外国人の雇用契約書は、日本人と同じく労働基準法15条と同法施行規則5条が定める労働条件を明示して作り、そのうえで二つの点を加えます。一つは、本人が理解できる言語で示すことで、厚生労働省は英語・中国語・ベトナム語など13言語のモデル労働条件通知書を公開しています。もう一つは、在留資格が許可されなかった場合の扱いを決めておくことで、「在留資格の許可を受けることを条件に効力が生じる」という停止条件の条項を置くのが実務の定石です。以下、明示事項、多言語化、停止条件の条文例、入管の審査で見られる点の順に整理します。
外国人の雇用契約書も労働基準法15条が土台
労働基準法は、国籍による労働条件の差別を禁じ(3条)、外国人にも日本人と同じく適用されます。雇入れのときに書面で明示しなければならない事項は、労働基準法施行規則5条に定められています。
- 労働契約の期間、有期契約の場合は更新の基準と更新上限の有無・内容
- 就業の場所と従事する業務、それぞれの変更の範囲
- 始業・終業の時刻、所定時間外労働の有無、休憩、休日、休暇、交替制の就業時転換
- 賃金の決定・計算・支払いの方法、締切りと支払いの時期、昇給
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
- 有期契約で無期転換申込権が生じる契約更新時は、申込みの機会と転換後の労働条件
このうち、就業場所・業務の「変更の範囲」、更新上限、無期転換の申込機会は、2024年4月1日の施行規則改正で加わった事項です。外国人の雇用契約書を数年前のひな型のまま使っている会社は、まずこの三点が入っているかを確認してください。
書面の交付は原則として紙ですが、労働者が希望した場合は、FAX、電子メール、SNSのメッセージなどで明示することもできます(出力して書面を作成できるものに限る)。
雇用契約書と労働条件通知書の違い
ここでいう労働条件通知書とは、会社が労働者に一方的に交付する、労働基準法15条の明示のための書面を指します。雇用契約書は、会社と労働者の双方が署名する合意の書面です。法律が求めているのは労働条件の明示であり、雇用契約書の作成そのものは義務ではありません。
外国人の雇用では、双方が署名する形をとることを筆者は勧めます。在留資格の申請で入管に出す書類として、本人が労働条件を理解して合意したことを示せるうえ、後で述べる停止条件のような、労働条件通知書の様式に収まりにくい条項を入れられるからです。実務では「労働条件通知書兼雇用契約書」として一枚にまとめ、末尾に双方の署名欄を置く形が扱いやすいでしょう。
母国語で示す|厚労省のモデル労働条件通知書は13言語
外国人の労働者に日本語だけの書面を渡しても、労働基準法上の明示義務は形式的には果たせます。ただ、厚生労働省の「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」(外国人雇用管理指針)は、労働条件の明示にあたって、母国語その他の本人が使用する言語や平易な日本語を用いるなど、外国人労働者が理解できる方法で明示するよう努めることを事業主に求めています。
その手段として使いやすいのが、厚生労働省の「外国人労働者向けモデル労働条件通知書」です。2026年9月時点で、次の13言語が公開されています。
- 英語、中国語、韓国語、ポルトガル語、スペイン語、タガログ語
- インドネシア語、ベトナム語、タイ語、クメール語(カンボジア)、モンゴル語、ミャンマー語、ネパール語
英語版の「一般労働者用(常用、有期雇用型)」を見ると、就業場所と業務の欄が「雇入れ直後」と「変更の範囲」に分かれ、有期契約の更新上限の欄もあり、2024年4月の明示事項の追加に合わせた形になっています。
Word形式の様式はあるか
外国語版のモデル労働条件通知書は、厚生労働省のサイトではPDFで公開されています。日本語版のモデル労働条件通知書は、厚生労働省の「労働条件通知書等の様式」のページでWord形式も入手できます。実務では、日本語版のWordファイルで自社の条件を作り、外国語版のPDFを項目の対訳として使いながら翻訳文を作る、という進め方が現実的です。
翻訳文を付けるときは、どちらの言語を正本とするかを契約書に書いておきます。一般的には「日本語版と翻訳版の内容に相違がある場合は日本語版による」と定めます。ただし、本人が日本語を読めず、翻訳文の誤りで労働条件を誤解していた場合に、日本語優先の条項だけで会社が守られるとは限りません。翻訳文の正確さを確認し、署名の前に口頭でも要点を説明しておくことが、条項よりも効きます。
在留資格の停止条件|条項の意味と条文例
外国人の雇用契約で日本人と最も違うのは、契約を結んだ時点では本人がまだその仕事に就ける在留資格を持っていないことが多い点です。海外から呼ぶ場合は在留資格認定証明書の交付と入国を、留学生を採用する場合は在留資格変更の許可を待つ必要があります。許可が出なければ、会社はその人を雇えず、雇えば不法就労助長罪(入管法73条の2)の問題になります。
ここでいう停止条件とは、条件が成就したときに契約の効力が生じるという条件を指します(民法127条1項)。雇用契約に「在留資格の許可を受けたことを条件に効力を生じる」と定めておけば、不許可になった場合は契約の効力がそもそも生じず、解雇の問題になりません。条文例は次のとおりです。
第○条(在留資格の取得) 1 本契約は、乙が、本契約に定める業務に従事することができる在留資格について、在留資格認定証明書の交付を受けて本邦に上陸許可を受けたこと、又は在留資格変更許可を受けたことを条件として、その効力を生じる。 2 前項の許可が○年○月○日までに得られない場合、又は不許可となった場合は、本契約は効力を生じないものとし、甲及び乙は、相手方に対し、これを理由とする損害賠償その他の請求をしない。 3 乙の就労開始日は、第1項の許可を受けた日以降の日で、甲乙協議のうえ定める。 4 乙は、第1項の許可の申請に必要な書類の提出その他の手続に協力する。
2項の期限は、許可の見込みがはっきりしないまま双方が拘束され続けることを防ぐためのものです。審査期間の実態に合わせ、認定証明書なら3〜4か月程度先の日付にするのが一般的です。3項は、留学生の4月入社のように、許可が入社予定日に間に合わない場合の手当てです。在留資格変更の審査中は、許可が出るまで新しい仕事でのフルタイム就労はできません。
注意したいのは、停止条件にすれば何でも許されるわけではない点です。会社側の書類の不備や、会社が申請を出し遅れたことが原因で不許可や遅延になった場合にまで、会社が一切の責任を負わないという扱いは、争われれば通らない可能性があります。条件の成就を故意に妨げた側は、条件が成就したものとみなされる(民法130条1項)という規定もあります。申請書類を誰がいつまでに用意するかを、条項とは別に社内で決めておくことが前提です。
在留期間の更新と契約の関係を決めておく
入社後にも、在留資格に関わる条項が必要になります。
一つ目は、在留期間の更新が許可されなかった場合の扱いです。在留期限を過ぎて雇い続けることはできないため、「在留期間の更新又は在留資格の変更が許可されず、乙が本契約の業務に従事することができなくなったときは、本契約は在留期限の到来をもって終了する」という趣旨の定めを置く会社が多くあります。ただ、この定めがあっても、会社の申請手続の遅れなど会社側の事情が絡む場合は、単純な契約終了と扱えるとは限りません。個別の事情で判断が変わるため、実際に不許可が出た段階で専門家に確認してください。
二つ目は、在留カードの確認と届出への協力です。本人が在留期間の更新を受けたときに新しい在留カードを会社に提示すること、転居や氏名変更を会社に知らせることを定めておくと、会社が外国人雇用状況の届出や在留期限の管理を正確に行えます。在留カードの原本を会社が預かることは、外国人雇用管理指針も旅券等の保管をしないよう求めており、契約書に入れるべきではありません。
三つ目は、申請手数料の負担です。2026年10月1日以降に受け付ける在留期間更新・在留資格変更の手数料は、許可される在留期間に応じて、1年なら窓口33,000円(オンライン27,000円)、5年以上なら窓口75,000円(オンライン65,000円)になりました。会社と本人のどちらが負担するかで争いにならないよう、契約書か就業規則に定めておくと安全です。改定の詳細は【2026年10月確定】在留資格の変更・更新手数料はいくらになる?で解説しています。
入管の審査で雇用契約書のどこが見られるか
技術・人文知識・国際業務などの就労資格の申請では、雇用契約書または労働条件通知書が、在留資格の要件を満たしているかを判断する資料になります。出入国在留管理庁の提出書類一覧では、カテゴリー3・4の会社について、労働基準法15条1項と同法施行規則5条に基づいて労働者に交付される労働条件を明示する文書の提出が求められています。審査で見られるのは主に次の三点です。
- 業務内容:在留資格に該当する業務か。「総合職」「業務全般」のような書き方では判断できない
- 報酬:日本人が同じ業務に従事する場合と同等額以上か
- 契約期間と勤務地:在留期間の決定や、派遣・出向の有無の確認に使われる
業務内容の欄は、入管の審査を意識して具体的に書く必要があります。「翻訳・通訳業務(海外取引先との契約書・技術資料の翻訳、商談時の通訳)」のように、何をするのかが分かる書き方にします。一方で、2024年4月からは「変更の範囲」も明示事項になったため、変更の範囲を「会社の定める業務」とだけ書くと、在留資格の範囲外の業務まで含むように読めてしまいます。変更の範囲は「在留資格の範囲内で会社の定める業務」のように限定しておくと、入管法と労働法の両方で筋が通ります。
報酬の考え方は就労ビザの「日本人と同等額以上の報酬」とはで扱っています。特定技能の場合は、出入国在留管理庁の参考様式(雇用契約書・雇用条件書)を使う決まりがあり、記載事項も特定技能の基準に沿って決まっています(特定技能の雇用契約書・雇用条件書の書き方|参考様式の記入例と注意点)。
外国人の雇用契約書に入れてはいけない条項
外国人の雇用契約で、善意のつもりで入れられがちな条項の中には、労働基準法に反するものがあります。
- 途中で退職したら違約金を払う、渡航費を全額返還させる:労働契約の不履行について違約金や損害賠償額を予定する契約は禁止されています(労働基準法16条)
- 来日前の費用の貸付けを給料から差し引く:前借金と賃金の相殺は禁止されています(同法17条)
- 給料の一部を会社が積み立てて帰国時に渡す:労働契約に付随した強制貯金は禁止されています(同法18条)
- 賃金を本国通貨で払う:賃金は日本円で直接本人に払うのが原則です(同法24条)
渡航費を会社が立て替える場合は、貸付けとして別の契約で扱い、返済は本人の同意に基づく任意の方法にとどめるのが原則です。寮費や食費を給与から控除するときは、労使協定(賃金控除協定)が必要です。
外国人雇用管理指針は、このほかにも、社会保険の適用、帰国時の手続、相談体制の整備などを事業主に求めています。指針の全体像は公式案内をご確認くださいで整理しています。
よくある質問
外国人との雇用契約書作成の注意点は?
労働基準法15条の明示事項を漏れなく書くこと、本人が理解できる言語を併用すること、在留資格が許可されなかった場合の停止条件を入れること、の三点です。加えて、業務内容と報酬は入管の審査資料になるため、在留資格の要件に合う具体的な書き方にします。
外国人の雇用契約書にサインは必要ですか?
法律上は、労働条件を書面で明示すれば足り、署名は必須ではありません。ただ、在留資格の申請で合意の事実を示すため、また停止条件などの特約を有効に定めるため、双方が署名する雇用契約書の形にしておくことを勧めます。電子契約での署名も可能です。
労働条件通知書は外国語だけで作ってもよいですか?
外国語だけでも、本人が理解できる言語であれば明示義務は果たせます。ただし、入管に提出する書類には日本語訳が必要になるため、実務上は日本語版と翻訳版を併記し、どちらを正本とするかを定めておくのが扱いやすい形です。
外国人向けの労働条件通知書のWord版はありますか?
厚生労働省の外国語版モデル労働条件通知書はPDFで公開されています。日本語版のモデル労働条件通知書は厚生労働省のサイトでWord形式も入手できるため、日本語版で作成し、外国語版を対訳として使って翻訳文を作るのが現実的な方法です。
在留資格が不許可になったら、内定を取り消せますか?
停止条件の条項があれば、契約の効力は生じないため、内定取消しという解雇の問題になりません。条項がない場合でも、就労できる在留資格がない以上雇い続けることはできませんが、会社の申請手続に原因があった場合などは争いになりえます。内定の段階で条項を入れておくのが確実です。
契約書は「入管に出す書類」と「本人と交わす約束」の両方
外国人の雇用契約書は、二つの読み手を持つ書類です。一つは入管で、業務内容と報酬から在留資格の要件を判断します。もう一つは本人で、自分の働き方と、許可が出なかったときや更新できなかったときに何が起きるかを、理解できる言語で知る必要があります。
作成の順番としては、日本語版を労働基準法の明示事項で作り、業務内容と変更の範囲を在留資格に合わせて書き、停止条件と更新時の条項を加え、最後に厚生労働省の外国語版を対訳にして翻訳文を付ける、という流れになります。採用後の手続と退職時の届出は外国人社員が退職・解雇したら?で解説しています。
根拠資料
- 労働基準法 第3条・第15条・第16条・第17条・第18条・第24条(e-Gov法令検索)
- 労働基準法施行規則 第5条(e-Gov法令検索)
- 民法 第127条・第130条(e-Gov法令検索)
- 外国人労働者向けモデル労働条件通知書(英語)(厚生労働省)
- 外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針(厚生労働省)
- 出入国管理及び難民認定法 第73条の2(e-Gov法令検索)
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