入管ビザ実務コラム/保利国際法務事務所
特定技能「介護」は、人手不足が深刻な介護現場に、一定の技能と日本語能力を持つ外国人材を受け入れるための在留資格です。最大の特徴は、配属した瞬間から人員配置基準に算入できる点にあります。地味な話に聞こえるかもしれませんが、経営の数字への影響は実際には大きいものです。
技能実習の場合、入国後6か月は配置基準に算入できない期間があります。人は増えたはずなのに、数字の上ではまだ不足している、という状態を抱えながら経営している施設は少なくありません。
ただし、特定技能にも試験制度や人員配置の細かい取り決めがあり、そこを十分に理解しないまま進めると、あとになって思わぬところでつまずくことがあります。ここでは、その骨格の部分から実務上の注意点、費用やスケジュールの目安まで、施設運営に携わる方の目線に沿って整理します。
この記事でわかること
- 特定技能「介護」の対象施設と業務範囲
- 受入れ要件・人員配置基準の実務ポイント
- 介護技能評価試験・介護日本語評価試験の内容
- 介護・EPA・技能実習・特定技能、4つの在留資格の違い
- 当事務所が実際に対応した申請時の注意点
特定技能「介護」とはどういう在留資格か
特定技能「介護」は、2019年に創設された在留資格「特定技能」のうち、介護分野に対応した区分です。人手不足が深刻な介護現場に、一定の技能と日本語能力を持つ外国人を受け入れる、という目的自体はシンプルです。
対象となる施設は、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院、通所介護、短期入所生活介護、訪問介護など、身体介護を伴う幅広いサービス類型です。裏を返すと、身体介護を伴わない施設、たとえば訪問系サービスの一部や、介護保険の対象外となる施設は含まれません。この確認を飛ばして採用計画を進めてしまう施設は少なくありません。
ただし、サービス類型が対象かどうかを確認するだけでは十分ではありません。同じ施設のなかでも、身体介護を伴わない業務にしか従事してもらわない計画であれば、そもそも特定技能「介護」を選ぶ意味自体が薄れます。事務作業や送迎業務だけを任せたいのであれば、別の在留資格を検討するほうが筋が通ります。任せたい業務の中身を一度洗い出しておくことをおすすめします。
訪問系サービスについては、以前は対象外でしたが、要件を満たす事業所であれば従事が認められるようになりました。適合確認書の発行申請や定期報告など、通常の受入れに加えて手続きが必要になるため、そのぶんの体制づくりが必要です。
訪問介護の事業所のなかには、「うちも特定技能を使えるはずだ」と採用計画を先に進めてしまい、あとから適合確認書の要件を満たしていないことに気づくケースがあります。単独での訪問はさせられない、一定期間は同行が必要、という細かな条件があるため、事業所単独で判断せず、一つずつ要件を確認する必要があります。
従事していただける業務の範囲
特定技能「介護」で従事できるのは、身体介護(入浴・排泄・食事等の介助)と、それに付随する支援業務です。生活相談員や訪問系サービスの管理者といったポジションは任せられません。あくまで現場の介護業務が中心になります。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 従事できる業務 | 身体介護、それに付随する支援業務(レクリエーション、機能訓練の補助等) |
| 従事できない業務 | 訪問系サービスの管理者業務、施設のマネジメント業務、生活相談員業務 |
| 在留期間 | 通算5年(更新は1年・6か月・4か月ごと) |
| 特定技能2号 | 介護分野には現時点で設定なし |
受入れ要件と人員配置基準
施設側にも満たすべき要件があります。要件を満たしていない状態で採用を進めることはできません。まず、受入れ機関自体が適切な労働条件、報酬水準を確保していること。日本人と同等以上の報酬でなければなりません。ここを軽く見てしまう施設が、実際にまだ見られます。
次に、受入れ人数の上限です。事業所単位で、常勤の介護職員の総数を超えて特定技能外国人を受け入れることはできません。日本人スタッフより多い人数を一気に採用することはできない仕組みになっています。
人員配置基準への算入タイミング
ここが、特定技能「介護」の大きな特徴です。技能実習1号の場合、入国後6か月は人員配置基準にカウントできません。一方、特定技能「介護」は配属開始の時点から算入できます。夜勤にもすぐに入ってもらえます。即戦力を求める施設にとって、特定技能のほうが現実的な選択肢になる理由がここにあります。
注意点
人員配置基準に算入できるとはいえ、日本語でのコミュニケーションが不十分な段階で夜勤の単独対応を任せるのはリスクがあります。安全配慮義務は施設側にあるため、制度上できることと現場で実際にやるべきことは、分けて考える必要があります。
数字で見る配置基準への算入インパクト
「配置基準に入る」と言われても、経営上どれほどのインパクトなのか実感しづらい場合があります。特別養護老人ホーム(利用者3人に対し介護・看護職員1人以上、いわゆる3対1配置)を例に、具体的に見てみます。
| 項目 | 数値・考え方 |
|---|---|
| 利用者数 | 90名 |
| 必要な介護・看護職員数(3対1) | 常勤換算で30名以上 |
| 現在の日本人常勤職員 | 26名(不足4名) |
| 技能実習生を4名採用した場合 | 入国後6か月は配置基準に算入不可のため、その間は依然として4名不足のまま |
| 特定技能「介護」を4名採用した場合 | 配属直後から算入可能。すぐに30名を満たし、不足が解消 |
これはあくまで単純化した例です。実際には常勤換算の計算方法や、夜勤帯の配置基準など、他の要素も絡んできます。ただ「配置基準に入るタイミングが半年違う」というだけで、その半年間の人件費対効果や、既存職員の負担軽減効果は大きく変わります。即戦力を求める施設ほど、特定技能「介護」を優先的に検討する理由があるということです。
試験制度:介護技能評価試験と介護日本語評価試験
特定技能「介護」の在留資格を取得する道筋は、大きく分けて4つあります。そのうちの一つが試験ルートで、次の2つの試験に合格する必要があります。
| 試験名 | 内容 |
|---|---|
| 介護技能評価試験 | 介護の基本的な知識・技術(身体介護、コミュニケーション、リスクマネジメント等)を問う試験 |
| 介護日本語評価試験 | 介護現場で使う日本語の理解力を問う試験。日常会話ではなく現場用語が中心 |
| 日本語能力試験 | JLPT N4以上、またはJFT-Basicの合格が必要 |
技能実習2号を良好に修了した方は、この試験が免除されます。すでに技能実習で介護に携わってきた人材を特定技能に切り替えるケースは、実務上非常に多くなっています。逆に、これから海外から新規で来日する場合は試験ルートしかないため、そのぶん時間がかかると見込んでおく必要があります。
介護技能評価試験の中身
介護技能評価試験は、学科試験と、実技試験に近い判断問題の2部構成で行われます。「知識として知っている」だけでは通らず、現場でどう動くべきかを問う設問が中心になっている点が特徴です。出題範囲は、おおむね次のとおりです。
| 出題領域 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 介護の基本 | 介護保険制度の概要、利用者本位の考え方、尊厳の保持 |
| こころとからだのしくみ | 加齢に伴う心身の変化、疾病・障害の基礎知識 |
| 生活支援技術 | 食事・排泄・入浴・移動介助の基本手順と留意点 |
| コミュニケーション技術 | 利用者・家族・多職種との連携における基本姿勢 |
| 介護におけるリスクマネジメント | 転倒・誤嚥・感染症等の事故予防と発生時の対応 |
介護日本語評価試験は、日常会話レベルのJLPT N4とは別に、現場特有の言葉づかいを問う内容になっています。「体位変換」「経管栄養」といった専門用語だけでなく、利用者から「ちょっと痛い」と言われたときにどう反応するかといった、実務的なやりとりの理解力が問われます。日本語検定の点数が高くても、現場用語に触れた経験がないと、この試験でつまずくことがあります。送り出し機関や監理団体経由で採用する場合は、現場用語の学習教材があるかどうかも、採用前に確認しておく必要があります。
介護・EPA・技能実習・特定技能、4つの在留資格の違い
ここが、相談を受ける施設の多くが最も悩むポイントです。介護分野で外国人材を受け入れる在留資格は4つあり、性格がそれぞれ異なります。表にして整理します。
| 項目 | 在留資格「介護」 | EPA | 技能実習 | 特定技能 |
|---|---|---|---|---|
| 取得要件 | 介護福祉士国家資格 | 2国間協定に基づく候補者 | 技能実習計画の認定 | 試験合格 or 実習移行 |
| 在留期間の上限 | 上限なし(更新可) | 最長4年(資格取得で移行可) | 最長5年 | 通算5年(2号なし) |
| 家族帯同 | 可能 | 不可 | 不可 | 不可(1号) |
| 転職 | 可能 | 原則不可 | 原則不可 | 同一分野内で可能 |
| 配置基準算入 | 可能 | 要件を満たせば可能 | 入国後6か月は不可 | 配属直後から可能 |
| 日本語要件 | 介護福祉士養成課程で担保 | 入国後の研修と現地選考で担保 | 入国時点では明確な試験要件なし | JLPT N4以上またはJFT-Basic合格 |
| 受入れ人数の上限 | 制度上の人数上限なし | 2国間協定の枠組みによる | 常勤介護職員数に応じた上限あり | 常勤介護職員の総数を超えない範囲 |
| 主な人材の入口 | 日本の介護福祉士養成校卒業、または実務経験ルート | インドネシア・フィリピン・ベトナムからの候補者 | 送り出し国から実習生として来日 | 試験合格者、または技能実習からの移行者 |
長く働いてもらいたいのであれば在留資格「介護」への最終的な移行を見据えるべきですし、まず現場の即戦力が欲しいのであれば特定技能から入るのが合理的です。制度単体で優劣をつける話ではなく、施設の採用計画に合わせて組み合わせていくものと捉える必要があります。
実務でよく見られるパターンは、まず技能実習で来日し、実習2号を良好に修了した段階で特定技能に移行、その後さらに介護福祉士国家試験に合格して在留資格「介護」へとステップアップしていくキャリアパスです。この流れであれば、施設は長期的な人材育成計画として外国人材を位置づけられますし、本人にとっても在留資格の上限を気にせず長く働ける道が見えます。双方にとって望ましい形といえますが、国家試験の合格率は高くないため、学習支援の体制を施設側でどこまで用意できるかが、このキャリアパスを実現できるかどうかの分かれ目になります。
受入れ可能施設の実務チェックリスト
- 介護保険法に基づくサービスを提供する施設であること
- 常勤介護職員の総数を超えて特定技能外国人を受け入れていないこと
- 特定技能所属機関としての基準(労働・社会保険関係法令の遵守等)を満たしていること
- 1号特定技能外国人支援計画を適切に作成・実施していること
- 介護分野特定技能協議会に加入していること
この中で特に見落とされやすいのが、支援計画の「実施」です。作っただけで、その後は手つかずになっている施設が少なからず見られます。書類上は整っていても実態が伴っていないと、後々の定期届出や在留期間更新の場面で指摘を受けることになりかねません。
受入れ後に必要な支援体制の中身
1号特定技能外国人支援計画は、作って終わりではなく、実施し続けることに意味があります。書類上は立派な支援計画があっても、担当者の誰もその中身を把握していない施設も実際にあります。支援計画で定めるべき主な項目は、次のとおりです。
- 入国前・入国後のオリエンテーション(生活ルール、公的手続きの案内等)
- 住居確保、生活に必要な契約の支援(賃貸契約、銀行口座、携帯電話等)
- 日本語学習の機会の提供
- 相談・苦情への対応体制(母国語での対応が望ましい)
- 定期的な面談の実施と記録
- 転職支援(受入れ側の都合で契約を終了する場合)
これらの支援は、施設が自ら行う(自己支援)か、登録支援機関に委託するかを選べます。自己支援の場合、母国語対応ができる職員がいなければ、実質的に機能しない支援計画になりがちです。コストはかかりますが、登録支援機関に委託したほうが、結果的に離職率が下がり、採用コストの回収が早まるケースも多く見られます。
重要なのは、定期的な面談の「記録」です。面談自体はきちんと行っていても、記録が残っていないと、入管への定期届出の際に説明ができません。形式を整えるための記録ではなく、本人の困りごとを実際に把握し、対応した履歴として残すことが本来の目的です。都合の悪い相談内容を記録に残さない運用をしている施設も見かけますが、長い目で見るとリスクのほうが大きくなります。相談内容はそのまま記録し、対応した事実も一緒に残しておくことが、施設自身を守ることにつながります。
受入れにかかる期間と費用感の目安
制度を理解しても、実際に「いつから現場に入ってもらえるのか」「いくらかかるのか」がイメージできなければ、採用計画は立てづらいものです。ここでは、おおまかな目安を示します。海外からの新規呼び寄せと、国内での技能実習からの移行では、かかる時間がまったく異なります。
| ルート | 配属までの目安期間 | 主な費用の内訳 |
|---|---|---|
| 技能実習2号修了者からの移行 | 1〜2か月程度(在留資格変更許可申請の審査期間) | 申請書類作成費用、支援計画作成・運用費用 |
| 海外からの新規呼び寄せ(試験ルート) | 半年〜1年程度(試験勉強期間・在留資格認定証明書交付申請を含む) | 試験受験料、送り出し機関への手数料、渡航費、住居確保費用 |
| 登録支援機関への委託を行う場合 | 配属後も継続的に発生 | 月額の委託費用(1名あたり月2〜3万円程度が目安) |
この数字は、施設の規模や採用人数、依頼する送り出し機関・登録支援機関によって大きく変わります。ただし、技能実習からの移行のほうが圧倒的に早く現場に入ってもらえるという点は覚えておく必要があります。すでに技能実習生を受け入れている施設であれば、実習期間の終了を見据えて、早めに特定技能への移行準備を進めることが合理的な選択です。
当事務所で実際にあったご相談事例
当事務所では、専門性のある業務であるにもかかわらず、書類の書き方が原因で単純作業と誤認されてしまった相談を受けたことがあります。介護業務は専門知識と判断力が必要な仕事のはずが、申請書類の上では「シーツ交換」「食事の配膳」といった単純な作業の羅列にしか見えず、審査側に専門性が伝わっていなかったケースでした。
業務内容の書き方一つで、審査側の印象は大きく変わります。実際にどのような判断業務が含まれているか、どのような研修体制があるか。そこまで具体的に書き込んで初めて、専門性のある業務だと理解されます。実態以上に立派に書くことは避けなければなりませんが、事実を言語化する作業は、施設だけで進めようとすると難しいものです。
また、別のケースでは、入管から指揮命令系統図の提出を求められたこともありました。誰が誰に指示を出して、誰が責任を持って支援計画を実施しているのか。組織図だけでは伝わらない部分を、図として可視化する必要がありました。こうした追加資料の要求は、事前に想定して準備しておけば慌てずに済みます。都合の悪い部分も含めて隠さず示すことが、結局は施設のためになります。中途半端に取り繕った資料は、必ずどこかで矛盾が出てしまいます。
こうした追加資料の要求は、施設にとって負担に感じられるかもしれません。ただし、逆に言えば、指揮命令系統や支援体制を一度きちんと文書化しておけば、次に受入れ人数を増やす際にも同じ資料を使い回せます。一度の申請対応を、施設の受入れ体制そのものを整える機会と捉えることで、長期的には負担が軽減されます。
※上記は当事務所で取り扱った実際の相談内容をもとにしていますが、個別の状況により結果は異なります。同様の結果を保証するものではありません。
よくある質問
Q. 特定技能「介護」で訪問介護はできますか?
できます。一定の要件を満たした事業所であれば、訪問系サービスへの従事が認められています。ただし、適合確認書の発行手続きなど独自の要件があるため、事前に確認しておく必要があります。
Q. 特定技能「介護」に2号はありますか?
現時点ではありません。長期就労や家族帯同を見据えるのであれば、在留資格「介護」への移行も選択肢に入れておく必要があります。
Q. 技能実習からの移行と試験合格、どちらが早いですか?
技能実習2号を良好に修了していれば、試験免除で移行できるぶん早く進みます。技能実習生を最初から確保できていない施設は、試験ルートを検討することになります。
Q. 人員配置基準にすぐカウントできますか?
できます。特定技能「介護」は配属直後から人員配置基準に算入できます。ここが技能実習と大きく異なる点で、施設側の即戦力確保という意味では使い勝手のいい制度です。
Q. 支援業務は自分の施設で行うべきですか、それとも登録支援機関に委託すべきですか?
母国語対応ができる職員が社内にいて、面談や相談対応の体制を継続的に維持できるなら、自己支援でも問題ありません。ただし、多くの施設が生活支援や相談対応にかかる負担を過小評価しがちです。専任担当者を確保できないようであれば、登録支援機関への委託を検討したほうが、結果的に定着率が上がりやすくなります。
Q. 介護技能評価試験は日本人スタッフの資格試験と難易度が違いますか?
出題範囲は介護福祉士国家試験の基礎知識と重なる部分が多いのですが、日本語で出題・解答する点が最大のハードルになります。介護の知識自体は十分でも、日本語での理解に時間がかかる受験者は少なくありません。施設側で学習教材や過去問への理解を支援できると、合格率が変わります。
Q. 特定技能から在留資格「介護」への移行は、どのタイミングで検討すべきですか?
介護福祉士国家試験の受験資格を得られる実務経験年数(原則3年以上の実務経験と実務者研修の修了)を満たす見込みが立った段階で検討を始めることをおすすめします。特定技能の在留期間は通算5年が上限であるため、期限が近づいてから慌てるのではなく、採用時点からキャリアパスとして提示しておくことが、本人の学習意欲にもつながります。