在留資格の変更・更新が不許可になっても、入管に対して審査請求などの不服申立てをすることはできません。ここでいう不服申立てとは、裁判所に行く前に、行政機関自身に処分の見直しを求める審査請求などの手続を指します。行政不服審査法7条1項10号が、外国人の出入国に関する処分を審査請求の対象から外しているためです。入管庁の在留資格変更許可申請・在留期間更新許可申請の手続ページにも、「不服申立方法:なし」とはっきり書かれています。
争う方法として残るのは、裁判所に処分の取消しを求める取消訴訟です。ただ、在留期間の更新には法務大臣の広い裁量が認められており、訴訟で処分を覆すのは容易ではありません。実務では、不許可の理由を解消して再申請するのが中心になります。どちらを選ぶかは、不許可の理由が「資料で補えるもの」か「入管の判断そのものの誤り」かで決まります。
この記事でわかること
- 在留資格の不許可に審査請求ができない法律上の理由
- 取消訴訟の出訴期間と、勝訴したときに起きること
- マクリーン事件と最判平成8年7月2日から見る、裁判所の審査の範囲
- 再申請と訴訟を選ぶときの判断軸
審査請求ができない理由:行政不服審査法7条1項10号
行政の処分に不満があるとき、裁判所に行く前に行政機関自身に見直しを求める手続を、審査請求と呼びます。行政不服審査法が定める一般的な仕組みで、税金の処分や許認可の不許可など、多くの処分に使えます。
ところが同法7条1項は、審査請求の対象にならない処分を列挙しており、その10号に「外国人の出入国又は帰化に関する処分」が入っています。在留資格の変更・更新の許否は、ここにいう出入国に関する処分に当たります。海外から呼び寄せるための在留資格認定証明書の不交付も同じ扱いです。
この適用除外が実務に与える影響は、見た目以上に大きいものです。行政不服審査法の審査請求は、処分が「違法」な場合だけでなく「不当」な場合も対象にしています(同法1条)。裁量の範囲内ではあっても妥当でない判断を、行政自身に見直させる道です。取消訴訟では、裁判所が審査するのは違法かどうかに限られます。在留資格の不許可について審査請求が閉ざされているということは、「違法とまでは言えないが妥当でない」判断を争う正式な場がない、ということを意味します。
同じ考え方は行政手続法にもあります。同法3条1項10号は、外国人の出入国に関する処分を、申請に対する処分の手続(理由の提示など)の規定の適用から外しています。つまり在留資格の審査は、一般の行政処分に比べて、手続上の保障が法律の段階で薄く作られています。
| 手続 | 在留資格の変更・更新の不許可で使えるか | 根拠 |
|---|---|---|
| 審査請求・再調査の請求 | 使えない | 行政不服審査法7条1項10号 |
| 不許可理由の提示を求める | 法律上の義務としては求められない | 行政手続法3条1項10号 |
| 取消訴訟(義務付け訴訟を含む) | 使える | 行政事件訴訟法 |
| 再申請 | 使える | 入管法20条・21条(申請自体は何度でもできる) |
退去強制の手続には、入管法49条の異議の申出という独自の不服の仕組みがあります。これは退去強制令書の発付に至る手続の中のもので、変更・更新の不許可に対する不服申立てとは別物です。混同しないようにしてください。
手続ページの「不服申立方法:なし」と審査基準
入管庁の手続ページは、変更と更新のそれぞれについて審査基準を示しています。変更は、活動が「虚偽のものでなく」法律の別表の活動に該当し、「在留資格の変更を適当と認めるに足りる相当の理由があること」。更新は、別表の活動に該当し、「在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があること」です。そして両方のページに、不服申立方法は「なし」と書かれています。
ここで重要なのは、「相当の理由」という基準の性格です。何が相当の理由に当たるかを法律は具体的に書いておらず、ガイドラインが考慮事項を示し、内部基準である審査要領が運用を定めています。審査要領には、この基準を裏返した言い回しで特例を設けている箇所もあります。
審査要領ではこう書かれている(入国・在留審査要領 第12編(開示版) 15-15〜15-17)
上陸基準省令に適合しないファッションデザイン教育機関の卒業生のうち、経済産業省が要件に適合すると認め入管当局が同意した専攻科・コースの卒業生からの就職目的の変更申請は、基準に適合しなくても「在留資格の変更を適当と認めるに足りる相当の理由がないとは取り扱わない」とされている。
公表されているガイドライン(「在留資格の変更、在留期間の更新許可のガイドライン」令和8年6月最終改正)は、相当の理由の判断で考慮する事項として8つを挙げています。在留資格該当性、上陸許可基準への適合、現に有する在留資格に応じた活動を行っていたこと、素行が不良でないこと、独立生計、雇用・労働条件の適正、納税義務等の履行、入管法上の届出義務の履行です。このうち3番目以下は代表的な考慮要素にすぎず、すべてに当てはまっても不許可となることがある、とガイドライン自身が書いています。
審査要領の側にも、原則と例外の幅を示す記述があります。消費税の不正還付で重加算税の処分を受けた企業を運営する経営・管理の外国人について、更新は「原則として」不許可としています。ただし、引き続き在留を認めるに足りる相当の理由がある場合は、地方局が意見を付して本庁へ請訓する、としています(1-24)。原則不許可の類型でも、個別の事情を本庁で検討する道が内部に用意されています。
相当の理由の有無は、こうした内部の取扱いによって広くも狭くも運用されます。行政の判断の幅がそれだけ大きい、ということでもあります。更新の審査の枠組みについては在留期間更新の「相当の理由」とは|ガイドラインと審査要領で見る素行・納税・社会保険で詳しく扱っています。
対照的なのが税の処分です。審査要領の国税庁との情報連携の箇所には、重加算税の処分について「不服申立て手続中のものとして情報提供を受けたもの」は国税庁から改めて結果が提供される、という注記があります(1-24)。税の処分には不服申立ての道があり、その結果を待って在留審査に反映させる仕組みです。在留資格の処分そのものには、その道がありません。
取消訴訟という選択肢
審査請求ができない以上、不許可に法的に異議を唱える手段は、裁判所に処分の取消しを求める取消訴訟になります。押さえるべき点は次のとおりです。
- 出訴期間:処分があったことを知った日から6か月以内、かつ処分の日から1年以内(行政事件訴訟法14条)
- 審査の範囲:裁量処分は、裁量権の範囲を超えたか濫用があった場合に限り取り消される(同法30条)
- 勝訴の効果:処分が取り消され、入管は判決の趣旨に従って改めて審査する(同法33条)。裁判所が在留資格を与えるわけではない
- 許可を求める形:申請を拒否された場合は、取消訴訟とあわせて許可の義務付けを求める訴訟も制度上ある(同法3条6項2号)
取消訴訟を起こしても、それだけで在留資格が続くわけではありません。更新・変更の申請中に認められる特例期間(入管法20条6項)は、不許可の処分がされた時点で終わります。訴訟中の在留をどう確保するかは個別の事情によるため、訴訟を検討する段階で弁護士に相談してください【要確認】。
訴訟には時間もかかります。判決までの間、本人は日本での就労や生活の見通しが立たない状態に置かれ、雇用している会社も、その社員をどう扱うかの判断を迫られます。筆者は、訴訟を選ぶ場合は、法的な見込みだけでなく、この間の生活と雇用をどう維持するかまで含めて判断すべきだと考えています。
マクリーン事件が示す、裁判所の審査の範囲
在留資格の訴訟で必ず出てくるのが、マクリーン事件の最高裁大法廷昭和53年10月4日判決(民集32巻7号1223頁)です。最高裁は、在留期間の更新を認めるかどうかは法務大臣の広い裁量に委ねられており、外国人には日本に在留する権利や在留期間の更新を受ける権利は保障されていない、と判断しました。
裁判所は、入管の判断が裁量の範囲を逸脱・濫用していない限り、処分を取り消しません。判断の前提となった事実に重大な誤認がある、考慮すべきでないことを考慮した、社会通念に照らして著しく妥当性を欠く、といった事情を示す必要があります。判決の詳しい内容はマクリーン事件とは?在留期間更新の裁量をわかりやすく解説|今の入管審査への影響を参照してください。
最判平成8年7月2日:裁量にも限界がある
一方で、裁量が無制限というわけではありません。最高裁平成8年7月2日判決は、本人の意思に反して在留資格を変更されたという経緯を考慮せずに更新を不許可とすることは許されず、信義則上、元の在留資格に基づく判断の機会を与えるべきだったとしました。
この判決は、入管が申請に至る経緯を無視して形式的に判断した場合には、裁判所が歯止めをかけることを示しています。訴訟を検討する価値があるのは、この事案のように入管の判断過程そのものに問題がある案件です。判決の詳細は最判平成8年7月2日とは|本人の意に反した在留資格変更と更新不許可に信義則が働く場面で扱っています。
再申請か、訴訟か:判断の軸
実務での判断は、不許可の理由の性質から始めます。筆者は次のように整理しています。
| 不許可理由の性質 | 向いている対応 | 理由 |
|---|---|---|
| 提出資料・説明の不足 | 再申請 | 資料を補えば判断が変わる余地があり、訴訟より早い |
| 報酬・学歴など要件の不足 | 条件を見直したうえで再申請 | 訴訟で争っても要件の不足は変わらない |
| 素行・公的義務の不履行 | 未納の解消や時間の経過を待って再申請 | 裁量の範囲内の判断とされやすい |
| 事実の誤認・経緯の無視 | 再申請で訂正を求めつつ、出訴期間内に訴訟も検討 | 判断過程の誤りは裁判所の審査対象になり得る |
判断に迷うときは、「同じ申請をもう一度出したら、審査官の結論を変えられる材料があるか」を自問してください。材料があるなら再申請、材料はないが判断そのものが誤っていると言えるなら訴訟、どちらもないなら、雇用条件や職務内容など申請の前提を見直す段階です。
両者は排他的ではありません。再申請の準備を進めながら、出訴期間の6か月を意識しておく、という進め方もあります。再申請で許可が出れば訴訟は不要になりますし、再申請でも同じ判断が繰り返され、その判断に明らかな誤りがあると考えるなら、期間内に訴訟に移る選択肢を残せます。
再申請で何より大切なのは、不許可の理由を正確につかむことです。行政手続法の理由提示の規定が適用されないため、理由は入管に出頭した際に自分から具体的に尋ねるしかありません。通知の受け取り方と理由の聞き方は入管から不許可のハガキが届いたら?通知の見分け方・不許可理由の聞き方・再申請の判断にまとめています。
会社が再申請で担う役割
就労系の在留資格では、申請人は外国人本人でも、審査される事実の多くは会社側にあります。職務の内容、報酬の水準、組織の中での位置づけ、会社の経営状態です。再申請で会社が用意すべき材料は、たとえば次のようなものです。
- 職務内容を具体的に書いた説明書と、1日の業務スケジュール
- 組織図や指揮命令系統を示す資料(誰の指示で、どの部署で働くか)
- 同じ職種の日本人社員の賃金と比べられる賃金規程や説明
- 前回の雇用理由書で説明が足りなかった点を補う追加の説明書
当事務所で扱った例:雇用理由書の書き方で単純作業と誤認された
業務そのものには専門性があったのに、雇用理由書の記述が簡素だったため、入管に単純作業と受け取られた案件がありました。業務の中身に問題はなく、説明の粒度が足りなかったことが原因です。このような不許可は、会社が説明を組み立て直すことで結論が変わり得る典型で、訴訟を考える場面ではありません。
※上記は当事務所で取り扱った実際の相談内容をもとにしていますが、個別の状況により結果は異なります。同様の結果を保証するものではありません。
筆者は、訴訟を入口から選ぶ案件はごく限られると考えています。多くの不許可は、審査官が申請書類だけでは要件の充足を確認できなかった結果であり、その不足を埋めることが最短の道です。訴訟は、再申請では解決できない判断の誤りがある場合の手段として位置づけるのが現実的です。
よくある質問
Q. 在留資格の更新が不許可になったとき、入管に審査請求はできますか?
できません。行政不服審査法7条1項10号が外国人の出入国に関する処分を審査請求の対象から外しており、入管庁の在留期間更新許可申請・在留資格変更許可申請の手続ページにも「不服申立方法:なし」と明記されています。
Q. 取消訴訟はいつまでに起こせばよいですか?
行政事件訴訟法14条により、処分があったことを知った日から6か月以内、かつ処分の日から1年以内に提起する必要があります。再申請を検討している間にもこの期間は進むため、訴訟の可能性が残る案件では日付を管理してください。
Q. 取消訴訟に勝てば、在留資格が与えられますか?
取消判決は不許可の処分を取り消すもので、裁判所が在留資格を与えるわけではありません。処分が取り消されると、入管は判決の趣旨に従って改めて申請を審査することになります(行政事件訴訟法33条)。
Q. 不許可になったら、訴訟と再申請のどちらを選ぶべきですか?
不許可の理由が資料や説明の不足であれば、理由を解消した再申請が現実的です。入管の事実認定に明らかな誤りがある場合や、考慮すべき事情が考慮されなかった場合は、出訴期間内に訴訟も検討します。在留期間の更新には法務大臣の広い裁量が認められているため、訴訟のハードルは高いと考えてください。
不許可の通知を受けたら、まず確かめること
最初に、処分の日付と、処分を知った日を記録してください。訴訟を選ぶかどうかにかかわらず、6か月の出訴期間はその日から進みます。次に、入管に出頭した際に聞いた不許可の理由を文書に残し、上の表のどれに当たるかを判断します。
理由が資料や説明の不足であれば、再申請の準備に入ります。入管の事実認定や判断の経緯に疑問があるなら、出訴期間内に弁護士へ相談し、訴訟の見込みを確認してください。当事務所では、不許可理由の整理と再申請書類の作成を扱っています。
根拠資料
- 行政不服審査法1条・7条1項10号、行政手続法3条1項10号、行政事件訴訟法3条6項2号・14条・30条・33条、入管法20条6項・49条
- 出入国在留管理庁「在留資格変更許可申請」https://www.moj.go.jp/isa/applications/procedures/16-2.html
- 出入国在留管理庁「在留期間更新許可申請」https://www.moj.go.jp/isa/applications/procedures/16-3.html
- 出入国在留管理庁「在留資格の変更、在留期間の更新許可のガイドライン」https://www.moj.go.jp/isa/applications/resources/nyuukokukanri07_00058.html
- 入国・在留審査要領 第12編(開示版) 第2章第1節第10「国税庁との情報連携」1-24
- 入国・在留審査要領 第12編(開示版) 第15節第1の3(2)イ(ファッションデザイン教育機関を卒業した者)15-15〜15-17
- 最高裁大法廷昭和53年10月4日判決(マクリーン事件、民集32巻7号1223頁)/最高裁平成8年7月2日判決