社会保障協定とは、外国で働く人が日本と相手国の両方の年金制度に保険料を払う「二重加入」を防ぎ、両国の加入期間を合わせて年金の受給資格を満たせるようにする二国間の協定です。日本は2025年12月1日のオーストリアとの協定発効で、24か国と協定を結んでいます。外国人社員を受け入れる会社の側から見ると、協定国の会社から5年以内の見込みで日本に派遣される社員は、派遣元国の「適用証明書」があれば日本の厚生年金への加入が免除されます。ただし、免除される制度は国ごとに違い、中国・韓国・英国・イタリアとの協定は加入期間の通算を含みません。
社会保障協定とは|二重加入の防止と加入期間の通算
日本年金機構は、社会保障協定の目的を次の2つとしています。
- 保険料の二重負担を防止するために、加入するべき制度を二国間で調整する(二重加入の防止)
- 年金の受給資格を確保するために、両国の年金制度への加入期間を通算し、受給に必要な加入期間の要件を満たしやすくする(年金加入期間の通算)
1つ目の二重加入の防止は、協定の原則として「働いている国の制度にだけ加入する」というルールを置いたうえで、一時的な派遣の場合だけ派遣元国の制度に残れるようにする仕組みです。
2つ目の通算は、たとえば日本で7年、ドイツで5年働いた人が、日本の老齢年金の受給資格期間10年を満たせるようにする仕組みです。通算されるのは受給資格を判断するための「期間」で、年金額はそれぞれの国が自国の加入期間に応じて払います。日本の年金に日本の期間分、ドイツの年金にドイツの期間分が支給される形です。
外国人社員にとって通算が意味を持つのは、日本で10年に届かない期間しか働かずに帰国するときです。協定国の人であれば、日本の加入期間が短くても、母国の期間と合わせて日本の老齢年金を受け取れる可能性があります。一方、帰国時に脱退一時金を受け取ると、その計算の基礎になった日本の加入期間はなかったものとされ、通算にも使えなくなります。脱退一時金を請求するかどうかは、この比較をしてから決める必要があります。10年以上加入した人の扱いは年金加入10年以上の外国人が帰国したら|脱退一時金は対象外、65歳から海外で年金受給で解説しています。
社会保障協定の締結国一覧(24か国)と対象制度
日本年金機構の一覧(2025年10月27日更新)をもとに、24か国の発効時期と、二重加入防止の対象になる日本側の制度を整理すると次のとおりです。
| 相手国 | 発効 | 期間通算 | 日本側で免除の対象になる制度 |
|---|---|---|---|
| ドイツ | 2000年2月 | あり | 年金 |
| 英国 | 2001年2月 | なし | 年金 |
| 韓国 | 2005年4月 | なし | 年金 |
| アメリカ | 2005年10月 | あり | 年金・医療保険 |
| ベルギー | 2007年1月 | あり | 年金・医療保険 |
| フランス | 2007年6月 | あり | 年金・医療保険 |
| カナダ | 2008年3月 | あり | 年金 |
| オーストラリア | 2009年1月 | あり | 年金 |
| オランダ | 2009年3月 | あり | 年金・医療保険 |
| チェコ | 2009年6月 | あり | 年金・医療保険 |
| スペイン | 2010年12月 | あり | 年金 |
| アイルランド | 2010年12月 | あり | 年金 |
| ブラジル | 2012年3月 | あり | 年金 |
| スイス | 2012年3月 | あり | 年金・医療保険 |
| ハンガリー | 2014年1月 | あり | 年金・医療保険 |
| インド | 2016年10月 | あり | 年金 |
| ルクセンブルク | 2017年8月 | あり | 年金・医療保険 |
| フィリピン | 2018年8月 | あり | 年金 |
| スロバキア | 2019年7月 | あり | 年金 |
| 中国 | 2019年9月 | なし | 年金 |
| フィンランド | 2022年2月 | あり | 年金・雇用保険 |
| スウェーデン | 2022年6月 | あり | 年金 |
| イタリア | 2024年4月 | なし | 年金・雇用保険 |
| オーストリア | 2025年12月 | あり | 年金・医療保険・雇用保険 |
この表で企業の人事担当が見落としやすいのは、右端の列です。日本側で免除されるのが「年金」だけの国から来た社員は、厚生年金は免除されても、健康保険には日本で加入しなければなりません。中国・韓国・インド・フィリピンなど、日本で働く人の多い国はいずれも年金だけの協定です。医療保険まで免除されるのは、アメリカ、ベルギー、フランス、オランダ、チェコ、スイス、ハンガリー、ルクセンブルク、オーストリアに限られます。
表に載っていない国、たとえばベトナム、インドネシア、ネパール、ミャンマー、タイとは、2026年9月時点で協定は発効していません。これらの国から来た社員は、派遣であっても日本の厚生年金・健康保険に加入し、母国の制度との調整はありません。
協定国から日本に派遣される社員の「5年ルール」
協定国の会社から日本の支店や子会社に社員が派遣される場合、どちらの国の制度に加入するかは派遣期間の見込みで決まります。日本年金機構の案内を整理すると、次のようになります。
| 就労の形 | 加入する制度 |
|---|---|
| 協定国の事業主による派遣で、5年以内と見込まれる | 協定国の制度のみ(日本の制度は免除) |
| 上の派遣が、予見できない事情で5年を超えた | 原則は日本の制度。両国の合意があれば協定国の制度 |
| 協定国の事業主による派遣で、5年を超えると見込まれる | 日本の制度のみ |
| 日本の会社での現地採用 | 日本の制度のみ |
ここで重要なのは、「派遣元国の事業主による派遣」であることが免除の前提になっている点です。日本の会社が直接雇用した外国人社員、つまり母国の会社を退職して日本の会社に転職した人は、国籍が協定国であっても現地採用に当たり、日本の制度にだけ加入します。免除の対象になるのは、母国の会社との雇用関係を保ったまま日本に来る人です。在留資格でいえば企業内転勤が典型ですが、技術・人文知識・国際業務などで来日する出向者も、派遣元との雇用関係が続いていれば対象になりえます。企業内転勤の要件は企業内転勤ビザとは、給与を海外の親会社が払う場合の考え方は企業内転勤ビザの給与は海外親会社払いでもよい?で解説しています。
協定によっては「見込み」を問わず、派遣開始日から5年間は派遣元国の制度だけに加入するとしているものがあります。中国との協定はこの型で、日本年金機構の中国の注意事項は、派遣期間の長さの「見込み」は必要なく、派遣開始日から5年間は派遣元国の年金制度のみに加入するとしています。5年を超える場合は、申請に基づき両国の機関が合意すれば延長でき、延長は原則5年まで、特段の事情があれば合計10年を超える延長も認められる場合があります。
派遣期間を延長する必要が出た場合は、派遣元国の事業主が派遣元国の実施機関に延長を申請します。延長の上限は協定ごとに異なり、上限を超えれば日本の制度に加入することになります。
家族の扱いも決まっています。派遣者に同行する配偶者と子(随伴家族)は、在留資格が「家族滞在」で派遣者の被扶養者であれば、多くの協定で日本の年金制度(協定によっては国民健康保険も)の加入が免除されます。英国とオランダの協定には随伴家族の特別な規定がなく、家族は日本の制度に強制加入です。
適用証明書の取得先と日本での提出先
協定国から来る社員が日本の制度の加入を免除されるには、派遣元国の制度に加入していることを証明する「適用証明書」が必要です。手続の流れは次のとおりです。
- 派遣元国の事業主が、派遣元国の実施機関に適用証明書の交付を申請する
- 審査の結果、認められれば実施機関が適用証明書を交付する
- 来日後、日本の事業所に適用証明書を提出する(ベルギーとフランスは本人が所持する)
- 日本の事業所は「厚生年金保険・国民年金 条約等適用者に関する届書」を年金事務所または事務センターに提出する
4つ目の届書は、2024年7月1日から始まった手続です。以前は適用証明書を事業所で保管しておけば足りていましたが、現在は日本の年金事務所にも免除者であることを届け出る必要があります。随伴家族についても同じ届書を出します。年金事務所が提示を求めたときや調査の際には、適用証明書を示せるようにしておきます。
派遣期間が5年を超える見込みの人や現地採用の人は、日本の事業主が通常どおり健康保険・厚生年金保険の資格取得届を出します。年金だけの協定国から免除者を受け入れる場合は、健康保険の資格取得届は出したうえで、厚生年金だけを免除にする、という手続の組合せになります。
日本の会社が社員を協定国に派遣する逆向きの場合は、日本の事業主が年金事務所に適用証明書の交付を申請し、交付された証明書を派遣先国に提出します。中国への派遣では、日本年金機構が交付した適用証明書の原本を、派遣先の中国の事業所を通じて社会保険料徴収機関に提出する扱いです。
事例で見る|企業内転勤・海外出向のときの判断
具体的な場面で、どちらの国の制度に加入するかを確かめておきます。以下は日本年金機構の案内にもとづく筆者の整理です。
ドイツの親会社から、日本の子会社に3年の予定でエンジニアが企業内転勤で来るケースでは、5年以内の一時派遣なので、ドイツの適用証明書があれば日本の厚生年金は免除されます。ドイツとの協定は年金だけが対象なので、健康保険には日本で加入します。帰国後、日本の加入期間とドイツの加入期間は通算の対象になりますが、免除されていた期間は日本の加入期間ではないので、通算の対象にもなりません。
中国の本社から、日本の支店に社員が企業内転勤で来るケースでは、派遣開始日から5年間は中国の年金制度だけに加入し、日本の厚生年金は免除されます。健康保険は日本で加入します。中国との協定には通算の規定がないので、日本の厚生年金に加入していた期間があっても、中国の加入期間と合わせることはできません。
アメリカの会社から日本の子会社に2年の予定で出向するケースでは、アメリカとの協定は年金と医療保険の両方を対象にしているので、適用証明書があれば厚生年金と健康保険の両方が免除されます。ただし、日本年金機構はアメリカの注意事項で「日本の医療保険制度が免除されない事例」を個別に示しているため、該当しないかを来日前に確認しておく必要があります。
最初は3年の予定だった派遣が、事業の都合で延長され、通算で6年になったケースでは、5年を超えた時点で原則として日本の制度に加入することになります。延長を申請して両国の合意を得られれば派遣元国の制度に残れますが、その手続は派遣元国の事業主が期限前に行う必要があります。日本側の人事担当は、在留期間の更新と同じ時期に、適用証明書の有効期限も確認しておくと漏れを防げます。
よくある質問
社会保障協定の期間は何年ですか?
一時派遣として派遣元国の制度に残れる期間は、原則5年です。5年以内と見込まれる派遣であれば日本の制度が免除され、5年を超えると見込まれる場合は最初から日本の制度に加入します。中国との協定などは「見込み」を問わず派遣開始日から5年間が免除期間で、両国の合意があれば延長できる場合があります。
社会保障協定は5年を超えるとどうなりますか?
予見できない事情で5年を超えた場合は、原則として日本の制度に加入することになります。派遣元国の事業主が実施機関に延長を申請し、両国の機関が合意した場合に限り、引き続き派遣元国の制度に加入できます。延長の上限は協定ごとに異なります。
日本はどの国と社会保障協定を結んでいますか?
2025年12月1日時点で24か国と発効しています。ドイツ、英国、韓国、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー、インド、ルクセンブルク、フィリピン、スロバキア、中国、フィンランド、スウェーデン、イタリア、オーストリアです。英国・韓国・中国・イタリアとの協定は、二重加入の防止のみで加入期間の通算はありません。
社会保障協定があれば健康保険も免除されますか?
国によります。日本の医療保険まで免除されるのは、アメリカ、ベルギー、フランス、オランダ、チェコ、スイス、ハンガリー、ルクセンブルク、オーストリアとの協定です。中国・韓国・インド・フィリピンなどとの協定は年金だけが対象なので、健康保険には日本で加入します。家族を健康保険の扶養に入れる条件は社会保険の扶養に外国人配偶者を入れる条件|海外在住の家族が対象外の理由と手続きで解説しています。
適用証明書はどこに提出しますか?
協定国から日本に来る人の場合、派遣元国の実施機関が交付した適用証明書を日本の事業所に提出し、事業所は「厚生年金保険・国民年金 条約等適用者に関する届書」を年金事務所または事務センターに出します。日本から協定国に行く場合は、日本の年金事務所で交付を受けた適用証明書を派遣先国の機関に提出します。
協定の有無より先に「誰が雇用主か」を確かめる
社会保障協定の実務は、協定国の一覧を見ることから始まりがちです。ただ、免除の前提は派遣元国の事業主との雇用関係が続いていることなので、最初に確かめるべきは国籍より雇用の形です。日本の会社が直接雇った外国人社員は、協定国の出身であっても日本の制度にだけ加入します。
外国人社員を受け入れる会社がすることは3つに絞れます。1つは、来日する社員が派遣なのか現地採用なのかを、雇用契約と出向契約で確かめること。2つ目は、派遣であれば適用証明書を受け取り、条約等適用者の届書を年金事務所に出すこと。3つ目は、協定の対象が年金だけの国であれば、健康保険の資格取得届は別に出すことです。社会保険の加入漏れは在留期間の更新や永住の審査にも影響するため(社会保険料の滞納は在留資格の更新に影響する?)、協定で免除される範囲とそうでない範囲の線引きを、受入れの時点で文書にしておくことをお勧めします。個別の事情で判断が変わるため、迷うときは年金事務所か専門家に確認してください。
根拠資料
- 社会保障協定(日本年金機構・2025年10月27日更新)
- 協定を結んでいる国との協定発効時期および対象となる社会保障制度(日本年金機構・2025年10月27日更新)
- 協定を結んでいる国から日本で働く場合の加入すべき制度(日本年金機構・2025年10月27日更新)
- 協定を結んでいる国から日本で働く場合の手続き(日本年金機構・2024年7月1日更新)
- 協定相手国別の注意事項(中国)(日本年金機構)
- 海外で働かれている皆様へ(社会保障協定)(厚生労働省)
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