特定技能から技術・人文知識・国際業務(技人国)への変更は、特定技能で積んだ経験を根拠にしては認められません。入国・在留審査要領 第12編(開示版)15-11は、特定技能1号から技人国に変更してキャリアアップを図ることは「想定されていない」としています。特定技能・技能実習の活動で得た経験も、基本的には基準省令の「実務経験」とは評価しないとしています。
変更の道が残るのは、本人が特定技能とは別の根拠を持っている場合です。大学や日本の専門学校を卒業している人、来日前に母国で関連する仕事を長く続けていた人は、その学歴・職歴で技人国の基準を満たし得ます。そのうえで、変更後の仕事が技人国の水準の業務に変わっていることが必要です。
特定技能外国人を技人国に切り替えたいと考える会社は、特定技能で何年働いたかを数える前に、本人の最終学歴と来日前の職歴を確認してください。例外の余地を示す「基本的には」の後が黒塗りになっている点も含め、審査要領の書き方を順に読みます。
この記事でわかること
- 特定技能・技能実習の経験が技人国の実務経験に数えられない理由(15-11〜15-12)
- 国際業務の3年や「技能」にも同じ扱いが及ぶこと
- 特定技能から技人国に変更できる人・できない人の区分
- 変更後の業務内容と、特定技能での在留状況の審査
審査要領15-11の考え方
技人国の基準省令第1号は、学歴(大学卒業、日本の専門学校の修了)か、10年以上の実務経験のいずれかを求めています(15-8)。国際業務の場合は、原則として関連する業務の3年以上の実務経験です(15-17〜15-18)。特定技能で長く働いた人が「その年数を実務経験として使えないか」と考えるのは自然ですが、審査要領はこの点に正面から答えています。
審査要領ではこう書かれている(第12編 15-11)
「特定技能制度で受け入れられた外国人のキャリアアップは、基本的には、『特定技能1号』から『特定技能2号』への移行によって行うこととされており、同制度での実務経験を土台にして、『特定技能1号』から『技術・人文知識・国際業務』の在留資格に変更してキャリアアップを図ることは想定されていない。」
「したがって、基本的には、特定技能等の活動によって得た経験は上陸基準省令に定める『実務経験』とは評価しない。」
ここでいう「特定技能等」とは、審査要領の定義で「特定技能」と「技能実習」を指します。技能実習で3年、特定技能1号で5年働いた人でも、その8年は技人国の10年にも、国際業務の3年にも足せないということです。
なぜ数えないのか:二つの在留資格は「交わらない」
審査要領が挙げる理由は二つあります。一つ目は制度の設計で、特定技能外国人のキャリアアップの道筋は1号から2号への移行として用意されているという点です。
二つ目は、より理屈の側の説明です。入管法の別表は、技人国の活動の範囲を定める際に、括弧書きで「教授」「経営・管理」「企業内転勤」など、活動が重なり得る在留資格を除外しています(15-2)。これらは重なるからこそ、どちらを優先するかを決めておく必要があります。これに対し、「特定技能」と「技能実習」は除外の対象に挙がっていません。審査要領はこの点から、技人国と特定技能等の活動は「概念上」交わることはないと考え、特定技能等の活動を実務経験として評価することは「本来」困難だとしています(15-11)。
業務の中身から見ても、この整理は筋が通っています。技人国の業務は「学術上の素養を背景とする一定水準以上の業務」で、「単に経験を積んだことにより有している知識では足りず、学問的・体系的な知識を必要とするもの」とされています(15-2)。特定技能は、入管法上、特定の産業分野の相当程度の知識または経験を必要とする技能を要する業務に従事する在留資格です。経験を積むことで身につける技能を前提とする制度の経験を、経験だけでは足りない業務の要件に充てることはできない、という関係になります。
国際業務の3年・「技能」にも同じ扱い
この考え方は、技人国の10年の実務経験だけに適用されるものではありません。国際業務の3年の実務経験(基準省令第2号ロ)について、審査要領は「前記(2)イ(ウ)と同じ」と書いています(15-18)。さらに15-12は、この考え方と取扱いは「技能」等の技人国以外の在留資格においても同様とする、としています。
技能実習で通訳的な役割を担っていた人や、特定技能の外食業で店舗の中心になっていた人でも、その期間は国際業務の3年にも、調理師などの技能の10年にも使えないということになります。実務経験の数え方全般は就労ビザの実務経験年数の数え方|アルバイト・インターンは職歴に入るかで整理しています。
「基本的には」の後は黒塗り
15-11の結論は「基本的には」と書かれています。原則を示す言い方で、例外の余地を残しているようにも読めます。ところが、この文に続く部分(15-11の下部から15-12の上部)は、開示版では意味をなさない文字列になっており、黒塗りとみられます。例外的な取扱いが書かれている可能性はありますが、内容は分かりません【要確認】。
筆者は、特定技能等の経験を実務経験に算入できることを前提にした申請は組み立てるべきでないと考えています。読めない例外を当てにするより、本人の学歴や来日前の職歴という、読める基準で満たせる根拠を探すほうが確実です。
変更の根拠になるもの、ならないもの
ここで重要なのは、15-11が否定しているのは特定技能等の経験を「土台にして」技人国に移ることだ、という論点です。基準省令の学歴要件は、実務経験とは別の入口です。大学を卒業している人が、たまたま特定技能で在留していたという場合、学歴要件は大学卒業で満たせる、と筆者は読んでいます。本人の経歴ごとに整理すると、次のとおりです。
| 本人の経歴 | 技人国の基準との関係 | 審査要領 |
|---|---|---|
| 大学(外国の大学・短大を含む)卒業 | 学歴要件で申請できる。関連性は比較的緩やかに判断 | 15-8、15-10 |
| 日本の専門学校卒(専門士・高度専門士) | 学歴要件で申請できる。原則として相当程度の関連性が必要 | 15-10、15-13 |
| 来日前の関連業務の実務経験 | 関連科目の専攻期間と合わせて10年以上なら実務経験要件で申請できる | 15-8〜15-9 |
| IT告示の試験合格・資格 | 情報処理業務なら第1号の学歴・実務経験を要しない | 15-9 |
| 特定技能・技能実習の経験のみ | 基本的には実務経験と評価されず、根拠にならない | 15-11〜15-12 |
来日前の職歴で10年を満たす方法は技人国の実務経験10年要件|学歴がなくても申請できる場合と在学期間の算入で説明しています。情報処理技術者試験などによる特例は情報処理技術者試験(IT告示)で学歴要件を満たす|対象試験と中国資格の有効期限で扱っています。
仕事の中身が変わらなければ変更はできない
学歴要件を満たしていても、変更後の業務が技人国の業務でなければ許可されません。特定技能で就いていた現場の仕事を、在留資格だけ技人国に替えて続けることはできません。
出入国在留管理庁の「在留資格『技術・人文知識・国際業務』と『特定技能』の違いについて」は、業種ごとに技人国の業務の例を示しています。宿泊ではフロント・企画・広報、外食では複数店舗の管理・経営・企画、製造では設計・プログラミング・技術開発、自動車整備では整備士の指導監督・整備主任者、建設では建築設計・設計監理・建築積算です。飲食店については、技人国で調理・接客をすることは認められず、店舗管理も個別判断で、自分で調理・接客をすることは認めないとしています(「飲食店において外国人が就労する場合の在留資格について」)。
同じ会社の中で特定技能から技人国に切り替える場合は、配属と職務内容が実際に変わることを、組織図や職務内容の説明で示す必要があります。現場で働いていた人ほど、変更後も現場作業が続いているのではないかと見られやすい点に注意してください。
特定技能での在留状況も見られる
在留資格の変更は、変更を適当と認めるに足りる相当の理由があるかどうかで判断されます。出入国在留管理庁の「在留資格の変更、在留期間の更新許可のガイドライン」は、考慮事項を挙げています。現に有する在留資格に応じた活動を行っていたこと、素行が不良でないこと、納税義務等を履行していること、入管法上の届出義務を履行していることなどです。そのうえで、失踪した技能実習生は消極的に評価するとしています。特定技能・技能実習の期間中の働き方や届出の状況は、実務経験には数えられなくても、在留状況としては審査の対象になります。
技能実習から特定活動を経て、技人国で許可を得たケース
技能実習から特定活動(帰国困難)に移り、その後に技人国への変更を申請して不許可になった案件がありました。このケースでは入管とやりとりを重ね、最終的に許可を受けています。
※上記は当事務所で取り扱った実際の相談内容をもとにしていますが、個別の状況により結果は異なります。同様の結果を保証するものではありません。
特定技能のまま働き続けるという選択
学歴も来日前の職歴もない人にとって、審査要領が想定するキャリアの道は特定技能2号への移行です。1号には通算の在留期間の上限があるため、1号の期間の数え方を確認したうえで、2号の試験に向けた計画を立てることになります。詳しくは特定技能1号の5年後はどうなる?通算5年の数え方(一時帰国・失業・産休育休)と在留を続ける方法で扱っています。1号と2号の違いは特定技能1号と2号の違いとは?在留期間・家族帯同・移行条件を比較解説で比較しています。
よくある質問
Q. 特定技能1号で5年働けば、技人国に変更できますか?
特定技能で働いた年数だけでは変更の根拠になりません。審査要領は、基本的には特定技能・技能実習の活動で得た経験を上陸基準省令の「実務経験」とは評価しないとしています。変更するには、大学卒業などの学歴か、特定技能等以外の実務経験で基準を満たす必要があります。
Q. 大学を卒業している特定技能外国人なら、技人国に変更できますか?
学歴要件は大学卒業で満たせるため、変更を申請することはできます。ただし、変更後の業務が技人国の水準の業務であること、日本人と同等額以上の報酬であること、特定技能での在留状況に問題がないことなども審査されます。同じ現場作業を続けるのであれば、学歴があっても技人国には当たりません。
Q. 技能実習の3年間は、国際業務の「実務経験3年」に数えられますか?
基本的には数えられません。審査要領は、特定技能・技能実習の経験を実務経験と評価しない考え方を、国際業務の3年の実務経験にも同じく当てはめるとしています。「技能」など技人国以外の在留資格でも同様です。
Q. 特定技能の経験を実務経験に数える例外はありますか?
審査要領は「基本的には」と書いており、例外の余地を残しているように読めます。ただし、その直後の部分は開示版では黒塗りとみられ、例外の有無や内容は確認できません。例外を前提に申請を組み立てることは勧められません。
切り替えを検討する会社が最初にすること
特定技能外国人の技人国への切り替えを考えたら、本人から母国の最終学歴の卒業証明書と、来日前の勤務先の在職期間・業務内容が分かる資料を集めてください。そのうえで、切り替え後に担当させる業務を具体的に書き出し、特定技能で就いていた業務との違いを説明できるかを確認します。学歴も来日前の職歴もなければ、技人国は見送り、2号への移行を軸に計画を立て直すのが現実的です。本人の経歴で変更が見込めるか判断に迷う場合は、書類を集めた段階でご相談ください。
根拠資料
- 入国・在留審査要領 第12編(開示版)第15節「技術・人文知識・国際業務」15-2、15-8〜15-13、15-17〜15-18
- 出入国在留管理庁「在留資格の変更、在留期間の更新許可のガイドライン」https://www.moj.go.jp/isa/applications/resources/nyuukokukanri07_00058.html
- 出入国在留管理庁「在留資格『技術・人文知識・国際業務』と『特定技能』の違いについて」https://www.moj.go.jp/isa/content/001452975.pdf
- 出入国在留管理庁「飲食店において外国人が就労する場合の在留資格について」https://www.moj.go.jp/isa/content/001450260.pdf