フィリピン人を特定技能で雇うときは、入管への申請の前に、フィリピン側で三つの手続を済ませる必要があります。認定送出機関との募集取決め(Recruitment Agreement)の締結、在日フィリピン大使館・総領事館の移住労働者事務所(MWO)での審査と面接、移住労働者省(DMW)への雇用主登録です。この手続は日本に住んでいるフィリピン人を採用する場合にも必要で、省略して採用すると、本人が一時帰国したときに出国許可書類(OEC)が発行されず、日本へ戻れなくなるおそれがあります。
フィリピン側の手続が「入管の外」にある理由
日本とフィリピンは、2019年3月19日に特定技能に関する協力覚書(MOC)に署名しました。MOCの目的は、悪質な仲介事業者の排除と、保証金の徴収や違約金の定めなどの情報共有です。出入国在留管理庁の統計では、2025年12月末の特定技能在留者39万296人のうち、フィリピン国籍は3万5,862人です。
フィリピンの手続でまず押さえておきたいのは、入管の審査ではフィリピン側の手続を済ませたことの証明書類を出す必要がない、という点です。入管庁の「フィリピンに関する情報」にもそう書かれています。ベトナムの推薦者表のように入管が書類を確認する仕組みがないため、MWO・DMWの手続をしないまま在留資格の許可だけが下りてしまうことがあります。
ところがフィリピンの制度では、受入れ機関がMWO・DMWの手続を経ないままフィリピン国籍の人と雇用契約を結ぶことは認められておらず、これは国内在住者を採用する場合も同じだとされています。入管庁が掲載している「フィリピン側の手続についてのお知らせ」は、手続を完了していない場合は海外雇用許可証(OEC)が発行されず、これから雇う人も、再入国許可で一時帰国している人も来日できなくなる、と明記しています。日本側の許可とフィリピン側の出国許可が別々の仕組みで動いていることが、フィリピン人採用の実務上の要点です。
登場する機関と書類
最初に、名前が似た機関と書類を整理しておきます。
| 名称 | 役割 |
|---|---|
| DMW(Department of Migrant Workers、移住労働者省) | 海外就労を管轄するフィリピンの省。旧POEA(海外雇用庁)が統合された |
| MWO(Migrant Workers Office、移住労働者事務所) | 在東京フィリピン大使館・在大阪総領事館に置かれた窓口。旧POLO。受入れ機関の書類審査と面接を行う |
| 認定送出機関 | DMWのライセンスを受けたフィリピンの人材会社。DMWの検索ページ「Licensed Recruitment Agencies」で確認できる |
| 募集取決め(Recruitment Agreement) | 受入れ機関と送出機関の権利義務を定める契約。日本の公証役場での公証が求められる |
| OEC(Overseas Employment Certificate、海外雇用許可証) | フィリピン側の手続を終えたことを示す出国許可書類。出国審査で提示する |
| OWWA | 出国前オリエンテーションを実施する海外労働者福祉庁 |
MWOの管轄|九州の企業は大阪
MWOの窓口は東京と大阪の2か所です。フィリピン当局によれば、2020年2月3日から在大阪フィリピン総領事館のMWOが、管轄区域内の受入れ機関の書類受付・審査・面接を始めています。管轄区域(2020年3月5日現在)は、愛知・岐阜・三重・富山・石川・福井・滋賀・京都・大阪・兵庫・奈良・和歌山・鳥取・島根・岡山・広島・山口・徳島・香川・愛媛・高知の各府県と、福岡・佐賀・長崎・大分・熊本・宮崎・鹿児島の九州7県です。沖縄県は区域に含まれていないため、東京のMWOの扱いになります。
福岡の企業であれば、書類の郵送も面接も大阪のMWOが相手になります。面接の日程が決まったら、代表者か委任を受けた従業員が大阪まで出向く前提で、採用スケジュールを組んでおく必要があります。
共通の手続|募集取決めからDMW登録まで
入管庁の「手続の解説」では、海外から呼ぶ場合と国内在住者を採用する場合の両方に共通する手続として、次の1〜5が示されています。
1. 認定送出機関との募集取決め
フィリピンの制度では、認定送出機関を通じて人材の紹介を受け、採用活動を行うことが求められています。入管庁のQ&Aでも、送出機関を介さずにフィリピン国籍の人と雇用契約を結ぶことはできないとされています。直接採用の余地があるインドネシアとは、ここが大きく違います。
受入れ機関は、送出機関との間で人材の募集・雇用に関する権利義務を明確にした募集取決めを結び、日本の公証役場で公証を受けます。
2. MWOへの書類提出
受入れ機関は、雇用契約書のひな形、募集取決め、求人・求職票などをMWOが定める様式で作成し、郵送します。書類に不備がなければ、MWOの審査の標準処理期間は15営業日内とされています。MWOでの審査に手数料はかかりません。
3. MWOでの面接
書類審査の後、受入れ機関の代表者または委任を受けた従業員が、MWOで労働担当官による英語の面接を受けます。この面接は、行政書士を含むコンサルティング業者や登録支援機関が代わりに受けることは認められていません。通訳の同席は可能です。必要に応じて、MWOが受入れ機関を実地調査することもあります。
入管庁のQ&Aによれば、日本の職業紹介事業者がMWOの審査手続に関与することも、現在のところ認められていません。書類作成を外部に頼む場合でも、MWOとのやりとりの主体は受入れ機関自身になると考えてください。
4. DMWへの雇用主登録
MWOが雇用主として適正と判断すると、認証印を押した書類一式と推薦書(Recommendatory Memorandum)が受入れ機関に郵送されます。受入れ機関はこれを送出機関経由でフィリピン本国のDMWに出し、DMWが労働条件を確認したうえで、受入れ機関を雇用主として、求人情報とともに登録します。登録が済むと、MWOとDMWの両方の認証印が押された雇用契約書のひな形が返送され、ここから採用活動に入れます。
すでにDMWに登録済みの受入れ機関は、1〜4を繰り返す必要はありません。ただし、登録した雇用契約書と違う条件で新たに受け入れる場合や、求人数を増やす場合は、求人・求職票の承認手続が必要です。給与改定で雇用条件を変えたときや、2人目・3人目を採用するときにこの点が抜けやすいので注意してください。
5. 雇用契約の締結
送出機関は、DMWに登録された求人情報をもとに人材を募集し、受入れ機関は紹介を受けた人と特定技能の雇用契約を結びます。
フィリピンから新たに呼ぶ場合|COEの有効期限3か月との競争
海外から呼ぶ場合は、共通手続の後に次の6〜11が続きます。
- 在留資格認定証明書(COE)の交付申請(受入れ機関が地方出入国在留管理官署へ)
- 在フィリピン日本国大使館での査証申請
- OWWAの出国前オリエンテーション(PDOS)の受講(半日程度、送出機関を通じて申込み)
- 健康診断の受診(半日程度、送出機関を通じて申込み)
- DMWへのOEC発行申請(送出機関を通じて)
- 出国審査でOECを提示し、日本で上陸許可を受ける
査証申請、出国前オリエンテーション、健康診断は同時に進められます。ここで気をつけたいのは期限です。COEの有効期限は交付日から3か月で、出国前オリエンテーションの申込み時とOECの申請時に、COEが有効期限内であることが求められます。入管庁は、フィリピン側の手続にかかる期間を考えて、COEが期限切れにならないよう注意を促しています。
実務上は、MWO・DMWの登録(共通手続1〜4)を先に終わらせてからCOEを申請する順番を守ることが肝心です。フィリピン側も、COE申請の前に受入れ機関が1〜3の手続を済ませることを求めています。
日本に住んでいるフィリピン人を採用する場合
国内在住の元技能実習生や留学生を採用する場合も、共通手続1〜5(募集取決め、MWO審査・面接、DMW登録、雇用契約)は必要です。そのうえで、本人が地方出入国在留管理官署に「特定技能」への在留資格変更許可申請を出し、許可が出れば手続は終わります。
入管はフィリピン側の手続の証明を求めないため、変更申請そのものは共通手続なしでも受理され、許可されることがあります。問題が表に出るのは、許可の後に本人がフィリピンへ一時帰国するときです。技能実習から移るときの要件は技能実習から特定技能への移行は可能?「良好に修了」の判断・試験免除と2027年4月の変更点を参照してください。
一時帰国のたびに必要なOECと、再入国が止まる仕組み
特定技能の在留資格を持ったまま、再入国許可(みなし再入国許可を含む)でフィリピンに一時帰国した人は、日本に戻るためにフィリピンを出国する際、OECを提示する必要があるとされています。入管庁のQ&Aでは、OECの有効期限は発行から60日間で、出国のたびに取得が必要、雇用先が一時帰国の前後で同じでも取得が必要とされています。
このOECは、受入れ機関がDMWに雇用主として登録されていることが前提です。登録のない会社で働いている人は、一時帰国した先でOECを取れず、フィリピンから出国できません。日本の在留資格はみなし再入国許可なら出国から1年(在留期限が先に来ればその日)で失われるため、フィリピンで足止めされている間に在留資格そのものを失う、という事態も起こりえます。再入国許可の期限の考え方は再入国許可とみなし再入国許可の違いで解説しています。
なお、在大阪総領事館のMWOは2025年10月22日、同じ雇用主・同じ職種・同じ国に戻る労働者(Balik-Manggagawa)について、行政アプリ「eGovPH」で発行するデジタルの「OFW Pass」を出国許可として使えるようになり、紙のOECに代わると告知しています。取得方法は変わっても、DMWに登録された雇用関係が前提になる点は同じです。OFW Passの有効期間や手数料、転職後の初回帰国での扱いは、公表資料では確認できませんでした(公式資料では未確認)。
一時帰国の休暇の与え方は特定技能で一時帰国はできる?受入れ機関の休暇付与の義務と手続きで扱っています。フィリピン人社員が帰国を申し出たら、休暇の手続と並行して、会社のDMW登録と、登録した雇用条件が今の条件と一致しているかを確認してください。
転職者を受け入れるときの落とし穴
特定技能で働いている別の会社のフィリピン人を採用する場合、日本側では在留資格変更許可申請が必要です。フィリピン側では、前の会社がDMWに登録していても、その登録は前の会社のものです。新しい受入れ機関は、自社として共通手続1〜4を済ませる必要があります。筆者は、フィリピン人の転職者を採用するときは、内定の段階で自社のDMW登録の有無を確認し、未登録なら変更申請と並行してMWOへの書類提出を始めるべきだと考えます。変更許可が先に出ても、登録が終わるまで一時帰国の予定を入れないよう本人と共有しておくと、足止めの事態を避けられます。
費用の目安
公的に決まっているものは、MWOでの審査は無料、OECの発行は手数料が必要(フィリピン当局による)、という点です。これに送出機関への費用、公証の費用、職業紹介手数料、渡航費、登録支援機関への支援委託費が加わります。送出機関への費用は募集取決めで決まり、公的な相場は示されていません。
日本側では、本人や家族が保証金を徴収されたり、違約金を定める契約を結ばされたりしていないことが、特定技能の雇用契約の基準になっています。送出機関と本人の間でどのような費用のやりとりがあるかは、募集取決めの段階で確認しておいてください。個別の事情で必要な手続や判断が変わることがあります。
よくある質問
フィリピンの特定技能の給料はいくらですか?
国籍で決まる金額はありません。特定技能の報酬は、同じ業務に従事する日本人と同等額以上であることが基準で、地域の最低賃金も下回れません。MWO・DMWに登録した雇用契約書のひな形の賃金も、この基準を満たしている必要があります。給与の決め方は特定技能外国人の給料はどう決める?で扱っています。
フィリピンの特定技能のフローは?
共通手続として、認定送出機関との募集取決め(公証)、MWOへの書類提出(審査15営業日内)、MWOでの面接、DMWへの雇用主登録、雇用契約の締結があります。その後、海外から呼ぶ場合はCOE申請、査証申請、出国前オリエンテーション、健康診断、OEC取得の順、国内在住者は在留資格変更許可申請へ進みます。
フィリピンで特定技能をするにはどんな書類が必要ですか?
MWOへは、雇用契約書のひな形、公証済みの募集取決め、求人・求職票などを所定の様式で出します。具体的な書類と様式は、MWO(東京・大阪)のウェブサイトに掲載されています。入管へは、ほかの国籍と同じ特定技能の申請書類を出し、フィリピン側の手続の証明書類は不要です。
送出機関を通さずに採用できますか?
できません。入管庁のQ&Aで、フィリピン当局によれば特定技能外国人の送出しには送出機関を介することが必要とされています。国内在住者の採用でも、募集取決めとDMW登録の手続は必要です。
採用の最初に確認するのは「自社のDMW登録」
フィリピン人の特定技能採用は、入管の許可が出れば終わる手続ではありません。フィリピン側の手続は入管の審査対象外であるぶん、受入れ機関が自分で管理しなければ抜け落ちます。そして抜け落ちた結果は、採用の時点ではなく、本人が初めて一時帰国するときに表に出ます。
採用を決めたら、自社がDMWに雇用主として登録されているか、登録した雇用条件と今回の条件が同じか、求人数が足りているか、の三点を最初に確認してください。九州の企業であれば大阪のMWOへの面接も日程に組み込む必要があります。この確認を採用フローの最初に置くことで、COEの期限切れや一時帰国先での足止めを避けられます。
根拠資料
- フィリピンに関する情報(出入国在留管理庁)
- フィリピン国籍の方々を特定技能外国人として受け入れるまでの手続の流れ(出入国在留管理庁)
- フィリピン特定技能外国人に係る手続の流れについて(フローチャート)(出入国在留管理庁)
- フィリピン側の手続に関するQ&A(出入国在留管理庁)
- フィリピン国籍の方を特定技能外国人として受入れ予定の方へ(出入国在留管理庁)
- ROLL OUT OF OFW PASS SYSTEM(MWO Osaka・2025年10月22日)
- 特定技能制度運用状況(令和7年12月末現在)(出入国在留管理庁)
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