ここでいう「やらせてはいけない業務」とは、技術・人文知識・国際業務、いわゆる技人国の外国人社員に、現場作業や接客・調理といった単純作業を「主たる業務」として担わせることを指します。これをやると、本人の在留資格の更新が危うくなるだけでなく、企業側が不法就労助長罪に問われるリスクまで生じます。
「大学を出ている人材だから、忙しいときはレジも品出しも何でも手伝ってもらおう」と考える経営者は少なくありません。しかしこれを続けていると、資格該当性そのものが崩れます。専門業務の合間に多少の雑務が付随的に混じる程度であれば問題になりませんが、「専門業務が主で、それ以外はおまけ」という建付けを崩した瞬間に、状況は一気に厳しくなります。
ここでは、技人国の社員にやらせてはいけない業務の考え方、単純作業と誤認されやすいポイント、企業側が問われるリスクを、当事務所が実際に扱った案件も交えて解説します。
この記事でわかること
- 技人国で「やってはいけない業務」の考え方と線引き
- 単純作業をさせた場合に企業が問われる不法就労助長罪のリスク
- 専門業務なのに単純作業と誤認されてしまうケース
- 業務内容を証明するために企業がやっておくべきこと
- 更新申請・転職時に業務内容が変わった場合の注意点
「やらせてはいけない業務」という発想の落とし穴
このタイトルを見て、「NGな業務のリストさえ避ければいい」と考える方もいるかもしれませんが、それは半分正解で半分不正解です。個別の作業を1つ1つ「これはOK」「これはNG」とチェックするやり方には限界があります。同じ「棚卸し」という作業でも、専門知識を使って在庫データを分析する棚卸しなら専門業務ですし、単に商品を数えて記録するだけの棚卸しなら単純作業です。作業名だけを見て機械的に判断できるものではなく、その作業にどれだけ専門知識が使われているかという中身で判断される、という点が重要です。
この記事では、個別の作業のリストアップよりも、「専門業務が業務全体の主たる部分を占めているか」という考え方の軸を理解してもらうことを重視しています。この軸を持っていれば、リストにない新しい業務を任せるときにも、自社で判断できるようになります。
技人国で「専門業務が主」であることの重要性
技人国は、大卒・専門学校卒相当の学歴や職歴を前提に、専攻・経歴と関連する専門的な業務に従事することを条件に許可されるビザです。基本的な要件については技術・人文知識・国際業務ビザ(技人国)とは?で詳しく解説していますが、この記事では「やらせてはいけない業務」に絞って掘り下げます。
審査でも実務でも、常に見られているのは「専門業務が業務全体の主たる部分を占めているか」という一点です。逆に言えば、専門業務がごく一部で、それ以外の単純作業が業務の大半を占めているなら、それは技人国の資格該当性を欠くことになります。肩書きが立派でも、実態がそうなっていなければ意味を持ちません。
「主たる部分」という言葉に、明確な割合の基準、たとえば「専門業務が7割以上」といった数値基準が法令上定められているわけではありません。ただ、実務上の感覚として、専門業務が業務全体の半分を大きく下回るような状態が常態化していると、審査でかなり厳しく見られることは間違いありません。数値基準がない分、逆に「どう説明するか」の技術が問われるとも言えます。
具体的に「やらせてはいけない」とされやすい業務
業種によって線引きは変わりますが、一般的に単純作業と判断されやすい業務は次のようなものです。
- 工場のライン作業、部品の組み立て・検品などの現場作業
- 飲食店のホール接客、レジ打ち、皿洗い、調理補助
- 小売店の品出し、清掃、レジ業務
- 配送・搬入・倉庫内作業などの肉体労働
- 専門性を必要としない事務作業(単純なデータ入力の繰り返しなど)
ここで注意したいのは、これらの業務が「絶対にゼロでなければならない」わけではないという点です。専門業務を行う過程で、付随的にこうした作業が発生すること自体は珍しくありません。問題になるのは、これが業務の主たる部分になったときです。飲食店を経営する企業が技人国の外国人を店舗運営で採用するケースについては技術・人文知識・国際業務ビザで飲食店に就労可能?でさらに詳しく解説しています。
業種別に見る「やってはいけない業務」の境界線
業種によって、専門業務と単純作業の境界線は変わってきます。いくつか代表的な業種で整理しておきます。
| 業種 | 専門業務の例 | 単純作業と判断されやすい例 |
|---|---|---|
| 製造業 | 生産管理、品質管理、設計、工程改善 | ライン作業、部品の組み立て、検品の繰り返し |
| 飲食業 | 店舗の経営企画、メニュー開発、多言語での接客マネジメント | ホール接客、皿洗い、調理補助の繰り返し |
| 小売業 | バイヤー業務、販促企画、越境ECの運営 | 品出し、レジ、清掃の繰り返し |
| IT・システム業 | システム設計、開発、プロジェクト管理 | 単純なデータ入力の繰り返し、テスト作業のみの反復 |
この表からわかる通り、同じ「接客」「作業」という言葉でも、それが企画・マネジメントの要素を伴うのか、単なる作業の繰り返しなのかで評価はまったく変わります。自社の業務が表のどちらに近いか、採用前に一度整理しておくと安心です。
単純作業をさせた場合、企業が問われるリスク
技人国の社員に単純作業を主たる業務としてやらせていたことが発覚すると、まず本人の在留期間更新や在留資格変更が認められなくなります。それだけでは済まず、企業側にも重大なリスクが及びます。就労資格のない、あるいは就労制限に反する形で外国人を働かせたと判断されれば、企業や現場責任者が不法就労助長罪に問われる可能性があるからです。
「知らなかった」「本人がそう言ったから」という理由は通用しません。実態を知り得る立場にありながら確認を怠ったと判断されれば、故意がなくても責任を問われることがあります。不法就労助長罪の内容や罰則、企業が確認すべきポイントについては不法就労助長罪とは?で詳しく解説しているので、外国人を雇用している企業は一度目を通しておいてください。
もうひとつ見落とされがちなのが、在留資格の「取消し」という制度です。技人国の在留資格を持ちながら、正当な理由なく3ヶ月以上、資格に応じた活動を行っていない場合、在留資格が取り消される可能性があります。単純作業ばかりをさせている状態は、まさに「資格に応じた活動を行っていない」状態にあたるおそれがあるため、企業側は本人の在留資格そのものが失われるリスクも意識しておくべきです。
【実例】専門業務の比重を見られたケース
ここからは、当事務所が実際に扱った案件です(依頼者が特定されないよう、業種・時期はぼかしています)。
タイムスケジュールの提出を求められたケース
技人国の申請で、入管から対象者の1日の業務内容を時間単位で示すよう求められたことがあります。これは「専門業務が本当に業務の主たる部分を占めているか」を確認するための資料要求です。どの粒度で、どういう見せ方をすれば審査官に伝わるか、その見極めが結果を左右します。曖昧な資料を出してしまうと、実態以上に単純作業の比重が高いと誤解されることもあります。
※上記は当事務所で取り扱った実際の相談内容をもとにしていますが、個別の状況により結果は異なります。同様の結果を保証するものではありません。
専門性のある業務なのに「単純作業」と誤認されるケース
ここが実務でいちばんもったいないパターンです。業務内容そのものは十分に専門性があるのに、雇用理由書など提出書類の説明が不十分なせいで、入管に「これは単純作業ではないか」と誤認されてしまうことがあります。
書類の書き方が原因で誤認されたケース
専門性のある業務を担当してもらう予定だったのに、雇用理由書の説明が「営業補助」「事務全般」といった漠然とした表現にとどまっていたため、入管から「業務内容が具体的に見えない、単純作業ではないか」という指摘を受けたことがあります。業務内容そのものに問題はなく、説明の仕方を具体的に書き直すことで、本来の専門性が正しく伝わる形に整理できました。
※上記は当事務所で取り扱った実際の相談内容をもとにしていますが、個別の状況により結果は異なります。同様の結果を保証するものではありません。
この2つの事例からわかるのは、「実態」と「書類上の説明」は別物だということです。実態が専門業務であっても、書類がそれを正確に伝えられていなければ、入管の目には単純作業に映ります。逆に言えば、業務内容を具体的に、専門性が伝わるように書けるかどうかで審査結果が変わってきます。
雇用理由書を書くときによくある失敗は、「業務内容」の欄に、社内の役職名や大まかな部署名だけを書いてしまうことです。「営業部所属」「マーケティング担当」といった表現だけでは、専門知識がどう使われているかが伝わりません。「大学で学んだマーケティング理論を活かし、市場調査データの分析に基づいて広告予算の配分を立案する」というように、専攻内容・具体的な作業内容・その業務にどんな専門知識が必要かを、一続きの文章で説明することが重要です。この書き方ひとつで、同じ業務内容でも入管の受け取り方が変わってきます。
出向・偽装請負との関係にも注意
「やらせてはいけない業務」というと業務内容ばかりに目が行きがちですが、「誰の指揮命令下で働いているか」という論点も同じくらい重要です。技人国は、雇用契約を結んだ受入企業のもとで専門業務に従事することが前提なので、実質的に別の会社の指揮命令を受けて働いている、いわゆる偽装請負のような状態になっていると、それだけで問題視されます。
入管の申請でも、対象者がどの会社に所属し、誰の指揮命令下で業務を行っているかを示す指揮命令系統図の提出を求められることがあります。これは、業務内容そのものだけでなく、雇用の実態がどうなっているかまで見られているということです。グループ会社間での出向や、複数の取引先で業務を行わせる場合は、契約関係と実際の指揮命令の主体を一致させておくことが重要になります。
業務内容が「専門業務が主」であることを証明するために
企業側が普段からできる対策として、次のようなものがあります。
| 対策 | 内容 |
|---|---|
| 業務内容の具体化 | 「営業」「企画」といった抽象的な表現ではなく、専門知識をどう使う業務なのかを具体的に記載する |
| 業務比率の記録 | 専門業務と付随業務の比率がわかるよう、業務日誌や業務分担表を残しておく |
| 組織図の整備 | 対象者の役割・指揮命令系統がわかる組織図を用意しておく |
| 雇用理由書の見直し | 申請時だけでなく、業務内容が変わったタイミングで説明を更新する |
更新申請のたびに慌てて業務内容を説明し直すより、日頃から整理しておくほうが結果的に負担は少なくなります。採用時点でこれをやっておく価値は十分にあります。
業務日誌については、細かすぎる記録を毎日つける必要はありません。1週間単位、あるいは月単位で「専門業務にどれくらいの時間を使ったか」がざっくり分かる形で残しておくだけでも十分です。大事なのは、更新申請のタイミングで「この期間、こういう専門業務を中心にやっていました」と、根拠を持って説明できる状態にしておくことです。
人手不足でも「何でも屋」にしてはいけない理由
採用担当者からよく聞くのが、「せっかく雇ったのだから、忙しいときは何でも手伝ってほしい」という本音です。その感覚自体は理解できますが、これを技人国の社員に対して行ってしまうと、資格該当性を自ら崩すことになります。日本人の正社員であれば「何でも屋」で構わない場面も多いですが、技人国はそもそも「専門業務をやってもらうための在留資格」なので、同じ感覚で使うと制度の前提から外れてしまいます。
繁忙期に一時的に他部署を手伝う程度であれば、常態化しない限り致命的な問題にはなりにくいものです。ただ、これが「毎週のシフトに組み込まれている」「本人の業務時間の半分近くを占めている」といった状態になると、話は別です。人手不足の解消策として技人国を使おうとする発想そのものが、そもそも制度とかみ合っていないと考えたほうがよいです。人手不足の現場業務については特定技能という別の制度が用意されているので、必要であれば外国人を採用できる在留資格の種類一覧で自社に合う制度を確認してください。
配置転換・業務変更のタイミングで気をつけること
採用時は専門業務中心だったのに、人手不足による異動や配置転換の結果、いつの間にか単純作業の比重が増えていた、というのは実務でよく見かけるパターンです。会社としては「一時的な応援のつもりだった」というケースでも、それが数ヶ月単位で続けば「実質的な業務内容の変更」とみなされます。
業務内容が大きく変わる場合は、就労資格証明書を取得しておくことを強くおすすめします。取得しておけば、いま従事している業務が資格の範囲内であることを、入管があらかじめ確認済みという形になるので、後々の更新審査でトラブルになりにくくなります。転職に伴う業務内容の変更については技術・人文知識・国際業務の外国人が転職したら?もあわせて確認してください。
派遣・出向で受け入れる場合の追加チェックポイント
技人国の人材を派遣で受け入れる企業も増えていますが、派遣の場合は「派遣先の業務内容が資格に適合しているか」がより厳しく見られます。派遣元の会社が専門性の高い業務を行う会社であっても、実際に派遣される先の現場が単純作業中心であれば、資格該当性が認められません。派遣で技人国人材を受け入れる際の業務内容の設計や審査の注意点については、技術・人文知識・国際業務ビザは派遣で受け入れ可能?で詳しく解説しているので、派遣契約を検討している企業は確認しておいてください。
また、建設業のように現場作業のイメージが強い業種でも、施工管理や設計監理といった専門業務であれば技人国での受入れが可能です。ただし、こちらも「現場に出る=単純作業」と短絡的に判断されないよう、業務内容の説明を丁寧に行う必要があります。建設業での受入れの注意点は技術・人文知識・国際業務ビザで建設業の外国人を雇用できる?で解説しています。
よくある質問
Q. 技人国の社員に単純作業を少しだけ手伝わせるのもだめですか?
業務全体のごく一部に付随的に含まれる程度であれば直ちに問題になるわけではありませんが、それが常態化して業務の主たる部分を占めるようになると、資格該当性を欠くと判断されるリスクが高まります。
Q. 肩書きを専門職っぽくしておけば大丈夫ですか?
安全とは言えません。入管は肩書きではなく実際の業務実態を見ます。書類上の肩書きと実態がかけ離れていると、かえって心証を悪くします。
Q. 単純作業をさせていたことが発覚すると、どうなりますか?
本人の在留資格の更新が認められなくなるほか、企業側が不法就労助長罪に問われる可能性があります。故意でなくても、実態を知り得た場合は責任を問われることがあります。
Q. 専門性のある業務なのに単純作業と誤解されることはありますか?
あります。業務内容自体は専門性があっても、雇用理由書などの書類の説明が不十分だと、入管に単純作業と誤認されるケースがあります。書類の書き方が結果を左右します。
社内でできる自主点検のポイント
専門家に相談する前に、まず自社でできる自主点検のポイントを整理しておきます。次の項目に1つでも当てはまるなら、業務内容の見直しを検討する必要があります。
- 直近3ヶ月の業務日誌やシフト表を見て、専門業務にあてている時間が半分以下になっていないか
- 雇用理由書に記載した業務内容と、実際の業務がずれていないか
- 繁忙期に他部署の応援に入る頻度が、常態化するレベルまで増えていないか
- 対象者の直属の上司が、契約上の受入企業以外の会社の担当者になっていないか
これらは更新申請の直前に慌てて確認するのではなく、半年に一度程度、定期的にチェックしておくのが理想です。人事担当者が変わったタイミングで、こうした確認が漏れてしまうケースも実務ではよく見られます。担当者の異動があっても引き継げるよう、チェックリストとして残しておくことをおすすめします。
複数の外国人社員を雇用している企業が特に気をつけたいこと
技人国の外国人を複数名雇用している企業では、社員ごとに業務内容の管理レベルにばらつきが出やすいという問題があります。ある社員は入社時の業務内容がそのまま維持されている一方、別の社員は配置転換や部署異動を経て、いつの間にか単純作業の比重が増えていた、というのはよくあるパターンです。人事担当者が全員分の業務内容を細かく把握するのは容易ではありませんが、少なくとも異動や配置転換があったタイミングで、対象者が技人国であれば必ずチェックが入るような仕組みにしておくことをおすすめします。
特に複数拠点を持つ企業では、本社の人事部が把握していない現場レベルの業務変更が起きがちです。現場の管理職に「技人国の社員には単純作業を主業務にさせてはいけない」という基本ルールを周知しておくだけでも、リスクはかなり下げられます。
採用面接の段階で「配置転換の可能性」について曖昧なまま採用してしまうと、後になって業務内容の食い違いがトラブルの火種になりやすくなります。雇用契約を結ぶ時点で専門業務の範囲をできるだけ具体的にすり合わせておくことが、入社後のミスマッチを防ぐことにもつながります。
まとめ
技人国の社員にやらせてはいけないのは、専門業務ではなく単純作業を主たる業務にすることです。ここを見誤ると、本人の在留資格だけでなく、企業自体が不法就労助長罪という重いリスクを背負うことになります。実態が専門業務であっても、書類の説明が足りなければ誤認されるという点も見逃せません。業務内容の具体化、業務比率の記録、組織図の整備、この3つを日頃から行っておくことが、最も確実な予防策になります。
依頼するかどうかで迷っている方は在留資格の申請は行政書士に依頼すべき?申請取次とは何かをわかりやすく解説と在留資格申請を行政書士に依頼する費用の相場は?報酬の内訳と選び方を解説も参考にしてください。