家族滞在ビザの扶養者に求められる年収の金額は、入管法にも上陸許可基準にも、情報公開で開示された入国・在留審査要領にも書かれていません。審査されるのは「扶養者が家族を養えるか」という扶養能力で、同じ年収でも、呼び寄せる家族の人数、家賃、住む地域によって評価は変わります。年収300万円前後という数字がよく語られますが、これは入管が示した基準ではなく、書類で扶養能力を説明できるかどうかの方が結論を左右します。この記事では、審査で何が見られるかを整理したうえで、生活保護基準を物差しにした試算の方法を示します。
家族滞在ビザの年収要件は、法令にも審査要領にも金額がない
家族滞在の在留資格は、入管法別表第一の四で「一の表、二の表又は三の表の上欄の在留資格…をもつて在留する者又はこの表の留学の在留資格をもつて在留する者の扶養を受ける配偶者又は子として行う日常的な活動」と定められています。上陸許可基準(基準省令)の家族滞在の項も、扶養者が一定の在留資格で在留していることを求めるだけで、収入の金額には触れていません。
年収の基準がないのは、家族滞在の要件が「扶養を受けること」という実態で組み立てられているからです。入国・在留審査要領の家族滞在の項は、「扶養を受ける」の意味を次のように説明しています。
- 扶養者が扶養の意思を有し、かつ、扶養することが可能な資金的裏付けを有すると認められること
- 配偶者は原則として同居を前提として扶養者に経済的に依存している状態にあること
- 子は扶養者の監護養育を受けている状態にあること
- 経済的に独立している配偶者又は子としての活動は含まれないこと
ここでいう「資金的裏付け」が、世間で年収要件と呼ばれているものの正体です。金額の線が引かれていない以上、審査官は提出された書類から、この家族がこの収入で日本で暮らしていけるかを個別に判断します。審査要領の性格と読み方は入国・在留審査要領とは?で解説しています。
審査で見られるのは「家族の人数に見合った扶養能力」
扶養能力の判断で見られる要素は、次のとおりです。
| 見られる要素 | 確認に使われる書類 |
|---|---|
| 扶養者の年収と安定性 | 住民税の課税(又は非課税)証明書、在職証明書、雇用契約書 |
| 納税の状況 | 住民税の納税証明書 |
| 呼び寄せる家族の人数・年齢 | 身分関係を証する文書(結婚証明書・出生証明書等) |
| 住居 | 申請書の居住予定地、賃貸借契約書(求められた場合) |
| 収入以外の資力 | 預金残高証明書、送金の記録(求められた場合) |
このうち提出書類として一律に求められるのは、扶養者の在職証明書(又は営業許可書の写し等)と、住民税の課税(又は非課税)証明書・納税証明書です(出入国在留管理庁「在留資格『家族滞在』」)。課税証明書には1年間の総所得が、納税証明書には納税の状況が表れます。
注意したいのは、年収の数字だけでなく「安定性」も見られるという点です。雇用期間の定めがない正社員と、3か月ごとに更新される契約社員とでは、同じ年収でも将来の収入の見通しが違います。扶養者が技術・人文知識・国際業務などで働いている場合、その在留資格の報酬要件(日本人と同等額以上)を満たしていることが前提になるため、家族滞在の審査で扶養者の年収が極端に低く見えることは多くありません。問題になりやすいのは、扶養者が留学生の場合や、入国直後で日本の課税証明書がない場合、転職の空白期間があった場合です。
生活保護基準を物差しにする|福岡市の3人世帯の試算例
年収の基準がない以上、申請する側は「この収入で足りる」ことを自分で説明する必要があります。筆者は、その物差しとして生活保護基準(最低生活費)を使う方法が分かりやすいと考えます。生活保護基準は、世帯の人数・年齢・地域ごとに国が定めた「最低限度の生活」に必要な額で、これを下回る収入しかない世帯は、制度上、公的扶助の対象になり得る水準にあるからです。
以下は、厚生労働省の生活扶助基準(令和8年4月適用)から筆者が計算した試算です。入管の審査基準ではなく、扶養能力を説明するための目安として読んでください。
前提:福岡市(1級地-2)に住む3人世帯。扶養者35歳、配偶者33歳、子4歳。
- 第1類(個人ごとの食費・被服費等):20〜40歳 45,520円×2人+3〜5歳 43,240円=134,280円
- 3人世帯の逓減率0.75を乗じる:134,280円×0.75=100,710円
- 第2類(世帯共通の光熱水費等)3人:44,730円
- 特例加算:1人1,500円×3人=4,500円
- 生活扶助の合計:約149,940円(月額)
これに家賃が加わります。福岡市内で家族3人が住む賃貸住宅の家賃を月7万円とすると、最低生活費の目安は月約22万円、年約264万円です。子どもがいる世帯の加算(児童養育加算など)や医療・教育の費用はこの試算に含めていないため、実際に必要な額はもう少し大きくなります。
この試算と、扶養者の手取り収入を並べます。扶養者の額面年収が350万円なら、社会保険料と税を差し引いた手取りはおおむね270〜280万円前後で、試算した最低生活費をわずかに上回る程度です。額面年収が280万円なら、手取りは最低生活費を下回る可能性が高く、預金や配偶者側の資産などで補う説明が必要になります。家族が4人、5人と増えれば、同じ年収でも余裕はさらに小さくなります。
この比較から言えるのは、「年収300万円なら大丈夫」という目安が、単身者や夫婦2人の世帯には当てはまっても、子どもが複数いる世帯や家賃の高い地域には当てはまらないということです。東京都区部などの1級地-1では、第1類・第2類とも福岡市より高い基準額が設定されています。
試算を説明資料にするときの書き方
この試算は、そのまま申請書類として定められた様式があるわけではありません。扶養能力に不安がある場合に、理由書や補足説明の一部として、次の順で書くと審査官が読み取りやすくなります。
- 世帯の構成(人数・年齢)と住む予定の住居(家賃)
- 扶養者の年収と手取り見込み(課税証明書・給与明細・雇用契約書の数字と一致させる)
- 月の生活費の見込み(家賃・食費・光熱費・子の保育料や学費)
- 収入と生活費の差額、差額が小さい場合の補い方(預金残高、昇給予定、住宅手当など)
数字の裏付けとなる資料を必ず添えます。数字だけを並べた説明は、資料と食い違ったときにかえって信用を落とします。
年収が足りないとき・証明しにくいときの補い方
入国直後で課税証明書がない
課税証明書は前年1年間の所得に基づいて作られます。扶養者が来日して間もない場合は、日本での課税証明書が出ないか、数か月分の所得しか載っていません。この場合は、在職証明書に年収を明記してもらい、雇用契約書と直近の給与明細の写しで今後の収入を示すのが通常の方法です。会社が在職証明書に給与額を書かないと、入管は収入を確かめる手段を持てません。在職証明書の書き方は家族滞在ビザ申請の必要書類|外国人社員の家族を海外から呼ぶ手順と在職証明書の書き方で扱っています。
前年に転職・失業期間があった
課税証明書の所得が前年の失業期間で少なく見える場合は、現在の雇用契約書と給与明細で、今の収入が安定していることを示します。更新申請でこの状況になりやすいため、更新の書類の注意点は家族滞在ビザ更新の必要書類|申請書の記入例と扶養者の課税証明書の注意点を参照してください。
預金で補う
年収が低めでも、まとまった預金があれば、当面の生活費をまかなえることを示せます。預金残高証明書を出す場合は、申請の直前に一時的に入金した残高ではないことを説明できるよう、通帳の履歴もあわせて用意しておくと安心です。
配偶者のアルバイト収入に頼る計画は避ける
家族滞在の配偶者は、資格外活動許可を受ければ週28時間以内のアルバイトができます。ただ、審査要領は「経済的に独立している配偶者」は家族滞在に当たらないとしており、配偶者の収入を当てにしなければ家計が成り立たない計画は、扶養を受けているという前提と相容れません。配偶者のアルバイト収入を扶養能力の説明に使うことは避け、扶養者の収入と預金で説明できる形にしておくべきです。
扶養者が留学生の場合
留学生も家族を呼べる扶養者に含まれますが、留学生の資格外活動は週28時間以内に限られ、アルバイト収入だけで家族を養う説明はほぼ成り立ちません。本国からの送金、奨学金、預金など、アルバイト以外の資金で家族の生活費をまかなえることを示す必要があります。
更新でも扶養能力は見られる
家族滞在の更新でも、扶養者の在職証明書と課税・納税証明書の提出が求められます。更新で問題になりやすいのは、扶養者の年収が下がった場合と、配偶者のアルバイト収入が増えて課税証明書に表れた場合です。配偶者の所得が扶養者に近い水準になっていると、経済的に独立していると評価され、家族滞在の該当性そのものが問われることがあります。
もう一つ、住民税の納税証明書に未納が表れていないかも確認しておきます。扶養能力の判断は収入の額だけでなく、納税などの公的義務の履行とあわせて見られるためです。更新が不許可になる典型的な理由は在留資格の更新が不許可になる理由とは?で整理しています。
審査期間は、出入国在留管理庁の統計(2026年7月許可分)で、家族滞在の認定が平均70.0日、更新が平均38.7日です。
よくある質問
家族滞在ビザの年収はいくら必要ですか?
法令・審査要領に金額の基準はありません。審査されるのは、家族の人数と住居費を踏まえた扶養能力です。本文の試算では、福岡市の3人世帯で家賃月7万円の場合、最低生活費の目安は年約264万円で、扶養者の手取りがこれを上回っているかが一つの物差しになります。
家族滞在の収入制限は?
家族滞在の本人(配偶者・子)には、資格外活動許可を受けたうえで週28時間以内という就労時間の制限があります。収入の金額そのものに入管法上の上限はありませんが、収入が増えて経済的に独立していると評価されると、家族滞在の要件を満たさなくなるおそれがあります。税や社会保険の扶養(年収の壁)とは別の問題として考える必要があります。
家族滞在ビザの条件は?
扶養者が就労系の在留資格・文化活動・留学などで在留していること、申請人がその配偶者または子であること、申請人が扶養者の扶養を受けていること、の3つです。特定技能1号や技能実習の外国人は、家族滞在で家族を呼べません。
扶養者の年収が低いと、必ず不許可になりますか?
年収だけで結論が決まるわけではなく、預金、住居、昇給の見込みなどを合わせて判断されます。ただ、最低生活費を下回るような収入で、補う資料もない場合は、扶養能力を認めてもらうのは難しくなります。どの程度の資料で足りるかは個別の事情で判断が変わるため、心配な場合は申請前に専門家へ相談してください。
年収の数字より「説明できる家計」を用意する
家族滞在の年収に基準がないことは、裏を返せば、申請する側が扶養能力を自分で説明しなければならないということです。審査官は、課税証明書と在職証明書の数字、家族の人数、住む場所から家計を組み立てて判断します。その判断を助ける材料を最初から出しておくと、追加資料を求められて審査が長引く事態を避けやすくなります。
企業の人事担当者が関われるのは、在職証明書に年収と雇用期間を書くこと、入社1年目の社員に雇用契約書と給与明細の写しを渡すこと、住宅手当など家計を支える制度があればその内容を示すことです。社員から家族を呼びたいと相談されたら、まず家族の人数と住む予定の住居を聞き、本文の試算の手順で家計の余裕を確かめておくと、申請の時期や準備する資料の判断がしやすくなります。追加資料の通知が来た場合の対応は入管から資料提出通知書が届いたら?を参照してください。
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根拠資料
- 出入国管理及び難民認定法 別表第一(e-Gov法令検索)
- 出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令(e-Gov法令検索)
- 在留資格「家族滞在」(出入国在留管理庁)
- 生活保護制度(厚生労働省)
- 生活扶助基準額について(令和8年4月適用)(厚生労働省)
- 級地区分(厚生労働省)
- 在留審査処理期間(出入国在留管理庁・令和8年7月許可分)
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