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マクリーン事件とは?在留期間更新の裁量をわかりやすく解説|今の入管審査への影響

マクリーン事件とは、在留期間の更新を拒否された外国人が国を訴え、最高裁大法廷が昭和53年10月4日に判決を出した事件を指します(民集32巻7号1223頁)。最高裁は、在留期間の更新を許可するかどうかは法務大臣の広い裁量に委ねられており、外国人には日本に在留し続ける権利も、更新を受ける権利も憲法上保障されていないと判断しました。

40年以上前の判決ですが、今の在留審査はこの判決の考え方の上に組み立てられています。入管法21条が更新を「相当の理由があるとき」に限って許可すると定め、入管庁のガイドラインが「すべての考慮要素に該当しても不許可となることがある」と書いているのは、その表れです。外国人を雇う企業にとっては、更新は申請すれば当然に通る手続ではない、という前提をこの判決が形づくっています。

この記事でわかること

  • マクリーン事件の事案と、最高裁が示した判断の骨格
  • 「法務大臣の広い裁量」が何を意味し、どこに限界があるか
  • 判決の考え方が、今のガイドラインと審査要領にどう反映されているか
  • 更新で不利にならないために、企業と本人が日頃から整えておくこと

マクリーン事件の概要

裁判所・日付 最高裁判所大法廷 昭和53年10月4日判決
掲載 民集32巻7号1223頁
争われたこと 在留期間の更新を許可しなかった法務大臣の処分が、違法かどうか
結論 更新の許否は法務大臣の広い裁量に委ねられる。外国人に在留の権利や更新を受ける権利は保障されない
今の実務での位置づけ 変更・更新の審査が裁量判断であることの出発点として、繰り返し引用される

事案:何が争われたのか

原告は、英語教師として日本に在留していたアメリカ国籍の男性です。在留期間の更新を申請したところ、法務大臣はこれを許可しませんでした。不許可の理由として問題にされたのは、在留中に政治的な集会やデモに参加していたことと、届出をせずに勤務先を変えていたことだとされています。男性は、この不許可処分の取消しを求めて訴えを起こしました。【要確認】事案の細部(在留期間の長さ、更新の経緯、不許可理由として挙げられた事実)は、判決原文(民集32巻7号1223頁)で照合する必要があります。

争点は二つに整理できます。一つは、外国人に日本に在留し続ける権利があるのか、という点です。もう一つは、在留中に行った政治活動を、更新を許可しない理由にしてよいのか、という点です。前者は在留制度の根本に関わり、後者は外国人の人権保障の範囲に関わります。

最高裁が示した判断の骨格

最高裁は、男性の請求を認めませんでした。判断の骨格は次の三点です。

1. 外国人に在留し続ける権利は保障されない

最高裁は、外国人が日本に在留し続けることや、在留期間の更新を受けることは、憲法上の権利として保障されていないとしました。在留期間が満了すれば、在留は当然には続きません。更新を申請して許可を受けて、はじめて次の期間が認められる、という仕組みです。

2. 更新を許すかどうかは法務大臣の広い裁量

ここでいう裁量とは、法律が結論を一つに決めず、判断する行政機関に選択の幅を与えていることを指します。最高裁は、更新を許可するかどうかについて、法務大臣は外国人の在留中の状況、在留の必要性、国内の事情や国際関係など、さまざまな事情を考え合わせて判断できるとしました。更新の要件を法律が細かく列挙していないのは、この判断を法務大臣に委ねる趣旨だ、という理解です。

3. 裁判所が違法とするのは、裁量の範囲を超えた場合だけ

最高裁は、裁判所が法務大臣の判断を違法とできるのは、裁量の範囲を超えたり濫用したりしたときに限られるとしました。その例として挙げたのが、判断の基礎になった事実に誤認があって事実の基礎を欠く場合や、事実の評価が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くことが明らかな場合です。裁判所が法務大臣と同じ立場に立って、自分ならどう判断したかを考え直すわけではありません。【要確認】判断基準の正確な文言は、判決原文で照合する必要があります。

更新の判断は、期限付き契約の自動更新というより、取引のたびに行う与信審査に近いものです。過去に取引があったことは材料の一つになりますが、次の取引を約束するものではありません。

政治活動の自由はどう扱われたか

判決は、外国人にも、権利の性質上日本国民だけを対象とするものを除いて、憲法の基本的人権の保障が及ぶという立場をとりました。政治活動の自由も、日本の政治的な意思決定やその実施に影響を及ぼすような活動など、外国人の地位に照らして認めるのが相当でないものを除いて保障が及ぶ、としています。

ここで重要なのは、その保障が「在留制度の枠内」で与えられるにすぎない、という論点です。最高裁は、在留中の行為が憲法上保障されるものであっても、更新の際にそれを消極的な事情として考慮されないことまでは保障されない、と判断しました。人権の保障が及ぶことと、その行為を更新の判断材料にされないこととは、別の問題として扱われました。【要確認】この部分の判示の表現も、判決原文で照合する必要があります。

在留外国人の権利を在留制度の枠内で捉えるこの考え方は、その後の最高裁判決にも表れています。森川キャサリーン事件(最高裁平成4年11月16日判決)は、在留外国人に再入国の自由は憲法上保障されないとしました。海外出張や一時帰国のたびに再入国許可(またはみなし再入国許可)が必要になるのは、この延長線上にあります。

今の入管審査への影響

マクリーン事件の考え方は、今の法令とガイドライン、そして入管庁の内部基準である入国・在留審査要領の書き方に表れています。

入管法とガイドライン:「相当の理由」という枠

入管法21条は、在留期間の更新を、それを適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り許可すると定めています。入管庁の在留期間更新許可申請のページも、審査基準として同じ文言を掲げています。何が「相当の理由」に当たるかを具体的に並べたのが、変更・更新のガイドラインです。

ガイドラインの考慮事項 位置づけ
1 在留資格該当性 許可の必要要件
2 上陸許可基準への適合 別表第一の二の表・四の表の在留資格は、変更・更新でも原則として必要
3 現に有する在留資格に応じた活動を行っていたこと 代表的な考慮要素。すべてに該当しても不許可となることがある
4 素行が不良でないこと
5 独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること
6 雇用・労働条件が適正であること
7 納税義務等を履行していること
8 入管法上の届出義務を履行していること

最後の一文、「すべてに該当しても不許可となることがある」は、マクリーン事件が示した裁量をそのまま文書にしたものと筆者は読んでいます。考慮要素は判断の目安で、満たせば許可が約束されるチェックリストではありません。在留資格該当性と上陸許可基準の違いは在留資格該当性と上陸許可基準適合性の違い|審査要領が定める審査の組み立てで詳しく扱っています。「相当の理由」の中身は在留期間更新の「相当の理由」とは|ガイドラインと審査要領で見る素行・納税・社会保険で整理しています。

ガイドラインは令和8年6月にも改正され、納税義務等の項目に、関係機関から提供を受けた納税義務等の履行状況に関する情報を踏まえて許否を判断する場合がある、という注書きが加わりました。国民健康保険料などの高額・長期の未納で悪質なものは、税の未納と同じように扱うとも書かれています。裁量の幅は変わらないまま、判断材料が増え続けている、と見るのが正確です。

不許可事例:罰金刑でも更新は止まる

入管庁は、更新・変更の不許可事例を公表しています(令和2年9月)。経営・管理で4回更新を受けた後に不法就労助長罪で罰金30万円となった飲食店経営者の更新不許可、留学から技人国に変更して3回更新した後に罰金50万円となったプログラマーの更新不許可などが載っています。どの事例も、判断の枠組みは「在留状況、在留の必要性、相当性等を総合的に勘案」です。長く適法に在留してきた実績があっても、それだけで次の更新が保証されないことを、これらの事例は示しています。

審査要領:相当性を確かめる具体的な手順

裁量が広いといっても、審査担当者が気分で判断しているわけではありません。審査要領には、相当性を確かめる手順が具体的に書かれています。経営・管理の節は、役員の人数を理由に不許可にできるかという文脈で、不許可にできる場合を次のように整理しています。

「在留資格該当性が認められない場合又は基準適合性が認められない場合、その他在留状況に問題がある場合など在留を認めるべき相当の理由がないとき」

出典:入国・在留審査要領 第12編(開示版)第10節 10-16

技人国の更新については、住民税の課税(又は非課税)証明書と納税証明書で「収入額が契約時の金額であること及び納税が行われていること」を確認すると書かれています(第12編 15-20)。申請時に示した報酬が実際に払われていたかを、更新時に数字で確かめる手順です。

長期間の出国についても、審査要領は在留状況として扱う考え方を示しています。

「その期間が長期間にわたり、かつ、正当な理由がないときは、在留資格に応じた活動を行っていたとは認めないこととして取り扱う。」

出典:入国・在留審査要領 第12編(開示版)第2章第1節第12「長期間の出国」1-28(具体的な日数基準の部分は黒塗り)

この節は、何日以上を長期間とみるかの部分が黒塗りで読めません。公表資料では、経営・管理のQ&Aが「在留期間の過半を超える出国」を更新審査の消極要素とする目安を示していますが、一般のガイドラインは「長期間」としか書いていません。黒塗りで基準が見えない部分こそ、裁量が働く余地として意識しておく必要があります。

在留期間の長さも裁量で決まる

更新の可否だけでなく、許可される在留期間の長さも判断の対象です。技人国の場合、審査要領は、初回の更新であっても「1年後に確認しなければならない具体的な事情」がない限り3年(5年に該当する場合は5年)を決定するとしています(第12編 15-21)。逆に言えば、在留状況に確認すべき事情があれば1年になります。令和8年10月1日からは手数料が許可される在留期間に応じて変わり、1年の許可は窓口33,000円、3年以上5年未満は64,000円になりました。手数料のQ&Aは、長期の在留期間を受ける人は一般的に在留状況が良好だとして、1年あたりの負担が低くなるよう設定したと説明しています。在留状況の良し悪しが、許可の長さと費用の両方に跳ね返る構造です。

就労系の更新で裁量が働く典型場面

審査要領を読むと、「原則として」「慎重に」「総合的に」といった言葉が置かれた場所に、裁量が働く場面が集まっていることが分かります。就労系で企業が出会いやすいのは次の場面です。

場面 審査要領の扱い
技人国で採用当初に実務研修がある 研修を適切に終えて本来の業務に移ったかを確かめるため、原則として在留期間1年を決定する(15-24)。予定を超えて研修が続けば、更新で問題になる
経営・管理で赤字が続いている 単年度の決算ではなく貸借状況も含めて総合的に判断する。ただし2年以上連続の赤字は、本人の活動内容を含めて慎重に調査する(10-17)
勤務先の企業が消費税の不正還付で重加算税を受けた 処分が確定していれば、経営者だけでなく、その企業で働く外国人の更新も原則として許可しない(1-24〜1-25)
会社都合で解雇され、就職活動中 在留期限までは今の在留資格のまま在留を認める。期限後は、在留状況に問題がないなど相当であるときに特定活動(6月)への変更を許可する(1-16〜1-18)

最後の場面の「相当であるとき」という言葉にも、裁量が表れています。会社都合の解雇であることと、期限前から就職活動をしていることを書類で示せなければ、相当と判断してもらう材料がありません。どの場面でも、担当者が裁量で判断する余地がある以上、判断材料を申請者の側から先に出すことが結果を左右します。

裁量には限界がある

広い裁量は、何をしてもよいという意味ではありません。最高裁平成8年7月2日判決は、本人の意思に反して在留資格を変更された経緯を考慮せずに更新を不許可とすることは許されず、信義則上、元の在留資格に基づく判断の機会を与えるべきだったとしました。行政が自ら作り出した経緯を無視して裁量を使うことは許されない、という限界を示した判決です。詳しくは最判平成8年7月2日とは|本人の意に反した在留資格変更と更新不許可に信義則が働く場面で扱っています。

とはいえ、マクリーン事件の基準のもとで、裁判所が法務大臣の判断を違法とする場面は限られます。実務の軸足は、訴訟で争うことより、裁量の中で「許可するのが相当だ」と判断してもらえる材料をそろえることにあります。

不許可になったら:不服申立てはできない

在留資格の変更・更新の不許可には、行政不服審査法の審査請求はできません。同法7条1項10号が、外国人の出入国・在留に関する処分を適用除外としているためです。入管庁の変更・更新の手続ページにも「不服申立方法 なし」と明記されています。

争う方法は、裁判所に不許可処分の取消訴訟を起こすことです。ただし、マクリーン事件の基準がある以上、裁量の逸脱・濫用を立証できる事案でなければ見通しは厳しくなります。実務上は、不許可の理由を確認し、足りなかった点を補って再申請するのが一般的な選択です。在留資格の不許可に不服申立てはできない?行政不服審査法の適用除外と取消訴訟もあわせて確認してください。更新が不許可になる理由と対処法は在留資格の更新が不許可になる理由とは?事例と対処法・企業の注意点を解説にまとめています。

企業と本人が日頃から整えておくこと

裁量が広い審査で結果を左右するのは、申請の直前に作る書類より、在留期間中の記録の積み重ねです。ガイドラインと審査要領から逆算すると、日頃から整えておくべきことは次のとおりです。

項目 企業が整えること 本人が整えること
活動の実態 在留資格に合った業務に従事させ、職務内容を記録する 許可された活動以外の就労をしない
報酬 申請時の契約どおりに支払う 課税証明書・納税証明書を取得できる状態にしておく
税・社会保険 源泉徴収と社会保険の加入・納付 住民税・国民健康保険料などを期限どおり納める
届出 外国人雇用状況の届出などを期限内に行う 住居地・所属機関の届出を14日以内に行う
出国 長期の海外勤務は業務上の理由を記録する 長期間の出国には正当な理由を説明できるようにする

届出の履行は、技人国で5年の在留期間を得る要件の一つにもなっています(第12編 15-20)。更新の可否だけでなく、許可の長さにも効いてきます。

よくある質問

Q. マクリーン事件を簡単に言うとどんな判決ですか?

最高裁大法廷が昭和53年10月4日に、在留期間の更新を許可するかどうかは法務大臣の広い裁量に委ねられ、外国人には日本に在留し続ける権利や更新を受ける権利は保障されていないと判断した判決です。

Q. マクリーン事件は今の在留審査にも影響していますか?

影響しています。入管法21条は更新を「相当の理由があるとき」に限って許可すると定め、入管庁のガイドラインは考慮要素のすべてに該当しても不許可となることがあると明記しています。いずれも更新の許否が裁量判断であることを前提にしています。

Q. 更新が不許可になったら、審査請求で争えますか?

在留資格の変更・更新の不許可には、行政不服審査法の審査請求はできません(同法7条1項10号の適用除外)。入管庁の手続ページにも「不服申立方法:なし」と書かれています。争うなら取消訴訟を起こすことになり、実務上は不許可の理由を確認したうえで再申請するのが一般的です。

Q. 裁量が広いなら、入管の判断はどんな場合でも違法にならないのですか?

そうではありません。最高裁平成8年7月2日判決は、本人の意思に反して在留資格を変更された経緯を考慮せずに更新を不許可とすることは許されず、信義則上、元の在留資格に基づく判断の機会を与えるべきだったとしました。裁量にも限界があります。

次の更新に向けて

次の更新期限を確認し、その3か月前を目安に、上の表の5項目を本人と一緒に点検してください。課税証明書の収入額が契約どおりか、未納や届出漏れがないか、長期の出国があれば理由を説明できるか。問題が見つかったら、申請前に是正し、是正した経緯を書面にまとめておきます。裁量の広い審査では、説明できる材料を先にそろえた側が有利になります。

根拠資料

  • 最高裁判所大法廷昭和53年10月4日判決(民集32巻7号1223頁)/最高裁判所平成8年7月2日判決/最高裁判所平成4年11月16日判決
  • 出入国在留管理庁「入国・在留審査要領」第12編(情報公開請求による開示版、2025年12月スキャン、一部黒塗り)第2章第1節 1-16〜1-18、1-24〜1-25、1-28、第10節 10-16〜10-17、第15節 15-20〜15-21、15-24
  • 出入国在留管理庁「在留資格の変更、在留期間の更新許可のガイドライン」(令和8年6月改正)https://www.moj.go.jp/isa/applications/resources/nyuukokukanri07_00058.html
  • 出入国在留管理庁「在留期間の更新許可申請及び在留資格の変更許可申請に係る不許可事例について」(令和2年9月)https://www.moj.go.jp/isa/applications/resources/nyukan_nyukan66.html
  • 出入国在留管理庁「在留期間更新許可申請」https://www.moj.go.jp/isa/applications/procedures/16-3.html
  • 出入国在留管理庁「在留資格『経営・管理』に係る上陸基準省令等の改正について」Q&A https://www.moj.go.jp/isa/applications/resources/10_00237.html
  • 出入国在留管理庁「令和8年10月1日付け在留許可手数料の額の改定等について」https://www.moj.go.jp/isa/01_00644.html、Q&A https://www.moj.go.jp/isa/applications/faq/01_00650.html