国外扶養親族(国外に住む親族)を扶養控除の対象にできるのは、16歳以上30歳未満の人、70歳以上の人、そして30歳以上70歳未満のうち「留学」「障害者」「その年に38万円以上の生活費・教育費の送金を受けている」のいずれかに当たる人だけです。2023年(令和5年)分の所得税から適用されている要件で、本国の40代・50代の親や兄弟を扶養に入れるには、障害者に当たる場合を除き、年38万円以上の送金が必要になりました。確認書類は年齢区分によって違い、送金は親族一人ひとりに、金融機関やクレジットカードを通じて行ったものしか認められません。
国外扶養親族とは|「非居住者である親族」を指す
国税庁の「国外居住親族に係る扶養控除等Q&A(源泉所得税関係)」(令和8年8月最終改訂)は、国外居住親族を「非居住者である親族」と定義しています。ここでいう非居住者とは、日本国内に住所がなく、かつ現在まで引き続いて1年以上の居所もない人を指します。外国人社員の本国に住む両親、配偶者、子、兄弟姉妹が典型です。
「国外扶養親族」「国外扶養」は検索で使われる通称で、税法上の用語は「国外居住親族」です。本記事では両者を同じ意味で使います。
扶養の対象になる親族の範囲は日本人と同じで、民法上の親族、つまり6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族です(同Q&A Q3)。「国外扶養は何親等まで」という質問への答えはこれで、おじ・おば・いとこ(4親等)も範囲には入ります。ただし、次の章の年齢区分と送金の要件を満たす必要があります。
扶養親族の所得要件は、令和8年分から合計所得金額62万円以下です。2026年12月1日に施行された改正で、改正前の58万円から引き上げられました(同Q&A凡例)。非居住者である親族の合計所得金額は、日本で課税対象になる所得で計算されるため、本国での給与や年金は判定に含まれないと一般に解されています(公式資料では未確認)。ただし、本国で自立した収入がある親族について、日本の社員と「生計を一にしている」といえるかは別の問題として残ります。
扶養控除の対象になる国外扶養親族|年齢で3つに分かれる
扶養控除の対象になる国外居住親族は、扶養親族のうち次のいずれかに当たる人に限られます(所得税法2条1項34号の2、国税庁Q&A Q1)。
- 年齢16歳以上30歳未満の人
- 年齢70歳以上の人
- 年齢30歳以上70歳未満の人のうち、次のいずれかに当たる人
- 留学により国内に住所及び居所を有しなくなった人
- 障害者
- その居住者からその年において生活費又は教育費に充てるための支払を38万円以上受けている人
この要件は令和2年度税制改正で設けられ、2023年1月1日以後に支払う給与の源泉徴収と、2023年分以後の所得税に適用されています。住民税(個人住民税)では2024年度分(2023年の所得に対する課税)から同じ見直しが適用されました。
年齢は、その年の12月31日の現況で判定します。親族が非居住者か、障害者に当たるかは、扶養控除等申告書を提出する日の現況で判定します(同Q&A Q4)。
30歳以上70歳未満の「留学」と「障害者」は想像より狭い
3の区分のうち、「留学」と「障害者」は、外国人社員の家族には当てはまらないことがほとんどです。
「留学により国内に住所及び居所を有しなくなった者」とは、国内に住所または居所を有していた親族が、外国の大学などに留学することになり、留学の在留資格に相当する資格で外国に在留することで、国内に住所・居所を有しなくなった人をいいます(同Q&A Q5)。日本に住んでいた家族が海外に留学した場合を想定した規定で、本国に住み続けている35歳の弟が本国の大学院に通っていても、この「留学」には当たりません。
「障害者」は、日本の所得税法上の障害者を指します。国税庁は、外国政府等から身体障害者手帳に相当する手帳の交付を受けていても、日本で交付される手帳ではないため、身体障害者手帳の区分には当たらないと明記しています(同Q&A Q6)。「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある人」「常に就床を要し、複雑な介護を要する人」など、手帳の有無によらない区分に当たれば障害者として扱われる余地があります。
結果として、本国の30歳以上70歳未満の親族を扶養に入れる現実的な方法は、その年に38万円以上を送金することになります。
家族構成別の早見表
外国人社員の家族でよくある構成について、扶養控除等を受けられるかと、必要な書類を整理します。給与所得者が年末調整で控除を受ける場合の扱いです(国税庁Q&A Q2)。
| 国外に住む家族 | 受けられる控除 | 申告書提出時の書類 | 年末調整時の書類 |
|---|---|---|---|
| 配偶者(年齢を問わない) | 配偶者控除・配偶者特別控除(所得要件あり) | 親族関係書類 | 送金関係書類 |
| 15歳以下の子 | 所得税の扶養控除なし(年少扶養親族) | なし(障害者控除を受ける場合は親族関係書類) | なし(同・送金関係書類) |
| 16〜18歳の子 | 扶養控除(一般38万円) | 親族関係書類 | 送金関係書類(金額基準なし) |
| 19〜22歳の子 | 扶養控除(特定扶養63万円) | 親族関係書類 | 送金関係書類(金額基準なし) |
| 23〜29歳の子・兄弟 | 扶養控除(一般38万円) | 親族関係書類 | 送金関係書類(金額基準なし) |
| 30〜69歳の親・兄弟 | 年38万円以上送金した場合のみ扶養控除(一般38万円) | 親族関係書類 | 38万円送金書類 |
| 70歳以上の親 | 扶養控除(老人扶養48万円) | 親族関係書類 | 送金関係書類(金額基準なし) |
いくつか補足します。
配偶者の配偶者控除・配偶者特別控除には、扶養控除のような年齢による制限がありません。国外に住む配偶者でも、所得要件を満たし、親族関係書類と送金関係書類があれば控除を受けられます。
70歳以上の親は老人扶養親族として48万円の控除になります。同居老親等の58万円は、居住者と同居していることが要件なので、国外に住む親には適用されません。
15歳以下の子は、所得税では国内外を問わず扶養控除の対象外です。一方で、住民税の非課税限度額の計算では扶養親族の数に含まれることがあり、地方税法では「控除対象外国外扶養親族」として、一定の場合に親族関係書類や送金関係書類を住所地の市区町村に提出することとされています(同Q&A Q15の注)。扱いは市区町村に確認してください。
19歳以上23歳未満の子で、所得が62万円を超え123万円以下の場合は、2025年分から設けられた特定親族特別控除の対象になり得ます。国外居住親族について適用を受ける場合も、親族関係書類と送金関係書類が必要です。
38万円の数え方|送金日・手数料・為替レート
30歳以上70歳未満の親族について38万円以上の支払があったかは、扶養控除等申告書の提出時には見積額で判定し、年末調整では実際にその年中に支払った金額で判定します。年末調整の段階で38万円に届いていなければ、その親族について扶養控除は受けられません(同Q&A Q4)。
国税庁Q&A Q7は、数え方の細部を次のように示しています。
- 送金日:居住者が金融機関で送金した日に支払があったものとする。12月末に送金し、親族の口座への入金が翌年1月になっても、送金した年の支払として数える
- 手数料:送金手数料などの各種手数料は、38万円に含めて判定してよい。37万円を送金して手数料が1万円かかった場合は38万円の支払として差し支えない。ただし38万円送金書類に手数料の額が記載されている場合に限る
- 為替換算:原則は送金した金融機関の送金日の電信売買相場の仲値(TTM)で円換算する。円預金から外貨に替えて直ちに送金する場合は、口座から引き落とされた円の額でよい。年間の送金合計額を、その年最後の送金日の仲値などで一括換算する方法も認められる
- クレジットカード(家族カード):親族がカードを利用した日に支払があったものとする。引落しが翌年でも、利用した年の支払として数える
送金は親族「各人」に対して行う必要があります。本国の家族の代表者1人にまとめて送金している場合、その送金書類は代表者の分の送金関係書類にしかなりません(同Q&A Q34)。父と母の両方を扶養に入れたい場合、父の口座と母の口座にそれぞれ38万円以上を送る必要がある、ということです。共同名義口座への送金も、個々の親族に送金されたことが明らかでなければ送金関係書類に当たりません(同Q35)。
複数年分をまとめて送金した場合、その送金は送金した年の分にしかなりません(同Q36)。年初にまとめて76万円送っても、翌年の38万円には数えられません。
知人を通じて現金で手渡ししている場合は、送金関係書類がないため扶養控除は受けられず、現金で渡した旨の申立書も送金関係書類には当たりません(同Q39)。本国への送金を知人の帰国時に託す習慣がある社員は少なくないため、年初の段階で銀行送金に切り替えてもらう必要があります。
送金するか、しないか|税額の比較
38万円以上の送金で扶養控除を受けた場合に、税負担がどれだけ変わるかを試算します。所得税の税率5%の社員が、本国に住む50歳の母を扶養に入れるケースです。所得税は復興特別所得税(2.1%)を含め、住民税の扶養控除額は33万円、税率10%で計算しています。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 所得税の軽減(38万円×5%×1.021) | 約19,399円 |
| 住民税の軽減(33万円×10%) | 33,000円 |
| 合計 | 約52,399円 |
税率10%の社員であれば、所得税の軽減は約38,798円になり、住民税と合わせて約71,798円です。
もともと年30万円を送金していた社員が、控除を受けるために送金を38万円に増やす場合、送金の増加は8万円です。所得税率5%の社員では税の軽減額(約5.2万円)が送金の増加分を下回ります。本国の家族の生活費として送る必要があるかどうかを先に考え、税の軽減はその結果として受けるもの、という順番で判断するのが健全だと筆者は考えます。送金額を控除のためだけに調整すると、後で家族の生活実態と合わない説明を求められることにもなりかねません。
確認書類|親族関係書類と送金関係書類
確認書類の中身は、国税庁Q&AのQ8以下に詳しく書かれています。
親族関係書類は、戸籍の附票の写しなど日本の国や地方公共団体が発行した書類と国外居住親族の旅券の写し、または外国政府・外国の地方公共団体が発行した書類(出生証明書、婚姻証明書、家族関係を示す公的書類など)で、居住者の親族であることを証するものです。外国語の書類には翻訳文が必要です。外国の運転免許証のような身分証明書は、本人の身分を示すものにすぎず、それだけでは親族関係書類になりません(同Q19)。親族関係書類は発行日の制限がなく、1年以上前に発行されたものでも使えますが、結婚や離婚などの異動がないかは提出時に確認します(同Q18)。
送金関係書類は、金融機関の外国送金依頼書の控えや、インターネット送金の利用明細書・通帳の写しなどで、送金者の氏名、受領者の氏名、送金日、送金額が記載されたものです(同Q37・Q38)。家族カードの利用明細書も該当します(同Q40)。
年末調整の際に送金関係書類が出されなければ、その親族を控除対象に含めずに計算します。源泉徴収票を作成する前に提出されれば再計算してもよく、作成後であれば本人が確定申告で控除を受けることになります(同Q44)。会社は、提出を受けた確認書類を扶養控除等申告書と一緒に7年間保存します(同Q17)。
年末調整の手順全体、居住者・非居住者の判定、扶養控除等申告書の欄の書き方は外国人の年末調整|居住者・非居住者の判定と扶養控除申告書の書き方【令和8年分】で扱っています。
扶養の状況は在留審査でも見られる
扶養控除は税の問題ですが、その結果は在留審査にもつながります。在留期間の更新や永住申請では住民税の課税証明書・納税証明書を提出し、課税証明書には扶養親族の人数が記載されます。永住申請では、扶養家族の人数が独立生計要件の判断材料の一つになります。
気をつけたいのは、要件を満たさない国外扶養親族を扶養に入れていた場合です。税務調査や本人の修正申告で控除が否認されると、所得税と住民税の追加納付が生じ、納付の時期によっては「公的義務を適正に履行しているか」という在留審査上の論点に波及します。永住許可のガイドラインは、納付期限内に納めていない公的義務を原則として消極的に評価するとしています。在留期間の更新で納税状況が見られる仕組みは在留期間更新の「相当の理由」とは|ガイドラインと審査要領で見る素行・納税・社会保険、社会保険料の滞納との関係は社会保険料の滞納は在留資格の更新に影響する?で解説しています。
なお、健康保険の被扶養者の要件は税の扶養とは別の制度で、国外に住む家族は原則として被扶養者になれません。こちらは社会保険の扶養に外国人配偶者を入れる条件|海外在住の家族が対象外の理由と手続きで扱います。
よくある質問
国外扶養は何親等まで対象になりますか?
日本人と同じく、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族です(国税庁Q&A Q3)。範囲に入っていても、30歳以上70歳未満であれば留学・障害者・年38万円以上の送金のいずれかに当たらなければ扶養控除は受けられません。
国外扶養親族に送金する金額はいくらですか?
30歳以上70歳未満の親族は、その年に38万円以上です。16歳以上30歳未満と70歳以上の親族には金額基準はなく、生活費や教育費をその年に送金したことが確認できればよいとされています(同Q33)。ただし年間の送金が少額の場合、会社は送金の目的を確認するよう求められています。
70歳以上の国外扶養親族にも送金は必要ですか?
必要です。金額基準はありませんが、年末調整時に送金関係書類を提出しなければ扶養控除は受けられません。70歳以上の親は老人扶養親族として48万円の控除になり、国外に住んでいるため同居老親等の58万円は適用されません。
国外扶養親族の所得要件はいくらですか?
令和8年分からは合計所得金額62万円以下です(改正前は58万円以下)。2026年12月1日施行の改正で、令和8年分の所得税から適用されます。19歳以上23歳未満で所得が62万円を超え123万円以下の子は、特定親族特別控除の対象になり得ます。
国外扶養親族の要件が厳しくなったのはいつからですか?
所得税では2023年(令和5年)1月1日以後に支払う給与と2023年分以後の所得税から、住民税では2024年度分から適用されています。確認書類(親族関係書類・送金関係書類)の提出自体は、それ以前の2016年分から求められています。
年初の送金の段取りで、12月の結果が決まる
国外扶養親族の扶養控除は、年末調整の12月に書類を集めても、その年の送金の方法と金額は変えられません。控除を受けられるかどうかは、1年を通じて誰に、どの方法で、いくら送ったかで決まっています。
会社としては、扶養控除等申告書を回収する年初(または入社時)の段階で、国外扶養親族がいる社員に3点を伝えておくと手戻りが減ります。1つは、30歳以上70歳未満の親や兄弟を扶養に入れるには、その年に一人あたり38万円以上の送金が必要なこと。2つ目は、送金は親族一人ひとりの口座に、銀行送金か家族カードで行い、現金の手渡しや代表者へのまとめ送金は認められないこと。3つ目は、送金の控えを年末まで保管し、手数料が記載された書類を残すこと。この案内を母語で用意しておけば、社員の在留審査で税の問題が指摘されるリスクも下がります。個々の家族関係や本国の書類の扱いで判断が分かれる場合は、所轄の税務署や税理士に確認してください。
根拠資料
- 国外居住親族に係る扶養控除等Q&A(源泉所得税関係)(国税庁・令和8年8月最終改訂)
- 国外居住親族に係る扶養控除等の適用について(国税庁)
- 令和8年度税制改正(所得税の基礎控除の引上げ等関係)Q&A(国税庁・令和8年5月)
- 所得税法 第2条・第84条(e-Gov法令検索)
- 永住許可に関するガイドライン(出入国在留管理庁)
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