「日本版ESTA」2028年度導入へ 企業実務に与える影響と対策探る

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2026年7月31日に公表された「第2次出入国在留管理基本計画↗」は、出入国管理及び難民認定法(入管法)に基づき、外国人の入国と在留の公正な管理を図るために法務大臣が定めた国の基本方針です。同計画では、我が国の経済社会の活性化に貢献する外国人材を積極的に受け入れる一方で、安全・安心を確保するため、不法滞在やルール違反への厳格な対処を行う方針が示されました。
この厳格かつ円滑な出入国管理を高い次元で両立させるため、デジタル技術を駆使して渡航前の事前審査や入国手続きを効率化・厳格化する「水際DX」の柱として、同計画において改めて着実な整備が位置づけられたのが、2028年度中の導入に向けて国策として準備が進む「電子渡航認証制度(日本版ESTA)」です。 本記事では、このJESTAの導入により、海外の取引先や海外支社・現地法人等の関係者を工場視察や本社での商談のためにノービザで急遽日本へ招く(来日してもらう)といったこれまでの実務がどう変わるのか、企業が直面する手間やコスト、取るべき対策について解説します。
1. 「JESTA」とは?ノービザ来日の実務が変わる
JESTA(ジェスタ=Japan Electronic System for Travel Authorization)とは、現在は査証(ビザ)が免除されている国・地域の外国人に対し、観光や商談などの短期滞在目的で日本に入国する際、渡航前にオンラインで滞在目的などの申告を求め、事前の認証を義務付ける制度です。
現在、外務省の最新リストによると、米国、韓国、台湾をはじめとする74の国・地域に対して「査証免除措置↗」が実施されています。現時点で公表されている資料を見る限り、JESTAの例外とされる国や地域は確認できないため、JESTAが導入された後は、これらすべての国・地域からの出張者や旅行者が、入国前の事前申告と認証の対象になると考えられます。
制度導入後は、出入国在留管理庁(入管庁)が、事前にオンラインで申請されたパスポート情報、渡航目的、滞在先などをもとに、有効な旅券を所持しているか、また日本で行おうとする活動内容が虚偽でないか(上陸条件に適合しているか)等について入国前にスクリーニングを行います。事前の認証(または査証)を受けていない者は原則として日本に入国できなくなります。 なお、先行する米国のESTAは一度取得すれば原則2年間有効ですが、日本版ESTAの運用の詳細については、現時点では未確定です。

1.1 不法滞在を未然に防止するJESTAの狙い
なぜ今、このような制度が導入されるのでしょうか。それは近年、観光などの短期滞在目的で入国し、そのまま不法就労や不法残留に及ぶケースが後を絶たないからです。
入管庁のウェブサイト「令和7年(2025年)における入管法違反事件について↗」に掲載されている資料によれば、同年(2025年)に発生した入管法違反事件を対象に、対象外国人の最終の在留資格の内訳を見ると、観光等を目的とする短期滞在であった者が最も多く、全体の約36.2%を占めています。さらに、不法就労事実が認められた人数を見ると、違反者全体の実に72.9%(1万3,435人)に上りました。
JESTAの主たる目的は、渡航前の事前スクリーニングによって不法滞在を企図する外国人等の来日を水際で防止することです。さらに政府は、このJESTAの導入を契機として、短期滞在者の入国から出国までの情報を一元的に管理し、中長期在留者のデータ管理DXと掛け合わせることで、オーバーステイ等の不法滞在者対策に多角的に活用していく方針を第2次出入国在留管理基本計画等に掲げています。


1.2 先行事例(米国ESTA)から見る手間とコスト
先行して運用されている米国の電子渡航認証システム「ESTA(エスタ)」の運用実態を見ると、ノービザ渡航にともなう実務上の具体的な負担がうかがえます。
ESTA申請公式サイト↗などによれば、申請者はパスポート情報のほか、自宅住所、緊急連絡先、過去の犯罪歴や他国籍の有無、さらには過去・現在の勤務先情報や米国内の滞在先など、多岐にわたる詳細な情報の入力が求められます。申請書の記入にかかる平均時間は「約23分」とされます。
申請はオンラインで行われ、通常は速やかに審査結果が通知されますが、システムによる保留判定や人的ミスによる誤入力トラブルに備え、遅くとも「渡米日の72時間以上前」に申請を完了させることが強く推奨されています。
また、米国政府は2026年1月1日以降、ESTAの申請料金として一人あたり40.27米ドルを課しています。米国政府の規定によれば、この料金の内訳は申請処理手数料の10.27ドルと、認証された場合に課される追加の30ドルから構成されています。
JESTAの申請および認証にあたっては、政令で定める額の手数料が徴収されることが確定していますが、具体的な金額や、その算定根拠の詳細は今後の政令指定を待つ必要があります。
2. 企業の実務への影響とケーススタディ
これまでは、査証免除国の取引先や現地スタッフを招く際、「相手にパスポートさえあれば、あとはこちらで航空券を押さえるだけで、数日後の急な会議や視察にもすぐに来日してもらえる」という、非常にスピーディーな実務が可能でした。しかしJESTA導入後は、事前のオンライン申告と審査が必須となるため、以下のような事態が想定されます。
想定される事態:重要商談の直前キャンセル
海外の重要顧客を本社での商談に招待。顧客はこれまで通り特別な手続きをすることなく、パスポートだけで来日しようとしたが、現地空港での搭乗手続き時にJESTAの未申請が発覚。その場でスマートフォンから申請を試みたものの、即時認証が下りず「保留(ペンディング)」状態に。そのまま搭乗拒否となり、何ヶ月も準備を重ねてきた大型契約の商談が白紙になってしまった――。
JESTAの申請義務自体は渡航者本人にあります。しかし、申請漏れによる搭乗拒否が発生した場合、その影響は相手方だけにとどまりません。日本側でも、手配済みのホテルや航空券のキャンセル料、商談のために確保していた役員・専門スタッフの予定変更、さらには重要な取引機会の逸失など、実務上・経営上の大きな損失が生じる可能性があります。 これからの時代は、相手の自主性に委ねるのではなく、自社のビジネスと利益を守るために「日本側が主体となって、渡航前のアラートや確認を能動的に行う」という、徹底した自己防衛の姿勢(リスク管理意識)が企業に求められるようになるでしょう。

3. 企業が今日から備えるべき具体的対策
JESTAの本格導入に向け、企業は具体的に以下の実務的アプローチを進める必要があると考えられます。
- 招聘(しょうへい)プロセスの仕組み化
海外取引先などを日本に招く際、航空券の確保と同時に、「相手方がJESTA申請を完了し、認証を得たか」を日本側で確認・管理するための社内チェックシートや業務フローをあらかじめ構築しておくことが推奨されます。 - 代替手段の確保(BCPの策定)
万が一、申請の保留トラブルや入力ミスによって直前に来日がキャンセル(搭乗拒否)となった場合に備え、即座にオンライン会議システムでの商談に切り替えられるよう、事前の事業継続計画を定めておきましょう。 - 確実な就労ビザの事前手配
技術指導や研修など就労に該当する可能性がある活動については、JESTA(渡航認証)によるノービザ入国ではなく、適切な在留資格(就労ビザ)を事前に取得する必要がある場合があるため、日本側(自社)が必要な招聘手続きを進めると同時に、相手方に適切な就労ビザを事前に取得してもらう体制を整えます。「短期滞在で呼べる範囲なのか、それとも就労ビザの手配が必要なのか」の法的な判断基準は実務上非常に複雑であるため、判断に迷う場合は、まずは入管庁の公式相談窓口(外国人在留総合インフォメーションセンターなど↗)へ確認するか、より個別の事情に踏み込んだ具体的な対策や手続きの代行が必要な場合は、外部の専門家(行政書士など)に事前に相談しておくことがリスクヘッジとなります。
4. 新たな水際対策への備えと今後の展望
JESTAの導入により、海外人材や取引先の受け入れには、これまで以上に余裕を持ったスケジュール管理と、入国前からの綿密な準備が不可欠になります。現段階では、システムの詳細な仕様や運用要領など未確定な部分も残されていますが、企業としては「相手にパスポートと航空券さえあればすぐに来日できる」というこれまでの常識をアップデートし、最新の入管政策の動向を注視していく必要があります。当事務所でも、今後の詳細な制度設計や実務上の取り扱いについて継続的に情報収集を行い、皆さまに発信してまいります。
2028年度の本格導入に向け、まずは、来日プロセスの実務が変わるという事実を、関係部署や海外支社・現地法人、取引先に丁寧に周知し、今から備えを始めてみてはいかがでしょうか。
