技能実習生が失踪したら、実習実施者(受入れ企業)は、まず監理団体に遅滞なく連絡し、監理団体が外国人技能実習機構に「技能実習実施困難時届出書」を提出します。出入国在留管理庁は、この届出を事由の発生から2週間以内に行い、あわせて警察署に行方不明者届を出すよう求めています。失踪の原因が受入れ企業や監理団体にあると判断されると、その後1年間は新たな技能実習計画の認定を受けられず、実質的に新規受入れが止まります。本記事では、技能実習法と同法施行規則、出入国在留管理庁の公表資料(2026年7月)をもとに、失踪が起きたときの手順と、企業が負う不利益の範囲を整理します。
技能実習生の失踪者数|2025年は3,950人、失踪率0.6%
ここでいう失踪者とは、在留資格「技能実習」で在留中に、監理団体などから技能実習機構に「行方不明」を理由とする技能実習実施困難時届出書が出された人を指します。出入国在留管理庁が2026年7月に公表した速報値は次のとおりです。
| 年 | 失踪者数 | 3か月以内に所在確認できた者を除いた数 | 技能実習生数に対する割合 |
|---|---|---|---|
| 2021年(令和3年) | 7,167人 | 5,445人 | 1.8% |
| 2022年(令和4年) | 9,006人 | 7,740人 | 1.9% |
| 2023年(令和5年) | 9,753人 | 7,093人 | 1.9% |
| 2024年(令和6年) | 6,510人 | 4,517人 | 1.2% |
| 2025年(令和7年) | 3,950人 | 2,881人 | 0.6% |
2025年の失踪者数は前年比39.3%減で、ピークだった2023年の半分以下になりました。割合の分母は、前年末の在留技能実習生と当年に新規入国した(または在留資格変更許可を受けた)技能実習生の合計で、2025年は614,517人です。
国籍別では、ベトナムが2,593人で全体の約3分の2を占め、インドネシア444人、ミャンマー398人、カンボジア195人、中国137人と続きます。福岡県の失踪者数は2025年が163人で、前年の314人から48.1%減少しました。
失踪した技能実習生は「その後」どうなるか
2025年の失踪者3,950人のうち、1,069人は届出の受理から3か月以内に、出入国在留管理上の何らかの手続によって所在が確認されています(3,950人と2,881人の差)。残る人の多くは、在留期間を過ぎて不法残留になるか、別の場所で資格外の就労をしていると考えられます。
失踪した技能実習生は、技能実習の活動をしていない以上、在留資格取消しの対象になります。入管法22条の4第1項は、正当な理由なく在留資格に応じた活動を行わずに他の活動を行っている場合(5号)や、3か月以上活動を行っていない場合(6号)を取消事由としています。出入国在留管理庁は、失踪技能実習生の在留資格取消しの強化を失踪防止策の1つに挙げています。
失踪が起きたら最初の48時間でやること
失踪は「連絡が取れない」「寮にいない」という形で始まります。本人がすぐ戻ってくることもあるため、どの時点で失踪と判断するかは現場の悩みどころです。出入国在留管理庁のリーフレット「外国人技能実習生の失踪を発生させないために」は、対応を4つのステップに分けています。
Step1 所在の把握
失踪の疑いが生じたら、同僚の技能実習生から話を聞き、本人のSNSの発信状況を確認するなどして、所在の把握に努めます。送出機関と連携し、本国の緊急連絡先(家族など)に本人から連絡がないかを確認し、本人に対して監理団体の保護下に戻るか、技能実習機構に連絡するよう説得してもらいます。
リーフレットは、友人やSNSの情報を受けて一時的に失踪したものの、その後翻意するケースもあるとしています。そのため、本国の緊急連絡先を入国時に把握しておくことが、失踪後の対応の成否を分けます。
寮の部屋を確認する際は、私物がどの程度残っているか、在留カードや旅券、通帳がどうなっているかを記録しておきます。ただし、旅券や在留カードを会社が保管すること自体は技能実習法48条で禁止されている行為で、失踪防止を理由にしても正当化されません。
Step2 監理団体・技能実習機構・警察への連絡
失踪が確実になり、技能実習を続けることが困難になった場合の連絡先は、受入れの形態で異なります。
| 受入れの形態 | 実習実施者がすること | 届出を出す者 |
|---|---|---|
| 団体監理型 | 監理団体に遅滞なく通知する(技能実習法19条2項) | 監理団体が技能実習機構に技能実習実施困難時届出書を提出(同法33条1項) |
| 企業単独型 | 自ら技能実習機構に技能実習実施困難時届出書を提出(同法19条1項) | 実習実施者 |
出入国在留管理庁のリーフレットは、届出を「技能実習の実施が困難になった事由が発生してから2週間以内に」、技能実習機構の地方事務所・支所の認定課に提出するよう案内しています。福岡県の実習実施者であれば、技能実習機構の福岡事務所が提出先です(事務所の管轄と手続は外国人技能実習機構 福岡事務所の場所・管轄と申請手続きの注意点|熊本支所との分担で扱います)。
届出書に記載する事項は、技能実習法施行規則21条2項が定めています。技能実習生の氏名・国籍などのほか、「技能実習を行わせることが困難となった事由並びにその発生時期及び原因」「技能実習生の現状」「技能実習の継続のための措置」を書きます。失踪の場合、原因欄の書き方が、後述する帰責性の判断に直結します。
あわせて、警察署に行方不明者届を出します。技能実習生が事件や事故に巻き込まれている可能性もあるため、所在確認と並行して早めに届け出ます。
Step3 所在が判明した場合の対応
所在が判明したら、本人の希望に応じて、帰国までの必要な措置、元の実習先への復帰、転籍の支援を行います。技能実習実施困難時届出書を出した後に復帰や転籍をさせる場合は、技能実習機構に相談します。リーフレットは、専ら技能実習生の都合による転籍は認められないと注意しています。転籍が認められる「やむを得ない事情」の範囲は技能実習生は転職できる?実習先変更が認められる「やむを得ない事情」で扱います。
Step4 失踪理由の把握と再発防止
所在を把握した場合は、賃金の未払いなど実習実施者側の不適切な取扱いがなかったか、本人や同僚から聴取して確認します。不適切な取扱いがなかった場合でも、入国前の説明やコミュニケーションが十分だったかを、監理団体と実習実施者の間で自己点検するよう求められています。
雇用契約・社会保険・ハローワークの手続
技能実習機構への届出とは別に、労務の手続も発生します。技能実習生は実習実施者と雇用契約を結んでいる労働者だからです。
失踪した技能実習生との雇用契約をいつ終了させるかは、就業規則の定め(無断欠勤が一定期間続いた場合の退職・解雇の規定など)に従います。行方不明のまま一方的に解雇する場合は、解雇の意思表示が本人に届かないという問題があるため、就業規則に「行方不明が○日継続した場合は退職とする」といった自然退職の規定があるかを確認します。
雇用契約が終了したら、雇用保険の被保険者資格喪失届と健康保険・厚生年金保険の資格喪失届を提出します。雇用保険の資格喪失届は、ハローワークへの外国人雇用状況の届出を兼ねます。未払いの賃金がある場合は、本人が受け取れるように保管し、帰国した場合でも支払える状態にしておきます。外国人雇用状況の届出の仕組みは外国人雇用状況の届出とは?で解説しています。
失踪を出した企業へのペナルティ
技能実習生が失踪したこと自体に、罰金などの罰則があるわけではありません。企業が受ける不利益は、主に今後の受入れに関するものです。整理すると、次の4つになります。
| 不利益 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 新たな計画認定を受けられない | 過去1年以内に、実習実施者または監理団体の責めに帰すべき事由で行方不明者を発生させていると、技能実習計画が認定されない | 技能実習法施行規則12条1項12号の2 |
| 新規受入れの停止 | 失踪者を出した監理団体・実習実施者に対し、帰責性等を踏まえて新規受入れを停止 | 出入国在留管理庁「失踪技能実習生を減少させるための施策」(2026年7月) |
| 優良要件・一般監理事業への影響 | 行方不明者の発生状況が、第3号技能実習を行える優良な実習実施者の基準と、一般監理事業の許可基準の評価項目になっている | 同規則15条4号、31条3号 |
| 特定技能・育成就労への波及 | 特定技能所属機関の基準にも「責めに帰すべき事由による行方不明者の不発生」がある | 特定技能基準省令2条1項3号 |
最も重いのは1つ目で、失踪の原因が受入れ側にあると判断されると、その後1年間は新しい技能実習計画の認定を受けられません。技能実習生の受入れは、1人ごとに技能実習計画の認定を受けて初めて可能になるため、認定を受けられない期間は、新たな技能実習生を迎えることも、在籍中の技能実習生を1号から2号へ進めることもできなくなります。2号への移行も新たな計画認定を要するためです。
「責めに帰すべき事由」とは何か
1年間の認定停止が生じるかどうかは、失踪が「申請者又は監理団体の責めに帰すべき事由」によるものかで決まります。出入国在留管理庁は、失踪の主な原因として、賃金等の不払いなど実習実施者側の不適正な取扱いと、入国時に支払った費用の回収など実習生側の経済的な事情の2つを挙げています。前者に当たる事情があれば帰責性が認められやすく、後者だけであれば帰責性は否定されやすいと考えられます。
具体的には、賃金や残業代の未払い、技能実習計画と違う作業への従事、暴行・暴言・脅迫、旅券や在留カードの取上げ、私生活の不当な制限などがあれば、受入れ側の帰責性が問われます。出入国在留管理庁は、暴行等の人権侵害行為が認められた場合は技能実習生等の受入れができなくなるとしています。
帰責性の判断は、技能実習機構による実地検査や、所在が判明した技能実習生からの聴取を通じて行われます。受入れ企業の側では、賃金台帳、出勤簿、技能実習日誌(規則22条)を正確に付け、適正に実習を行っていた記録を残しておくことが、帰責性を否定する材料になります。個別の事情で判断が変わるため、帰責性が問われそうな場合は、監理団体と早い段階で事実関係を整理してください。
失踪した技能実習生を別の会社が雇った場合
失踪した技能実習生を雇った企業は、不法就労助長罪(入管法73条の2)に問われる可能性があります。出入国在留管理庁は、失踪技能実習生を雇用した企業の刑事告発と公表を施策として明示しています。法定刑は現在3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金で、2027年4月1日から5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金に引き上げられます。採用する側の確認方法は不法就労助長罪とは?で扱っています。
失踪を防ぐために受入れ企業ができること
出入国在留管理庁のリーフレットが受入れ企業に求めているのは、特別な制度ではなく、説明とコミュニケーションの積み重ねです。要点を拾うと次のとおりです。
- 雇用契約の締結時に、入国後に従事する業務内容と修得する技能をよく説明し、納得感をもってもらう
- 給料の仕組みを、総支給額だけでなく、税金・社会保険料・食費・居住費などの控除額とその目的まで含めて、本人の言語の雇用契約書・雇用条件書を示して説明する
- 指導のつもりでも、暴言、脅迫(指示に従わなければ帰国させる旨の発言など)、暴行は許されない
- 「こうかんノート」のような日常的なやり取りの仕組みで、信頼関係をつくる
筆者が特に重要だと考えるのは、2つ目の控除額の説明です。失踪の主な原因として挙げられている「入国時に支払った費用の回収」は、来日前の借金を毎月いくら返せるかという問題で、手取り額の見込みと実際の差が大きいと、より高い収入を求めて職場を離れる動機になります。入国前の段階で手取り額を具体的な数字で示しておくことは、帰責性を問われないための記録にもなります。
2027年4月の育成就労制度で何が変わるか
技能実習制度は、2027年4月1日に育成就労制度へ移行します。育成就労制度では、同じ職場で一定期間(分野により1年から2年)就労し、日本語能力などの要件を満たせば、本人の意向による転籍が認められます。技能実習で転籍が原則として認められないことが失踪の一因だと指摘されてきたことを受けた設計です。
一方で、2027年4月1日の時点で技能実習を行っている人は、経過措置により技能実習を続けることができ、失踪時の届出や計画認定の基準も、当面は技能実習の枠組みで扱われます。移行の全体像は【2027年4月施行】育成就労制度とは?、経過措置は技能実習はいつ廃止?2027年4月以降の経過措置と今の実習生の扱いで解説しています。
よくある質問
技能実習生が失踪した場合、監理団体に連絡すればよいですか?
団体監理型の場合は、まず監理団体に遅滞なく連絡します。技能実習機構への技能実習実施困難時届出書は監理団体が提出します。企業単独型の場合は、実習実施者が自ら技能実習機構に届け出ます。いずれの場合も、警察署への行方不明者届を、実習実施者か監理団体が並行して出します。
技能実習生が失踪すると入管法違反になりますか?
失踪そのものを直接処罰する規定はありませんが、技能実習の活動をしないまま在留を続けると在留資格取消しの対象になり、在留期間を過ぎれば不法残留になります。別の場所で働けば、資格外活動や不法就労の問題にもなります。本人が戻ってきて所在が確認できた場合の扱いは、技能実習機構への相談を経て、復帰、転籍、帰国のいずれかになります。
技能実習生の失踪が多い国はどこですか?
2025年の速報値では、ベトナムが2,593人で最も多く、インドネシア444人、ミャンマー398人、カンボジア195人、中国137人の順です。ただし、ベトナムは技能実習生の数自体が最も多い国で、失踪者数の多さは受入れ人数の多さも反映しています。国籍だけで失踪のしやすさを判断することはできません。
失踪が1人出ただけで受入れ停止になりますか?
人数だけで決まるわけではありません。計画認定の基準は、過去1年以内に、実習実施者または監理団体の責めに帰すべき事由による行方不明者を発生させていないことです。受入れ側に原因がない失踪であれば、この基準には抵触しません。一方で、受入れ側に原因があると判断されれば、1人でも1年間の認定停止の対象になり得ます。
失踪した技能実習生の荷物や未払い賃金はどうすればよいですか?
私物は、本人や家族と連絡が取れるまで記録を付けて保管します。未払いの賃金は本人の権利なので、会社の損害と相殺せず、支払える状態で保管しておきます。所在が判明した後、または帰国後に本人から請求があれば支払います。
失踪への備えは「起きた後の記録」と「起きる前の説明」
技能実習生の失踪は2023年をピークに減っていますが、2025年でも年間3,950人が行方不明になっています。受入れ企業にとって、失踪が起きたときに問われるのは、失踪が起きたこと自体より、その原因が受入れ側にあったかどうかです。その判断材料は、賃金台帳、出勤簿、技能実習日誌、入国前に示した雇用条件書、日常の面談記録といった、平時の記録の中にしかありません。
判断軸としては、失踪が起きた日の対応手順(誰が監理団体に連絡し、誰が警察に届け、誰が寮を確認するか)を社内で決めておくことと、入国前に手取り額まで説明した記録を残しておくことの2点を、受入れの標準手順に組み込むことをお勧めします。特定技能外国人が行方不明になった場合の扱いは制度が異なるため、特定技能外国人が行方不明になったらを参照してください。
根拠資料
- 技能実習生の失踪防止対策について(出入国在留管理庁)
- 失踪技能実習生を減少させるための施策(出入国在留管理庁・2026年7月)
- 国籍別の失踪者数(令和3年〜令和7年)速報値(出入国在留管理庁・2026年7月)
- 都道府県別の失踪者数(令和3年〜令和7年)速報値(出入国在留管理庁・2026年7月)
- 外国人技能実習生の失踪を発生させないために(リーフレット・出入国在留管理庁)
- 外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(e-Gov法令検索)
- 外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律施行規則(e-Gov法令検索)
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