ここでいう派遣受け入れとは、派遣元に雇用された技人国の外国人が、派遣先で専門性のある業務に従事する形態を指します。この形態自体は制度上認められていますが、直接雇用と比べて確認すべき点が一つ増えます。派遣元と派遣先、両方の書類が必要になるという点です。
派遣だから、自社の業務内容までは詳しく説明しなくていいだろうと考える経営者は少なくありません。しかし派遣先の実態が曖昧なまま申請すると、まず許可は下りません。派遣というビジネスモデル自体は入管も理解していますが、派遣先で実際に何をやらせるのかが不明確であれば、専門性の有無を判断する材料がないということになります。
この記事では、技人国のまま派遣社員として働かせることの可否、派遣元・派遣先それぞれの位置づけ、審査で見られるポイント、そして実際に当事務所で扱った指揮命令系統図の提出事例まで、人事担当者・派遣会社の担当者が押さえるべきことを整理します。
この記事でわかること
- 技人国のまま派遣社員として受け入れることの可否
- 派遣元・派遣先それぞれに求められる要件
- 派遣先の業務内容が審査対象になる理由
- 実際に指揮命令系統図の提出を求められた事例
- 派遣契約を組むときに注意すべきポイント
技人国は派遣でも取得・維持できる
まず前提を確認しておきます。技人国は「専門性のある業務に従事すること」が条件であって、「直接雇用でなければならない」とは法律上どこにも定められていません。だから、派遣元に雇用されている外国人が、派遣先で技人国に該当する業務をするという形式自体は成立します。
ただし、派遣という働き方は雇用の実態が「雇用主(派遣元)」と「指揮命令を行う会社(派遣先)」に分かれる分、直接雇用より説明すべき事項が増えます。技術・人文知識・国際業務ビザ(技人国)とは?で解説している基本要件は変わりませんが、そこに「派遣元と派遣先、どちらが何を担っているか」という説明が上乗せされるイメージです。
派遣元・派遣先、それぞれの位置づけ
技人国の派遣受け入れでは、派遣元と派遣先で役割がはっきり分かれます。整理すると次のとおりです。
| 主体 | 位置づけ | 求められること |
|---|---|---|
| 派遣元 | 雇用主。給与を支払い、雇用契約を結ぶ | 労働者派遣事業の許可、給与水準、経営の安定性、雇用理由書の作成 |
| 派遣先 | 実際に業務の指揮命令を行う会社 | 業務内容を明らかにする資料、指揮命令系統の説明、事業内容の証明 |
ここで気をつけたいのは、給与や経営の安定性といった「企業側要件」は派遣元が満たすべきものである一方、実際にやらせる業務が専門性の範囲に収まっているかどうかは派遣先の実態で判断される、という点です。派遣元がどれだけ立派な会社でも、派遣先での業務が単純作業ばかりなら不許可になります。逆に派遣元が小規模でも、派遣先での業務がきちんと専門性を伴っていれば、そこは問題になりません。派遣元・派遣先どちらか一方だけを見て安心すべきではありません。
なぜ派遣先の業務内容が審査対象になるのか
技人国は「学んできたこと・経験してきたこと」と「実際にやる仕事」がつながっているかを見る在留資格です。直接雇用なら、雇用契約を結んだ会社でどんな仕事をするか、その1点を説明すれば足ります。派遣の場合は、実際に指揮命令を受けて働く場所が別の会社になるため、そこの業務内容まで踏み込んで確認されます。
これは派遣という働き方を否定しているわけではありません。雇用契約上はSEという肩書きだけど、派遣先に行ってみたら実質的に現場の軽作業だった、というようなケースを防ぐために、入管は派遣先の実態を確認してくるということです。派遣契約を組む段階で、派遣先の業務内容を専門性の観点からきちんと精査しておく必要があります。
許可されやすい例
SES契約でシステム開発の常駐業務/経理・財務の専門知識を要する業務の派遣/通訳・翻訳業務での派遣
不許可になりやすい例
派遣先での実態が軽作業・単純労働中心/派遣先の業務内容資料が抽象的で判断できない/指揮命令の所在があいまい
派遣元に求められる労働者派遣事業の許可
見落とされがちですが、大前提として派遣元は労働者派遣事業の許可を得ている必要があります。無許可の派遣元から技人国の外国人を送り出すことはできません。これは技人国に限った話ではなく労働者派遣法の問題ですが、外国人労働者を扱う場合はここが特に厳しく確認されます。
派遣元自体の経営の安定性も見られます。技術・人文知識・国際業務ビザの要件とは?で解説している「同等以上の給与水準」「経営の安定性」といった企業側要件は、派遣の場合は派遣元が満たすべき条件として整理してください。
指揮命令系統をどう説明するか
派遣の技人国申請で、実務上もっとも手間がかかるのがここです。入管は「対象者が誰の指揮命令を受けて働いているのか」「派遣先の中での位置づけはどうなっているのか」を明確に説明できる資料を求めてきます。
具体的には、派遣先の組織図の中で対象者がどこに配置されるのか、直属の上長は誰か、どういう業務フローで仕事が流れてくるのか、といった情報を書面にして提出する必要があります。口頭での説明では伝わりません。誰が見てもわかる形に書面化する必要があるということです。
実例:指揮命令系統図の提出を求められたケース
当事務所で扱った案件で、入管から指揮命令系統図の提出を求められたことがあります。対象者が派遣先の組織のどこに位置し、誰の指揮命令下で業務にあたっているのかを、図に落として説明する必要がありました。派遣という契約形態上、雇用主(派遣元)と実際に指示を出す会社(派遣先)が別だからこそ、他社に実質的に指揮命令されている偽装請負のような状態になっていないかを入管が確認したい、という趣旨です。単に組織図を出すだけでなく、業務の指示がどのルートで誰から誰に流れるのかまで実態に沿って整理して提出したところ、許可が下りました。
※上記は当事務所で取り扱った実際の相談内容をもとにしていますが、個別の状況により結果は異なります。同様の結果を保証するものではありません。
この指揮命令系統図にテンプレートは存在せず、案件ごとに実態に合わせて作り込む必要があります。派遣契約を検討している段階で一度専門家に相談しておくと、後になって書類を作り直す手間が省けます。
派遣での受け入れパターン別の申請手続き
派遣で技人国の外国人を受け入れる場合も、申請の種類は直接雇用と基本的に同じです。ただし審査の中身が変わってくるため、パターンごとに整理しておきます。
| 受け入れパターン | 必要な手続き | 実務上のポイント |
|---|---|---|
| 海外から派遣元が呼び寄せる | 在留資格認定証明書交付申請 | 派遣先が決まっていない段階での申請は難しい。派遣先を確定させてから動く |
| 既に日本にいる人材を派遣で受け入れる | 在留資格変更許可申請または在留期間更新許可申請 | 前職の業務内容と派遣先での業務内容の違いを説明する必要がある |
| 派遣元は変わらず派遣先だけ変更 | 在留期間中は届出不要な場合が多いが、就労資格証明書の取得を推奨 | 切替先の業務内容の専門性を事前に確認しておく |
特に注意したいのは、海外から呼び寄せるケースです。まず在留資格だけ先に取り、派遣先はあとから探すという進め方は現実的ではありません。技人国は業務内容ありきの審査なので、派遣先が具体的に決まっていない段階では専門性を説明しようがないからです。派遣元としては、まず受け入れ先の候補を固めてから申請の準備に入る、という順番を守る必要があります。
派遣先を選定するときのチェックポイント
派遣会社の立場からすると、どの派遣先になら技人国の人材を送り込めるかを事前に見極める力が問われます。実務上、次のポイントを確認しておくと、あとで審査に落ちるリスクを減らせます。
- 派遣先での業務内容が、対象者の専攻・職歴と結びつけて説明できるか
- 派遣先の業務のうち、専門業務が占める比重がどのくらいか(8割・9割といった感覚ではなく、実際の作業内容で判断する)
- 派遣先の指揮命令者が明確に決まっているか
- 派遣先自体の事業内容を証明する資料(登記事項証明書等)を提出してもらえるか
ここで「派遣先の協力が得られるか」という視点が意外と重要になります。技人国の派遣申請は、派遣先にも一定の書類提出や情報開示への協力を求めることになるため、派遣先がそれに応じてくれない、あるいは業務内容を詳しく開示したがらない、という場合はそもそも申請自体が難しくなります。契約前の段階で、この点をすり合わせておくべきです。
複数の派遣先を掛け持ちする場合
1人の外国人が、同時に複数の派遣先で働く、いわゆる掛け持ちのケースもあります。この場合、それぞれの派遣先での業務内容がすべて専門性の範囲に収まっている必要があり、片方だけ専門的でもう片方が単純作業、という組み合わせは認められません。
複数の派遣先で同種の専門業務に従事すること自体は問題になりません。ただし掛け持ちが増えるほど、それぞれの派遣先での指揮命令関係や業務内容を個別に説明する手間も増えます。派遣元としては、掛け持ちのパターンを増やす前に、1件ずつ確実に許可を取れる形を作っておいたほうが、結果的にスムーズです。
申請時に必要になる書類(派遣特有のもの)
通常の技人国申請書類に加えて、派遣の場合は次のような書類が追加で必要になります。
- 派遣元の労働者派遣事業許可証の写し
- 派遣先の事業内容を明らかにする資料(登記事項証明書、会社案内等)
- 派遣先での具体的な業務内容を説明する書類
- 指揮命令系統図(組織内での位置づけがわかるもの)
- 労働者派遣契約書の写し
特に派遣先の業務内容を説明する書類は、抽象的な言葉でごまかそうとするとかえって審査が長引きます。「システム関連業務」とだけ書くのではなく、具体的にどんな工程のどんな作業に従事するのか、専門知識がどう活きるのかまで踏み込んで書く必要があります。
派遣先を切り替えるときの注意点
派遣社員として働く外国人を、別の派遣先に切り替えるケースもよくあります。切替先の業務内容が従前と同程度の専門性を持っているなら大きな問題にはなりにくいですが、業務内容が大きく変わる場合は注意が必要です。
もともとはシステム開発の常駐だったが、次の現場は在庫管理システムのデータ入力だけ、となると、専門性の程度が落ちていると判断されるリスクがあります。業務の一部にデータ入力が含まれること自体は問題になりませんが、それが業務の中心になってしまうと話が変わってきます。切替のたびに、業務内容を専門性の観点から確認する習慣をつけるべきです。
不安がある場合は就労資格証明書の取得も検討してください。事前に入管に業務内容を確認してもらうことで、後から実は該当性がなかったという事態を防げます。転職に伴う手続き全般は技術・人文知識・国際業務の外国人が転職したら?で詳しく解説しています。
更新のタイミングで見られること
技人国は初回の許可がゴールではありません。派遣という働き方の場合、むしろ在留期間更新のタイミングでこそ実態が見られます。更新時には、それまでの在留期間中に実際にどんな業務をしてきたかが問われるからです。
更新申請では、直近の給与明細や業務内容の説明資料、場合によっては派遣先からの業務従事証明のような資料を求められることがあります。当初申請した業務内容と実際にやってきた業務内容がずれていると、当初の申請内容と実態が異なるのではという疑いを持たれます。派遣契約の途中で業務内容が変わった場合は、その都度記録を残しておくべきです。あとになってあのときの業務内容を説明してくださいと言われて困らないようにするためです。
更新前に確認しておきたいこと
- 在留期間中、派遣先が変わっていないか。変わっている場合、その業務内容に専門性はあったか
- 給与が当初の水準から下がっていないか
- 派遣元の経営状況(決算)に大きな変化がないか
- 業務内容を説明する資料(業務日誌、指示書等)が残っているか
この確認を怠り、更新のタイミングになって初めてこの人の業務内容を今なんと説明すればいいのかと慌てる企業をよく見かけます。日頃から業務内容の記録を残しておくという地味な作業が、更新のときにもっとも効いてきます。
偽装請負・多重派遣との違いに注意
派遣先での指揮命令があいまいなまま、実際には派遣先がさらに別の会社に業務を回している、いわゆる多重派遣や偽装請負のような形になっていると、技人国どころか労働者派遣法違反そのものが問題になります。
こういう構造は、外国人本人が知らないうちに巻き込まれていることも珍しくありません。企業側としては、契約の建付けと実際の業務フローが一致しているか、定期的に確認しておく必要があります。ここが崩れていると、在留資格の更新の段階で不許可になったり、最悪の場合は不法就労助長罪の対象になったりします。単純作業を恒常的にやらせてしまうリスクについては技術・人文知識・国際業務ビザでできる仕事とは?もあわせて確認してください。
紹介予定派遣・人材紹介との違い
「派遣」と一口に言っても、通常の労働者派遣と、紹介予定派遣、あるいは人材紹介会社を通じた直接雇用は、それぞれ法的な位置づけが異なります。技人国の審査では、この違いを理解して申請書類を組み立てる必要があります。
| 形態 | 雇用主 | 技人国申請での扱い |
|---|---|---|
| 労働者派遣 | 派遣元 | この記事で解説した派遣先の業務内容審査が必要 |
| 紹介予定派遣 | 当初は派遣元、その後派遣先へ切替予定 | 直接雇用に切り替わるタイミングで、派遣先を雇用主とした申請に組み替える必要がある |
| 人材紹介 | 紹介先の会社(直接雇用) | 通常の直接雇用と同じ扱い。派遣特有の追加書類は不要 |
ここで間違えやすいのが、人材紹介会社を通じて採用したのに、契約の建付けが実質的に派遣に近い形になってしまっているケースです。紹介会社が雇用主だと説明しながら、実際の指揮命令や給与の管理が紹介先の会社で行われている場合、法的な整理が崩れてしまいます。契約書の文言だけでなく、実態としてどちらが雇用主で、どちらが指揮命令をしているのかを、採用の入口できちんと整理しておく必要があります。
派遣元が整えておくべき社内体制
技人国の外国人を継続的に派遣で受け入れていく派遣会社であれば、その都度慌てて書類を作るのではなく、あらかじめ社内の体制を整えておいたほうが効率的です。
- 派遣先候補ごとに、業務内容の専門性を事前にチェックするフローを作る
- 派遣先との契約時に、指揮命令系統・業務内容の開示への協力を契約条項に盛り込む
- 在籍する外国人社員ごとに、業務内容の変更履歴を記録するファイルを用意する
- 在留期間の満了日を一覧管理し、更新の準備を余裕を持って進める
特に3つ目の「業務内容の変更履歴」は、更新のときに大きく効いてきます。1人1人の外国人について、いつ、どの派遣先で、どんな業務をしていたのかが一目でわかるようにしておくと、更新書類の作成が格段に早くなります。担当者が変わっても引き継げるように、属人化させない仕組みを作っておくべきです。
よくある質問
Q. 技人国の外国人を派遣社員として受け入れることはできますか?
できます。ただし派遣元が労働者派遣事業の許可を持ち、派遣先での業務内容が技人国の専門性の範囲に収まっている必要があります。派遣だから審査が甘くなるという話ではありません。
Q. 派遣先の会社の書類も提出する必要がありますか?
はい。派遣元だけでなく派遣先の事業内容・業務内容を明らかにする資料の提出を求められるのが通常です。派遣先が実態として何をやらせるのかを、入管はきちんと見ています。
Q. 同じ派遣社員を別の派遣先に切り替えることはできますか?
切替先の業務内容によります。切替先の業務が専門性の範囲に収まらない、あるいは指揮命令関係が不明確だと判断されると、就労資格証明書の取得や場合によっては在留資格の見直しが必要になることがあります。
Q. 偽装請負のような形になっていないか、自社で確認する方法はありますか?
契約書上の建付けと、実際の指揮命令の流れが一致しているかを確認するのが基本です。誰が指示を出し、誰が評価するのか、契約書と実態がずれていないかを、一度書面に落として整理することをおすすめします。
技人国以外の在留資格との比較で考える
派遣で外国人材を受け入れたい場合、そもそも技人国以外の在留資格のほうが向いているケースもあります。派遣先での業務内容が専門性を伴わないのであれば、特定技能など別の枠組みを検討したほうが早い場合もあるからです。
| 派遣先での業務のイメージ | 検討すべき在留資格 |
|---|---|
| システム開発、経理、通訳・翻訳などの専門業務 | 技人国 |
| 介護、外食、農業などの特定技能対象14分野の現場業務 | 特定技能(分野によって派遣形態が認められるものと認められないものがある) |
特に特定技能は、分野によって派遣形態そのものが認められていない場合もあるので、派遣で受け入れたいがどの在留資格が向いているかわからないという段階であれば、業務内容を整理したうえで、どの在留資格の枠組みが実態に合っているかを最初に確認すべきです。外国人を採用できる在留資格の全体像は外国人を採用できる在留資格の種類一覧で整理しています。
まとめ
技人国の派遣受け入れは、制度上禁止されているわけではありません。ただし派遣元・派遣先の両方について説明する書類が増える分、直接雇用より準備の手間がかかるのは事実です。特に指揮命令系統の説明は案件ごとに実態に合わせて作り込む必要があるため、契約を組む前の段階で一度整理しておくべきです。書類が整っていないまま申請して不許可になると、やり直しのほうがはるかに時間がかかります。
派遣元・派遣先という2つの会社が関わる分、直接雇用に比べて確認すべき書類も多く、専門的な視点で全体を整理してくれる相手がいるかどうかで、申請にかかる時間もかなり変わってきます。自社だけで抱え込まず、早い段階で相談することをおすすめします。
依頼するかどうかで迷っている方は在留資格の申請は行政書士に依頼すべきかと行政書士に依頼する費用の相場も参考にしてください。