本文へ移動
保利国際法務事務所 外国人採用・就労ビザ相談室
保利国際法務事務所の外国人採用・就労ビザLPへ 電話で無料相談 050-5526-5506 いますぐ無料相談フォームへ
保利国際法務事務所 外国人採用・就労ビザ相談室

最判平成8年7月2日とは|本人の意に反した在留資格変更と更新不許可に信義則が働く場面

最高裁平成8年7月2日判決は、本人の意思に反して在留資格を変更された外国人について、その経緯を考慮せずに在留期間の更新を不許可とすることは許されないと判断しました。行政の側が作った経緯がある以上、信義則上、元の在留資格に基づいて判断する機会を与えるべきだった、というのが判決の核心です。ここでいう信義則とは、相手が抱いた正当な信頼を裏切らないよう、誠実に行動しなければならないという法の一般原則を指します。

在留期間の更新は法務大臣の広い裁量に委ねられている、というのがマクリーン事件以来の出発点です。平成8年判決は、その裁量にも越えてはならない線があることを示した判決として位置づけられます。就労系の在留資格でも、入管の案内で在留資格を切り替える場面はあります。そのときに何を記録しておくべきかを考えるうえで、この判決の考え方は役に立ちます。

この記事でわかること

  • 最判平成8年7月2日が示した判断と、信義則の意味
  • マクリーン事件の「広い裁量」との関係
  • 就労系の在留資格で、在留資格の切り替えが起きる場面
  • 後から経緯を説明できるように残しておくべき記録

判決の要点

裁判所・日付 最高裁判所 平成8年7月2日判決
問題になった経緯 本人の意思に反して在留資格が変更され、その後の更新が不許可とされた
判断 変更の経緯を考慮せずに更新を不許可とすることは許されない。信義則上、元の在留資格に基づく判断の機会を与えるべきだった
実務上の意味 更新の裁量にも限界があり、行政が作った経緯は判断の中で考慮されなければならない

判決の掲載誌は、当ブログでは記載していません。判決を確認するときは、裁判所名と日付で特定してください。

事案の骨格

事案は、もともと身分系の在留資格で在留していた外国人に関するものとされています。本人は元の在留資格での在留を続けることを望んでいましたが、手続の過程で、本人の意思に反する形で別の在留資格に変更されました。その後、本人が元の在留資格に基づく在留を求めて更新を申請したところ、不許可とされた、という流れです。【要確認】元の在留資格と変更後の在留資格の種類、変更に至った具体的な経緯は、判決原文で照合する必要があります。

最高裁が重く見たのは、在留資格が変わったこと自体ではありません。本人が望まない変更が行政の側の手続によって生じ、その結果、本来受けられたはずの元の在留資格での審査を受けられなくなった、という経緯です。

信義則とは何か

相手が抱いた正当な信頼を裏切らないよう、誠実に行動しなければならないという法の一般原則を、信義誠実の原則、略して信義則と呼びます。民法1条2項に定めがあり、私人どうしの取引だけでなく、行政と私人の関係でも問題になります。

この判決に当てはめると、次のようになります。行政が本人の意思に反して在留資格を変えたのであれば、その変更によって本人が元の在留資格での審査を受けられなくなった不利益は、行政の側が作り出したものです。その経緯を棚に上げて、変更後の在留資格の枠内だけで更新を判断するのは、誠実な態度とはいえません。だから最高裁は、元の在留資格に基づいて判断する機会を与えるべきだった、としたのです。

マクリーン事件の「広い裁量」との関係

マクリーン事件(最高裁大法廷昭和53年10月4日判決、民集32巻7号1223頁)は、在留期間の更新を許すかどうかは法務大臣の広い裁量に委ねられるとしました。外国人に在留の権利や更新を受ける権利は保障されない、というのがその判断です。平成8年判決は、この枠組みを否定したわけではありません。

ここで重要なのは、裁量が広いことと、判断の過程で考慮すべき事情を考慮しなくてよいこととは別だ、という論点です。平成8年判決は、更新を許可しなければならないとまで言ったのではなく、元の在留資格に基づく判断の機会を与えるべきだったとしました。結論を縛ったのではなく、判断の土俵を正したと読むのが正確だと筆者は考えています。裁量の出発点についてはマクリーン事件とは?在留期間更新の裁量をわかりやすく解説|今の入管審査への影響で詳しく扱っています。

就労系で在留資格の切り替えが起きる場面

平成8年判決は身分系の事案とされますが、在留資格の切り替えは就労系でも日常的に起きます。入国・在留審査要領と入管庁の公表資料を見ると、入管の側から別の在留資格を案内したり、別の在留資格での可否を確認したりする場面が、あらかじめ想定されています。

会社都合の解雇後、特定活動に切り替える

技人国などの就労資格の外国人が会社都合で解雇され、在留期限の後も就職活動を続けたい場合があります。在留状況に問題がないなど相当であるときは、「特定活動」(在留期間6月、特定技能の人は4月)への変更が許可されます(第12編 1-17)。ただし、この特定活動は一度きりの橋渡しとして設計されています。

「当該『特定活動』への在留資格の変更許可を受けた者から就職活動の継続を理由に在留期間更新申請があった場合は、これを認めないものとする。」

出典:入国・在留審査要領 第12編(開示版)第2章第1節第8 1-17

会社から自宅待機を命じられ、待機期間が長くなる場合も、特定活動への変更と、待機の継続を理由とする更新を認めない扱いが定められています(第12編 1-18〜1-19)。いずれも本人が変更を申請する仕組みで、平成8年判決のように「意に反して」変えられる場面ではありません。それでも、変更後は更新ができないという制約を本人が理解したうえで選んだかどうかは、後の説明で意味を持ちます。解雇の取扱いは会社都合で解雇された外国人の在留資格はどうなる?就職活動の特定活動とアルバイトで扱っています。自宅待機の取扱いは外国人社員を自宅待機させるときの在留資格|休業中のアルバイトと在留期限にまとめています。

外食業の受入れ停止で、特定活動を案内される

特定技能の外食業分野では、令和8年4月13日から在留資格認定証明書の交付が一時停止されました。同日以降に受理した外食業の1号への変更申請は原則として不許可とされ、状況によっては特定活動(移行準備)への変更等を案内する(更新は1回まで)と公表されています。入管の案内に応じて在留資格を切り替える、という場面は、制度として現に生じています。

企業内転勤の要件を満たさず、技人国を検討される

審査要領は、担当者に対して、申請された在留資格の基準に合わないからといってすぐに不交付にせず、別の在留資格での可否を確かめるよう求めている箇所があります。企業内転勤の節です。

「直ちに在留資格認定証明書交付申請を不交付処分とすることなく」

出典:入国・在留審査要領 第12編(開示版)第16節 16-2〜16-3(企業内転勤の基準に適合しない場合に、技術・人文知識・国際業務への該当性を確認する旨の記述)

転勤直前の海外勤務が1年に満たない場合でも、技人国の基準に合えば技人国で入国できるとする記述です(第12編 15-4、16-2〜16-3)。申請者の側から見れば、希望した在留資格と違う在留資格で許可が出る可能性がある、ということになります。どちらで許可を受けるかによって、在留の性格が変わります。審査要領は、企業内転勤が技人国と異なる点として、期間を定めて転勤することと、転勤した特定の事業所でしか活動できないことを挙げています(第12編 15-4)。技人国で許可を受ければ、その制約はかかりません。逆に、企業内転勤のつもりで準備していた転勤計画や報酬の設計は、技人国の基準(学歴・実務経験と日本人と同等額以上の報酬)に照らして見直す必要が出てきます。案内を受けたときは、この違いを本人と会社の双方が理解してから応じるべきです。理解したうえで選んだことを書面に残しておけば、次の更新で「なぜこの在留資格なのか」を問われても、経緯を一貫して説明できます。

判決の射程をどう読むか

筆者は、この判決を「入管が案内した在留資格に変えたのだから、後で不利に扱われることはない」という意味に広げて読むべきではないと考えています。判決が問題にしたのは、本人の意思に反した変更です。本人が案内を受け、内容を理解したうえで自ら変更を申請したのであれば、事情は大きく異なります。

一方で、判決が示した考え方、つまり行政が作り出した経緯は、その後の判断で考慮されなければならないという考え方は、案内に応じた変更の場面でも説明の拠り所になります。どのような説明を受け、何を理解し、なぜその在留資格を選んだのか。この経緯を後から具体的に示せるかどうかで、次の更新や変更の審査で経緯を酌んでもらえる余地が変わります。

当事務所でも、技能実習から特定活動(帰国困難)を経て技人国への変更を申請し、いったん不許可になった案件を扱ったことがあります。在留資格が何度も切り替わった経緯を入管とやりとりしながら説明し、最終的に許可を得ました。切り替えの一つひとつに理由があったことを、書類で示せたことが大きかった案件です。

※上記は当事務所で取り扱った実際の相談内容をもとにしていますが、個別の状況により結果は異なります。同様の結果を保証するものではありません。

残しておくべき記録

在留資格の切り替えを案内されたとき、または自ら切り替えを選ぶときに、企業と本人が残しておくべき記録は次のとおりです。

記録 残す理由
提出した申請書と添付書類の控え どの在留資格を、どんな理由で希望したかを示す
入管から届いた通知書・案内文書 切り替えが入管の案内によるものかを示す
窓口や電話でのやりとりのメモ(日時・内容) 口頭の説明を後から再現できるようにする
本人の希望と理解を書いた理由書 元の在留資格を望んでいたか、変更後の制約を理解していたかを示す
解雇・待機・転勤などの原因を示す会社の書類 切り替えが本人の都合によるものでないことを示す

元の在留資格での審査を希望する場合は、その希望を申請書や理由書に明記しておくことが基本です。口頭で伝えただけでは、後から「本人の意思に反した」ことを示す材料になりません。

不許可になったときの選択肢

在留資格の変更・更新の不許可には、行政不服審査法の審査請求はできません。同法7条1項10号の適用除外で、入管庁の手続ページにも「不服申立方法 なし」と書かれています。争う方法は、裁判所に不許可処分の取消しを求める取消訴訟です。

ただ、訴訟には時間がかかり、その間の在留も問題になります。実務上は、不許可の理由を確認したうえで、変更に至った経緯を説明する資料を添えて再申請することが多くなります。不服申立ての仕組みは在留資格の不許可に不服申立てはできない?行政不服審査法の適用除外と取消訴訟を参照してください。更新不許可後の立て直しは在留資格の更新が不許可になる理由とは?事例と対処法・企業の注意点を解説で扱っています。

よくある質問

Q. 最判平成8年7月2日は、どんなことを判断した判決ですか?

本人の意思に反して在留資格を変更された経緯を考慮せずに更新を不許可とすることは許されず、信義則上、元の在留資格に基づく判断の機会を与えるべきだったと判断した最高裁判決です。

Q. 入管の案内に従って在留資格を変更した場合も、この判決で守られますか?

当然に守られるとは限りません。判決が問題にしたのは本人の意思に反した変更です。案内を受けて本人が自ら変更を申請した場合は、事情が異なります。変更に至った経緯を書面で残しておくことが、後で説明するための前提になります。

Q. 更新が不許可になったとき、信義則違反を理由に審査請求できますか?

在留資格の変更・更新の不許可には、行政不服審査法の審査請求はできません(同法7条1項10号の適用除外)。争うなら取消訴訟を起こすことになり、実務上は経緯を説明する資料を添えて再申請することが多くなります。

切り替えを案内されたら

入管から別の在留資格を案内されたら、その場で応じる前に三つを確かめてください。変更後の在留資格で更新ができるか、元の在留資格に戻れる見込みはあるか、転職や業務の範囲はどう変わるか。答えを書面に残し、本人の希望を理由書に明記したうえで申請します。経緯が込み入っている場合は、申請前に専門家に相談して、説明の組み立てを先に決めておくことを勧めます。

根拠資料

  • 最高裁判所平成8年7月2日判決/最高裁判所大法廷昭和53年10月4日判決(民集32巻7号1223頁)
  • 出入国在留管理庁「入国・在留審査要領」第12編(情報公開請求による開示版、2025年12月スキャン、一部黒塗り)第2章第1節第8 1-16〜1-19、第15節 15-4、第16節 16-2〜16-3
  • 出入国在留管理庁「特定技能『外食業分野』における受入れ上限の運用について」https://www.moj.go.jp/isa/applications/ssw/03_00001.html/「在留資格認定証明書交付の一時停止措置について」https://www.moj.go.jp/isa/03_00176.html
  • 出入国在留管理庁「在留資格変更許可申請」https://www.moj.go.jp/isa/applications/procedures/16-2.html/「在留期間更新許可申請」https://www.moj.go.jp/isa/applications/procedures/16-3.html