永住権の要件厳格化と許可手数料の大幅引き上げ 企業に求められる外国人定着・育成戦略とは

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💡 この記事から得られる3つの実務
- 年収・年金基準や日本語能力など、永住許可に関するガイドライン改定案で示された永住許可審査の見直しポイントと、現時点で企業や本人が検討できる対応策がわかります。
- 引き上げられる各種手数料に対応して、企業が導入すべきコスト管理や社内ルールの設計方法がわかります。
- 在留資格「永住者」の取消しリスクに備え、企業に推奨される継続的なサポートや情報提供(伴走支援)のあり方がわかります。 ※本稿では一般的な呼称として「永住権」を用いる箇所がありますが、法令上は在留資格「永住者」を指します。
永住許可制度について、定住に関わる審査の適正化や厳格化を進める方向が示され、その在り方が変わろうとしています。
具体的な動きとして、改正入管法に基づく手数料大幅引き上げの閣議決定や、出入国在留管理庁(入管庁)が公表した「永住許可に関するガイドライン改定(案)↗」が注目されています。同改定案には、日本語能力の審査上の考慮、収入・年金基準の見直し、子の就学状況などに関する内容が盛り込まれています。
本稿では、これらの見直しによって何が変わるのか、企業はどのように備えるべきかを解説します。

在留資格「永住者」の基本要件
永住許可を受けるためには、入管法(出入国管理及び難民認定法)に基づき、原則として次の3つの要件を満たす必要があります。
- 素行善良要件:日本の法令を遵守し、日常生活においても社会的に非難されることのない、善良な生活を営んでいること。
※ガイドライン改定案において、この要件については特段の変更は示されていません。
- 独立生計要件:公共の負担となることなく、独立して安定した生活を営むことができる資産、技能または収入を有していること。ガイドライン改定案では、現在および将来において、日本人と同等水準以上の経済条件を求める考え方を明記し、世帯人数に応じた収入や将来の年金受給見込みなどを、より具体的に考慮する方向が示されています。
- 国益要件:その外国人の永住が日本国の利益に合すると認められること。現行の基本的な審査事項として、原則10年以上日本に在留し、そのうち就労資格または居住資格をもって5年以上在留していること、税金・社会保険料などの公的義務を適正に履行していることなどが確認されます。
これらの要件は、申請時点だけでなく、審査対象となる期間の状況が確認される点に注意が必要です。現行の3要件を前提に、改定案では独立生計要件・国益要件の具体化、日本語能力や子の就学状況などの考慮事項の追加が示されています。
1. 外国人の入国・在留に関する新たな基本方針
なぜ国は、在留管理の在り方を見直しているのでしょうか。
2026年(令和8年)7月31日に入管庁が公表した「第2次出入国在留管理基本計画↗」は、外国人の入国と在留の公正な管理を図るため、入管法に基づいて法務大臣が定める国の基本計画です。2019年(平成31年)4月に第1次計画が策定されて以来、約7年ぶりとなる今回の改定では、今後の出入国・在留管理について、適正かつ厳正な運用の方向性と具体的な施策が示されています。
第2次計画が示している基本的な考え方は、次のように整理できます。
「ルールを守る外国人は積極的に受け入れて共生社会を実現する一方、ルールに反する者には厳正に対処し、適正な在留管理を実施する」
これは、2027年4月に始まる育成就労などの制度によって外国人材の受入れ・育成を進める一方、日本での定住・定着に関わる段階では、法令遵守や公的義務の履行を重視する方針といえます。この基本方針を背景に、永住許可要件の見直しを盛り込んだガイドライン改定案や、手数料の引き上げなど、制度改革の準備が進んでいるのです。
2. 永住許可制度の見直し
2.1 2026年10月1日施行!大幅引き上げとなる新手数料が閣議決定
企業と外国籍従業員に関係する大きな変更の一つが、在留資格変更・在留期間更新・永住許可に関する手数料(実費)の改定です。政府は2026年(令和8年)8月25日、手数料の具体的な金額を定める改正政令(入管法施行令)を閣議決定しました。これにより、2026年(令和8年)10月1日から、従来の料金体系から大幅に引き上げられた新手数料が施行(適用)されることとなりました。
特に永住許可手数料は、従来の1万円から20万円へ、変更・更新許可手数料は、許可される在留期間(最長5年など)の長さに応じた7段階の傾斜料金が導入され、最高7万5千円(オンライン申請は6万5千円)へと引き上げられます。 改定前の実費手数料、改定後の新実費手数料(窓口およびオンライン)、そして改正法による法定上限額の対比は以下の通りです。
| 手続きの種類 (許可期間など) | 改定前の窓口手数料(実費) | 改定後の新手数料(実費)【窓口申請 / オンライン申請】 | 法定上限 |
| 在留資格変更許可 / 在留期間更新許可 | 一律 6,000円(オンライン:5,500円) | 一律 10万円 | |
| 3月以下 | 10,000円 / 10,000円 | ||
| 3月超6月以下 | 18,000円 / 15,000円 | ||
| 6月超1年未満 | 25,000円 / 21,000円 | ||
| 1年 | 33,000円 / 27,000円 | ||
| 1年超3年未満 | 48,000円 / 42,000円 | ||
| 3年以上5年未満 | 64,000円 / 56,000円 | ||
| 5年以上 | 75,000円 / 65,000円 | ||
| 永住許可 | 一律 10,000円 | 200,000円 / — | 30万円 |
今回の手数料引き上げについて、入管庁は、審査に要する実費に加え、外国人の出入国および在留の公正な管理に要する費用(日本語・生活学習支援、デジタル技術を活用した入管DXシステムなどの各種共生施策等)といった受益者負担・応益的要素(永住許可後の平均在留期間13.5年は、5年ビザの約3倍に相当すること等)を総合的に積算して金額を設定したことを説明しています。
【減額・免除措置あり】
急激な負担増に配慮し、経済的に困窮している難民認定・補完的保護対象者などを対象にした減額・免除措置も設けられました。減額対象となった場合、変更・更新(3月超)の手数料は 10,000円、永住許可は 20,000円にそれぞれ抑えられます。
2.2 入管手数料は許可時に納付
日本の在留手続きでは、申請時に成否にかかわらず国への手数料を支払うのではなく、原則として許可時に手数料を納付します。永住許可の場合、審査を通過して許可され、在留カードの交付を受ける(許可が下りる)際に初めて法定手数料が発生します。つまり、審査の結果、不許可となった場合、国に対する永住許可の法定手数料は発生しません。
手数料を国に納付する法的な義務は申請者本人にあります。企業が優秀な人材の定着支援(福利厚生)として費用を補助・全額負担することは考えられますが、制度を設ける場合には、対象手続き、補助上限、補助割合、申請回数、退職時の取扱いなどをあらかじめ明確にしておく必要があります。国籍や特定の在留資格だけを直接の基準とするのではなく、勤続年数、職務上の必要性、職能など、合理的で一貫した基準に基づいて制度設計することが、不公平感や法的トラブルを防ぐ上で重要です。
2.3 永住許可審査の主な改定案
入管庁が公表した「永住許可に関するガイドライン改定(案)↗」では、永住者を「生涯を日本で過ごすことが想定される、最も安定した法的地位の一つ」として位置付け、特に慎重な審査を行う考えが示されています。主な改定案のポイントは、以下の4つに整理されます。
- 世帯人数に応じた、日本人世帯と同等水準以上の収入(独立生計要件の見直し案):
現在および将来において、日本人と同等水準以上の経済条件を求める考え方を明記し、世帯人数に見合った継続的な収入水準が審査される方向です。ただし、単純に平均収入を上回らなければ一律で不許可になるという画一的な数値基準が確定したわけではなく、最終的な算定方法や基準額については、今後公表される正式なガイドライン等を確認する必要があります。 - 「厚生年金30年加入」水準の年金(独立生計要件への新規追加):
将来受給できる年金の予定額が、上記「1」の年収水準で「30年間厚生年金に加入していた場合と同等の水準」に達していることを原則として求めます。ただし、不足する場合であっても、それを補填可能な金融資産(預貯金等)が手元にあることを証明できれば、要件をクリアできる配慮がなされる見込みです。 - 配偶者に関する特例の適用期間の見直し案(居住要件の引き上げ):
日本人や永住者等の配偶者等に認められていた、永住許可申請における在留期間・居住要件の特例について、婚姻関係の実態や日本での定着性を確認する観点から、現行の婚姻期間3年・在留1年から、婚姻期間5年・在留3年へ変更する方向です。 - 日本語能力と子の就学状況の審査基準の新設(適応・貢献度審査の具体化):
日本社会への適応や定着性を確認する観点から、新たに客観的な評価ポイントが国益適合要件として追加される案が示されています。実生活レベルの日本語能力である「CEFRのB1相当」が考慮される方向であるほか、義務教育期間である子の就学状況が適切でない場合などは消極評価(マイナス評価)の対象となる案が盛り込まれています。
※外国籍の子どもについて、日本国籍の子どもと同じ法的な就学義務が保護者に課されるわけではありません。
2.4. 適用時期と申請中案件の取扱い
永住許可に関するガイドライン改定案では、世帯人数に応じた収入に関する考慮要素を令和8年(2026年)10月1日以降、年金、日本語能力、配偶者に関する特例などを令和9年(2027年)4月1日以降の申請から適用する方向が示されています。
なお、2026年(令和8年)4月1日以降に申請され、2026年10月1日時点で現に申請中の案件についても、新しい収入に関する考慮要素が適用される見込みです。
※2026年4月以降のすべての申請に新基準が一律で遡及適用されることを意味するものではありません。

2.5 在留資格「永住者」の取消規定の見直し
永住権の取得時のみならず、在留資格「永住者」取得後の管理についても、大きな変革が決定しています。
従来も、虚偽の申請や不正な手段で在留資格「永住者」を取得した場合の在留資格取消制度は存在していました。しかし、2024年(令和6年)の改正入管法により、取消事由の範囲が拡大されました。適法に永住許可を得た「後」であっても、永住者が税金や社会保険料(公租公課)の支払義務を「故意に」怠ったり、入管法上の公的義務に著しい不履行があったりした場合、あるいは改正法等に定められた一定の刑罰法令違反(すべての犯罪ではなく、法律や取消に関するガイドラインに定められる一定の重大な犯罪類型)に該当する場合には、在留資格「永住者」が取り消される可能性があります。
新たな規定は令和9年(2027年)4月までに施行される予定であり、具体的な運用は、今後策定される「永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン」等に基づいて行われます。
なお、この取消し手続きは、外国人住民やそのご家族の生活基盤に極めて大きな影響を与える重大な処分です。そのため政府は、本人に帰責性が認められない場合や、正当な理由がある場合などは、取消事由に該当しないという考えを示しています。 企業にとっては、一律に従業員の私生活や納税状況を監視・監督する一般的義務があるわけではありませんが、外国人従業員自身が制度やルールを誤解して不測のトラブルを招かないよう、必要に応じた情報提供やサポートを行っていくことが、長期定着の観点から有益なアプローチとなるでしょう。
在留資格「永住者」の基本要件
総務省が令和8年(2026年)7月29日に公表した、最新の「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数(令和8年1月1日現在)」。そこには、日本社会の構造変化を物語る極めて象徴的なマクロデータが示されています。
- 日本人住民:前年比で91万6,744人減少し、ついに1億2,000万人を割り込む1億1,973万6,483人(17年連続の減少)
- 外国人住民:前年比で35万3,696人増加し、初めて400万人を突破する403万1,159人
※住民基本台帳に登録されている外国人住民の統計であり、出入国在留管理庁の統計上の在留外国人とは集計対象・定義が異なります。入管庁の在留外国人には短期滞在者は含まれず、主に中長期在留者と特別永住者を指します。

深刻な人手不足の中、日本が社会を維持するうえで外国人住民の手を必要としている局面に本格的に突入している一方で、なぜ政府は在留資格「永住者」の永住許可要件の適正化・厳格化へと舵を切るのでしょうか。一見すると相反するようにも思えるこの方針の背景には、日本社会における不公平感の連鎖を排除したいという国の狙い(国民感情や共生社会の持続性への配慮)があると考えられます。
入管庁の第2次出入国在留管理基本計画↗によると、日本の在留外国人全体の23.0%、約94.7万人が在留資格「永住者」を持っています。これは、極めて安定性の高い在留資格ですが、その規模が増加する一方で、一部の永住者が税金や社会保険料(公租公課)の支払義務を果たさない事案が指摘されるなど、適正な制度運用の確保に向けた実態把握の必要性が議論されるようになりました。
在留外国人とは
入管庁の統計における「在留外国人」とは、観光などの短期滞在者等を除く、在留カードを交付されている中長期在留者(一般の永住者を含む)と、特別永住者の合算を指します。
必ずしも従来は、こうした在留状況や実態を横断的・迅速に把握するためのシステムが十分に整備されていませんでした。
社会保障関係の手続き適正化や確実な実態把握の観点から、国は現在、マイナンバーを活用した行政機関間の情報連携基盤(公共サービスメッシュ↗)の整備を進めています。具体的に対象となる情報や開始時期、仕組みの詳細については、今後の動向を確認する必要があります。
国がこうした制度の見直しを進める背景の一つには、一部のルール不履行を放置することによって、外国人政策全体に対する国民の不満や不公平感が広がることへの懸念もあると考えられます。こうした不満や不公平感が拡大すると、結果として、ルールを守って真面目に日本社会に貢献している健全な外国人に対する不当な偏見や差別を引き起こし、共生社会の存続そのものを揺るがしてしまう恐れがあるためです。
永住要件を適正化して、日本社会のルールや公的義務を果たしてもらった上で、安定した生活基盤を持つ社会の一員として共生していくことは、日本国民が納得し、外国人を社会の一員として安心して受け入れられる多文化共生社会を長期的に持続させるための重要な土台であるというのが、国の基本的なスタンスと思われます。
3.永住審査と在留審査で問われる日本語能力や生活ルール
3.1 異なる評価方針
外国人従業員を雇用する企業にとって、今後重要になるのが、永住許可審査における日本語能力や、在留審査上の日本語学習・生活ルールの理解度に関する評価です。それぞれの手続きの性質に応じて、以下のように区別した方針が示されました。
永住許可を申請する場合(国益適合性の審査における考慮事項)
永住許可に関するガイドライン改定案において、法律上の国益要件の具体的な審査基準として、客観的な検定試験等によって証明され得る「CEFRのB1相当の日本語能力」が考慮事項とされる方針です。B1は、日常生活や一般的な仕事の場面において、自分の力で身の回りの出来事に対処できるレベル(自立した言語使用者)です。
通常のビザ更新や変更をする場合(検討段階)
国は、在留外国人が日本語や日本のルールを学ぶためのプログラムの創設を検討しており、このプログラムの受講状況や内容の理解度が在留審査(更新・変更など)の考慮要素(評価の対象)となる可能性があります。
これからの時代、永住を目指す場合はもちろん、日本での在留を維持するためにも、企業と従業員が一丸となって、日本語や日本のルールを主体的に学んでいることを証明(アピール)していくことが、審査を円滑にクリアする有効な要素になりそうです。
3.2 永住審査で使われる日本語基準「CEFR・B1」とは
「日本語能力試験(JLPT)↗」の「N1〜N5」は日本で最も広く知られていますが、永住許可に関するガイドライン改定案で登場した「B1」という言葉に戸惑う方も少なくないのではないでしょうか。日本語能力に関するよくある疑問を整理しました。
- なぜ聞き慣れない「CEFR・B1」という規格を使うのですか?
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日本政府が、多様化する日本語試験を一元的に評価するための「共通のものさし」として導入したためです。 これまで実務で使われてきた日本独自の「JLPT(N1〜N5)」に加え、近年では特定技能ビザなどでCBT形式の「JFT-Basic(国際交流基金日本語基礎テスト↗)」等も広く普及しています。このJFT-Basicは、国際規格である「CEFR(セファール:ヨーロッパ言語共通参照枠)」をベースに設計されています。異なる複数の試験結果をフェアかつ客観的に評価できるよう、改定案では特定の試験名ではなく、世界共通の指標である「CEFR・B1相当」という能力水準が示されています。
- 「B1相当」はJLPT(日本語能力試験)の「N何級」ですか?
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JLPTの「N3(日常生活をある程度理解できるレベル)」がCEFRの「B1」レベルに近いとされることがありますが、公式な一対一の換算表が存在するわけではありません。
JLPTは主に「読む・聞く」能力を測定する筆記試験であり、会話(話す)や作文(書く)を直接測定するものではありません。そのため、N3合格をもって直ちにB1相当の実生活における多角的なコミュニケーション能力(話す・書くを含む)が完全に証明されるわけではない点に注意が必要です。あくまで日本語能力を示す参考目安の1つとして扱われます。
4. 企業に求められる定着支援の具体策
永住要件の審査の厳格化や手数料上限の引き上げ、および日本語学習への考慮により、外国人従業員が個人の努力だけでこれらのハードルをクリアすることは難しくなると予想されます。これからの時代、企業は単に人材として雇用する段階から一歩進め、外国人従業員の日本における生活の伴走者として、以下のような自発的な定着支援を行うことが有効と考えられます。
4.1 適正な労務管理と社内ルールの設計
永住審査、在留審査をクリアするうえでも、まずは、日本人従業員と同様の労務管理(社会保険・雇用保険への適正加入、住民税の特別徴収手続き、適切な源泉徴収、法定帳簿の適正管理、労働時間の適正管理など)を漏れなく徹底することが、企業コンプライアンスの観点から重要です。
その上で、手数料補助を福利厚生として企業側がサポート(負担・補助)する際の社内ルールの設計が実務的な備えとなるでしょう。これまでは在留資格の変更・更新時の実際の窓口負担が6,000円、永住では1万円であったため、会社が全額負担してもさほど大きなコストにはなりませんでした。しかし、2026年(令和8年)10月1日からは、変更・更新時の新手数料が在留期間に応じて最高7万5千円(オンライン:6万5千円)、永住にいたっては20万円へと大幅に引き上げられるため、企業の負担するコストが格段に大きくなります。
そこでコスト管理と定着支援のバランスを保つ対策として、会社が補助する範囲をあらかじめ規程化しておく運用が考えられます。
- 補助額に一律の上限を設けておく(例:在留更新時の補助は1回あたり3万円まで、など)
- 対象従業員の勤続年数や人事評価等に応じて負担割合に変化をつける(例:勤続3年未満は自己負担5割、勤続5年以上の場合は会社が全額補助する、など)
これらのルールを設計する際は、国籍による不合理な差別を避け、社内の不公平感などを招かないためにも、業務上の必要性や勤続期間、職能など、合理的で一貫した基準(就業規則等の福利厚生規程)とすることが重要です。
なお、外国人従業員の早期退職に伴う費用負担のトラブルを防ぐために「勤続年数に応じた返済免除条項付きの社内貸付金制度(金銭消費貸借契約)」を検討する会社があるかもしれませんが、このような返済条件付きの社内貸付制度を設ける場合は、労働基準法第16条(賠償予定の禁止)その他の関係法令との関係が問題となり得ます。 賠償予定や退職制限と評価されないかを含め、事前に労働法務に詳しい専門家へ確認しながら慎重に制度設計する必要があります。
4.2 優秀な人材を突然失わないために
「外国人従業員が永住権を取得できたから、会社としてのサポートは終わり」ではありません。永住権取得後であっても、故意の税金・社会保険料の未納、子どもを学校に通わせない(不就学)といった事由があれば、永住権が取り消される可能性が出てきたからです。
これからの時代、従業員の私生活やルールの順守(公租公課の支払い、子の就学、地域コミュニティでの適応など)は、「その従業員が明日からも自社で働き続けられるか」という、企業の雇用継続リスクそのものになります。
だからこそ、永住取得後も本人のプライバシーに配慮しつつ、自治体や学校の手続きサポート、生活・税務の相談窓口の案内といった伴走型の情報支援を就労環境の一部として整えておくことが、企業の重要な防衛策(定着支援)になりうるでしょう。
4.3 日本語学習サポートへ3つの支援アクション
「日本語能力B1相当」という客観的な考慮基準に備えるため、福利厚生として以下の社内教育サポートを整備することが考えられます。
- 受験支援・インセンティブ制度の設計
「JFT-Basic」や「日本語能力試験(JLPT)」の受験料を会社が全額または一部補助したり、合格(N3以上など)した際にはお祝い金を支給する社内制度を設計します。段階的な目標設定を促すことで、学習意欲を効果的に維持させることができます。 - 国の無料オンライン教材「つなひろ」の活用
文部科学省が提供する日本語学習サイト「つながるひろがる にほんごでのくらし(つなひろ)↗」を社内に共有します。文部科学省の資料では20言語に対応しており、多数の動画コンテンツを掲載しています。例えば、「週に2時間、就業時間中に社内またはオンラインで日本語を学習できる時間を設ける」といった有給の学習時間(時間的なゆとり)を福利厚生として提供することは、金銭的コストを抑えて大きな効果を出すアプローチとなります。 - 地域の日本語教室・専門機関の活用
各自治体が安価または無料で提供している「地域日本語教室」への参加を促すのも有効でしょう。また、本格的な社内研修を導入する場合は、国の「認定日本語教育機関↗」や、専門の国家資格である「登録日本語教員」が関与する講座を活用する方法もあります。

5. 複雑化する制度への備え
ここまで見てきた通り、永住許可制度の見直しや手数料上限の引上げは、単に外国人本人の申請手続きという問題にとどまりません。企業にとっても、次のような体制整備を検討する契機となります。
- 在留カード・在留期限の確認プロセス
- 社会保険・税務手続きの適正化
- 手数料補助規程の整備
- 日本語学習機会の提供
- 多言語による制度情報の提供
- 外国人従業員向け相談窓口の整備
- 個人情報の取扱いルールの明確化
実務上は、在留カードや在留期限の管理、適正な社会保険・税務手続き、手数料補助規程、日本語学習機会を優先的に点検していくことが有効です。
毎年のように変化する入管法や複雑なガイドラインを企業単独で把握し、人事労務の現場へ落とし込むことは簡単ではありません。
まずは今回の大きな制度転換を契機として、社内の雇用管理状況を一度点検してみることをお勧めします。その上で、実務上の判断が難しい法的な解釈や具体的な対応策については、入管実務に精通した専門家(行政書士など)に意見を求め、適切なアドバイスを参考にしながら進めることが、企業と外国人従業員の双方を守る堅実な自衛策となるでしょう。
