就労ビザの報酬要件に「月額○万円以上なら許可」という線はありません。入管の内部基準である入国・在留審査要領は、「日本人と同等額以上」の判断について「報酬額を基準として一律に判断することは適切ではない」と明記しています(第12編(開示版)1-3)。比べる相手は、自社で同じ仕事をしている日本人と、同業他社の同じ職種の賃金です。
したがって、同じ月給20万円でも、ある会社では許可され、別の会社では不許可になり得ます。自社の日本人大卒社員の初任給が22万円なのに、外国人の大卒社員だけを20万円で採用すれば、金額そのものが世間相場並みでも説明がつきません。入管庁が公表している不許可例も、まさにこの「同時に採用した日本人との差」で落ちています。
技術・人文知識・国際業務(以下、技人国)、企業内転勤、技能、特定技能など、報酬要件を持つ在留資格を横断して、比べ方と立証の仕方を整理します。
この記事でわかること
- 「同等額以上」の要件がある在留資格と、条文上の書きぶりの違い
- 審査要領が金額の一律基準を置かない理由と、実際の比べ方
- 入管庁が公表した報酬不足による不許可例(月13.5万円・月17万円)
- 更新時に課税証明書で「契約どおりの収入」が確かめられる仕組み
- 特定技能の同等報酬の審査(参考様式第1-4号・最低賃金と同額の場合)
「同等額以上」の要件がある在留資格
外国人が日本で働く在留資格の多くには、学歴や業務内容の要件とは別に、報酬の要件があります。入管法の下位にある基準省令(上陸許可基準を定めた法務省令)が、「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること」を求めているためです。審査要領は、対象となる在留資格を次のように整理しています(第12編(開示版)1-3)。
| 在留資格 | 根拠 | 条文上の表現 |
|---|---|---|
| 経営・管理(管理者として従事する場合)、研究、教育、技人国、企業内転勤、介護、興行、技能 | 上陸基準省令 | 日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること |
| 特定技能 | 特定技能基準省令 | 日本人が従事する場合の報酬の額と同等以上であること |
| 興行(上記に加えて) | 上陸基準省令 | 月額20万円以上の報酬 |
金額の下限が条文に書かれているのは、表の中では興行の「月額20万円以上」だけです。高度専門職1号ロ・ハにも年収300万円以上という最低ラインがありますが(出入国在留管理庁「高度人材ポイント制」ポイント計算表)、これはポイント制の仕組みの一部です。技人国や特定技能には、こうした数字の下限はありません。
審査要領に金額の線がない理由
審査要領ではこう書かれている
「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること」又は「日本人が従事する場合の報酬の額と同等以上であること」については、報酬額を基準として一律に判断することは適切ではない。個々の企業の賃金体系を基礎に日本人と同等額以上であるか、また、他の企業の同種の職種の賃金を参考にして日本人と同等額以上であるかについて判断する。
出典:入国・在留審査要領 第12編(開示版)第2章第1節第2「報酬」3(1-3)
この要件の趣旨は、外国人を日本人より安く使うことを防ぐ点にあります。ここでいう「同等額以上」とは、全国一律の相場と比べて高いか低いかを指すものではなく、同じ会社の中で、同じ立場の日本人と比べて劣っていないかを指します。賃金水準は地域や業種、企業規模で大きく違うため、一つの金額を線にすると、地方の中小企業では高すぎ、都市部の大企業では低すぎる基準になります。筆者は、審査要領があえて金額を示さないのは、この不合理を避けるためだと読んでいます。
審査要領は比べる相手の選び方も示しています。外国人が大卒であれば、その企業の日本人大卒者の賃金を参考にし、専門職・研究職であれば、その企業の日本人専門職・研究職の賃金を参考にします(1-3)。学歴と職種をそろえて比べる、というのが基本の考え方です。
比べ方は「自社の賃金体系」と「同業他社」の二段構え
実務では、次の順で確認すると整理しやすくなります。
自社に同じ職種の日本人がいる場合
最も説明しやすいのがこの場合です。同じ年に採用した日本人の大卒新卒と同じ初任給、同じ賃金テーブルを適用していることを、賃金規程や労働条件通知書で示せば足ります。等級制度がある会社なら、外国人社員がどの等級に格付けされ、その等級の日本人社員がいくらもらっているかを示すのが近道です。
自社に比べる日本人がいない場合
外国人を初めて専門職として採用する会社や、その職種の日本人がいない会社では、自社の中だけでは比較が完結しません。審査要領が「他の企業の同種の職種の賃金を参考に」と書いているのは、この場面を想定したものです。自社の賃金体系のうえで近い職務の日本人社員との関係を説明し、そのうえで同業他社の同じ職種と比べて低くないことを示します。
ここで重要なのは、「報酬」の中身をそろえて比べるという論点です。審査要領は、報酬の月額を「賞与等を含めた1年間従事した場合に受ける報酬の総額の12分の1」で計算するとしています。通勤手当・扶養手当・住宅手当などの実費弁償の性格を持つもの(課税対象となるものを除く)は含めません(1-3)。外国人社員の報酬には通勤手当を足し、日本人社員の報酬には足さない、という比べ方では意味がありません。手当の扱いは通勤手当・住宅手当は報酬に入る?就労ビザの報酬月額の計算方法で詳しく扱っています。
公表されている不許可例:日本人新卒との差で落ちている
入管庁は「技術・人文知識・国際業務」の在留資格の明確化等について(別紙3)で、報酬が理由の不許可例を公表しています。数字が出ている2例は次のとおりです。
| 申請人 | 外国人の報酬 | 比べられた日本人 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 工学部卒 | 月額13.5万円 | 同時に採用された日本人新卒 月額18万円 | 不許可 |
| 日中通訳翻訳学科卒 | 月額17万円 | 同時に採用された日本人新卒 月額20万円 | 不許可 |
どちらも、世間の相場と比べたのではなく、同じ会社で同時に採用された日本人新卒と比べて足りないと判断されています。月17万円という金額だけを見て低すぎると言えるかどうかは、地域や業種によって評価が分かれるはずです。それでも不許可になったのは、社内に比べる相手がはっきりいたからです。
逆に言えば、社内の日本人と同じ条件で採用していれば、金額が高くなくても報酬要件は満たし得ます。技人国の要件全体の中での位置づけは技術・人文知識・国際業務ビザの要件とは?学歴・実務経験・給与条件をわかりやすく解説で確認してください。
更新のときは課税証明書で「契約どおりか」を見られる
報酬要件は、許可を取った時点で終わりではありません。技人国と企業内転勤の審査のポイントには、在留期間更新時の確認事項として次の記述があります。
審査要領ではこう書かれている
住民税の課税(又は非課税)証明書及び納税証明書により、収入額が契約時の金額であること及び納税が行われていることを確認する。
出典:入国・在留審査要領 第12編(開示版)第15節第1の4(2)ウ(15-20)。第16節(企業内転勤)第1の4(2)ウ(16-5)にも同じ記述
申請書に書いた月給と、実際に住民税の課税証明書に載る年収が大きく食い違えば、更新の審査で説明を求められます。技能についても、第18節に課税証明書・納税証明書で確認する旨の記述があります。採用時に高めの条件で申請し、入社後に減額するような運用は、次の更新で表に出るということです。昇給・減給があった場合は、その理由を説明できる資料(辞令、賃金改定の通知など)を残しておくと、更新時の説明が楽になります。
特定技能は比べ方の手順まで決まっている
特定技能の同等報酬は、他の在留資格より確認の手順が細かく定められています。審査要領は、比べる「日本人」を「申請人と同等の業務に従事する者であって、申請人と責任の程度や経験年数等が同等程度の者」と定義したうえで(18の3-37)、次の順に確認するとしています。
- 同等の日本人と同一額との考え方で定めた賃金規程があり、それに基づいて報酬が決まっていれば、同等報酬とする
- 賃金規程がなく、比べる日本人がいる場合は、特定技能外国人の報酬に関する説明書(参考様式第1-4号)で役職・職務内容・責任の程度が同等であることを確認し、報酬額を比べる
- 比べる日本人がいない場合は、最も近い職務を担う日本人との差が合理的に説明されているかを確認し、その差を考慮して報酬額が妥当かを見る
- それでも判断が難しく、技能実習生を雇用している場合は、その技能実習生の報酬と比べる
審査要領ではこう書かれている
当該日本人に対する報酬と同額であれば、それ以上審査することを要しない。
出典:入国・在留審査要領 第12編(開示版)第18節の3 第2 2(1)ウ(ウ)b(b)i(ii)(18の3-37)
比べる日本人がいない場合の一部と、技能実習生との比較の後段は、開示版では黒塗りになっており読めません。公表資料の特定技能運用要領(令和8年8月)も、同程度の技能の日本人がいない場合は賃金規程に照らして説明するか、職務と責任が最も近い日本人と比べてどう違うかを説明する、としています。説明書の書き方は特定技能外国人の報酬に関する説明書(参考様式第1-4号)の書き方と記入例|比較対象の日本人がいない場合にまとめています。
最低賃金と同額の給料・元技能実習生の給料はどう見られるか
特定技能の給料を調べる人の多くが気にするのが、最低賃金との関係です。審査要領は、申請人と比べる日本人の報酬がどちらも都道府県の最低賃金と同額の場合について、専用の確認手順を置いています(18の3-38〜39)。
この場合、入管は比べる日本人の実在と中身を資料で確かめます。求められる資料は3種類です。役職・職務内容・責任の程度は、申請人と比べる日本人を載せた組織図、履歴書等で示します。経験年数が分かる資料は、健康保険・厚生年金保険の資格取得確認及び標準報酬決定通知書の写し、雇用保険被保険者証の写し等です。報酬の支給状況は、賃金台帳の写し等で確認されます。そのうえで疑義がなければ基準に適合するものとして扱い、審査要領は「報酬が最低賃金と同額で決定されていることをもって基準適合性がないとして取り扱うものではない」と明記しています。
元技能実習生を特定技能で雇う場合は、別の注意があります。技能実習2号の修了者はおおむね3年、3号の修了者はおおむね5年の経験者として扱うことが求められます。報酬は、「技能実習2号修了時の報酬額を上回っていることはもとより」、実際に3年程度・5年程度の経験を積んだ日本人技能者の報酬とも比べて設定する必要があります(18の3-38)。ただし、留学生だった人や他社で実習を終えた人を新たに雇う場合は、自社の就業規則等に従って賃金が決まるため、全員を3年・5年の経験者として扱う必要まではありません。特定技能の給料の決め方は特定技能外国人の給料はどう決める?日本人と同等以上の報酬・最低賃金・元技能実習生の扱いで詳しく扱っています。
海外の親会社が給料を払う場合
企業内転勤などで、給料を海外の親会社が払い、日本法人からは払わないという形もあります。審査要領は、日本国内で役務を提供し、その対価を受けていれば、対価を払う機関が国内にあるかどうか、国内で払うかどうかにかかわらず「報酬を受ける活動」になると整理しています(1-4)。公表資料の高度人材ポイント制Q&A(Q9)も、海外の会社から転勤で受け入れ、報酬がその会社から払われる場合はその報酬を算入するとしています(立証が必要)。支払元が海外でも、同等額以上かどうかの比較は同じように求められると考えておくのが安全です。詳しくは企業内転勤ビザの給与は海外親会社払いでもよい?報酬要件と契約の考え方を参照してください。
よくある質問
Q. 技人国ビザは月給いくら以上なら許可されますか?
一律の金額基準はありません。審査要領は「報酬額を基準として一律に判断することは適切ではない」としており、自社で同じ仕事をする日本人(大卒なら日本人大卒者)の賃金と、同業他社の同種の職種の賃金を参考に判断します。
Q. 日本人より少しだけ給料が低い場合でも不許可になりますか?
比べる日本人がはっきりいる場合は、不許可になり得ます。入管庁の公表例では、同時採用の日本人新卒が月18万円のところ月13.5万円、月20万円のところ月17万円で、いずれも不許可とされています。
Q. 特定技能で最低賃金と同額の給料は認められますか?
最低賃金と同額であることだけで基準不適合とはされません。ただし比べる日本人の報酬も最低賃金と同額の場合は、組織図・履歴書、社会保険の資格取得に関する書類、賃金台帳の写し等の提出を求められ、内容に疑義がないことが確認されます。
Q. 更新のときも報酬は確認されますか?
確認されます。技人国や企業内転勤では、住民税の課税(又は非課税)証明書と納税証明書で、収入額が契約時の金額であることと納税が行われていることを確認すると審査要領に書かれています。
給与を決める前に確認しておくこと
採用条件を固める前に、まず自社の賃金規程・賃金テーブルの中で、外国人社員をどこに位置づけるかを決めてください。同じ学歴・同じ職種の日本人社員が社内にいれば、その人の条件と並べて説明できる形にします。いなければ、最も近い職務の日本人との違いと、同業他社の水準を説明する材料を集めておきます。そのうえで、労働条件通知書の報酬欄に、基本給・賞与・手当の内訳を分けて書いておくと、申請時にも更新時にも説明がぶれません。自社の条件で足りるか判断がつかない場合は、申請前にご相談ください。
根拠資料
- 入国・在留審査要領 第12編(開示版)第2章第1節第2「報酬」1〜4(1-3〜1-4)
- 同 第15節 技術・人文知識・国際業務 第1の3(4)・4(15-18〜15-20)
- 同 第16節 企業内転勤 第1の3(2)・4(16-4〜16-5)
- 同 第18節の3 特定技能 第2 2(1)ウ(18の3-36〜18の3-39)
- 出入国在留管理庁「技術・人文知識・国際業務」の在留資格の明確化等について 別紙3(https://www.moj.go.jp/isa/content/001413912.pdf)
- 出入国在留管理庁 特定技能外国人受入れに関する運用要領(令和8年8月)(https://www.moj.go.jp/isa/content/001468647.pdf)
- 出入国在留管理庁 高度人材ポイント制Q&A(https://www.moj.go.jp/isa/applications/resources/newimmiact_3_qa.html)/ポイント計算表(https://www.moj.go.jp/isa/content/930001657.pdf)