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外国人の脱退一時金とは?上限8年への改正はいつから・再入国許可中の請求制限

脱退一時金は、日本の公的年金に6か月以上加入した外国人が、年金を受け取る資格を得ないまま帰国したときに、日本に住所がなくなった日から2年以内に請求できる一時金です。支給額の計算に使う加入期間の上限は現在5年(60か月)で、2025年6月に成立した年金制度改正法により、これを8年に引き上げ、再入国許可を持って出国した人には許可の有効期間中は支給しない仕組みに改めることが決まりました。ただし、この改正の施行日は「公布から4年以内の政令で定める日」とされており、2026年9月時点で施行日を定める政令は確認できていません。「2026年4月から8年に延びた」という説明は、少なくとも日本年金機構の公表内容とは合っていません。

脱退一時金とは|払った保険料の一部が戻る制度

ここでいう脱退一時金とは、国民年金や厚生年金保険の保険料を納めた外国人が、老齢年金を受け取る前に日本を離れる場合に、納めた保険料の一部を一時金として受け取れる制度を指します。国民年金法附則9条の3の2と厚生年金保険法附則29条に定められています。

日本の老齢年金は、受給資格期間が10年以上なければ受け取れません。数年働いて帰国する外国人の多くは10年に届かず、保険料を納めても年金を受け取れないまま終わってしまいます。この「払い損」を和らげるのが脱退一時金の役割です。

外国人社員の側から見れば、社会保険の加入義務に納得してもらううえで、会社が最初に説明すべき制度でもあります。社会保険の加入ルールとあわせて理解しておくと、入社から退職までの説明が一貫します。

支給要件|6か月以上の加入と日本に住所がないこと

日本年金機構は、国民年金と厚生年金保険のそれぞれについて、次の要件をすべて満たす人に脱退一時金を支給すると説明しています。

  • 日本国籍を持っていない
  • 公的年金の被保険者でない
  • 保険料を納めた期間(厚生年金は加入期間)が6か月以上ある
  • 老齢年金の受給資格期間(10年)を満たしていない
  • 障害年金などの年金を受ける権利を持ったことがない
  • 日本国内に住所がない
  • 最後に公的年金の資格を失った日(その日に日本に住所があった場合は、住所がなくなった日)から2年以上経っていない

実務で注意が必要なのは「日本国内に住所がない」と「2年以内」の2つです。請求は、住民票の転出届を出して日本に住所がなくなった後に行います。帰国後に請求書を送る人が多い一方、日本年金機構は転出届を出したうえで出国前に請求書を提出する方法も案内しているとされますが、受付の条件は最新の請求書の記載で確認してください(公式資料では未確認)。2年を過ぎると請求できなくなるため、退職時に期限を伝えておくことが大切です。

受給資格期間の10年には、合算対象期間なども含まれます。加入期間が10年以上になった外国人は脱退一時金の対象外で、帰国後に日本の老齢年金を受け取る側に回ります。その場合の扱いは年金加入10年以上の外国人が帰国したら|脱退一時金は対象外、65歳から海外で年金受給で解説しています。

支給額の計算|国民年金は定額、厚生年金は報酬比例

国民年金の脱退一時金

国民年金の脱退一時金は、保険料を納めた月数に応じた定額です。日本年金機構によると、令和8年度の額は、納付済期間が6か月以上12か月未満で53,760円、60か月以上で537,600円です。60か月以上は何年納めても同じ額になります。この額は、その年度の国民年金保険料額の2分の1に、月数の区分に応じた数(6〜60)を掛けて決まります。

厚生年金保険の脱退一時金

厚生年金保険の脱退一時金は、次の式で計算します。

被保険者であった期間の平均標準報酬額 × 支給率

支給率は、最終月(資格を失った月の前月)の属する年の前年10月の保険料率(最終月が1〜8月なら前々年10月の保険料率)に2分の1を掛け、加入月数の区分に応じた数を掛けたものです。区分の数は、6か月以上12か月未満が6、12か月以上18か月未満が12……と6か月ごとに増え、60か月以上は60で頭打ちになります。

現在の厚生年金の保険料率は18.3%なので、支給率は加入期間5年以上で最大5.49(0.183×1/2×60)です。平均標準報酬額には、2003年4月以降は賞与も含まれます。

計算例

平均標準報酬額が28万円、厚生年金の加入期間が4年(48か月)の社員が帰国した場合で考えます。

項目 金額
支給率(0.183×1/2×48) 4.392
脱退一時金の額(28万円×4.392) 1,229,760円
源泉徴収される所得税(20.42%) 251,116円
実際に振り込まれる額 978,644円

厚生年金の脱退一時金は、支給の際に20.42%の所得税が源泉徴収されます。この税金は、日本で納税管理人を選任して確定申告をすれば還付を受けられます。手続の流れは脱退一時金の確定申告|20.42%源泉の還付を受ける方法と納税管理人で扱う予定です。国民年金の脱退一時金には源泉徴収はありません。

同じ社員が6年(72か月)働いて帰国した場合、現在の制度では上限の60か月で計算されるため、支給率は5.49、額は153万7,200円です。6年目の保険料は脱退一時金には反映されません。

2025年改正で決まったこと|上限8年と再入国許可中の支給停止

2025年6月13日に成立し、6月20日に公布された年金制度改正法は、脱退一時金について2つの見直しを定めました。厚生労働省の説明資料は次のように書いています。

  • 「脱退一時金の支給上限を現行の5年から8年に引き上げます。」
  • 「再入国許可付きで出国した外国人には、許可の有効期間内は脱退一時金を支給しないこととします。」
  • 施行日は「公布から4年以内の政令で定める日」

上限8年への引上げ

支給率の計算に使う数の上限が60から96に引き上げられる見込みで、保険料率18.3%のままなら支給率の最大は8.784になります。先ほどの計算例の社員が8年以上働いて帰国した場合、平均標準報酬額28万円なら約246万円(源泉徴収前)になる計算です。

引上げの理由について、厚生労働省の年金部会資料(2024年11月15日)は、5年を超えて10年以内の期間日本に滞在する外国人の割合が増えていることと、育成就労制度の創設で「育成就労3年+特定技能1号5年」の計8年滞在する外国人の増加が見込まれることを挙げています。同資料によると、令和5年度に脱退一時金の支給を受けた人の加入期間は、3年未満が43.6%、3年以上5年以内が40.7%、5年超10年以内が14.8%でした。

再入国許可の有効期間中は支給しない

もう1つの見直しは、再入国許可を受けて出国した人への支給制限です。現在の制度では、再入国許可(みなし再入国許可を含む)を持って出国した人も、日本に住所がなくなれば脱退一時金を請求できます。前述の年金部会資料によると、令和4年度に支給が決まった人のうち、再入国許可を得て出国した人は24.19%でした。

日本に戻る前提で出国した人が脱退一時金を受け取ると、それまでの加入期間が消え、再来日後に年金の受給資格期間を満たしにくくなります。改正後は、再入国許可の有効期間が残っている間は請求できず、許可の期限が切れて在留資格を失った後に請求する形になる見込みです。再入国許可の制度そのものは再入国許可とみなし再入国許可の違いで解説しています。

「2026年4月から」は確認できない

インターネット上には「2026年4月から上限8年」と書かれた記事が少なくありません。しかし、日本年金機構の「脱退一時金の制度」のページ(2026年4月1日更新)は、支給率の計算に用いる数の上限を60のまま掲載しており、施行日を定める政令も確認できていません(公式資料では未確認)。改正後の上限が、どの時点で資格を失った人から適用されるのかも、政令と経過措置の内容を待つ必要があります。

会社が社員に説明するときは、「上限8年への改正は決まっているが、施行日はまだ決まっていない。帰国の時期によっては5年で計算される」と伝えるのが正確です。帰国時期を改正に合わせて遅らせるかどうかは本人の判断ですが、誤った日付を前提に退職日を決めてしまうと、取り返しがつきません。

受け取る前に知っておくべきデメリット

脱退一時金を受け取ると、その計算の基礎になった加入期間は、年金に加入していなかったものとして扱われます。これが最大の注意点です。

1つ目の影響は、将来日本に戻って働いた場合です。受け取った期間はゼロからの計算になるため、10年の受給資格期間を満たすのが遅くなります。

2つ目は、社会保障協定を結んでいる国の人です。協定で年金加入期間を通算できる国の人は、日本の加入期間を母国の年金の受給資格に数えられる可能性があります。脱退一時金を受け取ると、その期間は通算に使えなくなります。

3つ目は、永住や長期の在留を考えている人です。永住申請では年金の加入と納付の状況が見られるため、一時帰国のつもりで脱退一時金を受け取ると、その後の在留の計画に影響が出ることがあります。

請求の手続き

請求は本人(または代理人)が行い、会社が代わりに請求する手続ではありません。日本年金機構は、多言語の「短期在留外国人の脱退一時金請求書」を公開しています。請求書に添付するものは、次のとおりです。

  • パスポートの写し(氏名、生年月日、国籍、署名、在留資格が確認できるページ)
  • 日本国内に住所がないことが確認できる書類(住民票の除票の写しなど。マイナンバーを記入すれば省略できる場合があります)
  • 受取先の金融機関の名称・支店・口座番号・口座名義人が確認できる書類(銀行が発行する証明書、請求書の証明欄への銀行の証明など)
  • 基礎年金番号が分かる書類

請求書は日本年金機構本部へ郵送します。記載の詳細と最新の様式は、日本年金機構の請求書ページで確認してください。

退職時に会社が伝えるべきこと

脱退一時金の請求は本人の手続ですが、請求書の中身を知らないまま帰国した外国人は、期限を過ぎたり、書類をそろえられなかったりします。退職時に会社から伝えておきたいのは次の点です。

  • 請求できるのは、日本に住所がなくなった日から2年以内
  • 転出届を出してから請求する(住民票が残っていると請求できない)
  • 帰国前に、基礎年金番号が分かる書類と、受取口座の情報を手元にそろえておく
  • 厚生年金の脱退一時金からは20.42%が源泉徴収され、納税管理人を通じて還付を受けられる
  • 受け取ると加入期間が消えるため、再来日の予定や母国との社会保障協定の有無を考えてから請求する
  • 上限8年への改正は決まっているが、施行日は政令で定められる

あわせて、住民税の精算や、在職中の社会保険料の扱いも説明しておくと、帰国後のトラブルが減ります。会社の社会保険料の納付状況は、在職中の外国人社員の在留審査にも関係します(社会保険料の滞納は在留資格の更新に影響する?)。

よくある質問

厚生年金の脱退一時金が8年になるのはいつからですか?

施行日は「公布(2025年6月20日)から4年以内の政令で定める日」とされており、2026年9月時点で施行日を定める政令は確認できていません。日本年金機構の制度ページも、上限を60か月(5年)のまま掲載しています。

脱退一時金と退職金は両方もらえますか?

もらえます。脱退一時金は公的年金の制度で、会社の退職金とは別のものです。企業年金や確定拠出年金にも「脱退一時金」という名前の給付がありますが、これらは各制度の規約に基づくもので、この記事で扱う公的年金の脱退一時金とは別の制度です。

脱退一時金の請求期限はいつまでですか?

日本に住所がなくなった日から2年以内です。資格を失った日にまだ日本に住所があった場合は、住所がなくなった日から数えます。

脱退一時金はいつ受け取れますか?

請求書が日本年金機構に届いてから審査を経て支給されるため、数か月かかるのが通常です。支給が決まると、請求者の住所あてに脱退一時金支給決定通知書が送られます。

脱退一時金は必ずもらうべきですか?

再来日の予定がなく、協定による期間通算もない国の人であれば、受け取るのが通常です。一方、再び日本で働く予定がある人や、協定で母国の年金に期間を通算できる人は、受け取らないほうが有利なことがあります。本人の事情で判断が変わるため、請求の前に年金事務所に相談してください。

帰国の日程を決める前に、制度の日付を確かめる

脱退一時金は、外国人社員が日本で働いた年数の一部を、帰国後に取り戻す制度です。会社から見れば、社会保険の加入を理解してもらうための説明材料であり、退職時に案内すべき手続でもあります。

2025年の改正で上限8年と再入国許可中の支給停止が決まったことで、この制度は「いつ帰国するか」「再入国許可を持って出るか」という在留の判断と結びつくようになりました。一方で、施行日は政令で決まるまで分かりません。会社としては、社員の帰国の相談を受けたら、改正の施行日、本人の加入月数、社会保障協定の有無の3点を確かめたうえで説明する運用をお勧めします。個別の事情で有利な選択が変わるため、迷う場合は年金事務所か専門家に確認してください。

根拠資料


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