帰化後の名前は、戸籍に使える文字の範囲内であれば、今の名前をカタカナにしても、まったく新しい日本風の名前にしても構いません。制約は3つだけで、使える文字は常用漢字・人名用漢字・ひらがな・カタカナに限られること、読み方が「一般に認められている読み方」であること、そして一度戸籍に載った名前は家庭裁判所の許可がなければ変えられないことです。家族のうち誰が日本人で、誰が一緒に帰化するかによって、苗字(氏)の選び方にはもう一段の制約がかかります。
帰化後の名前は、戸籍に使える文字の範囲なら原則自由に決められる
帰化が許可されると、官報に告示された日から日本国籍になり、その日から1か月以内に市区町村へ帰化届を出します(戸籍法102条の2)。この帰化届によって、帰化した人の戸籍が初めて作られます。ここでいう「帰化後の名前」とは、その戸籍に記載される氏と名を指します。
日本の戸籍には、外国人としての氏名をそのまま引き継ぐ仕組みがありません。そのため、帰化者は新しく戸籍に載せる氏名を自分で決めることになります。帰化許可申請書にも帰化後の氏名を書く欄があり、実務では申請の段階で候補を決めておくのが普通です。
選び方は、大きく次の3通りです。
- 今の名前の読みをカタカナにする(例:Nguyen Van Anh → グエン バン アン)
- 今の漢字名を、日本の字体に直して使う(例:王 家乐 → 王 家楽)
- 通称名や、まったく新しい日本風の名前にする(例:通称の「山田 一郎」をそのまま使う)
どれを選んでも審査で有利・不利になることはありません。筆者は、仕事で使っている通称がある人にはその通称を、母国の名前に愛着がある人には漢字の字体変換やカタカナ化を、とそれぞれの生活に合わせて考えるのがよいと考えています。名前は申請書類の一欄にすぎませんが、その後の人生で最も長く使う書類上の情報です。
使える文字は常用漢字・人名用漢字・ひらがな・カタカナ
戸籍法50条1項は「子の名には、常用平易な文字を用いなければならない」と定め、その範囲を法務省令に委ねています。戸籍法施行規則60条が定める範囲は次の3つです。
- 常用漢字表(平成22年内閣告示第2号)に掲げる漢字(括弧書きが添えられているものは括弧の外のもの)
- 同規則の別表第三に掲げる漢字(いわゆる人名用漢字)
- 片仮名・平仮名(変体仮名を除く)
条文は「子の名」について定めたものですが、帰化者の名も戸籍に初めて記載される名であるため、実務ではこの範囲で扱われます。帰化者が新たに定める氏も、法務局の案内では同じ範囲の文字で定めるよう求められています【公式資料で確認:氏に用いる文字の範囲を定めた通達の番号・日付】。
使えない文字として実務でよく問題になるのは次のものです。
| 文字の種類 | 扱い | 例 |
|---|---|---|
| アルファベット | 使えない | 「Anna」は「アンナ」「杏奈」などにする |
| 中国の簡体字 | そのままは使えない。日本の字体に直す | 乐→楽、张→張、刘→劉 |
| 繁体字・旧字体 | 常用漢字表・人名用漢字表にある字体なら使える。ない字体は表にある字体に直す | 人名用漢字表に旧字体として載る「國」は使える |
| 韓国・台湾などで使われていても表にない漢字 | 使えない | 表にある字へ置き換えるか、仮名にする |
| 記号(・や-など) | 名の中には使えない | ミドルネームの区切りは付けられない |
ある漢字が使えるかどうかは、法務省「子の名に使える漢字」のページから常用漢字表と人名用漢字表の一覧を確認でき、「戸籍統一文字情報」で1字ずつ検索もできます。候補が決まったら、1字ずつ字体まで照合しておくと、申請後の差し替えを避けられます。
ミドルネームは、戸籍に「ミドルネーム」という欄がないため、氏か名のどちらかに含めるしかありません。たとえば「Maria Luisa Santos」なら、「サントス」を氏、「マリアルイサ」を名にする、というように組み立てます。中黒で区切った「マリア・ルイサ」は、上の表のとおり記号を使えないため認められません。
読み方は「一般に認められている読み方」に限られる(2025年5月26日から)
2025年5月26日に改正戸籍法が施行され、戸籍に氏名の振り仮名が記載されるようになりました。戸籍法13条2項は、その読み方について「氏名として用いられる文字の読み方として一般に認められているものでなければならない」と定めています。
帰化者にとっての意味は、漢字の名前を選ぶときに、漢字と読み方の組合せも審査の対象になるということです。たとえば「陽翔」を「はると」と読むのは広く見られる読み方ですが、漢字の意味や音とまったく関係のない読み方を付けると、帰化届の段階で受理されない可能性があります。母国名の音を残したくて漢字に当て字をするなら、その読みが漢字の音読み・訓読みのどこから来ているのかを説明できる組合せにしておくのが安全です。
カタカナやひらがなで名を付ける場合は、文字と読みが一致するため、この点で問題になることはほとんどありません。
苗字(氏)の選び方は、家族の国籍で変わる
名は一人ひとりが自由に決められますが、氏は家族単位で決まります。日本の戸籍は「夫婦と、氏を同じくする子」を単位に作られ、民法750条で夫婦は同じ氏を称するからです。
独身で1人だけ帰化する場合
自分を筆頭者とする新しい戸籍が作られ、氏も自由に定められます。一番制約の少ないケースです。
配偶者が日本人の場合
帰化すると夫婦とも日本人になるため、夫婦同氏の原則がかかります。帰化届では、日本人配偶者の氏を称するか、帰化者が新しく定める氏を称するかを選びます。
- 日本人配偶者の氏を称する場合:帰化者は日本人配偶者の戸籍に入ります。手続が最も簡単で、多くの人がこの方法をとります。
- 帰化者が定めた新しい氏を称する場合:帰化者を筆頭者とする新しい戸籍が作られ、日本人配偶者もその氏に変わることになります【公式資料で確認:この場合の日本人配偶者側の届出の要否と方法は、帰化届を出す市区町村・管轄法務局に事前に確認する】。
注意したいのは、日本人配偶者がすでに戸籍法107条2項の届出で外国人配偶者の氏(カタカナ表記など)に変更しているケースです。この場合、日本人配偶者の今の氏は外国人配偶者の元の氏の表記になっているため、帰化者がその氏を称すると、夫婦ともに元の外国姓のカタカナ表記の氏になります。どの氏にするかを夫婦で先に話し合っておくと、帰化届の窓口で迷いません。
家族そろって帰化する場合
夫婦と子が一緒に帰化申請をすると、原則として同じ氏で1つの戸籍に入ります。戸籍実務では、同じ戸籍の中に同じ名の人を置くことは認められていません。父と息子が同じ英語名(Jr.)を使っている家庭では、どちらかの名を変える必要があります。
子だけが外国籍のまま残る場合
親だけが帰化して子が外国籍のままでいると、子は戸籍に入りません。子の今の在留資格が「家族滞在」など親の在留資格に連動するものなら、親が日本人になった時点で前提が変わるため、「定住者」などへの変更を検討することになります。子が出生したときに親がまだ外国籍だった場合、子は「日本人の子として出生した者」には当たらない点にも注意が必要です。子の在留資格は親の帰化と同時に考えておかないと、帰化後に子の在留期限だけが残る形になります。
通称名(通名)を帰化後の名前にする場合
住民票に通称を登録している人は、その通称を帰化後の名前にすることもできます。会社や取引先、銀行口座などで通称を使っているなら、帰化後も名前が変わらないので、各種の名義変更が本名表記の切替えだけで済みます。
ただし、通称に使っている漢字が常用漢字・人名用漢字の範囲外だったり、簡体字だったりする場合は、帰化後の名前ではそのまま使えません。通称の字と戸籍の字がずれると、銀行や保険の名義と戸籍の表記が一致しなくなります。通称をそのまま使うつもりなら、1字ずつ字体を照合しておくことが先です。
外国人住民として住民票に記載されていた通称は、帰化によって日本人の住民票に切り替わると使われなくなります。帰化後は戸籍の氏名が唯一の正式な氏名です。
決めた名前は後から変えにくい
帰化届で戸籍に記載された氏名は、その後は日本人と同じルールでしか変えられません。
- 氏の変更:やむを得ない事由があるときに、家庭裁判所の許可を得て届け出る(戸籍法107条1項)
- 名の変更:正当な事由があるときに、家庭裁判所の許可を得て届け出る(戸籍法107条の2)
「やむを得ない事由」「正当な事由」は、単に好みが変わったという理由では認められにくく、長年にわたって別の名前を社会生活で使ってきた実績などが必要になります。帰化の審査期間中であれば、管轄の法務局に申し出て帰化後の氏名を変えることができる場合もあるので、迷いがあるなら許可前に相談しておくべきです。帰化許可の官報告示以降は、この柔軟さはなくなります。
帰化後の名前を決めたら、帰化届と同時に進める手続もあります。在留カードは日本国籍の取得で効力を失い、14日以内に返納が必要です(入管法19条の14第1号・19条の15第1項)。帰化許可後の手続全体は帰化の官報告示とは?許可後にやること(帰化届・在留カード返納・パスポート)、帰化申請の流れは帰化申請とは?法務局での相談から許可までの流れと期間の目安で整理しています。
よくある質問
帰化したら名前は必ず変わりますか?
表記は必ず変わります。戸籍にはアルファベットを記載できないため、少なくともカタカナか漢字の表記にする必要があります。ただ、読み方まで変える必要はなく、「Nguyen Van Anh」を「グエン バン アン」とするように、音をそのまま残すことはできます。
帰化したら名前にアルファベットは使えますか?
使えません。戸籍法施行規則60条が定める文字は、常用漢字、人名用漢字、片仮名・平仮名だけです。パスポートのローマ字表記は、戸籍の振り仮名をもとにヘボン式などで作られます。
中国人が日本に帰化したら名前はどうなりますか?
漢字の名前をそのまま使いたい場合でも、簡体字は日本の字体に直す必要があります。「王 家乐」なら「王 家楽」のように、常用漢字表・人名用漢字表にある字体に置き換えます。読み方は日本語の音読み(ワン→オウ など)にするか、中国語の音を振り仮名に残すかを選べますが、後者は「一般に認められている読み方」に当たるかを事前に確認しておく必要があります。
帰化しても今の名前をそのまま使えますか?
漢字名で、すべての字が常用漢字・人名用漢字の範囲にあれば、表記はそのまま使えます。範囲外の字が1字でもあれば、その字だけ置き換えるか仮名にします。
帰化後の名前はいつ決めればよいですか?
帰化許可申請書に帰化後の氏名を書く欄があるため、申請書の作成時に決めるのが基本です。審査中の変更は法務局に申し出れば対応してもらえることがありますが、官報告示後は家庭裁判所の許可が必要になるので、申請時点で家族と合意しておくのが確実です。
名前は「今の生活」と「家族の戸籍」の2つから逆算する
帰化後の名前を決めるときに見るべきものは、今どの名前で社会生活を送っているか、そして帰化後に誰と同じ戸籍に入るかの2つです。仕事や口座で通称を使っているなら、その通称が戸籍に使える字かどうかを確かめる。日本人配偶者がいるなら、どちらの氏で夫婦の戸籍をそろえるかを先に決める。子が外国籍のまま残るなら、子の在留資格の変更も同じ時期に準備する。この順で考えれば、名前選びは迷う作業ではなく、確認の作業になります。
帰化と永住のどちらを選ぶかで迷っている段階なら、【2026年10月改定】永住許可の要件厳格化で何が変わる?も参考になります。永住申請の手数料は2026年10月から大きく上がるため、費用面の比較は在留資格の変更・更新手数料はいくらになる?で確認してください。帰化の許否や名前の扱いは個別の事情で判断が変わるため、字体や氏の選び方に迷うときは、申請前に管轄の法務局で確認しておくと安心です。
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根拠資料
- 戸籍法 13条・50条・102条の2・107条・107条の2(e-Gov法令検索)
- 戸籍法施行規則 60条・別表第三(e-Gov法令検索)
- 子の名に使える漢字(法務省)
- 戸籍に氏名の振り仮名が記載されます(法務省、改正法は令和7年5月26日施行)
- 出入国管理及び難民認定法 19条の14・19条の15(e-Gov法令検索)
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