ここでいう外国人社員の退職手続きとは、日本人社員の退職事務に、法律上義務づけられたもう一つの届出を上乗せしたものを指します。日本人社員と同じ処理だけで済ませてしまうと、その時点で法令違反になります。ハローワークへの外国人雇用状況届出は、労働施策総合推進法によって企業に課された独立した義務であり、これを怠れば罰則の対象になり得ます。
「日本人社員も日常的に退職しているのだから、外国人社員も同じ扱いで問題ないはずだ」という前提に立つと、この義務は見落とされやすくなります。実務としては通常の退職処理に一つ手続きを加えるだけの話ですが、その一手続きの存在自体を知らないまま放置している中小企業は、今もなお少なくありません。採用時に払う注意と同程度の注意を、退職時にも払う必要があります。
この記事では、外国人社員が退職・解雇した場合に企業が行うべき届出と、退職後の在留資格がどのように扱われるのかを整理します。
この記事でわかること
- 外国人社員が退職・解雇した場合に会社が行うべき届出
- ハローワークへの外国人雇用状況届出の内容とタイミング
- 出入国在留管理庁への届出が必要になるケース
- 退職後、在留資格や在留期限がどう扱われるか
- 解雇の場合に追加で注意すべき労務上のポイント
外国人社員の退職・解雇で会社がやるべきことの全体像
外国人社員が退職・解雇した場合、会社がやるべきことは大きく3種類に分かれます。日本人社員と共通する通常の退職手続き(社会保険・雇用保険の資格喪失手続き、給与や退職金の精算等)、ハローワークへの外国人雇用状況届出、そして状況によって必要になる出入国在留管理庁への届出です。抜け落ちやすいのは後者の2つで、この記事ではそこを中心に扱います。
「外国人社員の退職はこれが初めてで、何から手をつけていいか分からない」という相談は、人事担当者からよく寄せられます。基本的な流れは日本人社員の退職と大きくは変わりませんが、届出の様式・期限・本人への案内内容がわずかに異なるだけで、対応の抜け漏れが生まれます。全体の流れを先に押さえておけば、個別の対応で迷う場面は減ります。
ハローワークへの外国人雇用状況届出
労働施策総合推進法により、事業主は外国人労働者の雇入れ・離職の際に、氏名・在留資格・在留期間等をハローワークに届け出る義務を負います。この義務は技人国や特定技能に限らず、永住者や日本人の配偶者等、就労に制限のない在留資格を持つ外国人であっても対象になります。「就労系のビザではないから関係ない」という判断は成り立ちません。
| 被保険者区分 | 届出様式・期限 |
|---|---|
| 雇用保険の被保険者である場合 | 雇用保険被保険者資格喪失届の「備考」欄に必要事項を記載し、離職日の翌日から10日以内に提出 |
| 雇用保険の被保険者でない場合 | 「外国人雇用状況届出書」を作成し、離職した月の翌月末日までに提出 |
ここで生まれやすい誤解は、「雇用保険の手続きをしたから届出も済んでいる」というものです。雇用保険の被保険者であれば資格喪失届に記載する形で兼用できますが、被保険者でない外国人(労働時間が短いパートやアルバイト等)の場合は、別の届出書を単独で提出する必要があります。この届出を怠ると、労働施策総合推進法違反として30万円以下の罰金の対象になり得ます。罰金額そのものより、行政からの信頼を損なうことによる長期的なコストのほうが大きい、と捉えておくべき論点です。
届出書に記載する主な項目は、氏名、在留資格、在留期間、生年月日、性別、国籍・地域、離職年月日といった基本情報です。採用時の届出内容と紐づけて管理されるため、離職時には採用時の記載内容との整合性を確認する必要があります。特に在留資格の名称や在留期間は、更新・変更があった場合に社内の管理台帳が古いまま残っていることがあるので、退職手続きの前に在留カードの現在の記載内容を確認しておくと確実です。
出入国在留管理庁への届出が必要なケース
外国人本人にも、在留カードの記載事項に変更が生じた場合の届出義務があります。退職に関して言えば、次のようなケースで出入国在留管理庁への届出が関係してきます。
- 所属機関に関する届出:技人国や特定技能など「就労資格」を持つ外国人本人が、退職した日から14日以内に届け出る義務がある(本人の義務だが、会社側も退職時に案内しておくべき事項)
- 中長期在留者の住居地変更届出:退職に伴い社宅を退去し住所が変わる場合、本人が新住所を届け出る必要がある
この「所属機関に関する届出」は法律上は本人の義務ですが、本人が制度を正確に理解していないことは珍しくありません。退職時の案内資料に一言添えておく価値があります。「14日以内に届け出てください」とだけ伝えるより、届出方法(オンラインまたは郵送・窓口)まで示したほうが、実際に提出される確率は上がります。
この届出を怠っても本人にすぐ罰則が科されるわけではありません。しかし届出義務を継続的に怠っている実態が確認されると、在留資格の取消し事由や、次回更新時の心証に影響する可能性があります。退職はゴールではなく、その先にもう一段階の手続きが残っている。この事実を伝えておくことが、送り出す会社としての最低限の配慮になります。
なお、会社自身が退職に関して入管へ何かを届け出る義務は、基本的にありません。技人国の受入れ企業が中長期的な受入れ実績等について定期的に情報提供するよう努める、という努力義務の枠組みは存在しますが、退職の都度、会社が入管に個別の届出書を出す義務は課されていません。この点は技術・人文知識・国際業務ビザ(技人国)とはで紹介している制度の全体像と合わせて理解しておくと整理しやすくなります。
退職後、在留資格はどう扱われるのか
企業からの質問が最も集中するのがこの点です。結論は、退職しても在留資格自体はすぐに無効になるわけではなく、在留期限までは原則として日本に滞在できます。ただし就労系の在留資格である以上、「滞在はできるが、その資格に応じた活動先を探し続けなければならない」という状態に置かれることになります。
問題になりにくいケース
退職後、比較的短期間のうちに同種の業務で転職先が決まり、就労を再開する
注意が必要なケース
退職後、正当な理由なく3ヶ月以上その在留資格に応じた活動を行っていない
「正当な理由のない在留活動の不履行」が3ヶ月以上続くと、在留資格の取消し対象になり得ます。転職活動をしている、体調不良で療養している、といった正当な理由があれば別ですが、「なんとなく次を探している」という状態がずるずる続くこと自体が本人にとってのリスクになります。この論点は在留資格の取消しとはで詳しく解説しているので、退職者本人にも案内しておくと親切です。
会社側にここまでの法的責任があるわけではありません。ただ、円満退職であれ解雇であれ、送り出す側として「次の仕事が決まるまでの期限」に一言触れておくだけで、後々のトラブルを防げる場面があります。
在留資格の種類による退職後の扱いの違い
「退職後も在留期限までは滞在できる」という原則は共通ですが、在留資格の種類によって、その後の実務上のリスクの重さは変わります。
| 在留資格 | 退職後の主な注意点 |
|---|---|
| 技人国・特定技能 | その資格に応じた活動を行っていない状態が続くと取消し対象になり得るため、転職活動の期限を意識する必要がある |
| 永住者 | 就労に制限がないため、退職・転職自体に在留資格上の制約はほとんどない |
| 家族滞在 | 扶養者本人(配偶者等)の在留資格・就労状況に連動するため、扶養者自身の退職と合わせて検討が必要 |
退職する社員がどの在留資格で働いていたかによって、案内すべき注意点は変わります。永住者であれば通常の退職案内で十分ですが、技人国・特定技能の社員には「次の仕事が決まるまでの期限」について触れておく価値があります。
解雇の場合に追加で注意すべきポイント
自己都合退職と異なり、解雇の場合は労働法上の手続きが追加で必要になります。外国人社員だからといって特別な解雇ルールが適用されるわけではありませんが、次の点は丁寧に扱う必要があります。
- 解雇予告(原則30日前予告、または解雇予告手当の支払い)
- 解雇理由証明書の交付(本人から請求があった場合)
- 言語面でのフォロー(解雇理由・今後の手続きを本人が正確に理解できるようにする)
解雇理由証明書は、退職後に本人が転職活動をする際や、次の在留資格申請で「なぜ辞めたのか」を説明する場面で必要になることがあります。日本語での通知だけでは本人が内容を正確に理解できていない、という状況は実務上珍しくありません。重要な書面には、可能な限り本人の理解できる言語での補足説明を添えるべきです。中国語での対応が必要な場合は、中国人行政書士が在籍する事務所を間に入れる、という選択肢もあります。
もう一つ注意すべきなのが、解雇理由の書き方です。外国人社員であることを理由にした解雇は、当然ながら不当解雇にあたります。業績不振や能力不足を理由にする場合でも、日本人社員と同様に客観的な事実に基づいた説明が求められ、この基準は在留資格の種類にかかわらず変わりません。「本人が日本語をあまり話せないから」といった曖昧な理由だけで押し切ろうとすれば、労働審判や訴訟に発展した際に会社側が不利になります。解雇に踏み切る前に、解雇理由を書面で整理し、専門家に一度目を通してもらうことを勧めます。
経営上、人員整理が避けられない場面もあります。その場合も、対象者の選定基準や整理解雇の要件を満たしているかを日本人・外国人問わず同じ基準で検討する必要があり、外国人社員だけを優先的に対象にするような選び方は、差別的な取扱いとして問題視されるリスクを伴います。
実務でよく相談されること
技人国の外国人が転職する際、入管から対象者の1日のタイムスケジュールや指揮命令系統図の提出を求められることがあります。転職先での業務が専門性のある業務として認められるか、実質的に別の会社の指揮命令下に置かれていないかを確認するための資料要求です。退職・転職のタイミングでこうした資料の準備を求められる可能性があることは、送り出す側の会社としても知っておくべき事項です。
※上記は当事務所で取り扱った実際の相談内容をもとにしていますが、個別の状況により結果は異なります。同様の結果を保証するものではありません。
退職時に本人へ渡すべき書類
外国人社員だからといって、渡すべき書類の種類そのものが増えるわけではありません。ただし、次の転職や在留資格の手続きで使う可能性が高い書類なので、日本人社員以上に「漏れなく、早めに」渡すことを意識する必要があります。
| 書類 | 用途 |
|---|---|
| 離職票 | 失業給付の受給、転職先の在職確認 |
| 退職証明書 | 転職先での就労資格証明書申請、次の在留資格申請の説明資料 |
| 源泉徴収票 | 転職先での年末調整、確定申告 |
| 解雇理由証明書(解雇の場合、請求があれば) | 退職理由の説明、労働紛争が生じた場合の証拠 |
退職証明書は特に、次の職場が決まっていない外国人本人が「これまで日本でどんな仕事をしてきたか」を示す数少ない資料になります。日本人であれば口頭説明で済む場面でも、外国人の場合は書面で経緯を示せるかどうかが、次の在留資格審査の通りやすさに直結することがあるため、丁寧に作成する価値があります。
帰国を予定している場合に確認しておきたいこと
退職と同時に帰国を考えている外国人社員もいます。会社が直接手続きする話ではありませんが、把握しておくと本人へのアドバイスに役立つ点がいくつかあります。
- 厚生年金・国民年金に一定期間加入していた場合、出国後2年以内に「脱退一時金」の請求ができる
- 社宅・寮に住んでいた場合、退去日と敷金精算のスケジュールを早めに確定させる
- 住民税は退職時期によって一括徴収になる場合があり、最終給与からの控除額が普段と変わることがある
帰国を急いでいる社員に対して、退職金や最終給与の振込先が日本の口座しかない、というトラブルが起きることもあります。振込先口座を出国後も維持できるのか、あるいは出国前に精算を終わらせる必要があるのか。退職手続きの早い段階で本人と擦り合わせておくべき論点です。
退職手続きのタイムライン
実務の流れを時系列で整理すると、次のようになります。
| タイミング | やること |
|---|---|
| 退職日決定〜退職日 | 業務引き継ぎ、貸与品の回収、社宅がある場合は退去スケジュールの調整 |
| 退職日 | 社会保険・雇用保険の資格喪失手続き、離職票の準備、本人への「所属機関に関する届出」の案内 |
| 離職日の翌日から10日以内 | 雇用保険被保険者である場合、外国人雇用状況の届出を兼ねた資格喪失届の提出 |
| 離職した月の翌月末日まで | 雇用保険の被保険者でない場合、外国人雇用状況届出書の単独提出 |
このタイムラインが示す通り、外国人社員の退職手続きは、通常の退職事務に「外国人雇用状況届出」という一つのタスクを正しいタイミングで組み込むだけの作業です。ただし、被保険者かどうかで様式と期限が変わる点を取り違えると、期限切れで届出義務違反になります。退職者リストと届出状況を管理する簡単なチェックシートを用意しておくことを勧めます。
よくある質問
Q. 外国人雇用状況の届出を忘れるとどうなりますか?
労働施策総合推進法に基づく義務であり、届出を怠ると30万円以下の罰金の対象になり得ます。雇用保険の資格喪失届で兼ねられる場合と、単独で届出書を出す必要がある場合があるので、両方を確認してください。
Q. 退職した外国人社員は、在留期限までなら日本に残れますか?
在留資格自体は在留期限まで有効なので、原則として滞在は可能です。ただし正当な理由なく3ヶ月以上活動実態がないと、在留資格の取消し対象になり得るので注意が必要です。
Q. 解雇の場合と自己都合退職の場合で、会社側の届出内容は変わりますか?
ハローワークへの外国人雇用状況届出自体は、退職理由にかかわらず提出が必要です。解雇の場合は、解雇予告や解雇理由証明書の交付など、退職理由に応じた別の労務手続きが追加で発生します。
Q. 退職後、本人が転職活動をしている間、会社は何かする必要がありますか?
退職手続きが完了すれば、原則として会社側の義務は終了します。ただし在職証明書や離職票の発行を求められた場合は速やかに対応し、転職先からの照会にも協力してください。
Q. 派遣社員として受け入れていた外国人が契約終了した場合も同じ届出が必要ですか?
届出義務は直接雇用している派遣元事業主に課されます。派遣先は直接の義務者ではありませんが、契約終了の情報を派遣元に速やかに共有し、届出漏れが起きないよう連携しておくことが望ましい対応です。
よくある失敗パターン
相談を受けていて分かるのは、悪意があって届出を怠っているケースはほとんどないということです。実際には次のようなすれ違いが原因になっています。
- 人事担当者が変わったタイミングで、外国人雇用状況届出の存在自体が引き継がれていなかった
- 雇用保険の資格喪失届だけ出して満足し、外国人雇用状況届出書を別途出す必要があるケースを見落としていた
- 本人への「所属機関に関する届出」の案内を忘れ、退職後しばらくしてから本人が慌てて相談してきた
いずれも、退職手続きのチェックリストに「外国人社員かどうか」を確認する項目を一行加えておくだけで防げるものです。社員数が数十人規模の会社であれば、外国人社員の退職は年に数回あるかないかでしょうから、そのたびに一から確認するより、あらかじめ手順を文書化しておくほうが対応コストは低く済みます。
人手不足の業種ほど、退職と採用のサイクルが早く、担当者の入れ替わりも起きやすくなります。退職手続きのマニュアルを一度作っておけば、担当者が変わっても対応の質は落ちません。逆にマニュアルがないまま属人的に対応していると、担当者が辞めた瞬間に外国人社員特有の手続きだけが抜け落ちる、という事態が起きやすくなります。
まとめ
外国人社員の退職・解雇は、通常の退職事務に「ハローワークへの外国人雇用状況届出」を正しいタイミングで加えるだけで、それほど複雑な話ではありません。ただし届出を忘れれば罰則の対象になりますし、退職後の在留資格の扱いを本人にきちんと案内しておかないと、後になって本人が不利益を被ることもあります。届出の様式・期限・本人への案内内容、この3点を社内の退職チェックリストに落とし込んでおけば、外国人社員の入れ替わりが増えても慌てずに対応できます。転職者の受け入れ側としての注意点は技術・人文知識・国際業務の外国人が転職したらでも解説しているので、採用と退職の両面から確認しておいてください。