日本人と結婚しても、外国人配偶者にすぐ永住権が出るわけではありません。出入国在留管理庁の「永住許可に関するガイドライン」は、日本人の配偶者について「実体を伴った婚姻生活が3年以上継続し、かつ、引き続き1年以上本邦に在留していること」を求めており、その間は在留資格「日本人の配偶者等」(いわゆる配偶者ビザ)を更新し続ける必要があります。入管はこの配偶者ビザの段階から婚姻の実体を確かめており、実体のない婚姻は、許可を取った後でも在留資格の取消しや刑事罰の対象になります。この記事では、入管が偽装結婚を疑う場面と、真剣な結婚なのに疑われてしまう夫婦が用意すべき立証、そして「相手は永住権目当てではないか」と不安を抱える日本人側の見極め方を整理します。
国際結婚だけでは永住権は出ない|配偶者から永住までの道のり
「国際結婚=永住権」というイメージは、制度の実際とずれています。外国人が日本人と結婚した場合、最初に得られるのは在留資格「日本人の配偶者等」です。在留期間は入管法施行規則別表第2で5年・3年・1年・6月のいずれかとされ、初回は1年が出ることが多く、更新のたびに婚姻の継続と生計が確認されます。
永住許可の申請ができるのは、ガイドラインの配偶者特例を満たしてからです。
| 段階 | 在留資格 | 入管が見ること |
|---|---|---|
| 結婚直後 | 日本人の配偶者等(認定・変更) | 婚姻の成立と実体、交際の経緯、生計 |
| 1〜3年目 | 日本人の配偶者等(更新) | 同居と婚姻の継続、収入、納税 |
| 婚姻3年・在留1年以降 | 永住者(永住許可申請) | 婚姻の実体の継続、公的義務の履行、最長の在留期間 |
日本人の配偶者は、入管法22条2項ただし書により素行善良要件と独立生計要件が免除されます。それでも国益要件は残るため、税金・年金・健康保険料の期限内の納付や、現在の在留資格で最長の在留期間(2027年3月31日までは「3年」でも可)を持っていることは求められます。永住許可の要件と2026年10月からの運用の変化は【2026年10月改定】永住許可の要件厳格化で何が変わる?で扱っています。
2026年8月4日には、ガイドラインの改定案が意見募集にかけられました。改定案は配偶者特例を「婚姻5年・在留3年」に引き上げる内容を含んでいますが、確定した内容と適用時期は現時点で公式資料では確定していません。申請前に出入国在留管理庁または所轄官庁の公式案内をご確認ください(2026年9月29日時点で結果は公示されていません)。改定が確定すれば、結婚から永住申請までの期間はさらに延びます。
ここで押さえておきたいのは、永住権を得るまでに最短でも3年、その間に少なくとも数回の更新審査を通る必要があるという点です。「結婚すればすぐ永住権」という発想で近づいてくる人がいたとしたら、その前提がまず誤っています。
偽装結婚とは|法律上の婚姻と「婚姻の実体」は別物
ここでいう偽装結婚とは、夫婦として共同生活を営む意思がないのに、在留資格を得る目的で婚姻届を出すことを指します。
日本の民法は、当事者間に婚姻をする意思がないときの婚姻を無効としています(民法742条1号)。最高裁判所は昭和44年10月31日の判決で、ここでいう婚姻意思を、社会通念上夫婦と認められる関係を作ろうとする意思と解しました。届出を出す意思だけでは足りないという考え方です。
入管の審査も同じ方向を向いています。最高裁判所平成14年10月17日の判決は、婚姻が法律上存続していても、夫婦としての共同生活の実体を失っている場合には「日本人の配偶者」としての活動に当たらないと判断しました。戸籍に婚姻が記載されていることは出発点にすぎず、在留資格の判断は実体で行われます。判決の読み方は最判平成14年10月17日と「活動の実体」で解説しています。
「永住権目当て」と「偽装結婚」は、重なる部分はあっても同じ意味ではありません。在留の安定を結婚の動機の一つに含む夫婦は珍しくありませんし、それだけで違法になることもありません。法律が問題にするのは、夫婦として暮らす意思と実態がないのに婚姻の形だけを作ることです。
入管が偽装結婚を疑うポイント
入管が婚姻の実体を確かめる手段の中心は、配偶者ビザの認定・変更申請で提出する「質問書」と、夫婦の交流を示す資料です。質問書は日本人配偶者が記入する全8ページ・12設問の書式で、出会いから婚姻届までの経緯、紹介者、夫婦間の言語、結婚式、渡航歴、双方の親族といった欄が並びます。入管庁は併せて、二人で写ったスナップ写真2〜3葉(アプリで加工したものは不可)と、提出できる場合はSNSや通話の記録を求めています。書き方の詳細は配偶者ビザの質問書の書き方|交際経緯・紹介者欄の記入例と矛盾の防ぎ方にまとめています。
この書式の設計と、入管庁が公表している在留資格取消しの事例から読み取れる典型的な疑義は、次のとおりです。入国・在留審査要領の「日本人の配偶者等」の章に、どの事情をどの程度重く見るかの具体的な記述があるかは一次資料で確認できていないため、以下は書式と公表事例からの筆者の整理です(公式資料では未確認)。
交際期間の短さと会った回数の少なさ
初めて会ってから婚姻届までの期間が短く、対面した回数が数回しかない場合、経緯の説明が薄いと追加資料を求められやすくなります。質問書が「年月日を示しながら,できるだけ詳しく」経緯を書くよう求め、渡航歴の欄を別に設けているのは、交際の日付と出入国の記録を突き合わせるためです。
ただし、交際期間が短いこと自体が不許可の理由になるわけではありません。入管庁が公表した令和6年6月10日から12月31日までの在留特別許可の事例には、婚姻期間約2月で「日本人の配偶者等」1年が許可された例も含まれています(在留特別許可という別の手続の事例である点には注意が必要です)。見られているのは期間の長短よりも、その期間に何があったかの説明がつくかどうかです。
仲介者・紹介者の介在と報酬
質問書の紹介者欄には「単に友人・知人と記載するのではなく,どのような関係か詳しく記載してください」という注記があり、結婚相談所を通した場合は会社名を書くよう指示されています。これまで摘発された偽装結婚の多くで、夫婦を引き合わせて報酬を受け取るブローカーが介在してきたことが背景にあります。
結婚相談所の利用は合法で、それを隠す必要はありません。問題になるのは、紹介者を「無」と書いたのに後から仲介業者への支払いが判明する場合や、日本人側が紹介者から金銭を受け取っている場合です。後者は偽装結婚の典型的な構図そのものです。
共通の言語がない、意思疎通の手段が見えない
言語欄では、会話に使う言語と、相手の言語の理解の程度(通訳が必要/挨拶程度/日常会話程度/支障なし)を答えます。共通の言語がないことは不許可の理由になりませんが、翻訳アプリを使っているなら、そのやり取りの記録が実際に存在することが前提です。質問書に書いた言語と、提出したメッセージ履歴の言語が一致しないと、どちらかが事実と違うと受け取られます。
同居していない、生活の本拠が別
婚姻後に同居していないこと、住民票の住所が別であることは、実体を疑わせる事情として見られます。単身赴任や親の介護など理由がある別居なら、その理由と、定期的に行き来していることを示す資料で説明します。
結婚を親族が知らない、年齢差が大きい、送金がある
双方の親族が結婚を知っているか、結婚式や食事会のように周囲に公にした機会があるかも、質問書で尋ねられます。年齢差が大きいことや、外国人配偶者の母国の家族への送金があることは、それ自体で偽装を示すものではありません。国際結婚では母国の親への仕送りはごく普通の家計行動です。ただ、送金の額が夫婦の収入に比べて極端に大きい、婚姻前から日本人側が相手の家族に多額の送金を続けている、といった事情が他の疑義と重なると、関係の実質を説明する必要が出てきます。
過去の婚姻歴と退去強制歴
短期間での結婚と離婚を繰り返している、過去に日本人と結婚して配偶者ビザを得た後すぐに離婚している、といった経歴は結婚歴の欄で把握されます。退去強制・出国命令の履歴と当時の氏名を書く欄もあり、別名義での入国歴の有無も確認されます。
偽装結婚が発覚したらどうなるか
偽装結婚は、許可を受けた後に発覚しても責任を免れません。入管庁の広報資料「令和7年の在留資格取消件数について」(2026年3月)によると、令和7年の在留資格取消しは1,446件で、そのうち「日本人の配偶者等」は18件でした。取消事由は、偽りその他不正の手段で許可を受けた場合を定める入管法22条の4第1項2号が14件を占めます。同資料は具体例として、「日本人との婚姻を偽装し、日本人配偶者との婚姻実態があるかのように装う内容虚偽の在留期間更新許可申請書を提出して同許可を受けた」事例を挙げています。
同じ資料には、配偶者ビザで在留していた人が退去強制歴を隠して永住許可を受け、後に取り消された事例も載っています。永住者も取消制度の対象で、令和7年は7件の取消しがありました。永住権を得た後であれば安全、という理解は誤りです。
1号・2号の事由で在留資格を取り消されると、出国までの猶予期間は与えられず、そのまま退去強制の対象になります(入管法24条2号の2)。刑事面では、偽りその他不正の手段で在留許可を受けた者は3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金またはその併科(入管法70条1項2号の2)、虚偽の婚姻届を出した場合は日本人側も含めて公正証書原本不実記載等罪(刑法157条1項、5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)の対象になります。刑罰の詳しい整理は偽装結婚の刑罰と罰則|公正証書原本不実記載罪・在留資格取消し・退去強制で扱います。
日本人側にとって重いのは、報酬を受け取って名義を貸した場合、自分も共犯として処罰される点です。戸籍には婚姻と、その後の無効・離婚の記録が残ります。
真剣な結婚なのに疑われないための立証
交際期間が短い、年齢差が大きい、出会いが結婚相談所やマッチングアプリだった。こうした夫婦は、偽装を疑われるのではないかと不安になりがちです。整理すると、立証の方針は次の3点になります。
第一に、日付の一貫性を保つことです。質問書の経緯、パスポートの出入国スタンプ、メッセージ履歴の最初の日付、婚姻届の提出日が同じ時系列の上に並んでいるかを、夫婦で一緒に確認してから書きます。記憶で埋めた日付が一つずれているだけで、他の記載まで信用されにくくなります。
第二に、疑われやすい事情を先に説明することです。交際期間が短いなら、なぜその時期に結婚を決めたのかを一段落足します。妊娠がわかった、相手の在留期限が迫っていた、親の病気で早く家族に紹介したかったなど、理由は夫婦ごとに違います。理由が書かれていれば、短い交際期間は説明のついた事実として読まれます。
第三に、交流の記録を量より質で出すことです。写真は二人の容姿がはっきりわかるものを時期の違う場面から選び、SNSや通話の記録は交際の各段階がわかる部分を抜粋します。膨大な画面の写しを束ねるより、経緯の説明と対応する記録を示すほうが審査官に伝わります。
許可後も、更新のたびに同居と生計が確かめられる点は変わりません。別居や離婚をした場合は14日以内の届出が必要で、正当な理由なく配偶者としての活動を6か月以上行わないと、在留資格取消しの対象になります(入管法22条の4第1項7号)。取消しの手続全体は在留資格の取消しとは?で解説しています。
「相手は永住権目当てでは」と不安なときの見極め方
「結婚を急かされているが、ビザが目的ではないか」という不安は、国際結婚を考える日本人側からよく聞かれるものです。相手の本心は制度では判定できませんが、制度の側から見て不自然な動きには共通点があります。
- 在留期限が迫っていることを理由に、会った回数が少ないうちから婚姻届を急がせる
- 結婚後の同居や生活設計の話になると具体性がなく、ビザの手続の話だけが具体的
- 日本人側の家族や友人に会うことを避け、自分の家族にも紹介しない
- 婚姻前から、渡航費や家族への支援名目で継続的な送金を求める
- 仲介者が間に入り、その仲介者に報酬を払うよう求められる
- 永住申請の時期や「3年」という年数を、結婚の話より先に口にする
どれか一つが当てはまれば偽装という話ではありません。在留期限を気にするのは外国人として当然のことですし、家族への仕送りも多くの国で普通の習慣です。見るべきは、夫婦としての生活の話と在留資格の話のどちらが中心にあるかです。
不安が残るときは、婚姻届を出す前に時間をかけることが最も確実な対処です。相手の国を訪ねて家族に会う、一定期間一緒に暮らしてみる、といった経験は、そのまま質問書と交流資料の中身にもなります。真剣な相手であれば、時間をかけることで失うものはありません。逆に、報酬の提示や名義だけの結婚を持ちかけられた場合は、その時点で断るべきです。
よくある質問
偽装結婚の見分け方は?
入管は、交際の経緯と出入国の記録の一致、紹介者の有無と関係、夫婦間の言語、同居の有無、親族が結婚を知っているかといった事情を組み合わせて見ています。一つの事情だけで判断されることはなく、説明のつかない事情が重なったときに疑義が強まります。日本人側の立場では、生活の話よりビザの話が先行していないか、金銭の要求がないかが目安になります。
偽装結婚がバレたらどうなる?
在留資格は取り消され、偽りその他不正の手段による許可の場合は猶予なく退去強制の対象になります。刑事面では入管法70条1項2号の2(3年以下の拘禁刑等)と、虚偽の婚姻届について刑法157条1項の公正証書原本不実記載等罪が問題になり、名義を貸した日本人側も処罰の対象です。
偽装結婚の判断基準は?
法律上は、夫婦として共同生活を営む意思と実体があるかどうかです(民法742条、最判平成14年10月17日)。入管の審査では、質問書と交流資料、戸籍、住民票、出入国記録などから実体を判断します。入国・在留審査要領の具体的な判断基準の記述は現時点で公式資料では確定していません。申請前に出入国在留管理庁または所轄官庁の公式案内をご確認ください。
結婚相談所やマッチングアプリで知り合った場合は不利?
出会いの方法だけで不利になることはありません。結婚相談所を使った場合は質問書の紹介者欄に会社名を書き、アプリの場合は知り合った日と初めて対面した日を分けて書きます。利用の事実を隠して後から支払い記録などと食い違うことのほうが、審査への影響は大きくなります。
永住権を取った後に離婚したら永住権はなくなる?
離婚だけを理由に永住者の在留資格が取り消される規定はありません。入管法22条の4第1項7号の「配偶者としての活動を6か月以上行わない」取消事由は、「日本人の配偶者等」と「永住者の配偶者等」が対象です。ただし、永住許可の時点で婚姻の実体がなかったことが判明すれば、不正な手段による許可として取消しの対象になります。2027年4月1日からは、永住者について公的義務の不履行などを理由とする新たな取消事由も施行されます。
永住権の話より先に、夫婦の時系列を整える
国際結婚で永住権に至るまでには、配偶者ビザの認定・変更、数回の更新、永住申請と、少なくとも3年にわたって婚姻の実体を確かめられる機会が続きます。偽装結婚は、そのどこかで説明がつかなくなり、許可後であっても取消しと退去強制に至ります。逆に、真剣な結婚であれば、疑われやすい事情があっても、日付の一貫した時系列と、それを裏付ける記録で説明できます。
これから結婚する夫婦は、出会いからの日付と記録を今のうちに整理しておくことです。すでに配偶者ビザで暮らしている夫婦は、同居と生計、納税の記録を更新のたびに積み上げていくことが、そのまま永住申請の準備になります。交際期間が短い、別居の事情があるといった個別の事情がある場合、許否の見通しはその中身で変わるため、申請前に専門家に書類を見てもらうのが確実です。
根拠資料
- 在留資格「日本人の配偶者等」(外国人(申請人)の方が日本人の配偶者である場合)(出入国在留管理庁)
- 【広報資料】令和7年の「在留資格取消件数」について(出入国在留管理庁・2026年3月)
- 在留資格の取消し(入管法第22条の4)(出入国在留管理庁)
- 永住許可に関するガイドライン(出入国在留管理庁・2026年2月24日改訂)
- 出入国管理及び難民認定法(e-Gov法令検索)
- 民法(e-Gov法令検索)
- 刑法(e-Gov法令検索)
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