし合わせて、関連性があるかどうかを面接の時点である程度判断できます。逆に、業務内容があいまいなまま採用を決めてしまうと、あとからこの人の経歴でこの業務は説明できるだろうかと頭を悩ませることになります。要件は事後に確認するものではなく、採用のプロセスに組み込んでおくべきものです。
給与水準や会社の経営状況といった企業側要件は、外国人を採用すると決めた瞬間から準備を始められます。決算資料をすぐに出せる状態にしておく、日本人社員の給与水準の資料を整理しておく、といった地味な準備が、いざ申請するときのスピードを大きく左右します。
まとめ
技人国の要件は、本人2つ・企業3つのシンプルな構成です。しかしシンプルであるがゆえに、1つの穴が全体を崩します。特に「専攻と業務の関連性」「単純労働が主でないこと」は、書類の書き方ひとつで印象が大きく変わる部分なので、採用が決まった段階で早めに要件を確認しておくべきです。要件を満たしているつもりで進めて不許可になると、やり直しに時間もコストもかかります。
依頼するかどうかで迷っている方は在留資格の申請は行政書士に依頼すべきかと行政書士に依頼する費用の相場も参考にしてください。