技人国ビザで飲食店に外国人を採用すること自体は可能です。ただし従事できる業務はかなり限定的で、2026年に入ってからは審査基準も明確に厳しくなりました。年間300件以上の相談のうち、「店長候補として雇いたい」「通訳ができるから接客にも入れたい」という相談は相当な割合を占めます。ここは、書類の作り方一つで結果が変わる領域です。
「通訳ができる人材だから接客に入れても問題ないはずだ」という主張をよく耳にしますが、結論はその業務のうち通訳に使っている時間の比率次第です。ここでは、飲食業で使える在留資格の種類、技人国でできる業務と単純労働の境目、2026年に何が変わったのかを、実際の相談事例とともに整理します。見通しの甘い出願は、不許可という結果に直結します。
飲食業で外国人が働ける在留資格は主に4種類
飲食店で外国人を雇う場合、選択肢は技人国だけではありません。実務上はむしろ、別の在留資格のほうが業務内容に合っているケースのほうが多いくらいです。まず全体像を整理します。
| 在留資格 | できる業務 | 主な要件 |
|---|---|---|
| 技術・人文知識・国際業務 | 通訳翻訳、店舗運営管理、国際業務など | 大学卒業等の学歴または実務経験10年 |
| 特定技能「外食業」 | 接客・調理・店舗管理まで幅広く可 | 技能測定試験・日本語試験合格等 |
| 特定活動46号 | 接客業務を含む幅広い業務が可能 | 日本の大学・大学院を卒業しN1相当の日本語力 |
| 技能 | 外国料理の調理(コック) | 当該料理に関する実務経験10年以上等 |
どれを選ぶかによって、できる業務も要件も難易度も変わります。「とりあえず技人国で」という相談はよく受けますが、業務内容を聞いていくと他の在留資格のほうが適していた、というケースは珍しくありません。先に在留資格を決め打ちすることは避けるべきです。
技術・人文知識・国際業務の位置づけ
技人国は、専攻した学問や実務経験を活かした専門的・技術的業務のための在留資格です。飲食業でいえば、多店舗展開のための経営企画、海外店舗との連絡調整、外国人観光客への多言語対応を含む接客マネジメントなどが該当します。調理や配膳をさせるための資格ではありません。この前提を取り違えると、申請の入り口から誤ることになります。
特定技能「外食業」との違い
特定技能「外食業」は、ホール接客も調理も店舗管理も一貫して従事させられる制度です。ホールに立たせたい、キッチンに入れたいという企業側のニーズには、こちらのほうが合っています。ただし技能測定試験と日本語試験に合格する必要があるため、誰でもすぐに切り替えられるわけではありません。
技人国ビザで飲食店において従事できる業務とは
技人国が飲食業でまったく使えないわけではありません。専門性の高い業務であれば認められます。具体的には、次のような業務です。
通訳・翻訳、多言語での接客マネジメント
インバウンド対応を含む多言語接客の統括、メニューやマニュアルの翻訳、外国人スタッフの通訳窓口。このあたりは専門性が認められやすい領域です。ただし「通訳ができる」という理由だけで勤務時間の大半をホール接客に使っているのであれば話は別です。それは単純労働と判断されるリスクがある業務にあたります。
店舗運営管理・経営企画
売上管理、シフト管理、仕入れの数値分析、多店舗展開の戦略立案。こうした経営に関わるマネジメント業務は、技人国の典型的な対象です。大学で経営学やマーケティングを専攻していれば、専攻と業務のつながりも示しやすくなります。
海外展開・仕入れ交渉などの国際業務
海外の食材業者との交渉、海外出店の調整、外国人観光客向けのマーケティング企画。これらも国際業務として認められる余地があります。ここでの判断基準も同じで、実際にどれだけの時間・比重でその業務に従事しているかが問われます。
単純労働とみなされるNGライン
「店舗マネージャー」という肩書きをどれだけ立派につけても、実態がホール接客とキッチン補助であれば、それは単純労働と判断されます。入管はこの点を厳格に確認します。
接客の「一部」はOK、配膳・調理中心はNG
専門業務のついでに接客の一部を担当する程度であれば、問題にならないことが多いといえます。しかし勤務時間の大半をホールの配膳やキッチンの調理補助に使っているのであれば、それは技人国の対象業務として認められません。繁忙期に一時的に手伝う程度であれば柔軟に見てもらえることもありますが、それを常態化させることは避けてください。
実際にあった相談:専門業務なのに単純作業と誤認された事例
当事務所で実際にあった案件です。経営企画・仕入れ管理担当として採用予定だった方について、依頼者が最初に作成した申請書類は「業務内容」の記載が簡素すぎて、キッチンやホールの補助業務のように読める内容になっていました。実際の業務は数値分析や発注管理が中心だったにもかかわらず、です。
こうした場合は、業務分掌表や実際の作業比率を数値で示し、専攻・実務経験と業務内容のつながりを具体的に書き直す必要があります。専門性のある業務であることを正確に伝えなければ、実態は伝わりません。書類は「読み手がどう受け取るか」を基準に作成する必要があります。
2026年1月の総合的対応策による審査厳格化とは
2026年1月23日に公表された「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」を受けて、飲食業の技人国該当性審査は明確に厳しくなっています。これまでであれば通っていた業務内容の記載でも、追加資料を求められるケースが増えています。
店長候補・マネージャー候補という肩書きだけでは不十分
肩書きをつけること自体は自由です。しかし、それだけで許可が出た時代は終わりました。入管が見ているのは、実際にその人物がどんな仕事を、どれくらいの比重でしているかという実態です。肩書きと実態が乖離していれば、不許可になるか、追加資料の提出を求められます。
実態確認のための資料要求が増加
具体的には、業務内容を時間単位で示すタイムスケジュール、組織図、指揮命令系統に関する資料の提出を求められるケースが目立っています。これは飲食業に限った話ではありませんが、単純労働との境界があいまいになりやすい飲食業は、特に重点的に確認される傾向にあります。
申請までにやるべき準備の全体像
審査が厳しくなった以上、思いつきで書類を出すことはおすすめできません。まず、採用予定の外国人材にどんな業務をさせるのか、それが専門的・技術的なものかどうかを社内で言語化してください。そのうえで、次のステップを踏むことで書類の完成度は上がります。
- 従事させる業務内容を項目ごとに書き出す(例:発注管理、シフト作成、外国人客対応、通訳業務など)
- 各業務にどれくらいの時間を割くのか、1日・1週間単位で見積もる
- 専門業務の比率が全体の何割になるかを確認する(目安として過半数を超えていることが望ましい)
- 専攻内容・実務経験と業務内容の関連性を説明できるよう整理する
- 組織図を作成し、指揮命令系統・報告ラインを明確にする
- これらをもとに雇用契約書・雇用理由書・業務分掌書などの申請書類を作成する
この順番を守らず、いきなり書式だけを埋めて提出すると、業務内容の説明が薄くなり単純作業に見えてしまいます。実態を整理してから書類に落とし込む、という順番を崩さないことが重要です。
タイムスケジュール記載のイメージ
入管から求められる「1日のタイムスケジュール」は、おおむね次のような形式でまとめます。あくまで一例として参考にしてください。
| 時間帯 | 業務内容 | 専門業務区分 |
|---|---|---|
| 9:00〜11:00 | 前日売上分析、発注数量の決定 | 専門業務 |
| 11:00〜13:00 | 外国人観光客対応・通訳、SNS多言語発信 | 専門業務 |
| 13:00〜14:00 | 昼食休憩 | ― |
| 14:00〜17:00 | シフト作成、スタッフ教育資料の作成 | 専門業務 |
| 17:00〜18:00 | 繁忙時間帯のホール応援(付随的) | 付随業務 |
専門業務の時間比率が過半数を超えていること、付随的な現場対応があくまで補助的な位置づけであること。この2点を視覚的に示せる形にしておくと、審査官にも伝わりやすくなります。
許可を得るための書類戦略
業務分掌書・タイムスケジュールの作り方
業務内容を「経営企画」「店舗運営管理」といった抽象的な言葉だけで済ませることは避けてください。1日・1週間単位でどんな作業にどれだけの時間を使うのかを具体的に示す必要があります。専門業務が全体の何割を占めるのか、数字で示してください。
学歴・実務経験との整合性
大学で経営学を専攻していれば店舗運営管理との関連性は示しやすくなりますが、専攻とかけ離れた業務内容であれば審査官は必ず疑問を持ちます。専攻内容・実務経験・実際の業務内容、この三つが筋の通った説明になっているかどうかは事前に厳しく点検すべき点で、当事務所でも申請前のご指導で重点的に確認しています。技術・人文知識・国際業務の学歴・実務経験要件を徹底解説
技人国が難しい場合の選択肢:特定技能「外食業」
ホール接客や調理が業務の中心になるのであれば、無理に技人国で申請することはおすすめしません。特定技能「外食業」への切替のほうが現実的です。特定技能であれば、接客・調理・店舗管理まで幅広く従事させられます。技人国で不許可のリスクを抱え込む前に、どの在留資格が業務実態に合っているのかを見極めるべきです。
特定活動46号という選択肢
日本の大学・大学院を卒業し、日本語能力試験N1相当の力を持つ方であれば、特定活動46号も選択肢に入ります。これは接客業務を含む幅広い業務に従事できる制度で、飲食業でのキャリアを考える留学生にとっては使い勝手のいい選択肢です。ただし要件が細かいため、事前確認は必須です。
特定活動46号の主な要件
日本の大学・大学院を卒業(専門学校卒は原則対象外)していること、日本語能力試験N1に合格しているか大学等で日本語を用いて授業を受けたと認められること、業務が日本語を用いた接客等を含む一定の専門性・技能を要するものであること。これらが求められます。ホール接客そのものであっても、日本語能力を活かした業務として認められる余地がある点が、技人国との大きな違いです。
3つの選択肢をどう使い分けるか
整理すると、次のようになります。専門性の高いマネジメント業務が中心なら技人国、ホール・キッチンを含む幅広い業務をさせたいなら特定技能「外食業」、日本の大学を出た留学生を日本語接客込みで採用したいなら特定活動46号です。整理自体は単純ですが、実際には「どの業務をどれくらいの比重でさせるか」を決めないまま申請準備を始めてしまう企業が後を絶ちません。採用が決まった段階で業務内容の棚卸しを先に行い、そのうえで在留資格を選んでください。この順番を間違えると、後から修正するのは容易ではありません。
| 比較項目 | 技術・人文知識・国際業務 | 特定技能「外食業」 | 特定活動46号 |
|---|---|---|---|
| ホール接客 | 付随的な範囲のみ | 可 | 可(日本語能力を要する業務として) |
| キッチン調理 | 原則不可 | 可 | 業務内容次第 |
| 在留期間の上限 | 上限なし(更新制) | 通算5年(1号の場合) | 上限なし(更新制) |
| 対象となる人材 | 大卒等または実務経験10年以上 | 技能測定試験・日本語試験合格者 | 日本の大学・大学院卒業者 |
なぜ2026年に審査が厳しくなったのか
背景には、技人国という在留資格を使いながら実質的に単純労働をさせる、いわゆる「名ばかり店長」的な運用が一部で問題視されてきたという事情があります。大多数の企業は適正に運用していますが、一部の不適正事例が制度全体の信頼性を損なっているというのが実情です。そのため国は、店舗管理業務の実態確認を強化する方向に舵を切りました。
これまでは「店長候補」という肩書きと簡単な業務内容の記載だけで許可が出ていたケースもありました。しかし現在は、それだけでは足りません。準備の手間が増えたと感じる採用担当者もいるはずです。一方で、きちんと準備した申請の信頼性は以前より高まっているとも言えます。準備を怠った申請から順に落とされる、という構造に変わったと捉えてください。
更新申請でも同じ基準が適用される
ここは注意が必要です。この厳格化は新規の在留資格認定証明書交付申請だけでなく、在留期間更新許可申請にも及びます。すでに技人国で働いている方についても、更新のタイミングで業務内容の実態確認が入ることがあります。過去に許可が出ていたからといって、今後も同じ内容で自動的に更新される保証はありません。日頃から業務日報や業務分掌の記録を残しておくことをおすすめします。この記録がないまま更新に臨むと、対応が後手に回ります。
福岡の飲食業界におけるインバウンド需要と技人国の相性
福岡は博多・天神を中心にインバウンド観光客が多く、飲食店の現場でも多言語対応のニーズが年々高まっています。当事務所は福岡出入国在留管理局への申請取次資格を持ち、地元の飲食企業からの相談も多く受けてきましたが、「インバウンド対応の専門スタッフとして採用したい」という相談は、業務内容さえきちんと設計できれば技人国との相性がいい部類に入ります。
たとえば、外国人観光客向けのメニュー翻訳、SNSでの多言語発信、海外OTA(宿泊予約サイト等)とのやり取り、外国人スタッフの通訳窓口。こうした業務は、国際業務・人文知識分野の専門業務として説明しやすいものです。逆に、これらの業務がほとんどなく「日本語も話せるから接客に」という理由だけであれば、技人国での説明は成立しません。福岡で飲食店を展開する企業ほど、この線引きを最初に押さえておく必要があります。
複数店舗を展開する企業が注意すべきこと
福岡でも複数店舗を展開する飲食企業からの相談が増えています。多店舗展開の場合、本部で経営企画やマーケティングを担う人材であれば技人国の該当性は比較的示しやすくなります。ただし、店舗現場の応援に頻繁に駆り出されるような運用をしていると、業務実態と申請内容の乖離が生じるリスクがあります。ここは見過ごせない論点です。
複数店舗を統括するエリアマネージャー的なポジションであれば、各店舗の数値管理・スタッフ教育・本部への報告といった専門業務を軸に据え、現場作業への関与は最小限にとどめてください。新規オープン時など一時的に現場を手伝う場面はあり得ますが、それが常態化しないよう業務設計を徹底する必要があります。
複数店舗を展開する企業ほど、店舗ごとに業務内容や指揮命令関係がばらつきやすくなります。本部主導で業務分掌のフォーマットを統一しておけば、申請のたびに一から書類を作り直す手間も省けます。1店舗目の申請で作成した書類のフォーマットを2店舗目・3店舗目の採用時にも流用できるよう整えておくと、長期的な申請コストの削減につながります。
行政書士に依頼するメリット
ここまで読んで、想定より複雑だと感じた方は多いはずです。実際、飲食業の技人国申請は、他業種に比べても単純労働との境界線の判断が難しい分野です。だからこそ、申請前の段階で専門家に業務内容を整理してもらう価値があります。自己判断のまま申請して不許可になれば、時間とコストを余計に失うことになります。
よくある質問(FAQ)
Q. 技術・人文知識・国際業務ビザでホールやキッチンの仕事をするのは絶対にダメですか?
業務の中心がホール接客やキッチン調理であれば、原則として認められません。専門業務に付随する範囲でごくわずかに接客に入る程度であれば問題視されないこともありますが、常態化すれば単純労働とみなされます。
Q. 店長候補やマネージャー候補という肩書きなら許可されますか?
肩書きだけでは足りません。実際の業務内容、業務比率、指揮命令関係を書類で具体的に示す必要があります。
Q. 2026年の審査厳格化で何が変わったのですか?
2026年1月23日公表の「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」を受けて、飲食業の技人国該当性審査が厳格化され、実態確認のための追加資料を求められるケースが増えています。
Q. 技人国が難しい場合、他にどんな在留資格がありますか?
特定技能「外食業」や、日本の大学等を卒業した方向けの特定活動46号があります。従事させたい業務内容から逆算して選んでください。
Q. 申請が不許可になった場合、再申請はできますか?
再申請自体は可能です。ただし、不許可理由の分析と業務内容・書類の見直しをせずに出し直すと、再度不許可になる可能性が高くなります。技術・人文知識・国際業務ビザが不許可になる理由と対処法
Q. すでに技人国で働いている外国人スタッフの更新にも影響がありますか?
あります。2026年の審査厳格化は新規申請だけでなく更新許可申請にも及ぶため、既存スタッフについても業務内容の実態確認が行われることがあります。
Q. 特定活動46号と技人国はどちらが飲食業に向いていますか?
日本の大学・大学院を卒業した留学生を日本語接客込みで採用したい場合は特定活動46号、専門性の高いマネジメント業務が中心なら技人国が適しています。
技人国という在留資格全体の基本をまだ押さえていない方は、まずこちらの記事から読んでください。技術・人文知識・国際業務ビザとは
申請取次資格を持つ行政書士と元・入管審査監理官が、申請の論点を検討します。