技能実習生は、本人が「別の会社で働きたい」と希望するだけでは転職できません。実習先の変更(転籍)が認められるのは、実習先の倒産や解雇、重大悪質な法令違反、暴行・ハラスメントなど、技能実習制度運用要領(出入国在留管理庁・厚生労働省、令和8年4月版)が「転籍を認め得るやむを得ない事情」として挙げる場合と、2号を修了して3号に進むときに限られます。2027年4月に始まる育成就労制度では一定期間後の本人意向による転籍が認められますが、技能実習として在留している人にはこの仕組みは適用されません。
技能実習で「転職」ができない理由
技能実習は、技能実習計画に沿って、特定の実習実施者のもとで段階的に技能を身につける制度です。技能実習計画は、実習実施者ごとに外国人技能実習機構の認定を受けます。実習先が変わるということは、計画を立て直し、新しい実習実施者があらためて認定を受けることを意味します。
技能実習法施行規則10条2項3号チは、技能実習生の基準として「同じ技能実習の段階に係る技能実習を過去に行ったことがないこと(やむを得ない事情がある場合を除く。)」を定めています。1号・2号の途中で実習先を変えると、同じ段階の実習をもう一度別の会社で行うことになるため、原則として認められません。例外が括弧書きの「やむを得ない事情」で、運用要領はその典型として転籍を挙げています。
ここで押さえたいのは、技能実習の転籍は「本人の権利」として設計されているわけではない、という点です。現在の実習先で実習を続けることが、技能実習の適正な実施と技能実習生の保護という制度の趣旨に反する場合に、例外として認める仕組みです。
転籍を認め得る「やむを得ない事情」7類型
運用要領は、転籍が認められ得る事情を次の7つに整理しています。
- 実習実施者から雇用関係を打ち切られた場合:倒産・廃業・事業縮小による整理解雇が典型。解雇が法的に無効でも、解雇を通知された時点で該当する。解雇に至らなくても、経済的事情による事業縮小で実習の継続が難しくなった場合も含む
- 雇用契約を合意解除した場合:トラブルで信頼関係の修復が難しくなり、双方合意で契約を解除した場合。退職合意書へのサインを強要されたなど、合意が無効な場合も含む
- 実習実施者が重大悪質な法令違反をした場合:計画と異なる作業への従事、重大悪質な賃金不払い、二重契約、欠格事由への該当、監理費の負担や旅券の保管・外出制限・違約金の定めなどの技能実習法違反、不法就労助長、違法な時間外労働など
- 暴行、暴言、各種ハラスメントなどの人権侵害があった場合
- 重大悪質な契約違反があり、是正を申し入れても是正されない場合:雇用条件書と違う賃金、年次有給休暇を取らせない、食費や寮費の過剰徴収、説明と違う宿泊施設など
- 雇用契約書・雇用条件書を交付されていない、または母国語で説明を受けていない場合
- その他、実習の継続が相当でない事情がある場合:取り扱う食品へのアレルギーや病気を発症した場合など
3の法令違反については、実習計画の認定が取り消される前であっても該当し得ること、転籍を申し出た本人ではなく同僚に対する違反でも該当し得ること、単独では重大悪質といえない違反でも繰り返されれば該当し得ることが明記されています。4の暴言には、「国に帰れ」と帰国を迫る、「○○人は出来が悪い」と国籍を理由に差別する、母国語を話したら罰金を取ると注意する、といった具体例が挙がっています。
5の契約違反は、原則として技能実習生(または相談を受けた機構)が是正を申し入れ、それでも是正されないことが条件です。ただし、同じ違反と是正を繰り返している場合は、申入れを待たずに該当する可能性があります。重大悪質な賃金不払いは、3に当たるものとして是正の申入れを待たずに転籍が認められます。
反対に、専ら技能実習生の責めに帰すべき事情による転籍は、7類型のどれに形式上当てはまっても認められません。「給料が高い別の会社があるから」「友人のいる地域に移りたいから」という理由は、7類型のいずれにも当たりません。
2号から3号に進むときは実習先を変えられる
1号・2号の途中とは違い、2号を修了して3号の技能実習に進むときは、実習実施者を変更することができます(運用要領)。この場合、3号の技能実習計画の認定申請は、3号を行う新しい実習実施者が行います。
3号の実習を行わせるには、実習実施者と監理団体の双方が優良な基準に適合している必要があります。技能実習生の側から見ると、2号修了時は、やむを得ない事情がなくても実習先を選び直せる唯一のタイミングです。「技能実習生は転職できないが、3号移行時は転職できる」と説明される理由はここにあります。
なお、2027年4月1日の育成就労制度の施行に伴い、3号に移行できるのは施行日の時点で2号を1年以上行っている人に限られます。2025年4月2日以降に入国した人は、3号に移行できない可能性があります(技能実習機構リーフレット、2026年2月)。3号の要件と経過措置は技能実習3号とは?優良要件150点の内訳と移行手続き・経過措置で扱っています。
転籍の手続|申出書から新しい計画の認定まで
やむを得ない事情による転籍は、次の流れで進みます。
- 技能実習生が「実習先変更希望の申出書」(参考様式第1-44号)を出す。口頭で申し出た場合は、受けた側が申出書の提出を案内する。団体監理型では、実習実施者が申出を受けたら直ちに監理団体に報告し、写しを渡す
- 監理団体(企業単独型は実習実施者)が事実関係を確認し、必要な是正指導を行ったうえで、転籍の連絡調整を始めるかどうかを「実習先変更希望の申出に係る対応通知書」(参考様式第1-45号)で本人に遅滞なく通知する
- やむを得ない事情があると認めた場合、申出書と対応通知書の写しを添えて、機構の地方事務所・支所に技能実習実施困難時届出書を出す(技能実習法19条・33条)
- 監理団体等が転籍先を探し、連絡調整を行う(技能実習法51条)
- 転籍先の実習実施者が、新たに技能実習計画の認定を申請する
- 認定を受けたうえで、入管で必要な在留手続を行う
受け取った申出書は、受領者が署名したうえで原本を技能実習生に返します。ここは実務でおろそかにされやすい点です。本人の手元に申出の記録が残ることで、申し出たのに取り合ってもらえなかった、という事態を後から確認できるようにしています。
4の連絡調整について、技能実習法51条は、実習実施者や監理団体が実習困難時の届出をしようとする場合に、技能実習生が実習の継続を希望するときは、他の実習実施者や監理団体との転籍に向けた連絡調整その他の必要な措置を講じなければならないと定めています。運用要領は、この「必要な措置」に、次の実習先のあっせんと、実習先が決まるまでの生活支援も含まれるとしています。転籍先を探す手段として、機構は「監理団体向け実習先変更支援サイト」を開設しており、自助努力で転籍先を確保できない緊急の場合は、機構の地方事務所・支所の援助課などに相談できます。
転籍後の実習期間は、すでに行った同じ段階の実習期間と通算して、法律上の上限の範囲内になります。ただし、やむを得ない事情のために計画どおりに実習できなかった期間は通算しません。転籍先でも原則として同じ職種・作業の実習を行いますが、同じ作業の転籍先が見つからない場合は、同じ職種内の別の作業への変更が認められることがあります。
転籍先が決まるまでの在留|特定活動の措置(2024年11月1日〜)
転籍の手続中に在留期限が来てしまう技能実習生のために、出入国在留管理庁は2024年11月1日から在留管理上の措置を設けています。対象は、自己の責めに帰すべき事由がないのに、在留期間の満了日までに新しい技能実習計画の認定を受けられない技能実習生です。
| 状況 | 在留資格 | 就労の範囲 |
|---|---|---|
| 転籍先の実習実施者が決まっている | 特定活動(就労可・4月) | 転籍先との契約に基づき就労可 |
| 転籍先がまだ決まっていない | 特定活動(週28時間以内の就労可・4月) | 週28時間以内 |
| 技能実習の在留期間が残っているが、生計の維持が困難 | 資格外活動許可 | 週28時間以内(最長4か月) |
転籍先が決まっている場合の特定活動は、新しい計画の認定を受ける見込みがあること、日本人と同等額以上の報酬を受けること、受入れ実績のある実習実施者・監理団体であることなどが要件です。転籍先が未定の場合は、監理団体が新しい実習先の確保に努めていることを示す資料を出します。
いずれの特定活動も原則として更新できず、特定活動で在留した期間は技能実習の上限期間から差し引かれます。「特定活動で4か月つなげば実習期間が延びる」わけではない点に注意が必要です。
育成就労の本人意向転籍との違い
2027年4月1日に始まる育成就労制度では、転籍のルールが大きく変わります。違いを表にすると次のとおりです。
| 項目 | 技能実習 | 育成就労 |
|---|---|---|
| やむを得ない事情による転籍 | 認められる(運用要領の7類型) | 認められる(育成就労法9条の2第4号ただし書、規則25条) |
| 本人の意向による転籍 | 認められない(3号移行時を除く) | 転籍制限期間(分野ごとに1年または2年)の経過後、技能・日本語の要件を満たせば可 |
| 日本語の要件 | なし | 本人意向転籍にはA2.1相当以上(分野により上乗せ) |
| 転籍先の費用負担 | 規定なし | 初期費用を在籍期間に応じて前の受入れ先に補填 |
技能実習として在留している人は、2027年4月1日以降も技能実習のルールで扱われます。技能実習から育成就労への在留資格の変更はできないため、「制度が変わったから本人の意向で転籍できる」とはなりません。育成就労の本人意向転籍の中身と、受入れ企業の備えは育成就労の転籍とは?人材流出を防ぐために受入れ企業が今から取るべき対策で解説しています。施行日以後に技能実習の途中でやむを得ない事情による転籍が生じた場合の新しい計画認定の扱いは、経過措置の運用として現時点で公式資料では確定していません。申請前に出入国在留管理庁または所轄官庁の公式案内をご確認ください。
転職したい技能実習生が現実に取れる道
やむを得ない事情がない技能実習生が勤務先を変えたい場合、現実的な道は2つです。
1つは、2号を良好に修了した時点で、特定技能1号に移ることです。技能実習2号を良好に修了した人は、日本語試験が免除され、職種と業務に関連性があれば技能試験も免除されるため、この時点で別の会社と雇用契約を結んで特定技能1号に変更できます。特定技能には技能実習のような転籍の制限はなく、同じ分野の中であれば転職も可能です(手続は特定技能の外国人は転職できる?)。移行の要件は技能実習から特定技能への移行は可能?を参照してください。
もう1つが、前に述べた3号移行時の実習先変更です。
どちらにも当たらないまま実習先を離れると、失踪として扱われます。出入国在留管理庁の2026年7月の速報値では、2025年の技能実習生の失踪者は3,950人でした。失踪した人は在留資格を失うおそれがあり、受け入れた側も不法就労助長罪に問われ得ます。本人が職場の問題を抱えているなら、まず監理団体、機構の母国語相談、労働基準監督署に相談し、やむを得ない事情として転籍の手続に乗せるのが本人を守る道です。失踪が起きた場合の会社の対応は技能実習生が失踪したら?企業がすべき届出と新規受入れ停止などのペナルティで扱っています。
よくある質問
技能実習生が転籍できる条件は何ですか?
現在の実習先で実習を続けることが、技能実習の適正な実施と技能実習生の保護に反すると認められる「やむを得ない事情」があることです。運用要領は、倒産や解雇、合意解除、重大悪質な法令違反、暴行・ハラスメント、是正されない契約違反、雇用条件書の不交付・母国語での説明の欠如、病気の発症などを挙げています。本人の責めに帰すべき事情による転籍は認められません。
技能実習生はやむを得ず転籍できますか?
できます。やむを得ない事情があると監理団体が認めれば、機構への実習困難時の届出を経て、監理団体等が転籍先を探します。個別の事情で判断が変わるため、事実関係は申出書と記録で残しておくことが大切です。在留期限までに新しい計画の認定が間に合わない場合は、特定活動(4か月)の措置を使えます。
技能実習生が転籍できないのはなぜですか?
技能実習計画は実習実施者ごとに認定される計画で、同じ段階の実習を別の会社でやり直すことは、原則として規則上認められないためです。制度の目的が労働力の確保ではなく技能移転に置かれていることが、転籍の制限の根拠になってきました。育成就労制度では、この考え方が見直されます。
受入れ企業が転籍の申出を断ることはできますか?
申出を受けた実習実施者は、直ちに監理団体に報告する必要があり、握りつぶすことはできません。やむを得ない事情があるかどうかを判断するのは、団体監理型では監理団体です。事情がないと判断された場合も、その旨は対応通知書で本人に通知されます。
受入れ企業が見直すべきは「辞めさせない仕組み」ではない
技能実習の転籍の7類型を読むと、そのほとんどが実習実施者側の行為や事情です。転籍の申出が出たとき、会社が最初に確認すべきなのは、本人の不満の中身が7類型のどれかに当たっていないかです。賃金の計算、寮費の控除、有給休暇の取得、雇用条件書の母国語での説明は、転籍の申出が出る前に点検できます。
筆者は、2027年4月以降の育成就労を見据えるなら、なおさらこの点検が先だと考えています。育成就労では、一定期間を過ぎれば本人の意向だけで転籍できるようになります。技能実習の7類型に当たる事情がない職場を今のうちに作れているかどうかが、そのまま育成就労での定着率に表れるはずです。
根拠資料
- 技能実習制度 運用要領(出入国在留管理庁・厚生労働省・令和8年4月)第4章第2節第3(3)「転籍を認め得るやむを得ない事情」、第7章第2節
- 転籍手続中の技能実習生に対する在留管理制度上の措置について(出入国在留管理庁・2024年11月1日施行)
- 外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律 第19条・第33条・第51条(e-Gov法令検索)
- 技能実習法施行規則 第10条(e-Gov法令検索)
- 監理団体向け実習先変更支援サイト(外国人技能実習機構)
- 育成就労制度 運用要領(出入国在留管理庁・厚生労働省、令和8年4月/第4章は2026年8月一部改正)
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