補完的保護対象者とは、難民条約上の難民には当たらないものの、難民と同じように保護すべき外国人として法務大臣が認定した人を指し、2023年12月1日に始まった認定制度に基づいて保護されます(入管法2条3号の2、61条の2第2項)。難民との違いは一点だけで、迫害を受けるおそれの理由が、人種・宗教・国籍・特定の社会的集団の構成員であること・政治的意見という条約上の5つの理由に限られません。戦争や無差別な戦闘に巻き込まれるおそれのある紛争避難民が典型です。認定されると原則として在留資格「定住者」が与えられ、就労の制限はなくなるため、企業は日本人と同じ条件で雇用できます。
補完的保護対象者とは|入管法2条3号の2の定義
入管法は、補完的保護対象者を「難民以外の者であつて、難民条約の適用を受ける難民の要件のうち迫害を受けるおそれがある理由が難民条約第一条A(2)に規定する理由であること以外の要件を満たすもの」と定義しています(入管法2条3号の2)。
条文だけでは読みにくいので、難民の要件を分解して考えます。難民条約上の難民とは、次のすべてを満たす人です。
- 人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員であること、または政治的意見を理由に
- 迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために
- 国籍国の外にいて
- 国籍国の保護を受けることができない、またはそれを望まない
補完的保護対象者は、このうち1の「理由」の要件だけを外し、2から4を満たす人です。ここでいう「迫害」の中身は難民と同じで、生命や身体の自由が脅かされるような重大な危害を指します。単に本国の治安が悪い、経済的に苦しいというだけでは足りません。
制度ができた背景について、出入国在留管理庁は、紛争避難民のように迫害を受けるおそれの理由が条約上の5つの理由のいずれにも当たらず、条約上の難民に該当しないものの、保護を必要とする外国人が存在していることを挙げています。ロシアのウクライナ侵攻を受けて2022年3月以降に来日したウクライナ避難民は、多くがこの状況にありました。そうした人々を確実に保護する仕組みとして、2023年6月に成立した改正入管法(令和5年法律第56号)で創設され、同年12月1日に施行されています。
難民との違い|受けられる保護はほぼ同じ
補完的保護対象者と難民は、認定の要件が違うだけで、認定後の保護の内容はほぼ同じです。違いは難民旅行証明書が受けられるかどうかにあります。
| 項目 | 難民 | 補完的保護対象者 |
|---|---|---|
| 根拠 | 入管法2条3号、61条の2第1項 | 入管法2条3号の2、61条の2第2項 |
| 迫害の理由 | 条約上の5つの理由に限る | 理由を問わない(戦闘・侵略など) |
| 認定後の在留資格 | 原則「定住者」 | 原則「定住者」 |
| 就労 | 制限なし | 制限なし |
| 永住許可 | 独立生計要件に適合しなくても許可可(61条の2の14)、認定後5年で申請可 | 同じ |
| 定住支援プログラム | 参加できる場合がある | 参加できる場合がある |
| 渡航文書 | 難民旅行証明書を受けられる | 難民旅行証明書は受けられない(再入国許可書は受けられる) |
| 証明書 | 難民認定証明書 | 補完的保護対象者認定証明書 |
| 送還の禁止 | 迫害のおそれのある国への送還禁止 | 同じ |
| 在留資格の取消し | 入管法22条の4の取消しの対象外 | 同じ |
永住許可について補足すると、入管法61条の2の14(難民等に関する永住許可の特則)により、難民の認定を受けている人と同様に、補完的保護対象者も独立生計要件(入管法22条2項2号の資産または技能の要件)に適合しなくても、法務大臣の裁量で永住許可を受けられます。永住許可に関するガイドラインは、原則10年在留の特例として「難民・補完的保護対象者の認定を受けている者の場合、認定後5年以上継続して本邦に在留していること」を挙げています。素行善良要件と国益要件は免除されません。
渡航文書の違いは実務で影響が出ます。難民は本国の旅券を使えない前提で、日本政府が発行する難民旅行証明書で海外に渡航できます。補完的保護対象者にはこの証明書が交付されないため、海外出張や一時出国の際は、本国の旅券と再入国許可(みなし再入国許可を含む)で出国することになります。本国の旅券の有効期限が切れて更新が難しい人の場合、海外出張を前提にした配置は慎重に考える必要があります。
「準難民」という呼び方について
報道では補完的保護対象者を「準難民」と呼ぶことがあります。法令上の用語ではなく、難民に準じた保護を受ける人という意味の通称です。検索や社内の説明でこの言葉が出てきた場合は、補完的保護対象者を指していると考えて差し支えありません。
どんな人が認定されているか|公表事例と統計
出入国在留管理庁が2026年3月27日に公表した「難民等と認定した事例等について」には、補完的保護対象者と認定した事例と判断のポイントが載っています。要旨は次のとおりです。
- 本国で政治グループのデモに参加し逮捕歴がある申請者について、デモ参加の態様などから条約難民の要件は認められないとしつつ、本国で軍と武装勢力の無差別かつ常態的な戦闘が行われ、政府が戦闘を阻止できていないことから、補完的保護対象者と認めた事例
- 本国で徴兵されるおそれを主張した申請者について、兵役義務の存在自体は直ちに迫害に当たらないとしつつ、他国の侵略に伴う戦闘に巻き込まれて命を落とす可能性を否定できないことから、補完的保護対象者と認めた事例
どちらも、本人に向けられた個別の迫害は条約難民の水準に届かないものの、本国全体または居住地域の戦闘状況と、本国政府が保護できない状態を理由に認定されています。質問でよく見られる「補完的保護対象者の例」に答えるなら、戦争や内戦、他国の侵略から逃れてきた人が中心だ、ということになります。
統計も確認しておきます。出入国在留管理庁の公表によると、補完的保護対象者と認定された人は次のとおりです。
- 2024年(令和6年):1,661人(補完的保護対象者認定申請で1,616人、難民認定申請に対して補完的保護対象者と認定した人45人)
- 2025年(令和7年):474人(一次審査470人、審査請求4人)
2024年に認定が集中したのは、ウクライナ避難民の申請が多かったためです。2025年の補完的保護対象者認定申請者は311人で、主な国籍はウクライナ、一次審査の平均処理期間は約6.5か月でした。申請者の在留状況は正規滞在者が約98.4%で、そのうち本国の情勢不安を理由に在留する「特定活動」が130人(申請者総数の約41.8%)を占めています。
なお、2023年12月1日以降、難民認定申請をした人については、難民に当たるかどうかに加えて、補完的保護対象者に当たるかどうかもあわせて判断されます。難民としては認定されなかったものの補完的保護対象者と認定された人が、2025年は79人いました。
認定までの手続|申請・仮滞在・審査請求
補完的保護対象者の認定申請は、住居地を管轄する地方出入国在留管理官署で行います。申請書は難民認定申請と共通の様式で、補完的保護対象者であることは申請者本人が立証しなければなりません。提出資料だけで立証が足りないときは、難民調査官が公務所への照会などで事実を調べます。
在留資格を持たない人が申請した場合は、上陸した日(日本にいる間に事情が生じた人は、その事実を知った日)から6か月以内に申請したことなど一定の要件を満たせば、仮滞在が許可され、その間は退去強制手続が停止されます。仮滞在期間は原則6か月です。仮滞在許可を受けた人が生計維持のために働くには、報酬を受ける活動の許可(入管法61条の2の7第2項)が必要で、許可がなければ働けません。
認定されると補完的保護対象者認定証明書が交付され、原則として在留資格「定住者」が与えられます。認定されなかった人や認定を取り消された人は、通知を受けた日から7日以内に法務大臣に審査請求ができます。福岡出入国在留管理局では審判部門が窓口です。
企業が補完的保護対象者を雇うときの確認点
採用の場面で補完的保護対象者に出会うのは、主に次の3つの段階です。
認定後の「定住者」なら就労制限なし
認定を受けて「定住者」の在留資格を持つ人の在留カードは、表面の「就労制限の有無」欄が「就労制限なし」になっています。業種や職種、雇用形態の制限はなく、単純作業を含めて日本人と同じ条件で雇えます。技術・人文知識・国際業務のような学歴と業務の関連性も問われません。雇入れ時には、他の外国人と同じくハローワークに外国人雇用状況を届け出ます。届出の在留資格欄は「定住者」です。
在留期間の更新は必要です。難民や補完的保護対象者のように定住者告示に当たらない地位で「定住者」となった人の在留期間は、入管法施行規則別表第二により、5年を超えない範囲で法務大臣が個々に指定する期間です。満了日までに本人が更新を申請します。会社としては在留カードの満了日を台帳で管理し、更新の時期に声をかける運用で足ります。定住者の在留資格の全体像は定住者ビザとは?告示定住と告示外定住の違い・要件・在留期間と手数料で解説しています。
申請中の人は、今の在留資格の範囲で働ける
補完的保護対象者の認定を申請中の人は、申請しただけでは在留資格は変わりません。技術・人文知識・国際業務や、本国情勢を理由とする「特定活動」など、今持っている在留資格の範囲で働くことになります。
ウクライナ避難民の多くは、来日時に「短期滞在」で入国し、その後「特定活動(1年・就労可)」に変更して在留してきました。この「特定活動」は、指定書に就労可能と記載されていれば業種を問わず働けます。在留カード表面が「指定書により指定された就労活動のみ可」となっている場合は、旅券に添付された指定書の記載を確認してください。出入国在留管理庁の資料では、2022年3月2日から2026年5月31日までにウクライナ避難民として受け入れた人は2,894人(速報値)とされています(公式資料では未確認)。
仮滞在許可者は「報酬を受ける活動の許可」を確認する
在留資格がないまま申請し、仮滞在許可を受けている人は、報酬を受ける活動の許可を受けていなければ雇えません。仮滞在許可書と、報酬を受ける活動の許可の内容を確認します。外国人雇用状況届出書の在留資格欄には「仮滞在許可者」と書き、資格外活動許可の有無の欄で許可の有無を示します。許可の範囲を超えて働かせた場合、会社は不法就労助長罪(入管法73条の2)に問われるおそれがあります。罰則の内容は不法就労助長罪とは?企業が問われる責任・罰則と防ぐための確認方法で整理しています。
よくある質問
補完的保護とはどういう意味ですか?
難民条約上の難民には当たらないものの、国際的な保護を必要とする人を、条約を「補完」する形で保護する考え方です。日本では、迫害を受けるおそれの理由が条約上の5つの理由でないことを除いて難民の要件を満たす人を「補完的保護対象者」として認定し、難民とほぼ同じ保護を与えています。
補完的保護対象者と難民の違いは何ですか?
認定の要件の違いは、迫害を受けるおそれの理由だけです。難民は人種・宗教・国籍・特定の社会的集団・政治的意見のいずれかが理由である必要があり、補完的保護対象者はその理由を問いません。認定後はどちらも原則「定住者」となり就労制限はありませんが、補完的保護対象者は難民旅行証明書を受けられません。
補完的保護対象者は就労できますか?
認定を受けて「定住者」の在留資格を得れば、就労の制限はありません。認定申請中の人は今の在留資格の範囲で働け、在留資格のない仮滞在許可者は報酬を受ける活動の許可を受けた範囲でしか働けません。
補完的保護対象者の例は?
出入国在留管理庁の公表事例では、本国で軍と武装勢力の戦闘が続き巻き込まれるおそれのある人、他国の侵略による戦闘で命を落とすおそれのある人などが認定されています。2024年に認定された1,661人の多くはウクライナからの避難民でした。
補完的保護対象者は永住権を取れますか?
認定後5年以上継続して日本に在留していれば、原則10年の在留要件を満たさなくても永住許可を申請できます。独立生計要件も免除されますが、素行善良要件と、納税などの公的義務の履行を含む国益要件は満たす必要があります。
「どの段階の人か」で確認する書類が変わる
補完的保護対象者の採用で会社が迷いやすいのは、同じ「避難民」でも、認定を受けた定住者、申請中で別の在留資格を持つ人、仮滞在許可者と、段階ごとに働ける範囲が違う点です。定住者であれば就労制限はなく、確認は在留カードの在留資格と満了日で済みます。申請中の人は今の在留資格の範囲、仮滞在許可者は報酬を受ける活動の許可の範囲でしか働けません。
採用の判断は、本人が持っている書類から始めるのが確実です。在留カードがあれば表面の在留資格と就労制限の欄、補完的保護対象者認定証明書があれば認定の事実、仮滞在許可書しかなければ報酬を受ける活動の許可の有無を確認します。在留資格ごとの就労の可否は外国人を採用できる在留資格の種類一覧も参考になります。
受け入れた後は、本国の旅券が使えない場合の出張の扱いや、永住申請を見据えた納税・社会保険の手続の支援が会社の役割になります。個別の事情で判断が変わるため、申請中の人や仮滞在許可者の雇用を検討する場合は、雇入れ前に専門家に相談してください。
根拠資料
- 補完的保護対象者認定制度(出入国在留管理庁)
- 令和7年における難民認定者数等について(出入国在留管理庁・2026年3月27日)
- 難民等と認定した事例等について(出入国在留管理庁・2026年3月)
- 令和6年における難民認定者数等について(出入国在留管理庁・2025年3月14日)
- 難民認定手続・補完的保護対象者認定手続(出入国在留管理庁)
- 永住許可に関するガイドライン(出入国在留管理庁)
- 出入国管理及び難民認定法(e-Gov法令検索)
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