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特定技能「農業」とは?直接雇用と派遣の違い・受入れ要件をわかりやすく解説

ここでいう特定技能「農業」とは、特定技能の対象分野の中で数少ない、労働者派遣という形での受入れが制度上認められている分野を指します。ほかの分野の大半は直接雇用が原則であり、農業はこの点で制度設計そのものが異なります。

特定技能はどの分野も直接雇用が前提だという理解のまま人材紹介会社に相談に行くと、農業だけ派遣という選択肢が用意されていることに戸惑う経営者は少なくありません。直接雇用を選ぶこともできますが、繁忙期と閑散期の差が大きい農業の実情に合わせて、派遣という道があらかじめ用意されているのです。自社の経営スタイルに合わせて、どちらの形を取るのかを早い段階で決めておく必要があります。

ここでは、特定技能「農業」の分野としての特徴、直接雇用と派遣それぞれの要件の違い、受入れ機関に求められる基準を順番に整理します。

この記事でわかること

  • 特定技能「農業」の対象業務と特徴
  • 直接雇用と労働者派遣、それぞれの仕組み
  • 直接雇用・派遣で要件がどう変わるか
  • 受入れ機関(企業・派遣元)に求められる基準
  • 技能実習からの移行や他分野との違い

特定技能「農業」とは

特定技能「農業」は、耕種農業(野菜・果樹・花き等の栽培)または畜産農業(畜産全般)の現場で、一定の技能と日本語能力を持つ外国人を受け入れるための在留資格です。特定技能とはで解説している通り、特定技能は、分野ごとに受入れ条件が定められた制度ですが、農業はその中でも季節による業務量の波が大きい産業として、独自の受入れ方式が認められています。

本人要件は、農業技能測定試験(耕種農業全般または畜産農業全般)と日本語能力試験(JFT-BasicまたはJLPT N4以上)に合格していることです。技能実習2号を良好に修了している場合は、これらの試験が免除されて移行できます。

なぜ農業だけ派遣が認められているのか

農業という産業は、田植えや収穫のように特定の時期に作業が集中する一方、それ以外の時期は人手をそれほど必要としない、という波を抱えています。直接雇用だけに絞ると、繁忙期には人手が足りず、閑散期には雇用を維持するコストだけがかさむという状況が起きやすくなります。

そこで農業分野では、直接雇用に加えて、労働者派遣という形での受入れも制度上認められています。派遣であれば、産地ごとの繁忙期のズレに合わせて、同じ人材を複数の農家・法人の間で融通できます。派遣だからといって外国人の処遇が軽く扱われていいわけではなく、支援体制の義務は直接雇用と同じ水準で求められます。

農業分野の人手不足の背景

農業分野で特定技能が設けられた背景には、農業従事者の高齢化と担い手不足があります。産地によっては、収穫期に必要な人数を地元の労働力だけでまかなえず、毎年綱渡りの人繰りをしているところも珍しくありません。パートやアルバイトを募集しても集まらない、集まっても短期間しか続かない、という声もよく聞きます。

外国人材を受け入れれば人手不足が全て解決する、という単純な話ではありません。ただし、繁忙期に必要な人数を安定的に確保できる仕組みとして、特定技能「農業」は現実的な選択肢の一つになっています。とくに派遣という形が用意されていることで、単独の農家では受入れのハードルが高い場合でも、派遣元を通じて間接的に人材を確保する道が開けます。

直接雇用と派遣、要件はどう違うか

直接雇用と派遣では、受入れ機関に求められる要件の中身がいくつか変わってきます。主な違いを整理しておきます。

項目 直接雇用 労働者派遣
雇用主 受け入れる農家・農業法人自身 派遣元(労働者派遣事業の許可を持つ法人)
支援計画の作成義務 受け入れる農家・法人自身 派遣元
労働契約 受入れ企業と直接締結 派遣元と締結し、派遣先の指揮命令下で就労
向いているケース 通年で安定した業務量がある場合、長期定着を目指す場合 繁忙期だけ人手が欲しい場合、複数産地で柔軟に配置したい場合

直接雇用の場合、受入れ企業は特定技能所属機関として、支援計画の作成・実施の義務をすべて自社で負うことになります。登録支援機関に委託することもできますが、義務を負う主体はあくまで受入れ企業自身です。登録支援機関とはで、委託する場合の費用相場や選び方を詳しく解説しています。

派遣形態を選ぶ場合の注意点

派遣形態を選ぶ場合、いくつか注意しておきたい点があります。

  • 派遣元は労働者派遣事業の許可を受けている必要があり、なおかつ農業特定技能協議会の会員であることが求められます
  • 支援計画の作成・実施義務は派遣元が負うため、派遣先の農家は生活支援まで自分で行う必要はありません
  • 派遣先が変わっても、外国人本人の在留資格そのものに変更手続きは不要な場合が多いですが、派遣元・派遣先の情報は届出の対象になります

「派遣なら受入れ側の負担が軽い」と理解されることがありますが、それは半分正しく、半分は誤解です。生活支援の実務負担は派遣元に移りますが、現場での指揮命令や労働環境の整備については、派遣先である農家・法人にも責任があります。派遣元に任せきりにできる話ではありません。

報酬水準の考え方

特定技能の外国人には、日本人が同種の業務に従事する場合と同等以上の報酬を支払う必要があります。農業の場合、地域や作物によって賃金相場に幅があるため、「同等以上」の判断がしにくいという声をよく聞きます。目安としては、同じ産地・同じ規模の経営体で、同程度の技能を持つ日本人従業員(もしくは過去に雇っていた実績)の賃金水準と比較して判断することになります。

繁忙期だけの短期集中型の雇用であっても、時給換算で見劣りする水準にしてしまうと、報酬要件を満たさないと判断される可能性があります。「季節労働だから多少安くても仕方ない」という感覚のまま契約条件を決めてしまうと、審査で指摘を受けるだけでなく、外国人本人のモチベーションにも影響します。地域の農業法人同士で情報交換しながら、適正な水準を把握しておく必要があります。

受入れ機関に共通して求められる基準

直接雇用・派遣のどちらを選ぶにしても、受入れ機関には次のような基準が共通して求められます。

  • 農業特定技能協議会の構成員になっていること
  • 日本人が同種の業務に従事する場合と同等以上の報酬を支払うこと
  • 労働・社会保険関係法令を遵守していること
  • 外国人が理解できる言語で支援を実施できる体制があること(自社対応または登録支援機関への委託)

この中で見落とされがちなのが、農業特定技能協議会への加入です。他分野の協議会と同様、受入れを開始した後、一定期間内に加入する義務があります。「受入れが決まってから存在を知った」という声もよく聞くので、採用を検討し始めた段階で確認しておく必要があります。

対象業務の範囲

特定技能「農業」の対象業務は、耕種農業全般と畜産農業全般の2区分に分かれています。耕種農業では、栽培管理・農産物の集出荷選別作業などが対象になり、畜産農業では、飼養管理・畜産物の集出荷選別作業などが含まれます。ここで注意したいのは、栽培や飼養に直接関係のない業務(たとえば加工品の製造・小売・配送だけを専属で担当させる)は、それだけでは対象業務として認められにくいという点です。

農業法人の中には、生産だけでなく加工・直売まで手広くやっているところも多いです。そういった経営体で外国人を受け入れる場合、業務全体のうちどのくらいの割合を農業の本来業務に充てるのか、受入れ計画・雇用契約の中で明確にしておく必要があります。「加工と直売の担当として通年雇いたい」という希望がある場合は、農業分野の対象業務に当てはまるかどうか、事前に確認しておく必要があります。

特定技能協議会への加入と定期報告

農業分野で外国人を受け入れる企業・派遣元は、農業特定技能協議会の構成員になる必要があります。加入自体は特別に難しい手続きではありませんが、受入れ開始後に一定期間内の加入が義務づけられているため、スケジュールにあらかじめ組み込んでおく必要があります。

また、協議会からの調査や、地方出入国在留管理局への各種届出(活動状況に関する届出、支援実施状況に関する届出など)も定期的に発生します。特定技能の定期届出とはで、届出の頻度や書式について詳しく解説しているので、受入れ開始前に一度目を通しておくと運用がイメージしやすくなります。

季節労働としての活用と定着支援のバランス

農業分野で派遣を選ぶ企業の多くは、繁忙期に集中して人手を確保したいという動機を持っています。ただ、外国人本人の立場からすれば、毎年同じ産地・同じ農家で働き続けられたほうが生活の見通しが立てやすいのも事実です。派遣元がうまく複数の産地をコーディネートして、年間を通じて安定した就労機会を提供できれば、外国人本人の定着にもつながりますし、受入れ側の農家にとっても「毎年同じ人が来てくれる」という安心感につながります。

逆に、場当たり的に派遣先を転々とさせるような運用をしていると、外国人本人の不満がたまりやすく、支援計画上のトラブルにも発展しかねません。派遣元を選ぶ際は、単に人を回してくれるかどうかだけでなく、年間を通じた就労先の確保にどれだけ力を入れているかも、見極めるポイントになります。

技能実習からの移行について

農業分野でも、技能実習2号を良好に修了した人材が、試験免除で特定技能に移行するケースが多く見られます。すでに現場経験があるため、受入れ企業としては即戦力として扱いやすいというメリットがあります。ただし、技能実習は基本的に直接雇用の枠組みで行われてきた制度なので、移行後に派遣形態を選ぶ場合は、雇用主が技能実習期間中の実習実施者から派遣元に変わる、という契約関係の切り替えが発生します。ここは事務手続き上、混乱しやすいポイントです。

特定技能の制度は、運用状況に応じて要件や手続きの細部が見直されることがあります。この記事の内容は執筆時点の情報にもとづいていますが、制度の詳細は変更される可能性があるため、申請前に必ず最新の情報を出入国在留管理庁・農林水産省の公表資料でご確認ください。当事務所でも制度変更があった際には改めてご案内します。

受入れを検討し始めてから実際に働き始めるまでの目安

特定技能「農業」を導入する場合、試験ルートか技能実習からの移行かによって準備期間はかなり変わりますが、おおまかな流れは次の通りです。

  1. 受入れ方式の決定:直接雇用にするか派遣にするかを決める
  2. 協議会への加入:農業特定技能協議会の構成員になる(未加入の場合)
  3. 雇用契約・支援計画の作成:直接雇用の場合は自社で、派遣の場合は派遣元が作成する
  4. 在留資格の申請:在留資格認定証明書交付申請または在留資格変更許可申請を行う
  5. 受入れ開始:入国・在留資格の取得後、就労を開始する

繁忙期のピークに間に合わせたいなら、逆算して準備を始める必要があります。「田植えの時期に間に合わせたい」「収穫期の前に確保しておきたい」というように、具体的な時期が決まっている場合ほど、余裕を持ったスケジュールを組んでおく必要があります。準備開始が遅れると、ピークに間に合わないまま繁忙期を迎えることになりかねません。

とくに派遣形態を選ぶ場合、派遣元がすでに確保している人材プールの中から自社に配置してもらえるかどうかで、準備にかかる時間は大きく変わります。人気のある産地・時期は派遣元への申し込みが早いもの勝ちになることもあるので、繁忙期のシーズンが始まる前、できれば半年前後の余裕を持って派遣元に相談を始めるのが理想です。直接雇用の場合も同様で、卒業・修了時期や試験の実施スケジュールに合わせて、早め早めに動いたほうが選べる人材の幅が広がります。

特定技能1号・2号の移行について

農業分野も特定技能2号への移行が認められている分野です。1号の在留期間は通算5年が上限ですが、一定の実務経験を積み、技能検定上位級相当の試験に合格すれば2号に移行でき、在留期間の更新に上限がなくなります。長期的に産地の中核を担ってもらいたいと考えるなら、1号のうちから2号を見据えたキャリアパスを提示しておくと定着率が上がります。1号・2号の違いそのものは特定技能1号と2号の違いで詳しく解説しています。

派遣元・派遣先それぞれの責任範囲を整理する

派遣形態を選ぶ場合、実務上いちばん混乱しやすいのが「どこまでを派遣元が担い、どこからを派遣先が担うのか」という線引きです。ここを曖昧にしたまま受入れを始めると、生活支援が漏れたり、逆に派遣先が本来負う必要のない義務まで抱え込んでしまったりします。

項目 派遣元 派遣先
生活支援・相談対応 実施義務あり 義務なし(協力は望ましい)
賃金の支払い 支払い義務あり 派遣料金を派遣元に支払う
現場での安全衛生管理 派遣先と連携して確認 実施責任あり
業務内容・指揮命令 契約内容の管理 実際の指揮命令を行う

「派遣だから現場側は何もしなくていい」という理解は誤りです。安全衛生管理や、実際の指揮命令にともなう配慮(言葉が通じにくい相手への指示の出し方など)は、現場を預かる派遣先の責任です。契約を結ぶ前に、この役割分担を書面で明確にしておくと、後々のトラブルを防げます。

直接雇用を選ぶ場合に押さえておきたい実務

直接雇用で受け入れる場合、特定技能所属機関としての義務がすべて自社にかかってきます。具体的には、雇用契約の締結、報酬水準の確認、支援計画の作成・実施、定期的な届出の提出まで、一通り自社で対応するか、登録支援機関に委託する必要があります。

農業法人の中には、これまで技能実習生を受け入れてきた実績があり、生活支援のノウハウがすでに社内に蓄積されているところも多いです。その場合は、特定技能に切り替えても大きな混乱なく運用できることが多いですが、初めて外国人材を受け入れる法人の場合は、支援計画の作成段階でつまずくことが少なくありません。書式や記載内容に不慣れなまま自己流で作成してしまうと、後から入管に指摘されて修正が必要になることもあるので、初めての場合は専門家のチェックを一度挟んでおくと安心です。

よくある質問

Q. 特定技能「農業」はなぜ派遣が認められているのですか?

農業は季節によって繁忙期・閑散期の差が大きく、直接雇用だけでは労働力の過不足が生じやすい産業だからです。そのため派遣形態でも受入れができるよう制度設計されています。

Q. 直接雇用と派遣、どちらを選べばいいですか?

通年で安定した業務量があり、長く定着してもらいたいなら直接雇用が向いています。繁忙期だけ人手が欲しい、複数の産地をまたいで柔軟に配置したいという場合は派遣が向いています。

Q. 派遣形態の場合、支援計画は誰が作りますか?

派遣元である特定技能所属機関が支援計画を作成し、実施する義務を負います。派遣先はあくまで指揮命令のみを行う立場で、生活支援等の義務は負いません。

Q. 特定技能「農業」の外国人にも技能試験はありますか?

はい。農業技能測定試験(耕種農業全般または畜産農業全般)と日本語能力試験の合格が必要です。技能実習2号を良好に修了している場合は試験が免除されます。

他の特定技能分野との違い

特定技能の対象分野のうち、労働者派遣が認められているのは農業と漁業の2分野だけです。それ以外の介護・外食・宿泊・製造業・建設などは、原則として直接雇用しか選べません。この違いを知らずに、「特定技能ならどの分野でも派遣で雇えるはず」と誤解している経営者もいますが、農業・漁業以外の分野で派遣を検討している場合は、そもそも制度上できない、という前提を先に理解しておく必要があります。

分野 直接雇用 労働者派遣
農業 可 可
漁業 可 可
介護・外食・建設等その他分野 可 原則不可

農業経営が多角化していて、複数の分野にまたがる事業を展開している法人もあると思います。たとえば農業生産と農産物加工を両方手がけている場合、加工部門で人手が欲しいなら特定技能「飲食料品製造業」を検討する、といったように、業務の実態に応じて適切な分野を選ぶ必要があります。分野をまたいだ制度設計に迷う場合は、事業内容を一度整理したうえで専門家に相談したほうが、遠回りせずに済みます。

複数の農業法人が共同で受け入れる方法

1つの農家・法人だけでは受入れの規模が小さすぎて、支援計画の実施や協議会加入の負担が割に合わない、というケースもあります。こうした場合、地域の複数の農業法人が共同で受入れ体制を組んだり、派遣元を介して複数の受入れ先で1人の外国人をシェアしたりする形で対応することもあります。

個人経営に近い小規模な農家ほど、単独での直接雇用は事務負担が重く感じられがちです。周辺の農業法人と情報交換しながら、地域単位でどう受入れ体制を組むかを検討したり、実績のある派遣元に相談したりするほうが、結果的にスムーズに導入できることが多いです。「うちは規模が小さいから無理」と最初から諦めるのではなく、地域や派遣という選択肢も含めて検討してみる価値はあります。

農協や地域の農業経営者団体が、外国人材の受入れについて相談窓口を設けている地域もあります。まずはそうした窓口や、実際に受入れ実績のある近隣の農業法人に話を聞いてみるところから始めると、自社にとって直接雇用と派遣のどちらが現実的なのか、イメージがつかみやすくなります。制度の細部で分からない点が出てきたら、その段階で行政書士に確認する、という順番で進めれば、無理なく検討を進められます。

まとめ

特定技能「農業」は、直接雇用・派遣のどちらも選べるという点で、他の特定技能分野とは異なる柔軟さを持った制度です。選択肢が多いということは、それだけ自社に合った形を検討する必要があるということでもありますが、繁忙期の波が大きい農業経営にとっては、使い方次第で大きな武器になります。制度の詳細は今後も見直される可能性があるため、申請前には必ず最新情報を確認したうえで、自社に合った受入れ方式を選んでください。

依頼するかどうかで迷っている方は在留資格の申請は行政書士に依頼すべきかと行政書士に依頼する費用の相場も参考にしてください。